いわゆる「新型」インフルエンザで、日本で死亡した人、メキシコの重症例、米国の妊婦について、前回までに報告してきました。
今回は、日本で重症化して人工呼吸器を装着した人や、脳症/脳炎になったために報告された人についてみてみましょう。
いわゆる「新型インフルエンザ」にかかって入院し人工呼吸器が装着された人や、脳症/脳炎になった人は、各自治体を通じて厚生労働省(厚労省)に届けられます。そうした例について、厚労省が「新形インフルエンザに関する報道発表資料」として公表しています。その情報に基づいて検討してみました。
8月4日から、20日までに死亡した3人以外に、いわゆる「新形」インフルエンザから重症化して人工呼吸器が装着された人や、脳症や脳炎になった人が合計11人報告されています。脳症/脳炎の2人は人工呼吸管理をすることなく経過しましたが、他の9人は人工呼吸管理されました。11人中4人がタミフルを服用したことが報告書に記載されています。その人たちについて示しておきましょう。
まとめると、タミフルを服用したことがはっきりしている人は全員、服用後に悪化しています。このことからタミフルの関与が強く疑われます。また、タミフル服用の記載がない人では、解熱剤やけいれんを誘発する薬剤が重症化に関与していることが大いに疑われました。
7月30日39.5℃発熱、嘔気、嘔吐、頭痛があり、31日、近くのA医院を受診。髄膜炎疑いで解熱剤の処方を受けたが、8月1日に40℃が持続し、再度A医院を受診。インフルエンザAと診断され、B病院に入院し、タミフルドライシロップが使用された。CT検査では異常なかったが、夜から意味不明の言動、見当識障害(自分が誰か、どこにいるのか、状況の判断ができない状態)があり、8月3日朝、タミフルは中止。MRIで「脳炎」の所見が認められたが、頭痛、嘔気、嘔吐なし。精密検査(PCR法)で「新型インフルエンザ」の「陽性」が確定した。4日、脳炎症状は残存するものの、解熱(37.2℃)し、食欲あり、回復の方向にあった。
(浜コメント)
解熱剤使用後かえって熱が上昇し、重症化して入院しています。インフルエンザやかぜから脳症になり重症化する最大の原因はイブプロフェンなど非ステロイド抗炎症剤系の解熱剤(非ステロイド解熱剤)です(くすりで脳症にならないために参照)。以前よく用いられていたボルタレンやポンタールはさすがに最近は使われていないと思われますが、イブプロフェンはまだ医療機関では処方されることがあります。非ステロイド解熱剤が用いられていなかったか検証が必要でしょう。
また、入院し、タミフルを使用後に、「意味不明の言動、見当識障害」など精神神経症状が出現しています。MRIで「脳炎」所見が認められたといっても、「頭痛や嘔気、嘔吐」などの症状はなかったのです。タミフルで、精神神経症状が出現した可能性が高いでしょう。非ステロイド解熱剤が使用されていたなら40℃の高熱と重症化にも関係していた可能性がありえます。
7月25日咳。26日38℃の発熱で近医(A)受診。左の無気肺を認めたためA医療機関に入院。抗菌剤開始。 27日迅速検査陽性A型インフルエンザ。タミフルを開始。無気肺により呼吸状態が悪化したため気管内挿管。人工呼吸、酸素吸入。B病院に転院。28日精密検査(PCR法)で「新型インフルエンザ」確定。30日抜管し、人工呼吸中止。その後回復し8月5日退院した。
(浜コメント)
乳児喘息の既往があるとのこと。インフルエンザで気管支の炎症が起きて粘稠な痰がたまると、気管支の一部が閉塞して無気肺になり呼吸困難を呈することがあります。
タミフル服用後に睡眠中に呼吸が抑制されて突然死した幼児や成人が少なくありません。その上、無気肺で呼吸の一部が障害されていれば、タミフル服用で呼吸が抑制され、より強い呼吸困難が生じて低酸素状態になり、人工呼吸管理が必要になった可能性は十分ありうると考えられます。
基礎疾患のためにもともと気管切開がなされており、人工呼吸器の使用歴のある人である(ただし基礎疾患の詳細は不明)。8月10日、39.2℃発熱。迅速検査でA型インフルエンザが判明。タミフルが開始された。その後(時間は不明だが)、人工呼吸器の使用を開始した。11日PCR法実施し、12日「新型」と確定。38.3℃。13日37℃。人工呼吸器は使用しているが状態安定。
(浜コメント)
もともと気管切開がなされ、人工呼吸管理がされたことがあるということですが、インフルエンザ罹患前には人工呼吸管理はされていませんでした。
それが、タミフルが開始されてから、おそらくは半日以内に人工呼吸管理が必要となったのです。気管切開がされることになった元の病気は不明ですが、神経系あるいは筋肉疾患である可能性が高いでしょう(筋萎縮性側索硬化症など)。すると、タミフルによる呼吸中枢の抑制作用が、そうでない人よりも強く作用します。
したがって、この人の場合も、タミフル服用後に、脳が麻痺して呼吸する力が弱くなり人工呼吸管理が必要になった可能性が高いと考えられます。
もともと、慢性硬膜下血腫による両下肢機能全廃のため身体障害1級の人である。8月14日、午前中にA施設内(入所中)で40.2℃発熱があり、簡易検査でA型インフルエンザ陽性であった。タミフルを服用し経過を観察。翌日(15日)朝に、意識障害、血圧低下、呼吸障害のため、市内のB医療機関に入院。肺炎の合併があり、人工呼吸管理をし、ICUに入室。精密検査(PCR法)で「新型インフルエンザ」と確定。17日午後2時現在解熱、回復傾向あるが、なお人工呼吸管理は継続中。
(浜コメント)
14日のタミフル服用開始から、翌朝の意識障害、血圧低下、呼吸障害まで、24時間を要していません。非常に短時間の間に急変しています。タミフルは午前に1回と夜に1回服用した可能性があるでしょう。したがってその翌朝の急変は大いに関連があると考えるべきでしょう。
通常でも夜間睡眠中は呼吸が抑制されやすいので、まして、慢性硬膜下血腫による両下肢機能全廃があるのですから、呼吸筋の機能にも障害があるかもしれません。それなら、なおさら呼吸停止は起きやすいでしょう。
以上、タミフル使用が明瞭に記載されている重症の4人と死亡した2人は、少なくとも重症化にタミフルが関与した可能性が高いのではないかと考えられました。
なお、14人中1人(死亡した80歳代の女性)がタミフルを使用していなかったことがはっきりしていますが、あとの7人は、タミフルの服用状況は不明でした。タミフル使用が記載されていなかった8人中6人は、非ステロイド抗炎症剤が解熱剤として用いられていたなら重症化に関与した可能性があると考えられました(このうち一人は他のけいれん誘発性の薬剤の関与もありえますが)。
また、症状の経過から、4人(うち2には非ステロイド解熱剤も関与か)は、もしもタミフルが用いられていれば、タミフルが関与した可能性があると思われました。
結局、純粋にインフルエンザだけで重症化したといえる例は、ほとんどないのではないかと思われました。
再度申し上げたいと思います。「新型」との恐怖がばら撒かれる中で、WHOや米国CDCをはじめ世界中でタミフルが、さも特効薬であるかのように言われ、捕らえられて、一般の方まで「タミフルがなければ」、「タミフルのおかげでよくなった」などと思い込まされているようです。
しかし、冷静に、最新のデータを分析した結果、以上のように、タミフルが、ハイリスクの人ほど、インフルエンザによる死亡を増大させている可能性を示していますそれを示すデータが続々と出てきています。
そして、ようやく、軽症の人には不要、との考え方が出てきたようです。しかしよく考えてみて下さい。
重症の人、ハイリスク者には危険で使えない、軽症の人には不要。それならば、全くタミフルは使い道がない、と判断してよいということになりませんか。
追記:
この報告を書き上げてから、4人の重症者(人工呼吸管理例)が報告されました。神奈川県からの1人と、
沖縄県からの3人です。
そのうち3人はタミフルや解熱剤の使用の有無は不明でしたが、1人にはタミフルが使用されていました。
タミフルが使用されていたのは40歳代の女性です。39℃の発熱で近医を受診し4日後に症状が改善せず受診したところ肺炎疑いで入院、急速に悪化し、転院後人工呼吸管理がされて、その後にインフルエンザA型が判明したためにタミフルが使用されたというものです。39℃の発熱で近医を受診し4日後に急速に症状が悪化するまでには、非ステロイド解熱剤が使用された可能性が高いのではないかと疑われます。
また、タミフルが使用されたときには、すでに人工呼吸管理がされていていましたので、たとえタミフルで呼吸抑制が起きても、影響がでることはありません。