タミフルと突然死や異常行動との因果関係を示す証拠はつぎつぎに蓄積されてきています。しかし、WHOも各国規制当局もその因果関係を認めていません。それどころか、2009年型インフルエンザの世界的流行開始以来、WHOや各国でますます推奨されています。
今回、当センター(薬のチェック)代表の浜六郎医師とマーク・ジョンズ博士(オーストラリア、クイーンズランド大、生物統計学)らのグループは、国際医学雑誌「医薬品のリスクと安全性」誌上に、タミフルによる突然型死亡の増加を示す疫学研究を発表しました(標記アドレスからオンラインでフリーアクセス可能)。
この研究は、タミフルと突然型死亡との関連を指摘したはじめての疫学研究です。用いたデータは、厚生労働省(厚労省)による新型インフルエンザ全死亡例198人のプレスリリース情報です。新型インフルエンザに罹患後死亡した全198人中、初回受診中までには、人工呼吸器を必要とするほどの状態悪化が認められなかった162人について解析しました。このプレスリリース情報は、医師から一定の様式で報告を受けたうえ、所轄の保健所、自治体が不足情報を補充して厚生労働省に報告したもので、厚生労働省が公衆衛生の必要上から、全例公表したものです。そのあめに、解析に必要な情報がほぼそろっており、信頼性の高い解析が可能となりました。
用いた手法は相対死亡率研究proportional mortality studyというものです。新型インフルエンザ推定患者数のうち、タミフル使用者中の死亡者の割合とリレンザ使用者中の死亡者の割合(死亡率)を比較しました。タミフルとリレンザでは、10代への使用が異なるので、年齢を調整しました。
そのうえで、特に突然型死亡(処方12時間以内に急変後死亡)に焦点を当てて死亡危険度を計算しました。
処方患者数は、タミフルとリレンザで約10対7(1000万人対700万人と推定)でしたが、タミフル処方後に死亡した人が119人いました。そのうちの38人は12時間以内に急変した後死亡しました(うち28人は6時間以内の急変)。
リレンザ処方後の死亡は15人でした。突然型死亡(12時間以内急変後死亡)はいませんでした。
突然型死亡の危険度(オッズ比)は5.9(p=0.014、正確確率検定法ではp=0.0003)、死亡全体の危険度(オッズ比)は1.9(p=0.031)でした。
抗ウイルス剤がインフルエンザ患者の85%に処方されたと仮定した場合(実際は60~85%の間)、タミフルもリレンザも使用しなかった人は約300万人と推定されます、死亡したのは、31人でした。タミフルもリレンザも、解熱剤も使用しなかった場合に対するタミフルの突然型死亡の危険度は3.8(p=0.05、正確確率法ではp=0.009)でした。
最新のデータ(厚労省公表)から推定したインフルエンザ受診患者の抗ウイルス剤処方割合(約60%)を用いて再計算すると、リレンザに対する危険度は、基本的に差はありませんが、抗ウイルス剤非使用に対する突然型死亡の危険度は併合オッズ比13.4(p<0.0001)と大きくなります。
突然型死亡に年齢や性,タミフルやリレンザが処方された時の重症度などは無関係でした。むしろ、基礎疾患のある人より,「ない」か「不明」の場合の方が,突然型の死亡が多かったのです。ふだん健康な人の方が突然型死亡の危険が大きい可能性をうかがわせます。
厚労省は認めていませんが、少なくとも3つの前向きの疫学調査(コホート研究)の結果で、タミフルと異常行動や意識障害との関連が示されています。
最大規模で仮説検証に近いコホート研究として実施された研究では、せん妄や意識障害が有意に増加しました(論文、薬のチェックによる解説)。
すなわち、インフルエンザにかかって4日間全体の危険度は、せん妄が1.5倍、意識障害は1.8倍(p=0.039)でしたが,感染初日で最も危険が大きかった時期には,タミフルは,せん妄を約7倍,意識障害を約5倍(いずれも統計学的に高度に有意)に跳ね上がります。この現象は、どの研究でも共通していて、今回の突然死の研究でも認められているので、確実です。
2007年に厚生労働省が因果関係の見直しのためにメーカーに対して課した毒性試験の結果では,タミフル投与後短時間にラットが危険回避不能になり,2時間後に意識障害のあったラットは24時間以内に呼吸困難,呼吸抑制で約7倍、突然死ました(詳しくは、TIP誌2011年7月号、10月に開催された第43回日本小児感染症学会で発表したスライド参照)。
NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)ではこれまで、タミフル使用後短時間で突然死や異常行動から事故死した人は、因果関係があると指摘してきました。
因果関係を示すこれら一連の証拠(毒性試験結果や、複数の前向きコホート研究)の上に、今回は疫学調査で突然死との関連が認められたのです。
このことから、著者(浜ら)は、タミフル使用が、特に使用12時間以内の突然型死亡を誘発しうる、と結論づけました。
そのうえで、「予防の原則」を考慮するなら、本研究で示されたタミフルの有害性は考慮されなければならないとしています。これは、単にあいまいな「予防の原則」ではなく、ほぼ確実な因果関係が示されうえでの判断が求められることを意味します。
服用後ごく短時間の死亡の多発は、自然に治まるインフルエンザの治療には許容できないでしょう。「使用しない」という選択が必要であると考えます。
インフルエンザには、解熱剤は有害です。解熱剤も脳症や死亡を増やします。リレンザや他の新しい抗ウイルス剤はタミフルのような短時間の害作用はないとしても、用いない場合に比較して、重症化や死亡を減らす効果があるわけではありません。
薬にたよることなく、暖かくしてゆっくりと休養し、睡眠をとることが、最善の方法であるということを、あらためて強調しておきたいと思います(参考:くすりで脳症にならないために)
やや簡略化したプレスリリースも公表しました。