【1】副作用被害救済金支給決定理由は「心肺停止」
医薬ビジランスセンターおよび医薬品・治療研究会では, これまでにも, 臭化水素酸フェノテロールの定量噴霧式吸入剤(ベロテックエロゾル)と喘息死の危険について分析し,
TIP誌 1-3) および, 2回の医薬ビジランスセミナー 4,5) でも取り上げてきた.
ベロテックエロゾルを使用中に急死した遺族が厚生労働省(厚労省と略)所轄の「医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構」(医薬品機構と略)に遺族年金等の支給を申請していたが,5人中3人(資料不十分で受理されなかった1人と追加資料を要求されている1人を除く)に対して,
このほど, 死因「心肺停止」, 原因薬剤「ベロテックエロゾル」として厚労省が支給することを決定した.
申請していたのは薬害オンブズパースン会議からの委託を受けて医薬品・治療研究会と医薬ビジランスセンターが検討し, ベロテックエロゾルの危険性を警告した後,
薬害オンブズパースン会議に相談を寄せてきた人達である.医薬ビジランスセンターと薬害オンブズパースン会議が協力して詳細に状況を聴取し, いずれも,
喘息治療に用いられたベロテックエロゾルを添付文書に記載されている範囲内で使用中に心臓死を起こした可能性が強いと判断されたため, 意見書を提出していた.
【2】適正使用範囲で心臓死を公的に認定
この決定は, いくつかの点で極めて重要な意義を有している.
第一に, 公的な機関が, ベロテックエロゾル使用中の個々の喘息患者の死亡の原因として「ベロテックエロゾルが関与したことを否定できない」「心肺停止=心臓死」と認めた点である.ベロテックエロゾルのメーカー(ベーリンガー・インゲルハイム社)は,
ベロテックエロゾル使用中の死亡はベロテックエロゾルの影響ではなく「喘息の重篤化による窒息」が主因と主張していたが,これとは質的に異なる.
第二に, 適正使用による副作用と認定した点である.これまでにも添付文書には, 「過度の使用により, 不整脈, 心停止等の重篤な副作用が発現する危険性がある」と記載されていたが,
あくまで「過剰使用」であり, 「適正使用するかぎり不整脈や心停止はない.」としていた.医薬品機構で給付を決定したことは, ベロテックエロゾルの使用が添付文書の用量の範囲内であったことを認めたことを意味する.
第三に, これまで主に疫学的な調査でベロテックエロゾルと喘息突然死が論じられてきたが, 臨床的な症状の分析からも心臓死を論じることができる道が開けたことである.
第四に, したがって, 典型的な「心臓死」の数に比較すればはるかに多いと思われる, 多数の非典型的な「心臓死」の場合にも, その可能性を考えるべきことが,
理解されやすくなってきた点である.
本稿は, 今回認定を受けた3人のうちから2人と,他に典型的な例を紹介する.これらは, ケースシリーズであり,一般的エビデンスレベルとしては必ずしも高く評価されないかもしれないが,これまでの疫学的関連を示す多数のエビデンス,
用量反応関係を示すエビデンス, 多数の基礎および臨床薬理学的, 毒性学的エビデンスに, さらに臨床的なエビデンスが加わったという意味において重要であり.薬剤の害を考慮する上で貴重な症例である.
本稿では, それらのエビデンスを総合することにより,ベロテックエロゾルと喘息突然死との関係を考察し,現在の唯一の適応として承認されている「他のβ2
刺激薬吸入剤が無効な場合」への使用が,実は最も危険であることを明らかにし,ベロテックエロゾルをできるかぎり早急に中止すべきことを訴えたい.
【3】薬害オンブズパースンによる症例の収集と調査
薬害オンブズパースン会議(代表鈴木利廣)では, ベロテックエロゾルを使用中死亡した喘息患者に関して情報提供のあった家族に対して, 聞き取り調査(特に死亡時の経過の詳細)を実施した.これにより得た情報および,
遺族年金等請求書に添付された診断書や投薬証明書など可能な限りの情報に基づいて死亡に至る原因を医薬ビジランスセンターで分析した.その結果を以下に示す.
158 件の FAXや手紙のうち,26 人が死亡例であった.このうち21人が死亡前にベロテックエロゾルを使用していた.この他, オルシプレナリン使用者が2例,
ツロブテロール使用者が1例, 使用薬剤名が不明のものが2例あった. 21例のフェノテロール使用喘息死亡患者の家族に対して, まず簡単な自記式のアンケートを行い,
その後薬害オンブズパースンおよび薬害オンブズパースンタイアップグループの弁護士が面接調査をし, 判定に必要な情報が得られていない場合には,
筆者が必要に応じ電話または書面で家族あるいは主治医などへの問い合わせなどを行い,情報を補充し, さらに遺族年金等請求書に添付文書された診断書と投薬証明書の情報に基づいて死因を分析した.
【4】症例
以下に今回基金に申請された2例(症例1,2)と, 申請されなかったが典型的な例(症例3)を示す.
【症例1】68才男性
. 28才頃に結核で 2.5年間入院.35才時胃潰瘍の既往がある.1983年(55才時)喘息が発症したが,1987 年10月以来大きな発作は起きていなかった.
1994年転居し, 市の無料検診を開業医で受けたことをきっかけに受診後, 喘息予防薬として内服ステロイド剤(プレドニゾロン2〜3錠/日,
1年4か月の間に平均 2.1錠/日)とともに, ベロテックを使用開始した(94.10.25〜) .
使用当初は3カ月で5缶程度(1缶中20mg,1噴射 200μg、1缶100 噴射.したがって, 1日平均5.5 噴射程度)であったが,
1年目頃には「効き目が悪くなってきた」とこぼし使用頻度も増えた.処方記録からの計算では, 約1年後には3カ月で7缶程度(平均7.8 噴射/日),
死亡の前には2カ月で6缶程度(平均10噴射/日)に増加していた.頻回になると「心臓が踊る」と言っていた.
直腸と下行結腸のポリペクトミーのため,2泊3日入院して, 退院後5日目の朝,朝起床時, ゼーゼーという喘鳴はいつものようにあったが, 特別強い喘息発作が起こったようではなかった(これは妻からの情報.喘息重積発作のため喘鳴音が減弱していた可能性も否定できない).
高さ50cmくらいのワゴンの上に乗せてある,
- ポットの湯を湯飲みに注いでいる途中で, 湯飲みを床に落とし, ポットを押していた右手を食卓の上について, 床の濡れた所を指さしていた.
妻がカーペットを拭いている間にゆっくりと洗面所の方に向かった. 妻が湯飲みを持って洗面所に行ったが, 洗面所には姿が見えなかったので,
トイレに行くと, トイレのドアが開いた状態で,
- 便座に座っている本人が見えた.表情が普通でないなと妻が思った次の瞬間, 膝から床に転げ落ち敷居に顔面を打ちつけて倒れた. すぐ抱き起こして,
胸や背中を叩いたり摩ったりし, ベロテックを吸入させた.しかし,
- すでに意識はなく, 頭はグラグラで, 顎をぐっと引いて無呼吸(呼吸停止)状態であった. すぐに救急車を呼び, 7〜8分後には救急車が到着し,
心マッサージ, 人工呼吸などしたが蘇生せず, 救急車の中でも継続したが,15 〜20分後に病院(県立病院)に到着した時には心肺停止状態であった.気管内挿管,
薬剤使用, 徐細動などの二次救命処置が行われたが, 有効な心拍は得られず, 午前9時50分に死亡した.死亡診断書は「喘息重積発作」だが,
原因が特定できていないことを診断医も認めていたとのこと(聞き取り情報).
〔ベロテックエロゾルによる心毒性を示す主な事実〕
- (1)湯を注いでいる途中で, 湯飲みを床に落とした」というのは, この時に一時的に意識がなくなった可能性が強く, アダムス・ストークス症候群の発作と考えられる.したがって,
一時的に心停止を起こしたか, 致死的な不整脈を起こした可能性が高い.
- (1)の発作から, 数分以内に(2)(3)のように意識がなくなったのは, この時に急性心 停止を起こしたからであろう.
- (1)から(2)(3)までの状態は, 場合によってはかなり強い発作であった可能性は否定できない.しかし, 喘息発作で意識が消失したものであれば,
意識が消失したままとなって, その後自力でトイレ歩行ができるようにはならないはずである.したがって, 喘息発作自体によって意識消失する程の重症喘息ではなかったと考えられる.
【症例2】24歳男性
生後3カ月目から気管支喘息があった.小学校時, 1〜2日間入院をしたことがある.中学校時代は2〜3日(長くても1週間まで)の入院をしたことはある.中学校時代の1985年からベロテックエロゾルを使用しはじめた.高校時代は比較的喘息は軽快していた.
高校卒業1年後から父親の運送業を手伝うようになり, 車の運転をするようになった.死亡3カ月前は1〜2缶/月程度ベロテックエロゾルを使用していた.常にベロテックエロゾルを携帯し,
比較的頻繁に使用していた.死亡する1週間前に強い発作があり, 病院を受診し, 入院を薦められたが入院はせず, 一応軽快した. 結婚式の司会や同窓会の相談,
忘年会などで多忙をきわめていた.93年12月18日忘年会があり, このため夜12時に帰宅し, 午前4:30呼吸が苦しくなり, 自分で車を運転して病院を受診した.吸入(アレベールとアロテック)をしてもらって帰宅し,
テオドール(100mg) 6錠分2, メプチン(50mg2錠分2の他, ベロテックエロゾルも処方された.午前8時頃母親が見た時には軽いイビキをかいてよく眠っていたという.
午前10時30分頃, 父親が外出する前に話かけた時には, 特に変わった様子はなく, 父親が「出掛ける」と呼びかけした際, 「おー」と返事した.11時30分頃,
父が帰宅した時には, 1階のトイレのドアが開いており, 和式トイレで, 尻を紙で拭いた直後に(尻に便は付着していなかったことから推測), 大便を流さないまま後ろにひっくり返った状態で仰向けに倒れていた.目は半分開き(父親の観察),
瞳孔は開いていた(救急隊の観察).5分位で救急隊が到着して病院に運び, 気管切開や吸引をしたが, 蘇生不能であった.
〔ベロテックエロゾルによる心臓死を示す主な事実〕
- 自力でトイレにまで歩行が可能であったこと, トイレで排便後(尻を拭いて)水を流さずにひっくり返っていたことから, 突然の心停止であった可能性がきわめて高い.
【症例3】 20才 女性(基金には申請されなかった例)
1996年11月頃母親が喘息のために医院を受診し, ベロテックエロゾルを処方された.同じ時期に本人も喘息様の症状が出てきたため, 2日に1回程度,ベロテックエロゾルを使用.12月に入ってからは1日1回程度に増え,
年末頃にはかなり回数が多くなってきた.その後翌年2月10日頃までは, 1日に何回か吸入していたがそれほど多くはなかった.2月10日に NHKのテレビ番組「今日の健康」で喘息の話があり,
ベロテックエロゾルが安全でよく効く薬だと紹介されていたために, 非常に安心し, 急に使い方が多くなってきた.2月12日, 友人と買い物に出かけたが,
その時に友人の話では, 5〜10分おきに吸入をしていたとのこと.帰宅してからも, 両親が見ていたところ, 少なくとも夕食前に1 回, 夕食後に1回,
就寝前に1回吸入していたという.その後も一晩中ゴソゴソ動いていた様子を父親は語っている.
2月13日, 午前7時頃起床し, 「ママしんどい」と話す.7時10分頃, 「救急車を呼んで」と言うので, 2階に行くと, 本人が自分の部屋を出た廊下の壁に寄り掛かっていた.かなり苦しそうではあったが,
ゼーゼーという音はしていなかった(これは喘息発作が非常に強くなってかえって喘鳴音が小さくなっていた可能性がある) .
- 見ている間に壁にもたれかかったまま膝を折り曲げてずるずると体が下がり, しゃがみこんでしまった(母親は, へたり込んでしまったと表現).母親が呼ばれてから,
本人がしゃがみこんでしまうまで, 約1分程度であった.
救急車を呼ぶために階下に降り, もう一度2階に上がったところ, 先程の所から 1.5mくらい離れたところにあるトイレのドアにしゃがみ込んだ状態でもたれかかっていた.「救急車が来るから着替えをしておいたら」と母親が言ったところ,
- パジャマのズボンを自分で半分くらいまで降ろしたが, そのまま倒れてしまった.再度母親が階下に降りて救急車に電話を入れ, もう一度2階に上がって「救急車がもうくるからね」と呼びかけたが,
呼びかけに何となく反応したようにも思えた.目を閉じていたが, しばらくしてから、
- 「うっ」と言って, 見る見るうちに唇が白くなっていった.その後尿失禁した.6 分ぐらいしてから救急隊員が到着し, 人工呼吸と心マッサージを5分くらいしたが反応なし.受け入れ先が決まり,
救急隊が車に乗せて病院に到着してから医師が処置を始めるまで約6 〜7 分.医師は挿管を試みたができなかった.蘇生処置は40〜50分していたが,
死亡した.
〔ベロテックエロゾルによる心臓死を示す主な事実〕
- (1)(2)はいずれも, アダムス・ストークス症候群による意識消失発作のエピソード を強く思わせる.この時には完全な心停止には至らず,
その後多少持ち直しているよう に見える.
- (3)で完全な心停止に至ったと思われる.
【5】喘息死と喘息患者の突然死の違い
- 喘息患者の突然死は心毒性を示す
上記症例1と症例3は, アダムス・ストークス症候群と考えられる一過性意識消失があり, その後急速に意識消失後心停止している.症例2は,一過性意識消失は不明だが,
呼吸困難の後急激に意識消失し直後に心停止したと考えられる.
したがって, これらの経過から, 気管支喘息の悪化から死亡までの経過は, 気管支喘息の悪化だけでは説明がつかない.喘息が悪化し,相当ひどい低酸素血症になっても,
それだけでは(突然の心停止がないかぎり)これほど急激な意識消失や心停止はありえないからである. これだけでもベロテックエロゾルが喘息患者に使用され心停止を起こすことに関与した可能性をうかがわせるエビデンスと言えるが,
以下にその関連をさらに裏付ける疫学的, 基礎および試験薬理学的, 毒性学的エビデンスを示し, 両者の因果関係を考察するが, その前に,
喘息死と喘息患者の突然死の違いについて触れておきたい.
- 喘息死には, 喘息患者の突然死も含まれている 一般に喘息死を扱っている疫学調査や, 人口動態統計調査に現れてくる喘息死には, 喘息患者の突然死が含まれている.この点について明確に認識しておく必要かある.特に人口動態統計調査のもとになる「喘息死」は主に医師の臨床診断によるため,
直接的死因として, (1) 喘息そのものの悪化によるもの, (2) 喘息はあっても, 直接死因は心毒性(突然の心停止, 致死的不整脈)の場合とがありうる.
【6】医学的(疫学的)因果関係の証明方法
そもそも, 医学的な事象の発生において, 単一の原因が単一の疾患を引き起こすものではない.たいていは複合的な原因が種々の疾患を引き起こす.原因と疑われる因子を使用しなければ全く疾患は起きないが,
その因子を用いると100 %疾患が起きることが確認できればもちろん因果関係は決定できる.しかし, 現実にはこのようなことはあり得ない.通常は疑われる因子を用いたプラシーボ対照ランダム化比較試験で,
プラシーボ群より介入群に問題の疾患が有意に高率に生じることを証明する.しかし, 種々の調査で相当重大な危険が疑われた段階で, 直ちにランダム化比較試験をすることは困難であり,
重大な危険が疑われている物質をランダム化比較試験することには倫理的な問題がある.
したがって, 因果関係の証明には, 症例対照研究などの分析疫学段階までで推論せざるをえない場合が多い.そこで, なんらかの関連の存在を示す分析疫学的エビデンスに加えて,
その関連がどのような性質の関連であるのか, それまでに実施されている基礎および臨床薬理学的, あるいは毒性学的なエビデンスで, どのような条件がそろえば,
因果関係があると判断してよいかを考える.一般的には, 下記のような一定の条件がそろえば, 因果関係があるとするのが現実に則しているとされる6)
.
- 時間性:関連のある2つの因子のうち原因的因子が結果的な因子の前に起きている
- 一致性:関連が一貫して認められる(時間, 場所が違う別々の調査で認められる)
- 強固性:高いオッズ比や高い相関係数, あるいは用量−反応関係が認められる.
- 整合性:毒性試験や薬理学的事実など関連する諸事実が, 上記関連性と矛盾しない
なんらかの関連を示す証拠に, 以上の4つの条件が揃えば「因果関係あり」と判断して差し支えないとされている.しかしながら, すべてが満たされないからといって,
因果関係を否定することにはならないことは当然である.
ある物質の薬剤としての有効性評価には厳密なランダム化比較試験(介入試験)を必要とする.しかし, 重大な害の可能性がある場合には, このような厳密なランダム化比較試験ではなく,
やや低いエビデンスレベルであっても, 対策をとる必要がある場合は少なくない 7) .有害な作用が疑われ, 厳しい使用制限や, 中止などの措置が必要な物質の場合には,
何らかの関連に加えて(4)と (1)〜(3)のいずれかの存在で対策を講ずる必要がある場合は少なくないのである.重篤な反応との関連について (1)〜(4)
のすべてが存在する場合に対策が必要となるのは当然である.
ベロテックエロゾルについてはどの程度のエビデンスが得られているのであろうか.
【7】ベロテック使用と喘息死亡率増加で判明している疫学的知見
ベロテック使用と喘息死亡率増加との関連について, これまでに判明している疫学的知見は以下のとおりである〔(1)( ) 内は, 疫学的因果関係を強固にする上記条件の番号を示している〕.
1.ベロテック販売量増減と喘息死増減との関連(ニュージーランド)
- ニュージーランドにおいては, ベロテックエロゾルの販売シェアの増減に一致して喘息 死亡率も増減した 8,9) . (1)
2.世界各国のベロテックエロゾルの販売高と喘息死亡率との関連
- 世界各国のベロテックエロゾルの販売高と喘息死亡率を検討して関連がない 10)とした報告を詳細に検討すると, ドイツ, スペイン, スェーデン,
イギリス, オーストラリアで関連が認められた. (1)(2)(3)
3.ニュージーランドにおけるCrane 氏らの一連の疫学調査結果 (1)(2)(3)(4)
- 3つの独立した症例対照研究でベロテックエロゾルと喘息死との間に一貫した関連が認 められ 8,11,12) , 重症患者ほど関連が強かった.
- 後述するように「重症度との交絡」は要因と考えられなかった.
4.カナダ, サスカチワンの症例対照研究の結果 13,14) (1)(2)(3)(4)
- この研究の著者らもベロテックエロゾルは, 非使用者に比較して死亡のリスクが9倍あり, 高頻度に(年間25缶以上)使用した場合は, 同程度のサルブタモールの
6.4倍のリスクがあるとしている.
- データを正確に読むと, ベロテックエロゾルを高頻度に使用した場合は,サルブタモールを同程度使用した場合の13倍のリスクとなり, 使用量が増加するほどその危険が増しており,
明瞭な用量−反応関係が認められる 13,14) (図1)
5.日本でのベロテックエロゾルの販売開始と喘息死の増加 (1)(2)(3)(4)
- サルブタモールやプロカテロールの販売開始と喘息死亡率の増加とは関連がほとんど認められなかったが, ベロテックエロゾルの販売開始の年から増加が始まり,
関連が認められている 15).
6.ベロテックエロゾルの販売シェアと喘息死亡者中の使用比率の比較 (1)(3)
- ベロテックエロゾルの販売シェア (18.5%) に比し, 喘息死者に占めるベロテックエロ ゾル使用者の比率(52%) は有意に高く,
ベロテックエロゾル使用と喘息死との間に関 関連が認められる 15).
7.日本のベロテックエロゾル販売数量は3分の1以下、喘息死亡率は半減 (1)(2)(3)(4)
- 97年5月の警告後, 喘息死亡率 (5-34歳男女, 人口10万対) は, 2年間の0.65から0.40に38%減少し16) .さらに2001には0.27となった.
- ベロテックエロゾルの販売数量が直後からの約1年間はほぼ半減し(p=5.8 ×10-13), 16,17), 2000年前半にはそれまでの30%未満となった。
- ベロテックの警告前後の主要なβ作動剤MDI とステロイド吸入剤の月別販売数量と月別死亡率(年率換算)との関連を見たところ,プロカテロール(メプチン)の月別販売量と月別死亡率との間に有意な相関が認められた(p<0.05)が,ベロテック警告前後で有意な変化ではなかった(図2-(c)
).サルブタモール(サルタノール)は月別死亡率との間の相関も,変化も認められなかった(図2-(d) ). ステロイド吸入剤(アルデシン)(図2-(e)
)の月別販売数量も, 月別死亡率との間の有意な相関や変化を認めなかった 16).
- ベロテックエロゾル以外のβ作動剤やステロイド吸入剤と喘息死亡率との相関を年次別にも求めたが, いずれも有意な相関は認められなかった(図3).
8.上記の疫学的関連は「重症度との交絡」のためではない. (4)
- ベロテックエロゾルと喘息死の疫学的因果関係指摘に対して, よく「ベロテックエロゾ ルが重症患者に投与されやすいためではないか」との批判がなされる.しかし,
- ベロテックエロゾルの相対危険上昇が、重症との交絡の(重症者に処方される傾向がある)ためであれば、重症患者だけを解析すれば(理論的に),ベロテックエロゾルの相対危険は
1.0に近づくはずである 17).しかし現実には, ニュージーランドの3つの症例対照研究 8,11,12) やカナダの症例対照研究 13,14)
で, 重症患者ほどベロテックエロゾルの相対危険は大きくなったことが,Beasleyらによる詳細な解析の結果 17)で確認された.
- ベロテックエロゾルが重症者に多く処方されるとの事実もない 17).
- もしも,喘息死亡の最大の原因が「喘息重症例」で, 重症者にベロテックエロゾルが処方されるならば, ベロテックエロゾルの使用減で喘息死亡率は増加するはず.しかしニュージーランドでも日本でもベロテックエロゾルの使用減少で,
顕著に喘息死亡率は減少した.だから「死亡例でベロテック使用例が多い原因を, 重症例にベロテックが使用されるため」とはいえない.
9.平成11年度厚生科学研究,β2 刺激薬MDI と喘息死・LTA (致死的高度発作救命例) に関する全国疫学調査結果(分担研究者中村好一)として,(1)
症例対照研究と, (2) 喘 息死亡の年次推移に関する1考察が報告されている 18).
- 症例対照研究では,単変量解析でフェノテロール以外の吸入β2 刺激薬MDI が有意にリ スクを上昇させていたが、多変量解析では、重症度のみが有意であった、としている。し
かし、この調査の、対象死亡例は24例のみであり、3 分の2 以上(56 例) がLTA である。 また症例の選択方法、対照の選び方ついて、報告書には何も記載していないため、大きな
選択バイアスの可能性がある。
- 喘息死亡の年次推移に関する考察では,喘息死亡率もベロテックエロゾルの販売数量が 激減した1997年移行について全く解析の対象となっていないので,信頼できない.
【8】疫学的な関連をより強固にする基礎薬理学的,毒性学的, および臨床薬理学的, 臨 床的な証拠
- ベロテックエロゾルの承認申請時の動物実験データから, ベロテックのβ2 選択性は同効薬(サルブタモール)に比して低く 19), 幾何平均するとサルブタモールの25.5倍である.
- ベロテックエロゾルによる心筋収縮力増加の最大値(約 250%増加) は, サルブタ モ―ル(約 130%増加) やイソプロテレノール
(約 150%増加) と比較して著しく大きく,しかも濃度の変化に対する増大の程度が急峻であった 20).(図4)
- ベロテックエロゾル承認申請時の動物データから, 他剤と比較してベロテックエロゾルは心毒性が著しく強かった 21).サルブタモールの心毒性に比し,幾何平均で196
倍であった.
- ベロテックエロゾル承認申請時の複数の動物実験 16,17) において, 心筋傷害および心筋壊死, さらには死亡(主に突然死)についても,
用量−反応関係が認められ, これらを合成するとさらに明瞭な用量−反応関係が認められた 22,23) (図5)
- 十分な酸素供給下では心停止や著しい不整脈を生じない用量のβ作動剤(イソプロテレノール)でも, 酸素欠乏下(酸素12%, 窒素88%の混合気体吸入)におかれた動物は容易に心停止を生じうる
24)(図6).この点は, 酸素不足になりやすい状況(家庭や病院の診察待合中)で喘息死が生じやすいという事実と符号する.
- 喘息患者に対するランダム化比較試験では, 喘息発作に対する効果が同等であったがサルブタモールは心拍を減少しベロテックエロゾルは心拍を増加した25,26)(図7).
- 心筋虚血や心筋梗塞の所見がβ作動剤(イソプロテレノール)の治療を受けた若い患者(14歳,18 歳) で認められ, QTc 延長や低カリウム血症はフェノテロールで顕著に現れ,
心室性不整脈の発生もフェノテロールに多い 27).
- β作動剤は高用量を連続して頻回使用すると耐性が急速に生じるので, 重篤な喘息で高用量を使用すれば, その悪影響がより強く現れる 27).
- β作動剤(吸入)を規則的に長期間使用すると気道の過敏性が亢進する.おそらくβ作動剤の連続刺激によりβ2 受容体の感受性が低下することによるものと考えられている
27).
- 流産防止のために使用した際には人で急性肺水腫が報告されている 28).もともと喘息患者がベロテックエロゾルを用いていて急性肺水腫を生じた場合には,
喘息の悪化と臨床上鑑別は極めて困難である.
- ベロテックエロゾル吸入中に突然死した中には典型的なアダムス・ストークス症候群による意識消失発作を何回か繰り返した後心肺停止したと考えられる例が複数存在している(今回報告した症例).
【9】頻回のベロテックエロゾルの使用と適正使用
- 1997年3月以前の添付文書について 1997年3月の添付文書改訂までは, 1回あたりの連続吸入は2回までと規定されていても, 2回吸入後,
どの程度経過すれば次の吸入をしてもよいのか, また, その結果として1日に何回まで吸入可能なのか, その限度についての具体的な記載はまったくなかった.可及的速やかに医療機関を受診し治療を求めるべき「発作が重篤で吸入投与の効果が不十分な場合」が,
どの程度吸入して効果がない場合に相当するのかに関する具体的な指針はなかった.
したがって, 添付文書改定以前は, 1日8回を超えるような頻回の使用であっても必ずしも「不適正な使用」「誤った使用」には該当しなかった.
- 1997年4月以降の添付文書の記載について 1997年3月に添付文書の記載が変更になり, 実質的には1日8吸入(1.6 mg)までが限度となった.その後,1999
年7月に 1噴射 100μg 製剤(従来は1 噴射 200μg 製剤) が発売されたが, 1日の限度は1日16噴射(1.6 mg)までで変わりない.
【10】ベロテックエロゾルの頻回使用と「依存」の可能性について
ベロテックエロゾルとサルブタモールとを比較したランダム化比較試験 24,25) では, 同じ用量でほとんど呼吸機能の改善には差を認めていない(心拍数はベロテックエロゾル群が多い).しかし,
ベロテックエロゾルを一旦使用しはじめた患者は, 「他の吸入剤よりもベロテックエロゾルがよい」という印象がよく語られる.
この差は一体どのように説明すればよいのであろうか.まだ筆者の推論の範囲を出るものではないが,ベロテックエロゾルの中枢興奮作用とそれに基づく依存の形成が関与している可能性があると考える.
アンフェタミンなどアドレナリン作動物質は, 中枢興奮作用があり, 覚醒効果, 疲れを感じ難くする効果, 自信の増強, 気分の高揚, 活動性増強効果などがある
29,30) .このため, 苦痛があっても苦痛を感じ難くする.また, 繰り返し使用で耐性(tolerance) を生じるために同じ効果を得るために必要量は増加する.使用を中止すると,
強い抑うつ, 活動性の低下など離脱症状(withdrawal syndrome:禁断症状) を生じる.その結果また同物質を使用することになり,
依存(dependence)を生じる.場合によっては不法行為を侵してもその物質を求めて止まない行為, つまり耽溺(addiction) を生じる.
エフェドリンやフェニルプロパノールアミンなど血管収縮剤, 鎮咳剤として使用される交感神経刺激性アミン類も, アンフェタミン程ではないが,
そのような作用があり, 依存や離脱症状を生じやすい 29,30) .
非選択的なアドレナリン作動物質が中枢作用も強いことから推測して,データは入手できていないが,ベロテックエロゾルも中枢作用が強いのかもしれない.もしそうであるなら,
呼吸機能の改善があまりなくても(呼吸機能の変化はサルブタモールと同等でも), 中枢興奮作用のために, 実際には楽になってなくても, 一時的には楽になったような感覚になりうることが説明できる.そして,
そのような興奮作用では代償できなくなった時には, 著明な低酸素状態となっていて, より心停止を起こしやすくなると考えられる.
【11】心臓死の可能性に関する判定基準と判定結果
- 低酸素だけでは心停止は生じがたい
喘息発作中死亡する人の多くは喘息が重症だが, 喘息発作がいかに重症で低酸素状態となっても, それだけではなかなか心停止するものではない.また,たとえ直接死因が突然の心停止や致死的不整脈でも,もともと喘息があるため,病理解剖をすれば喘息の所見は極めて明瞭である(気管支に粘稠な痰が詰まっている).一方,突然の心停止や致死的不整脈は病理解剖所見としてとらえにくい.このため,剖検では主要死因は喘息とされやすく,むしろ臨床所見と経過をもとに下した主治医の判断の方が真実をとらえていることも
多い.したがって, 病理解剖所見をもとに「喘息発作が重症だから死亡したのであって心臓への影響ではない」と, 喘息が重症であることをもって心臓死を否定することは不適切である.
- 低酸素にβ作動剤が加われば容易に心停止する
呼吸不全だけではなかなか死亡はしないが, 途中で心停止が起きれば突然死する.低酸素下におかれた動物で非選択的β作動剤(イソプレナリン)
により容易に心停止を生じうるし 23), 一時的心停止や心室頻拍あるいは心室細動など重篤な不整脈があれば, アダムス・ストークス症候群による突然の意識消失発作を生じる.
- 一過性もしくは突然の意識消失を重視
したがって, 心臓死の可能性を検討するにあたっては,主にアダムス・ストークス症候群による突然の一過性意識消失発作のエピソードや,突然死を重視した.たとえ重症喘息発作中の死亡であっても,徐々にではなく突然意識消失を起こした後の心停止・呼吸停止があれば,心臓死の可能性を考慮すべきである.
発作が明らかに軽症であるのに突然意識消失したような場合には, 心臓死の可能性がさらに強く疑われるが,「喘息発作が重症であること」を心臓死判断の除外条件とはしなかった.
また,β作動剤による耐性 25)や気道過敏性亢進 25)による喘息悪化をみる場合があること,あるいは流産防止のために使用した際に気管支喘息悪化と区別しがたい急性肺水腫
28)を生じる例があることなどを考慮すると, 心毒性を介する機序以外にも, ベロテックが死因に関与する可能性は否定できない.
- 心臓死の可能性に関する判定基準
上記の諸点から,心臓死の可能性に関する判定を以下のような基準で行った.
1.心臓死がほぼ確実
アダムス・ストークス症候群を思わせる一過性の意識消失発作があり, その後一旦意識が回復した後, 急激に意識消失を伴い心停止, 呼吸停止を起こした場合
2.心臓死の可能性が高い
アダムス・ストークス症候群を思わせる意識消失発作はないが, 急激に意識消失を伴い心停止, 呼吸停止を起こして死亡した場合
- 判定結果 死亡前にベロテックエロゾル使用していた21人中評価ができる情報が収集できたのは, 15 人であった.このうち, 心臓死と考えられた例(すなわち,
ほぼ確実ないしは可能性が高いと考えられた例)が 14 人あり, 他の1人も心臓死の可能性があった.
【12】「他のβ2 刺激薬吸入剤が無効な場合に限ること」の危険性について
現在, ベロテックエロゾルの「警告」欄には, 「他のβ2 刺激薬吸入剤が無効な場合に限ること」と記載されている.
「他のβ2 刺激薬吸入剤が無効な場合」とは, 一般的な治療にもかかわらず喘息発作が強いこと, すなわち, 喘息重積発作が生じた状態, 著しく低酸素状態に陥っている時である.
そのような際は, 他のβ作動剤より心毒性の強いベロテックエロゾルが最も危険な状態である.この警告は, 極めて危険な使用方法を推奨している.警告の表示自体が極めて危険である.即刻この表示を外すべきである.
そして, 最も大切なことは, 他のβ2 作動剤吸入剤が無効の時に限る, その使用方法が最も危険であり, してはならないなら, 本剤は全く存在価値がない.
厚生労働省に対しては, 1〜2カ月程度の移行期間をおいた後使用中止, 薬価基準からの削除, さらに製造承認取り消し措置をとることを求める.
製薬メーカーは, 直ちに販売中止し, 1〜2カ月程度の移行期間をおいた後回収をすべきである.
医師は, 本薬剤を処方しないようにし, TIP誌1997年8,9 月合併号 3) に詳述した方法にしたがって, 患者に対して, 他の薬剤に変更するように指導すべきである.
現在使用中の患者は, 主治医に相談のうえ, TIP誌1997年6 月号 2) に詳述した方法にしたがって, 他の薬剤に変更することを勧める.
【13】まとめ
医薬品機構で遺族年金等が支給された症例の死因について分析し, これらがベロテックエロゾルによる心毒性の結果による心停止を死因としていることがほぼ確実あるいは,
可能性が極めて高い例であることを臨床経過から明らかにした.
さらに, ベロテックエロゾルと喘息患者の突然死(増加)の間には, 時間的関連, 用量反応関係のある, 独立した疫学的関連が, 多数の調査によって示され,
基礎薬理学的, 毒性学的, 臨床薬理学的な研究によっても裏付けられている.
現在唯一残され, 警告蘭で記載されている「他のβ2 作動剤吸入剤が無効な場合に限る」使用方法が, 実は最も危険な使用方法である.極めて危険な使用方法を推奨している警告は廃止すべきであり,
そうすることにより, ベロテックエロゾルの用途は消滅する.
このように多くのエビデンスがある確実な因果関係のある重大な害を有するベロテックエロゾルが, 市場にまだ存在していることは, 患者に対して極めて重大な危険,
危害を及ぼす.
被害にあった個々の患者および家族に救済の道が開けたことはよいが,現状をこのまま放置することは許されない。これ以上被害者を増やさないために,企業・国・医師それぞれのとるべき対策について提言した。
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図1.カナダ、サスカチワンの症例対照研究の結果(メーカーがスポンサーの調査) この研究の著者らの解析でも年間25缶以上使用者は、サルブタモールの6.4
倍のリスクとしている.正しく解析すれば,13倍となり、用量反応関係が認められる.
図2.喘息死亡率と喘息用吸入剤販売数量の月別推移(95〜98年) 喘息月別(年率換算)死亡率(a), ベロテックエロゾルMDI(b),
メプチン(c), サルタノール(d), ステロイド吸入剤(アルデシン)(e)を示す.ベロテックエロゾルの販売数量は,97年5〜6月から激減し,それに伴い,通常喘息死亡率が増加する秋の増加の程度が極めてすくなかった.他のβ作動剤MDI
やアルデシンの販売数量の変化もほとんどなかった.
図3.日本の喘息死亡率とベロテックMDI 販売数量の推移(1975年〜2000年)
図4.心筋収縮力増加の実験 ベロテックエロゾルによる心筋収縮力増加の最大値(約 250%増加) は、サルブタモール (約 130%増加)
やイソプロテレノール (約 150%増加) と比較して著しく大きく、しかも濃度の変化に対する増大の程度が急峻であった 20).
図5.ベロテックの突然死の用量−反応関係(2編の亜急性毒性試験報告より) ベロテックエロゾル承認申請時の複数の動物実験 22,23) で,
心筋傷害, 心筋壊死死亡(主に突然死)に用量−反応関係が認められた.図7は突然死亡率を示す.
図6.低酸素下ではβ作動剤で容易に心停止する 通常の空気ではイソプレナリン100 μg/kgまでイヌは死亡しない(6/6 生存) が,
低酸素(12 %) 下で心刺激性の強いイソプレナリンを静注すると, 10μg/kgで急に心停止をきたす (通常の空気では 250μg/kgなど高用量のイソプレナリンでは心室性不整脈を起こすが,
低酸素下では致死性不整脈よりも心停止をきたす.
図7.フェノテロールとサルブタモール吸入後の心拍数の増減(拍数/分) 喘息患者を対象にしたランダム化比較試験で、喘息への影響は同等でも,心拍は,サルブタモールで低下し,フェノテロールでは増加した
25).
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