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書評コーナー

季刊誌45号より

不眠症

不眠症

■スティーブン・キング著、芝山幹朗訳/文春文庫
 ■ISBN-10: 4167705974
 ■ISBN-13: 978-4167705978
 ■上巻669頁、下巻635頁 各巻1095円(税別)


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書店でタイトルに目を奪われた。しかもスティーブン・キング。文庫本上下2冊で、分厚い。 もしも面白くなかったら持て余すなあと、上巻だけ買った。それは外れたけれど正解だった。 面白くて止められなくなって、ちゃんと睡眠のリズムのある人でも、不眠症になってしまいそうだから。 ところが、日本語訳はあまり売れなかったらしく、単行本から10年目(2011年10月)の文庫本化である(出版不況を垣間見る思い)。

主人公のラルフは70歳。妻を脳腫瘍で亡くして間もなく、不眠症が始まった。 目覚める時刻が毎朝早まっていき、やがて他人には見えないものを見るようになる。 認知症患者が見る幻覚なのか、事実なのか。中絶の賛否、家庭内暴力、老いと孤独など現実のさまざまな問題が 丁寧に描かれる一方で、この物語はファンタジーでもあり、キングの懐の深さを思う。ネタばれになるといけないので、 これ以上は内容に触れない。

キングというと、「ああ、あのホラーの」と思う人もいるだろうが、彼は引き出しがたくさんで、 一つのレッテルを貼れる作家ではない。文庫で上下1300余頁もあるのに飽きずに読めるのは、訳もいいからだろう。 映画にするなら、ラルフ役はクリント・イーストウッドで。(さ)