2002年2月4日

厚生労働大臣
    坂 口 力 殿

ベロテックエロゾルに関する緊急要望書

薬害オンブズパースン会議
代 表  鈴 木 利 廣
〒160-0004  東京都新宿区四谷1-2伊藤ビル3階
電話03(3350)0607  FAX03(5363)7080

医薬品・治療研究会
代 表  別 府 宏 圀
〒185-0013 東京都国分寺市西恋ヶ窪1-43-8-404
電話042-325-6983 FAX042-325-5148

NPO法人医薬ビシランスセンター
理事長  浜   六 郎
〒543-0062 大阪府大阪市天王寺区逢阪2-3-1-502
電話06-6771-6345 FAX06-6771-6347

 

 薬害オンブズパースン会議は、市民の立場から、適切な医薬品が安全かつ有効に用いられるよう監視活動を行っている市民と専門家からなる団体です。
 医薬品治療研究会は、適切な医薬品が安全かつ有効に用いられるよう、医師・薬剤師等専門家向けに医薬品情報誌"The Informed Prescriber"(略称TIP、邦名:「正しい治療と薬の情報」)を刊行している団体です。
 NPO医薬ビジランスセンターは、適切な医薬品が安全かつ有効に用いられるよう、医薬をビジランス(監視)するための調査研究活動を行い、市民・患者および医薬専門家向けに医薬品情報誌「薬のチェックは命のチェック」を出版している、特定非営利活動法人(NPO)です。

 かねてより、私たちが危険性を指摘してまいりましたベロテックエロゾル(臭化水素酸フェノテロール定量噴霧式吸入剤)については、これを使用中に突然心停止して死亡した患者の遺族が、厚生労働省所轄の「医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構」(以下「医薬品機構」という)に対して被害救済申請を行っておりましたが、このほど、死因「心肺停止」、 原因薬剤「ベロテックエロゾル」として、遺族年金等の支給決定がなされました。適切な決定であったと考えます。

 ところで、この決定を踏まえ、あらためてベロテックエロゾルの販売数量と喘息死亡の推移との関連、これまでの疫学的、臨床的、基礎および臨床薬理学的、毒性学的な事実を総合的に考察した結果、ベロテックエロゾルは、早急に使用中止、製造承認取消、回収すべき物質であるとの結論に到達いたしました(詳細は、NPO法人医薬ビジランスセンター浜六郎、TIP「正しい治療と薬の情報」誌2002年1月号ー文献1参照)。

 そこで、以下のとおり要望致します。

【要望事項】

  1.  ベロテックエロゾル(臭化水素酸フェノテロール定量噴霧式吸入剤)について、代替薬への移行期間をおいた後、販売の中止を命じ、さらには薬価基準からの削除もしくは製造承認取消の措置を行い、日本べーリンガーインゲルハイム社に対し、製品の回収を指示すること。
  2.  医療現場において、ベロテックエロゾル使用者の他の適切な治療方法への移行が適切になされるように、医師を指導するとともに、患者に対して適切な情報提供を行うこと。なお、その詳細な方法については、患者向け情報としてTIP誌1997年6月号ー文献2、医療専門家向け情報としてTIP誌1997年8、9月合併号ー文献3を参照されたい。

【理由】

  1.  医薬品機構の決定のとおり、今回遺族年金等の支給が決定された3人はいずれも、原因薬剤ベロテックエロゾルを使用中に、突然の心肺停止を起こして死亡したことが、ほぼ確実あるいは、 その可能性が極めて高い例であり〔註〕、これらの他にも、ベロテックエロゾルによる突然の心肺停止であることがほぼ確実あるいは可能性が高いと考えられる例が存在する(文献1、症例1〜3参照)。  
  2.  ベロテックエロゾルと喘息患者の突然死(増加)の間の因果関係は、以下のような数多くの科学的な証拠によって確実に示されている。
      まず、疫学的には、時間的関連(たとえば、文献1図3のように、1985年のベロテック販売開始後、喘息死亡者が急増し、1997年5月緊急安全性情報後、販売量の急減に伴い喘息死亡者が急減)、 用量反応関係(例:文献1図1)が、多数の独立した調査によって示されている。
      また、 両者の関係は、基礎薬理学的(例:文献1図4)、 毒性学的(例:文献1図5、図6)、臨床薬理学的(例:文献1図7)など多数の研究によっても矛盾なく説明でき、裏付けられており、それを否定する適切な証拠は存在しない(文献1)。
  3.  現在, 添付文書の警告欄で記載されている「他のβ2 刺激薬吸入剤が無効な場合に限る」という使用方法は、 実は最も危険な使用方法である。このように極めて危険な使用方法を推奨しているこの警告は廃止すべきである。この警告が廃止されることになれば、ベロテックエロゾルの用途は消滅する。
  4.  日本べーリンガーインゲルハイム社は、1999年8月、1回の噴霧量を従前の200μgから半分の100μgにした製品を発売したが、用法・用量について、200μg噴霧では、「通常1回1吸入」としていたものを、100μg噴霧では、「通常1回2吸入」にしたまでのことであって、結局、1回に臭化水素酸フェノテロールとして200μgを吸入することに変わりはなく、本剤の危険性を何ら減じるものではない。
  5.  このように重大な害を示す数多くの科学的証拠が存在し、しかもその因果関係が確実に示されているベロテックエロゾルを、いまだに市場に存続させておくことは、患者を不必要な危険に曝すことにほかならない。

 よって、上記のとおり要望する。

〔註〕(突然の心肺停止の例):ポットの湯を注いでいる途中で、 湯飲みを床に落としたが、その後トイレまで歩行して、突然心肺停止。「湯飲みを落とした」エピソードは一時的意識消失を示す。その他、文献1症例1〜3参照。)

<文献>

  1.  浜六郎(NPO法人医薬ビジランスセンター)、ベロテックエロゾルによる心肺停止を厚労省が認定ー最も危険な人への使用しか適応がないベロテックエロゾルは禁止をーTIP「正しい治療と薬の情報」、第17巻1号、2002年1、p1-8
  2.  医薬品治療研究会・医薬ビジランスセンター、β作動剤吸入に関する喘息患者の質問にどう答えるか、TIP「正しい治療と薬の情報」、第12巻6号、1997年6月、p58-63
  3. 薬害オンブズパースン会議、フェノテロール定量噴霧式吸入剤(ベロテックエロゾル)の使用に関して:喘息患者の診療にあったている医師への提案、TIP「正しい治療と薬の情報」、第12巻8、9合併号、1997年8月、p89-91  

 

 

 

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