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書評コーナー

季刊誌46号より

医者は現場でどう考えるか

医者は現場でどう考えるか

■ジェローム・グループマン著/美沢恵子訳/石風社
 ■ISBN-10: 4883442004
 ■ISBN-13: 978-4883442003
 ■A5版 313頁 価格2800円(税別)


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ハーバード大学のベテラン医師である著者は、現代の医師たちに間違った診断や治療をさせるさまざまな 心理的・社会的要因を分析する。

冒頭に登場する女性患者は、長年神経性食欲不振症とされてきたが、ある医師の一度の問診で、 実は小麦タンパクアレルギーだったことが判明する。結局のところ「パスタやパンをいくら食べても太れない」という この患者の言葉を、それまでに診察した医師たちは誰ひとり信じておらず、自分の頭の中の診断アルゴリズムに 無理やり患者を当てはめていただけだったのだ

第9章「マーケティング、お金、医師の決断」では、製薬企業のマーケティングが医療を曲げている現実 が詳細に語られる。著者の友人であり、内分泌学の権威であるデルガド医師は、しつこい製薬企業のセールスマンとの接触を 拒むが、そうすると同僚の医師を含む周囲からさまざまな圧力を受けるようになる。加齢による男性機能の低下を「病気」に仕立てて 「男性ホルモン補充療法」の拡大を謀る製薬企業の意図がそこにはあった。

ほとんどの医師が金銭の力に負けていくなかで、誘惑をきっぱりと断るデルガド医師の存在がさわやかだが、 そんな医師が(日米友に)少数派であることが残念だ。(く)