医薬品サリドマイドを考えるシンポジウム

2003年1月15日開催予定の医薬品サリドマイドを考えるシンポジウムでの発言要旨

多発性骨髄腫に対するサリドマイドの有効性と安全性の検討

薬害オンブズパースン会議
医薬ビジランス研究所 浜 六郎

 日本でサリドマイドが、危険情報の不足状態で、患者の自己決定により、個人輸入で使用される危険性に鑑み、薬害オンブズパースン会議は、サリドマイドの輸入および臨床使用につき以下の規制をする旨の緊急要望書を厚生労働大臣らに2002年10月17日提出した。(1)輸入は登録許可制とし、輸入目的を臨床試験ないし臨床研究とする。(2)施設内研究審査委員会の審査に基づき臨床試験ないし臨床研究計画に従い使用し、計画書を厚労省に提出する。(3)厚労省としての基本方針を定めるべき。
 医薬ビジランス研究所および医薬品・治療研究会は、薬害オンブズパースン会議から委託された研究「多発性骨髄腫に対するサリドマイドの有効性と安全性の検討」を実施した。その概略を報告する。

1.大変つらい痛みのある病気;多発性骨髄腫

 多発性骨髄腫(骨髄腫)は全悪性腫瘍の約1%、血液系悪性腫瘍の約10%を占める。大部分は治癒しないが治療効果は高く、化学療法により、化学療法実施以前の生存期間中間値7カ月から24〜30カ月間に延長した。しかし進行すれば骨破壊による悪性腫瘍中最大級の痛みは必発である。演者自身、勤務医時代に受け持った骨髄腫患者や肉親の治療経験から骨転移患者の痛みや家族の思いはよく理解できる。 骨髄腫の標準治療は、(1)化学療法剤、(2)+自家末梢造血幹細胞移植(化学療法後)、(3)ビスホスホン酸塩による高カルシウム血症改善など。(2)、(3)でさらに寿命が延長した。動作時の骨痛に対する治療法として、自己調節弁付き笑気吸入法が使用可能な国もあるが、日本では使用できない。

2.臨床試験で、異常蛋白減少は30〜60%に

 骨髄腫は異常蛋白25%以上の減少を部分反応と判定する。化学療法剤に抵抗性となった骨髄腫84人中27人(32%)が反応した(1999年)。その報告後も、反応率10%台1件(18%)、30%台2件、40%台2件、50%台3件、60%台1件(デキサメタゾン併用:51/77)、70%台1件(8/11)の合計10件が報告された。最初の反応例27人中一人は突然死亡したが重視されなかった。PubMedでthalidomide myeloma (clinical trialでlimit)で28件検索。うち2件のランダム化比較試験はどちらも初発患者が対象。しかも血栓症の比較が報告されただけで、効力は報告されなかった。化学療法に反応しなくなった患者に対するサリドマイド単独によるランダム化比較試験は計画されていない。

3.血栓症は27〜43%、対照群の約20倍

 2001年2月、15人中4人(27%)に血栓症が生じたことから、この臨床試験は中止された。これが、肺血栓塞栓症で1時間以内に死亡した例も含め2001年6月に報告されてから、血栓塞栓症の報告が相次ぎ、特に2002年になってから、多数報告されるようになった。ランダム化比較試験の結果、サリドマイドを使わない場合、血栓症は50人中2人(4%)であったが、サリドマイドを使うと50人中14人(28%)に発生(0.002)。もう一つの試験では、3%対36%で、サリドマイドを使うと血栓症が18倍発生しやすかった(p=0.001)。最近の報告では、腎臓癌に他抗癌剤と併用で血栓症が43%(9/21)であった。肺塞栓症と喀血後急死した例(おそらく肺動脈血栓塞栓症)をあわせると致死例は19%であった。

4.血栓ができるのは不可避

 サリドマイドは血管内皮細胞の増殖を抑制することにより癌の成長に必要な血管新生を抑制し、癌の成長を抑制するとされる(胎芽症も同じ機序)。この作用により健康な血管内皮の新生を抑制するため、血管の内部に傷がつき、その部位で血液が凝固する、だから血栓は必然的に生じ不可避といえる。

5.延命効果の証拠はなく、治療の中心は、全身状態維持と苦痛の緩和

 多発性骨髄腫の患者や家族の希望は再発例や他の療法で難治例に対する治療法である。これに対する適切なランダム化比較試験はこれまでになく、米国でも計画されていない。公表あるいは現在進行中のランダム化比較試験はすべて、初発例あるいは初発例を含む対象者に対する試験である。公表されたものでは、生存期間はもちろん、反応率の結果も示されていない。したがって、他の癌と同様、現在延命できる治療法がなくなれば、全身状態を維持し、苦痛を軽減することが治療の中心となる。

6.承認外使用には、情報の完全開示を前提とした登録システムが必須

 承認外物質の治験外使用を、患者の自己責任のみに依拠して行うべきでない。試験段階の(動物試験も含めた)情報の完全開示を前提とし、厚労省の関与のもとで冒頭の3点を検討すべきである。

医薬品サリドマイドを考えるシンポジウム

案内と申し込み

参加申し込みは

メールで office@npojip.org までお申し込みください。
なお極めて限りがありますので、定員オーバーにつきお断りすることがありますので、ご容赦ください。
 他にお申し込みになっても無効です。

必ず、NPO医薬ビジランスセンターまでお申し込みください。
氏名と連絡先(電話、FAX、メールアドレス)
念のために、所属(勤務先)または自宅住所も記載してください。

シンポジウムのご案内

1.主催:日本医薬品情報学会
  後援:厚生労働省

シンポジウムの趣旨と目的

 1959年から64年にかけて起こったサリドマイドによる健康被害は、わが国において309人、世界全体では約3700人という未曾有な薬害となった。
医薬品の持つ危険性を強く警告するとともに、その後の医薬品の安全対策に大きな影響を与えたことは記憶に新しいところである。また今日および将来に至るサリドマイドによる健康被害を受けられた患者の方々およびそのご家族のご苦心は、想像を絶するものがあり、忘れることのできない現実である。
その一方、悪性腫瘍が日本国民の主たる死因となる中で、サリドマイドの持つ薬理作用が多発性骨髄腫の治療や同患者の生命の質の向上 に有用であり、現実に医師の個人輸入の形でサリドマイドが臨床応用されているとの発表や報道がある。
 医薬品の持つ危険性と効用が象徴される動きの中で、本問題に関心を持つ個人・団体が様々なアピールを行い、また関係官庁に対する要望の提出などがなされている。
 本問題の本質的な解決には、それら関係する個人・団体が、お互いにそれぞれの立場や考え方を議論し、相互理解の上に関連する問題についてのパースペクティブを得、改めて問題解決に向けて努力することが是非とも必要と考える。広い意味で医薬品に関する安全性をはじめとする情報に係わる問題でもあり、ここに日本医薬品情報学会が何らかの役割が果たせないかと、考えた経緯がある。
 本シンポジウムは以上述べた背景から、関係する、また関心のある個人・団体が本サリドマイドをめぐる問題を話し合う機会の一つとなるものであり、ここにご協力とご参加をお願いするものである。

2.日時: 平成15年1月15日 午後1時00分より開場午後1時30分開始
   於  (財)がん研究振興財団国際交流会館(国立ガンセンター中央病院敷地内)

3.規模 最大 200席

参加費用  資料代金および会場借料等実費の一部
       一般 1000円    医薬関係者 3000円
      当日会場にて支払い (演者は無料)

4.プログラムおよび発言者

13:30 開演 総合司会 帝京大学医学部名誉教授 清水 直容
       (医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構 顧問)
13:30 共通理解のために:       同   上
        本シンポジウムの目的や論点の整理、治験、臨床試験、GCP、
        承認に必要なパッケージ、国際的な状況などについて
13:50 シンポジスト 1 財団法人いしずえ 間宮 清または増山ゆかり
14:10 シンポジスト 2 日本骨髄腫患者の会 阿部 勝美
14:30 シンポジスト 3 サリドマイド被害から学ぶもの
      帝京大学短期大学名誉教授     木田 盈四郎
14:50 シンポジスト 4 悪性腫瘍化学療法の臨床試験:必要性と方法論
      東京大学医学部生物統計学教授
      NPO法人日本臨床研究支援ユニット理事長   大橋 靖雄
15:10 シンポジスト 5 多発性骨髄腫に対するサリドマイドの有効性と安全性の検討
      薬害オンブズパースン会議、医薬ビジランス研究所 医師 浜 六郎

15:30 休 憩

15:45 シンポジスト 6 医薬品サリドマイドを考える
       日本医薬品情報学会会長 千葉大学名誉教授 山崎 幹夫
16:05 厚生労働省 7 医薬局・医政局 担当官
16:20 総合討論 司会 清水 直容 および 山崎 幹夫
16:40 まとめとクロージング    清水直容
16:45 終       了

参加者見込みについて

演者:    全8名
各団体:   いしずえ、日本骨髄腫患者の会、薬害オンブズパースン会議
       それぞれ20名 合計60名
日本医薬品情報学会: 30名(演者、事務サポート、受付すべてを含む)
厚生労働省:  14名(演者を含む)
マスコミ出版関係(厚生労働記者会には、医薬品情報学会が厚生労働省でご案内する。約30名)
残り席は、日本医薬品情報学会会員と一般応募
     日本医薬品情報学会 事務局
     108−8641 東京都港区白金5−9−1
     北里大学薬学部医薬品情報部門内
     03−5424−1781   担当 六條
     厚生労働省内連絡先: 医薬局 安全対策課
           黒川 達夫
     直通電話 03−3595−2435
     03−3508−4364
     kurokawa-tatsuo@mhlw.go.jp