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書評コーナー

季刊誌45号より

医学と仮説

医学と仮説

■津田敏秀著/岩波科学ライブラリー
 ■ISBN-10: 4000295845
 ■ISBN-13: 978-4000295840
 ■13.5cm x 19.5cm 118頁 価格1200円(税別)


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本欄で過去にも、「市民のための疫学入門」「医学者は公害事件で何をしてきたのか」を紹介した疫学専門家津田さん (岡山大学医学部)の近著。

ピロリ菌と胃がんの関係に関する日本の専門家の無知ぶりを導入部として、日本陸軍での脚気による多数の病死、 タバコと肺がん、森永ヒ素ミルク、水俣病、和歌山とヒ素カレー、タミフルと異常行動など具体的に即して疫学の役割、 重要性を説いている。彼が鋭く批判するのは、政府等が対策をサボる時の理由付けに使う要素還元主義 (どんな複雑な存在に対しても、最少のパーツに分解してアプローチする考え方、例:原因物質は森永の粉ミルクとわかっていたのに、 病因物質の特定に固辞したため対策が遅れ、被害者を増やした森永ヒ素ミルク事件。本誌23号48頁も参照)である。

評者は、第4章の「科学と哲学」の因果関係に関する記述で、その図解によって、 リスク比などの概念がよりよく理解できた点で収穫が多かった。すべての医師薬学系学生必読の書と思う。 “科学とは何かを一度も真剣に考えることなく、指導的な地位についてしまう科学研究者は日本にたくさんいる” (本書、あとがきより)のだから。(き)