(2005.07.16号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No58

ISDB 欧州
医薬ビジランス(医薬品監視)に関するベルリン宣言
Berlin Declaration on Pharmacovigilance

NPO法人医薬ビジランスセンター  浜  六郎

医薬品・治療研究会        別府 宏圀

TIP『正しい治療と薬の情報』と『薬のチェックは命のチェック』はともに、国際医薬品情報誌協会(ISDB)のメンバー誌です。

2003年10月に開催されたベルリン会議には、浜(『薬のチェックは命のチェック』およびTIP誌として)と坂口(『薬のチェックは命のチェック』として)が討論に参加しました。

最終宣言日が2005年1月となり、翻訳がまとまりましたので、ここに

ISDB 欧州医薬ビジランス(医薬品監視)に関するベルリン宣言(訳)

を掲載いたします(日本語訳全文はこちら

このほか、の宣言がISDBweb に掲載されています)。



(宣言冒頭の趣旨説明より)
国際医薬品情報誌協会(ISDB)のメンバーの医薬品情報誌は、患者にとってもっとも利益になる適切な治療を心がけられるように医療専門家(医師・薬剤師)に対して科学的根拠に基づく医薬品および治療の比較情報を出版している。この目的推進の一環として、医薬ビジランス活動(医薬品監視活動)をより有効に実施し、薬剤をより安全に使用できる方法を検討するために、欧州ISDBは地域内会議を開いた。2003年10月31日と11月1日にベルリンに集まり宣言を検討した。グループ内意見の聴取により、最終宣言日が2005年1月となった。医薬品情報誌協会を代表して、作成グループは医薬ビジランスに関する宣言をおこなう。

要約 SUMMARY

医薬ビジランス(医薬品監視)は、医薬品の安全性評価と改善のプロセスであり、強化されなければならない。

Pharmacovigilance, the process for evaluating and improving the safety of medicine, must be strengthened.

医薬品による害反応は著しく生活の質を悪化させ、入院を増加、長期化させ、そして死亡率を増加させる。また、公的医療制度にかかる財政コストも莫大となる。最近の医薬品規制のあり方では、多くの人々を医薬品の害にさらすことになっている。例えば、新薬は十分長期的な安全性研究がなされないまま、市販の承認がより迅速になされるようになってきている。また、超国家的なマーケティングが、より多くの人々に早期段階での医薬品入手を可能にしている。そして、医薬品入手に関する制限が廃止されたため、一部の医薬品はいわゆるセルフメディケーションの名のもとに、より広く使用されるようになってきた。

問題点The problems

医薬ビジランス(医薬品監視)の仕組みは、適切に組織化されておらず、患者や公共の最善の利益のための資金調達が行われていない。例えば、ヨーロッパ医薬局(EMEA)は保健医療・消費者保護事業本部長(DG:Directorate General)にではなく、産業分野を担当する産業振興事業本部長(DG)の傘下にある。これは明らかに利害の衝突をはらんだ矛盾であり、規制当局と医療専門家の間で、害反応に関する情報共有はほとんど行われていない。EMEAと国内規制当局は産業界からかなりの資金を受けており、今のところ医薬ビジランス(医薬品監視)が機関の予算のうち、公的な資金を割り当てられるように定める法律は存在しない。

医薬品の害反応情報は、多くの場合不十分なうえ非公開である。害反応に関する調査研究は十分には行われておらず、そのため、特定薬剤に関する害反応の頻度(住民母集団または処方に基づいた頻度)は不明である。製薬産業や規制機関が手にしている害反応情報は、通常一般には入手不可能である。

医薬専門家の医薬ビジランス(医薬品監視)に対する意欲は低く、監視への参加を推進する取り組みもほとんどなされていない。また、害反応は一般的に過小報告されている。

患者は害反応に関して不十分で理解の難しい情報しか受け取っていない。実際に害反応を体験するのは患者だけであるが、その患者からの直接の報告が監視センターや規制機関に受け入れられないことがよくある。

国際医薬品情報誌協会(ISDB※)ヨーロッパは、より効果的な医薬ビジランス(医薬品監視)と、より安全な医薬品の使用の達成を討議するために地域ワーキンググループを召集した。ワーキンググループは2003年10月31日と11月1日に開かれた。宣言は医薬ビジランスの全関係者に対する提案を採択し終了した。主なテーマと提言内容は以下のとおりである。

  1. より開かれた仕組みを目指してTowards Greater Openness

    情報自由法に基づき、「透明性」が当たり前のこととして認められなければならない。医薬品が市販されたその日から、規制当局も医薬品会社も、動物実験を含む全ての臨床、臨床前段階の関係データを公開すべきである。これらのデータは、医薬専門家と医薬品情報誌が、治療による利益と害のバランスを徹底的に調査することが可能となるように、製品特性概要(SPCs) や原末供給企業からの情報を上回る情報が開示されなければならない。医療従事者に対して、害反応に関する新しい調査結果が即座に知らされる必要がある。利害の衝突が起こり得る場合は常に、それが開示されるような基本方針でなければならない。

  2. 医薬ビジランスデータの共有 Sharing Pharmacovigillance Data

    国内組織、ならびに国際機関相互の間で、医薬ビジランス(医薬品監視)のためのネットワークを形成し、よりよい協力と統合を行うことが不可欠である。標準化された医薬品事故(drug accidents)に関する調査方法の確立が必要であり、それが事故防止の戦略にもなる。

  3. よりよい報告と情報収集 Better Reporting and Information Gathering

    市販後の害反応報告は、全関係者(例えば医師、薬剤師、看護師、助産師、施療師、患者)の参加のもとで、積極的に推進されなければならない。この促進のために、医学系学生は専門的トレーニングの早期段階で、医薬ビジランスについて学び始めるべきである。特定の医薬品に関する問題の場合、政府又は非政府機関(例えば、保険会社)が適切な研究を始めるべきである。

  4. 患者のためのより良い情報と、患者からの情報収集

Better Information for, and Collection of Feedback from, Patients

患者には、どのような治療であっても開始前に、その治療方法にともなう利益と害に関する全ての情報が偏りなく提供されなければならない。独立医薬品情報(製薬企業から独立した偏りのない情報)が、治療の際に(病院においても)入手可能でなければならない。そうした患者向け情報の言い回しや説明に関する明確さ(適切さ)は検定されたものでなければならない。

全文はこちら

※ISDB (国際医薬品情報誌協会:The International Society of Drug Bulletins)

ISDBは財政的ならびに知的に、製薬産業から独立した医薬品情報誌の国際ネットワークである。ISDBに加盟しているメンバー情報誌は、医療専門家が、患者の利益が最大となり最も効果的な治療活動が行えるよう、証拠に基づき、医薬品・治療を相互に比較し、独立した(製薬企業から独立した偏りのない)情報を掲載した医薬品情報誌を出版している。ISDBは1986年に設立された。その主な目的は、新たな独立医薬品情報誌の誕生を援助し、医薬品情報誌間の協力を推進することである。

会議はarznei-telegrammの事務所(ベルリン、ウオーター・タワー:Bergstr. 38 A, Wasserturm, 12169 Berlin, Germany)において、国際医薬品情報誌協会(ISDB)と個々の情報誌メンバーが拠出した資金により開催された。


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