さる12月4日、日本臨床薬理学会でシンポジウム「インフルエンザ罹患後の異常行動をめぐって」が開催され、「タミフルと異常行動との関連が認められなかった」とした廣田班報告の解析方法が間違いであることが、3人のシンポジストのほか、2人の司会者や会場からも指摘されました。
まず3人のシンポジスト(藤田利治氏、吉村功氏と浜)が、それぞれの方法で、廣田班の解析方法の間違いを述べ、司会者(久保田潔、別府宏圀)の2人も間違いであることを指摘しました。さらには、会場からは、岡山大学の津田教授(疫学)も、その間違いを明瞭に指摘しました。
さらには、「そんなはっきりした間違いをあえて廣田氏がしたのはどうしてか」、あるいは、「臨床薬理学会として廣田班の解析方法が間違いであることを厚生労働省に申し入れるべき」との意見も出ました。
廣田班の解析方法が適切であるとのコメントは皆無でした。
厚生労働省の班研究の結果(中間報告)という本来権威あるべき解析結果に対して、医学関係学会でこれほど否定的な意見で一致したのは極めて異例といえるでしょう。
そのほか、 で、当日の雰囲気や藤田氏の発言の様子が伺えます。コメントの中に、津田さん(Zuzammenさん)のコメントもありますので、あわせてご参照ください。
以下にシンポジウムの概略をお伝えします。
(1)「オセルタミビル(タミフル)と精神神経障害に関する疫学調査のデザイン・解析方法検討の前提となる薬理学的・毒性学的・臨床的知見と仮説設定」(一般演題1スライド)と題して、タミフルの害反応(副作用)に関する全貌を、また
(2)「オセルタミビル(タミフル) による精神神経系障害はRCTでも示されている」(一般演題2スライド)と題して、予防のランダム化比較試験で幻覚や統合失調症など重大な精神障害が有意に増加した結果を報告しました。
注1:
一般演題での発表は、苦肉の一策でした。シンポジウムでの浜への時間の割り当てが当初極端に少なかった(藤田氏から40分必要との求めがあり、吉村氏には30分、浜に10分)ので、10分では重要なことはほとんど話しができないことが予想できました。そこで、タミフルの薬理学的・毒性学的・臨床的知見の概略、ランダム化比較試験での重大な精神障害の有意な増加については、一般演題で述べることにしたのです。あまりにもバランスが悪いことを指摘した結果、最終的には15分に延長が認められました。
この一般演題で発表した、ランダム化比較試験における重大な精神障害の有意な増加については、速報No110ですでに報告ずみですが、初めて聞いた聴衆には常に強いインパクトを与えたようです。先のブログでもそのことが強調されています。
浜は、廣田班の解析結果の間違いを、以下のように簡潔に証明した(シンポジウムスライド)(注2)。
(1)タミフルが異常行動に無関係と仮定すると、
(2)本来なら、イベント発生のオッズ比は1となるはずであるにもかかわらず、
(3)廣田班の方法(タミフル処方群のタミフル服用前に異常行動を起こした子を他薬剤郡に移動させた)では、移動人数が0でない限り、常に1未満になり、仮定と矛盾する。したがって、どこかに間違いがあるはず。
(4)この矛盾は、データを移動するという1回の行為だけで起きているので、その移動が間違っていたことを示している。
注2:
この証明方法に関して、シンポジウム終了後、科学技術関係のフリーのライターから、「浜さんの説明が一番分かりやすかった」の感想をいただいた。
なお、廣田班の誤りについては、一般演題(ポスター)でも発表した(ポスター用スライドはこちら)。
(1)藤田氏は、廣田班報告といわれるが、元々は自分が計画し、実施した調査であり、それが事情(注3)によって2007年調査が終了したとたんに解析が不可能になり、その後「廣田班」が組織されたこと、計画した中心人物(横田氏および藤田氏)が外されて解析がなされた、との趣旨で、この間の事情を説明した。そして、「廣田班報告」というならよいが、「廣田班調査」というのは間違いであること、調査のオリジナリティが、元「横田班-藤田」にあることを何度も強調した。
注3:
藤田氏が自ら計画し実施した調査結果を解析できなくなったある事情とは、2007年2月に問題化した横田俊平氏および藤田氏の利益相反問題である(参照)。
なお、横田、藤田両氏が研究班から離れたことで、最初の調査計画を無視した解析がなされた、と藤田氏は主張しているが、もともとの調査計画段階での中心メンバーの一人であった森雅亮氏(横浜市立大学発生生育小児医療学)は廣田班のメンバーの一人である。廣田班の解析が問題であるなら、どうして当初の計画通りの解析を主張しなかったのであろうか。
(2)廣田班は、本来の調査計画(重篤例も調査し本来、重篤な精神神経障害に関するケースコホート研究として計画したもの)のすべてのデータを用いず、当初に調査計画にあった一部(経過観察調査分)のデータだけを解析したものであり間違い。
(3)しかもその解析方法も不適切である。将来のタミフル使用に基づき、患者を使用群と非使用群に分けるという無理をすることで、バイアスを生むことになった。
(4)結論として、廣田班中間報告は研究計画とは異なる解析結果であり、しかもバイアス混入により科学的根拠とはなりえないものである。本来の研究デザインに基づき、科学的根拠の提供に向けて適切な解析を行うべきである。
調査計画者としては、収集した調査票に基づく情報の公開に同意する。調査票に基づき入力したデータの公開を廣田班に求めたい。
注4:
現実には、受診前の異常行動は、他薬剤処方群よりタミフル処方群の方が少なかったので、藤田氏のこの論は成り立たない。他薬剤処方群は3.4%(2204人中75人)に対して、タミフル処方群では2.9%(7813人中227人)に過ぎなかった。オッズ比は0.85(p=0.227)であり、受診前の異常行動もオッズ比を下げる方向に働いている。これを調整すると、オッズ比はより高くなる方向に働く。
そのほか、上記ブログで、当日の雰囲気や藤田氏の発言のニュアンスなどが伺えます。
上記のほか、たとえば、浜が用いた「ITT解析」の方法について、「ランダム化比較試験にしか用いない解析方法なので、ITT解析というのは間違い」と、藤田氏は指摘したが、概念的には間違いないとの確信のもとに使ったものである。討論で津田さんも述べたように、ITT解析はコホート調査にも使われる方法であり、藤田氏は反論できず、かえって藤田氏の間違いが指摘された形となった(その後、実際の使用例を調べたところ、多くのコホート調査でITT解析の方法が用いられており、ランダム化比較試験以外でも確実に用いられている解析方法であることが判明している)。
吉村氏はまず、(1)タミフルとのかかわりについて自身の利益相反についても触れたうえで、(2)2006年調査(横田班)調査の結果判明した問題点についてまとめ、その問題点が2007年調査(横田班計画、廣田班解析)でどう改善され、計画がなされたかを調査計画書を検討したという。そして、(3)公表されたデータのどこが問題であった、(4)今後どうすればよいかを述べた。
(1)吉村氏は、タミフルの治療および予防に関する2つのランダム化比較試験の著者の1人であることを述べて利益相反があること、2007年5月20日のシンポジウムの1聴衆であったこと、それ以外では、文献的な知識のみであることをまず述べた。
(2)2006年調査(横田班)調査の問題点とその改善について:
注5:
吉村氏は、これが指摘された2007年5月にはすでに2007の調査は実施されていたので、計画に盛り込むのは無理だった、とした。しかしこれは事実に反する。討論ではこの点について浜は以下のように指摘した。2006年10月26日に横田班報告がされた後で浜は直ちに分析し、初日のタミフル服用後に異常行動の危険が増大することを指摘し、同年11月の日本小児感染症学会や、日本薬剤疫学会でも発表し、藤田氏にも、直接、最も意味のある重要なこの部分(初日)を分離して詳しく解析すべきであることを指摘した。したがって、吉村氏が指摘したそのことを2007年の調査計画に盛り込むための十分な時間的余裕があった。
この指摘に対する藤田氏の回答は、「十分な数が集まるかどうかが分からなかったので、調査計画書には盛り込まなかった」、とした。吉村氏も藤田氏をかばうような発言をしたが、これは根本的に間違っている。
十分な数が集まったとしても、調査計画書に盛り込んでおかなければ、いつまでたっても後付け解析になるのである。
この点に関する討論は、残念ながらここで打ち切られた。
(3)公表されたデータ解析の問題点:
について述べた。
ただし、a)については、ランダム化比較試験におけるプラセボ(偽薬)に相当するものが、タミフル非処方群にはないため、タミフル処方群ではこれが指摘できるが、非処方群では特定できないとした(注6)。
注6:
この点は特に重要なポイントであり、討論で吉村氏に浜から質問した。つまり、タミフル非処方群といえども、薬剤が全く処方されていないわけではないので、他剤処方群ではタミフル以外の薬剤服用前の異常行動発症例があるはずであることを指摘した。それに対して、アセトアミノフェンは頓用であるので、服用時間が一定しない、などの反論が藤田氏からなされたが、アセトアミノフェンだけでなく、咳止めや抗ヒスタミン剤などがいろいろと処方されているはずだと浜が指摘したところ、その点については藤田氏も認めた。
したがって、タミフル服用前の異常行動を除くなら、他薬剤処方群では、タミフル以外の処方薬剤をプラセボに相当するものとみなして、他薬剤服用前に生じた異常行動を除くべきであることを浜は指摘した。
この点に関しても、両氏からはそれ以上の反論はなかった。
b)については、再解析でも処理は困難であろう。
c)については、吉村氏はバイアスがありうるとしただけで、実際にどのようなバイアスになっているかは不明とした(注7)。
注7:
この点については、藤田氏に対する注4(前半)で述べたとおりである。実は、タミフル処方群と他剤処方群の背景因子として唯一比較できるのが、受診前の異常行動の発症割合である。これが、藤田氏の予想(指摘)に反して、実際にはタミフル処方群にむしろ低かった。調査の最中の2007年2月に飛び降り事故などから、異常行動とタミフルとの関係が大きく報道された時期であり、受診前に異常行動を生じていた場合には、医師も患者(親)もタミフルを使いたがらなかったであろう。そのことが関係した可能性が高いと考える。
(4)今後どうすればよいか、については、社会的に問題が広がっているので、医師のタミフルの処方行動や、患者の選択に大きなバイアスが入ってくるため、今後はバイアスのない調査を組むのがますます困難になるため、これまでの調査結果をできるだけきちんと再解析するべき。再解析は必須である、と述べた。
などという意見がでた。
司会者の一人、別府氏が以下のような発言で締めくくった。 「中間報告で示された解析方法には問題点が多いという点ではコンセンサスが得られた。 廣田班に生データを公開してもらい、様々な人が分析できるようにすべきだ」また、 このように異常行動を起こしうるとの議論がなされているにもかかわらず、メーカーは、 あたかもタミフルが異常行動を全く起こさず、10歳未満の幼小児に対しても安全に使える、 しかも使うのが当然であるかのような情報を患者向けパンフレット として医療機関にたくさん提供して患者に配布できるようにしていると述べ、 こうしたメーカーの行為の問題点もあわせて指摘した。
藤田氏はもちろん、吉村氏も実は、タミフル承認の根拠となった2つの重要な臨床試験(治療および予防)の共同研究者(著者)であり、利益相反がある。ところが、その利益相反のある2人が異口同音に、「廣田班の解析方法がバイアス(偏り)を生み、誤りである」と主張していました。
「誤り」であることを、自らの主張として、積極的に「誤りである」と主張したことの意義は極めて大きいといえるでしょう。
廣田班には、全国の医学部公衆衛生学教室教授など、疫学調査のプロが多数参加しています(注8)。このことを受けて、厚生労働省および廣田班の各研究者がどのようにこのことを処理するのか、しっかりと見ていく必要があると考えます。
注8:
研究協力者として小笹晃太郎(京都府立大学地域保健医療疫学准教授)、中村好一(自治医科大学公衆衛生学教授)、森満(札幌医科大学、公衆衛生学教授)、山口直人(東京女子医科大学衛生学公衆衛生学教授)が、また、共同研究者として、伊藤一弥(大阪市立大学公衆衛生学)、福島若葉(同)が参加している。
なお、第29回日本臨床薬理学会年会の一般演題に引き続くシンポジウム、午後からのポスター発表は以下のようなタイトルと予定で進みました。浜の担当した部分のスライドを公表します。