リン酸オセルタミビル(タミフル)
と突然死、異常行動死との関連に
関する考察

医薬ビジランス研究所

浜  六郎

【目的】
【方法】

症例7 当研究所への相談事例中、突然死例

当研究所への相談例中、異常行動死 2例

症例8:

14歳男。前日夕より発熱。当日朝なお高熱あり受診。この時39.4℃。迅速検査でインフルエンザAと診断。薬剤を服用せず昼寝し発汗。37.5度に解熱したが、処方のタミフル1カプセルを服用(初回分、タミフルのみ)。1.5時間後くらいまではビデオを見て、自室で寝た(母確認)。その30分後頃、ベッドで休んでいると思って母親が様子を見に行くと、ベッドにいなかった。

自宅は9階にあり、少し開いている玄関から母親が外を見ると、「人が転落した」という。下に見に行くと、わが子であった。

9階の外付け階段の手すりに、外から手でつかんだ本人の指紋が発見された。手すりをもってぶら下がり、その後に転落したと推定された(9階から転落死)。右肺血気胸、骨盤骨折など出血性ショックで死亡。

症例6:

17歳男。2004年2月 迅速検査でインフルエンザA陰性だがインフルエンザA疑いにて、アマンタジン2錠/日(分2)、抗生物質、アセトアミノフェンなどを服用したが治まらず翌日受診。迅速検査でインフルエンザA陽性。

処方されたオセルタミビル1カプセル服用。1.5時間後頃、気分悪い(嘔気)と訴え。家人が留守の2時間余りの間に、裸足で家を出て雪の中を家のフェンスを越え、空き地を横切り、1.3mのコンクリート塀に登り、3m下の線路の土手に飛び降り、線路を越えて1m程度のガードレールをまたいで国道に出て、走ってきた大型トラックに飛び込み(服用から約3.5時間後)、事故死した(トラック運転手ほかの目撃あり、また、行動のコースは、雪の上の足跡で確認済み)。

突然死、異常行動等症例まとめ

タミフル使用後の突然死・異常行動後の死亡、合計10人 
睡眠中の突然死    5人 (文献4、相談1)
呼吸抑制後の突然死  1人 (文献例)
異常行動後の事故死  2人 (相談2)以上表1
上記8例中異常行動死の1例を除き、主治医や報告医は、タミフルとの関連を完全否定し、インフルエンザ脳症あるいは単なる転落事故死としていた。
詳細不明の突然死 2人  (機構情報2)
異常行動(死亡も含む)合計10人(相談死亡例2、機構情報8:表1の参考例)

副作用とは:関連が否定できない有害事象

タミフルは発売間もない。睡眠時突然死、呼吸異常からの死亡は未知の有害事象。関連はだれも否定できない。異常行動は既知の副作用。死亡とタミフルとの関連は否定できない。主治医や報告医が完全に否定した理由は、「インフルエンザ脳症」だからというもの。だからといって、タミフルとの関連が完全に否定できるわけではない。どうして完全に否定できるのか?  理由は不明

  国立感染研、安井:「否定できない」 この考えが適切 副作用として対処を!

他に精神神経系異常: 低体温19、精神症状(意識レベル低下18、幻覚12、せん妄7、易興奮性6)、神経系症状(痙攣11、失神4、意識消失3、視野欠損3)など

発現機序と因果関係の考察

結論

  1. オセルタミビル(タミフル)は、中枢抑制作用
      (睡眠/鎮静剤類似作用)により、
  2. 使用開始きわめて早期に(初回が最も危険)、
  3. 幼児では睡眠中突然死(呼吸抑制死)を、
  4. 学童/思春期では異常行動後の事故死を、起こしうる.
  5. その規模はかなりのものと推定(02/03大阪の5例は全国規模では年間数十例に相当、これでも氷山の一角であろう)。
  6. 疫学調査による確認を要する重大な害反応である。
  7. タミフル使用の害と益のバランス判断には、他にSJS/TENなど重症薬疹26例、アナフィラキシー等33例などの重篤な害反応をも考慮するべきである。
表1  突然死5例、異常行動死2例のまとめ (付:厚生労働省医薬品副作用情報より:幻覚の例)
No 発生年月 報告者
報告年
年齢
タミフル 解熱剤 その他の
併用薬剤
睡眠との関係 服用後、呼吸停止
/事故までの時間
害反応 元の診断名死因 害反応の状況 脳圧亢進、
その他症状
1 2002.12 塩見
2003年
10月
3歳
初回 なし 不明 午睡中   突然死 インフルエンザ脳症    
2 2002.12 3歳
初回 なし 点滴・吸入 午睡中 2時間
以内
突然死 インフルエンザ脳症 服用後昼寝をしていると思っていたら、2時間後呼吸停止していた  
3 2003.01 2歳
初回 不明 不明 深夜     突然死 インフルエンザ脳症    
4 2003.02 2歳
初回 なし あり 深夜 数時間
前後
突然死 インフルエンザ脳症 朝、チアノーゼ、硬直状態で発見  
5 2003.01 藤井ら
2004年
2月
2歳
初回 不明 不明 深夜 数時間
程度
脳圧亢進疑
/呼吸抑制死
インフルエンザ脳症 呼吸状態がおかしいことに両親が気づき、自家用車で1時間後病院到着.その時心肺停止 30分後嘔吐
6 2004.02
2005年
11月
17歳
初回 アセトアミノフェン OP服用前に
アマンタジン
なし 約3時間半 脳圧亢進疑
/異常行動
/事故死
異常行動(タミフル関与否定できない) 裸足で雪中をフェンスやコンクリート塀等を乗り越え線路を横切り国道で大型トラックに飛び込み事故死 1.5時間後嘔気
7 2005.02 2歳
初回 なし 抗ヒスタミン剤など 睡眠中 約3時間後 脳圧亢進疑
/突然死
インフルエンザ脳症 服用10分後睡眠. 1.5時間後頭痛で覚醒. 号泣40〜50分間後、再び睡眠.服用約3時間後突然死 1.5時間後強い頭痛
8 2005.02 14歳
初回 なし なし なし 2時間
以内
異常行動
/事故死
転落・出血性ショック 37.5℃で服用後、9階階段手すりを越え転落死  
参考:
厚生労働省情報
厚生労働省
2004年
6月
10歳代
2、3回目〜、5日間服用 なし チアラミド、
エフェドリン、
コデイン、
抗ヒスタミン剤
なし ほぼ1日 異常行動
/幻覚
タミフルによる幻覚 夕〜服用.翌日解熱とともに走り始め,窓から飛び降りようとした.母親が抱き留め、事故を免れた. その後も奇声.しかし、次第に治まる
このほか、詳細不明の突然死2例が、機構に報告されている            


表2  タミフルカプセルを成人に予防投与したRCTにおける嘔気・頭痛・嘔吐の頻度とNNH
症状 プラセボ(n=973) タミフル(n=986) オッズ比
(95%信頼区間)
NNH:
Number Needed
to Harm
嘔気 50 5.1 97 9.3 1.9(1.3-2.7) 24
頭痛 243 25.0 286 29.0 1.2(1.005-1.5) 25
嘔吐 9 0.9 27 2.7 3.0(1.4-6.4) 55

新薬承認情報集(製品概要:NAP)のデータから、医薬ビジランス研究所で解析。頭痛と嘔気、嘔吐の頻度がともに有意に高率であったことから、嘔気や嘔吐は消化器系の症状ではなく、中枢神経系(脳圧亢進など)による可能性が強く示唆される(NNH=25〜55)。


表3  タミフルを小児に治療目的で使用したRCTにおける1日目の嘔吐の頻度とNNH
症状 プラセボ(n=517) タミフル(n=515) オッズ比
(95%信頼区間)
NNH
嘔吐(1日目) 16 3.1 51 9.9 3.4 (1.9-6.1) 15
 嘔吐(2日目以降) 32 6.2 26 5.0 0.8 (0.47-1.4)  
 嘔吐(全体) 48 9.3 77 15.0 1.7 (1.2-2.5) 18
新薬承認情報集(製品概要:NAP)のデータから、医薬ビジランス研究所で解析。

嘔吐の頻度が、1日目だけ有意であったことと、睡眠中の突然死や異常行動が 服用初回に起きやすいことと、共通する現象であると考えられる(NNH=15)。
小児では、頭痛の訴えは有意の差がなかった。訴えが不確かなためかも。