(2003.06.26号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No22

  

薬事審議会(分科会)の暴挙
危険なプロトピック軟膏小児用を承認

承認賛成委員の責任は歴史が検証するだろう
アトピー児は生涯「がんリスク」にさらされる

NPOJIP(医薬ビジランスセンター)とTIP(医薬品・治療研究会)がプロトピック0.03%軟膏不承認(医薬品第一部会への差戻し)を求める要望書を6月17日付けで薬事・食品衛生審議会、薬事分科会(薬事分科会)全委員に送付し、6月24日には、(1)プロトピック軟膏の成分タクロリムスは、短期使用でも生涯のがんを5倍に増やす、(2)免疫抑制剤として小児に使用すると10年以上で30〜40%以上、生涯の発がんリスクは計り知れないことを示す追加情報を送付し、慎重審議を求めていたにもかかわらず、6月26日開催された薬事分科会において、承認された。

プロトピック軟膏の危険性と承認上の問題点は「新薬承認のカラクリ」で紹介した。26日の薬事分科会に先立って各委員に送付したその後の情報とプロトピック軟膏の問題点をここで再度記載し、薬事分科会において承認に賛成した各委員に猛省を促したい。

臓器移植後の悪性リンパ腫は30〜40%にも

TIP誌(2003年6月号)や、6月17日付け要望書で、免疫抑制剤として使用した場合のタクロリムスによる悪性リンパ腫発生率は、成人で数%、小児では10%と述べたが、追加情報ではさらに高頻度である。

  1. 小児では1年で8%、2年で12%、4〜5年で15%生じた1)
  2. 1年以上の観察では概ね10〜28%に悪性リンパ腫が生じた2,3,4,5,6,7,8)。タクロリムスはシクロスポリンより高頻度で7,8)、なかには、5〜10倍との報告もある8,9)
  3. 免疫抑制剤OKT3とタクロリムスの併用では、28%にものぼる5)
  4. 大人の心(肺)移植患者を13年間追跡した結果10)、1〜2年で悪性リンパ腫が数%発生した後、数年間あまり増加せず、7年後から再度増加しはじめ、最終的には15%発生。
  5. 小児は成人より早く悪性リンパ腫ができ、発生率は2〜3倍(8倍11)とのデータも)。
  6. マウスにウイルス感染後、タクロリムス2mg/kg(0.03%軟膏塗布の2倍量)を1カ月投与後、19カ月間で悪性リンパ腫や血液系悪性腫瘍が5倍近く増加した12)

大人の追跡データ、小児と大人の違いを考慮すると、小児には4〜5年で15〜20%、7年以上経過後から急に増加して30〜40%になる可能性がある。1カ月曝露で生涯の発がん5倍との情報を合わせて考えると、小児にプロトピック軟膏を使用すれば、生涯大きな発がんリスクかかえることになる。

追加情報で引用した16文献中8件は、0.1%軟膏承認以降のデータである。文献10)に至っては、今年5月に公表されたばかりであり、第一部会では検討されていないだろう。

0.03%で発がん有意なら、メーカーの安全根拠はすべて消滅

この問題でとりわけ重要なのは、メーカーが有意な増加はないとする根拠とした統計解析方法の間違いである。全部位がんの発生率を、0.03%群と対照群(基剤群)間で単純に比較すれば、オッズ比は2.7、p<0.001で有意である。プロトピック軟膏はがん全体を有意に増加させるから、層別の後解析をしてどこかの臓器のがんが増加していないか検討するための方法Peto mortality prevalence 解析を適用する必要性は全くないし、意味がない。

0.03%軟膏でがんが増加したか否かは、安全性の評価の根幹にかかわる。0.03%群の血中濃度に比較して、人での血中濃度が低いというのが、メーカーの「安全」の理由だからである。しかし、その濃度で発がんは有意に増えているから、企業の以下の主張はすべて根拠がなくなる。

免疫抑制によるとしても、できるのは「がん」

免疫抑制による発がん促進であっても、臨床的にはがん発生を増加させることにかわりなく、きわめて危険なことで、免疫機能が未発達の小児は、発がんリスクは特に高い(上記文献12)

このほか、悪性リンパ腫と同程度の皮膚がんをはじめ、がん全体が約2〜3倍となる(動物実験でも人でも13,14,15))。がん以外の害も多彩で、動物の心筋線維症に相当する心筋症、インスリン依存性糖尿病(IDDN)や神経障害、腎障害も生じる16)

血中濃度を発がん濃度と比較しても意味がない

血中濃度で比較の対照になったのは、臓器移植で免疫抑制剤として使用した場合や、動物に0.03%軟膏使用時の濃度で、いずれも確実にがんを増加させる濃度である。これは比較対照とすべき安全量の血中濃度ではない。したがって、比較そのものの意味がない。

そうした発がん濃度に近い値を示す人が、軟膏塗布の臨床試験でも少なくなかったから、危険としか言いようがない。検出限界以下である0.5ng/mLでも免疫抑制は起きている。

感染症と新たな皮膚炎も

大部分の関連のある感染症を、勝手に「関連なし」と除外しているのだから、「本剤に起因した感染症はほとんどない」を信頼せよといっても無理である。

0.03%軟膏で皮膚炎はオッズ比4〜6で有意に(p<<0.001)増加し、皮膚炎を起こさない濃度ははるかに低い。これでは長期化するアトピー性皮膚炎の治療薬になるはずがない。

薬事分科会は警告を無視し重大責任を負った

「今一度、2歳で使用を開始した場合を想定してみてください。成人するまでに発がんする危険も否定はできません。途中で中止したとしても比較的若くして、がんにかかるかもしれません。もしそのことが現実のものとなった場合には(その可能性は高いのではないかと推察されます)、薬事・食品衛生審議会、薬事分科会委員の方々の責任は重大と考えます。」この呼びかけと、一部委員の差し戻し意見にもかかわらず、薬事分科会は危険な毒物を承認してしまった。

厚労省はすべての情報を公開し、第三者による公正な評価を受けよ

アトピー児を生涯「がんと免疫異常のリスク」にさらしてはならない

この暴挙に賛成した各委員の重大な責任は、歴史が証明することになろう。しかし、市販されるまでにはまだ、いくつかの通過点がある。(1)厚生労働省による正式承認手続き。(2)薬価収載するか否かの判定、(3)各医療機関による採用、(4)患者による使用である。
小児用に実施された臨床試験データなども未公表である。厚生労働省は、プロトピック軟膏に関するすべてのデータを公表し、第三者の検討に供し、第三者による公正な評価を受けるべきである。私たちは、それをしっかりと監視しよう。

(なお、参考文献はPubMedで“tacrolimus incidence AND (ptld OR cancer)”によりすべて検索できる)


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