「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第41回 『消化器疾患治療ガイドライン』をもとに医薬品を見直す

  

1999年8月25日

 

 今回は「消化器疾患治療ガイドライン」(1999年10月発行)をもとに医薬品を見直してみよう。
 原著はオーストラリア治療ガイドライン委員会が発行している『治療ガイドラインシリーズ』全八冊の一つ。Therapeutic Guidelines"Gastrointestinal"1998/1999、Edition2である。医薬品・治療研究会が翻訳し、医薬ビジランスセンターJIPが発行した。
 やはり、全国保険医団体連合会から、強力にバックアップをして頂き、保険医協会会員に、月刊「保団連」臨時増刊号として普及がはかられている。

無駄・無効な薬剤は記載しない
 原著の初版は、一九九四年。初版に触れてまず驚いたのは、臨床の現場で遭遇する、多くのCommon Diseaseに対して、簡潔な表現で正確かつ適切な処方例が紹介されている一方、当然のことながら無駄/無効な薬剤については記載されていないという点であった。日本の指針ものはもちろん、外国のマニュアル類でも珍しいほどである。
 たとえば、胃潰瘍の治療についての記述である。以前にも本欄(シリーズ第十回、一九九七年十二月五日号)で取り上げたことがあるが、消化性潰瘍の考え方が、攻撃因子と防御因子との不均衡の考え方から、(1)ヘリコバクタ・ピロリ(Hピロリ)と、(2)非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)を二大要因とする考え方に変化した点が強調されている。
 そして、胃潰瘍の30%を占めるNSAIDsによる胃潰瘍(十二指腸潰瘍は別)に対しては、H2ブロッカーは(常用量では)無効であるということが記述されていた。
 NSAIDsを使用しながらでは予防薬を使用していても、潰瘍はできるものはできるということだ。NSAIDsを中止して胃潰瘍の標準的治療を行うべきとされている。
 この他にも、ストレス潰瘍の予防には何が適切か? 非潰瘍性胃腸症状(dyspepsia)の治療は? 日本のプロスタグランジン製剤は効くのか? 慢性膵炎によく使用される薬剤などの位置づけは? 消化酵素製剤がよく使用されているが、その効力と必要性は? 脱水の目安と治療の基本は? などなど。
 これらの日常的な疑問に対して、適切なガイドラインが示されている。今回、一九九八年に改訂された第二版を翻訳し、日本の実情に合わせて、適宜注釈や訳補を加え、日本の現状で十分使えるように工夫した。
 オーストラリアのガイドラインは、自国内に有力な製薬企業を持たない利点を生かし、中立的な医薬品適正使用政策を進めている国ならではの、最新で良質のエビデンスに基づく信頼性の高い、第一線医療に役立つガイドラインである。もう一度、Common Diseaseの治療の原則について見直す絶好の著書と思う。