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                                                EBMビジランス研究所         所長 
                                                   医薬ビジランスセンターNPOJIP   理事長  浜 六郎 
                          
                         4月19日付けの厚生省の発表では、フェナセチン含有製剤による慢性の腎障害だけでなく、腎盂や膀胱癌など泌尿器系の癌の発生リスクの増大についても、供給停止の理由として挙げています。  そこで、この点についても追加でコメントしておきます。詳しくは、TIP誌の4月号(4月末〜5月始め発行予定)に掲載しますので、参照ください。 
                        1.頭痛用「鎮痛剤」の供給停止措置 
                         2001年4月19日、フェナセチン含有医薬品(セデスGやサリドンなど)の濫用対策として厚生労働省は、これらの薬剤の供給を停止するとの措置を発表しました。   これらの薬剤を長期連用することによって、重篤な腎障害、腎盂・膀胱腫瘍等の長期・大量使用したことにより腎・泌尿器系障害の症例が見らること、最近10年間で1.4 
                        倍に使用量が増加していること、頭痛、月経痛、歯痛等の鎮痛には、長期使用での副作用の危険が低い代替薬剤として、アスピリン(この問題点は後で詳述)、アセトアミノフェンがあることなどを理由にあげています。  
                        2.セデスGなど鎮痛剤の連用による害については以前から指摘されていた 
                         フェナセチンは体内(肝臓)で代謝されてアセトアミノフェンになり、鎮痛解熱効果を発揮する薬剤です。単剤としてはほとんど用いられず、もっぱら、他の鎮痛剤と合わせた形で使用されています。  アメリカではフェナセチンとアスピリン(+カフェイン)の合剤、ヨーロッパや日本ではピリン剤とフェナセチン(+カフェイン)の合剤が主に使用されていました。セデスやサリドンは後者です。  これらを長期間使用した人の中から腎障害の患者が多数出たことと、両方の合剤に共通してフェナセチンが使用されていたことから、フェナセチン原因説が登場したものです。 
                        3.非ステロイド抗炎症剤の方がもっと腎毒性が強く問題 
                         しかし、実はフェナセチンよりもセデスGなどに含有されているイソプロピルアンチピリン(ピリン系薬剤)や、厚生省が安全としているアスピリンを含めて、アセトアミノフェン以外の非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)の方がはるかに害が大きく、問題は深刻です。  グッドマン・ギルマンという欧米の薬理の教科書1970年版には、すでにこと点が次のように指摘されています(ただし最近の版には問題指摘が明瞭でない)。  「共通する薬剤はフェナセチンだが、これらの鎮痛剤にはアスピリンやピリンなどの強力な抗炎症剤が含有されている点も共通している。メカニズムは明らかではないがアスピリンで腎臓の細胞が剥がれて尿にたくさん出てくる。アセトアミノフェンやフェナセチンにはその作用は少ない。」 
                        4.プロスタグランディン合成阻害の面から当然 
                         これは、今日では当然のことです。腎臓で血液から尿をつくり出す細い血管は、局所のプロスタグランディンという血管を広げる物質の作用で広げられています。そこに、アスピリンやピリンなど非ステロイド抗炎症剤が使われると、プロスタグランディンの合成を抑えて腎臓の血管は収縮させるために、腎障害を起こしてしまうのです。 
                        5.フェナセチンだけでなく、他の非ステロイド抗炎症剤も発癌性がある 
                           ・・・泌尿器系の癌だけでなく肝臓癌など、他の部位の癌もある・・・ 
                         まず、セデスGなどの主成分はイソプロピルアンチピリンというピリン剤です。そして、このピリン剤(ピラゾロン剤)にも発ガン性が報告されています。フェナセチンとピラゾロン剤(フェナゾン)を比較した動物実験では同程度に癌(尿路系、肝臓など)がみとめられています。  おなじく、ピリン系の解熱剤スルピリン(商品名メチロンという注射剤で有名)でも動物で発ガン性が認められています。  一旦許可された後で、発ガン性の「データ隠し」が発覚して市場から追放されたスキシブゾン(ダニロン)もピリン剤です。  さらには非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)のゾメピラクや、スプロフェンなども発がん性が指摘されています。  インドメタシンなどでは発ガンのデータはあまり目立ちませんが、抗炎症作用が強いために、腎障害や消化管障害(潰瘍、出血、壊死など)、あるいは、血液障害(再生不良性貧血など)で死亡してしまうために、動物が発ガンする前に死亡してしまい、発がんが目立たなくなってしまうと考えられます。 
                        6.非ステロイド抗炎症剤による腎障害や消化管障害などは急性に起きる 
                          しかも、アスピリンやボルタレン、ポンタール、ロキソニンなど非ステロイド抗炎症剤は、腎障害や消化管障害、血液障害などは、臨床使用量のほとんど同じ量か少し増やしただけでも急激に生じます。もちろん、急に生じない人は長期連用すると、フェナセチン含有鎮痛剤よりもずっと早く、腎障害を生じてきますし、発がんの危険もありえます。  発熱時の痛み止め、解熱剤として使用すると「脳症」も問題になります。  実際に、臨床的にも、発ガン以外の毒性の方が問題であり、全体としてみた場合の毒性は、死亡も含めて、発ガン以外の毒性の方がずっと大きいでしょう。  ヒトでは実際、非ステロイド抗炎症剤を使用してどれくらい死亡するのでしょうか。イギリスの調査から、処方箋の数などを換算してみると、日本では年間6000人以上が胃・十二指腸潰瘍で出血し、そのうち600 
                        人は死亡していると推定できます。 
                          医療過誤事件の直接死因が、非ステロイド抗炎症剤による腎不全と推定される人が多数いますので、実際には1000人を越えているのではないかと考えられます。それに、インフルエンザなどの時の脳症として、小児だけでも毎年100 
                        人〜200 人いるわけですから、今回公表された数人の尿路系腫瘍を「はるかに」「はるかに」しのぐ、大規模なものです。 
                        7.フェナセチンはアセトアミノフェンの仲間でむしろ安全 
                          ・・ただし、アセトアミノフェンの方がより安全なのでフェナセチンは不要・・ 
                          一方、フェナセチンは体内(肝臓)でアセトアミノフェンという比較的抗炎症作用が弱い鎮痛剤に変化して効果を発揮します。むしろ、フェナセチンは腎臓にはアスピリン、ピリンなど抗炎症剤よりもずっと腎臓には優しい薬です。  先に記したように、非ステロイド抗炎症剤は腎障害を起こすよりも先に胃・十二指腸潰瘍を起こす人の方が多いために、そちらの副作用の方が有名だけであって、軽い腎障害のある人では、フェナセチンよりもはるかに短期間で腎障害を起こすのです。  アセトアミノフェンは、フェナセチンの余分な代謝物がない分さらに毒性は少なく、胃にも腎臓にも優しい薬なのです。 
                        6.頭痛薬を連用している人は一度中止するよい機会 
                         頭痛薬を連用している人の中には、頭痛薬でよけいに頭痛が生じている人が意外と多いものです。脳の血流も悪くなってしまうので、一旦中止してしばらく影響が無くなると、治まることがあります。なかなか、中止するのは難しいものだとは思いますが、セデスGなど頭痛薬が市場からなくなるのを機会に、ぜひ中止を試みてみられるとよいと思います。                     
                        7.間違ってもフェナセチンの代替として非ステロイド抗炎症剤を使ってはいけない  
                          代替するならアセトアミノフェンに 
                         本当は中止する方がよいのですが、どうしても、中止できない人は、アセトアミノフェンに切り換えることを勧めます。  間違っても、ボルタレンやポンタール、アスピリン、ピリン系など、非ステロイド抗炎症剤を長期に連用しないようにして欲しいものです。 
                          非ステロイド抗炎症剤の害については 
                          NPOJIPブックレットNo1「解熱剤で脳症にならないために」 
                                ・・・非ステロイド抗炎症解熱剤の害を考える・・・ 参照 
                          
                          主に解熱について解説しているが、鎮痛剤としての害も基本的には同じです。詳しくは、TIP誌の4月号(4月末〜5月始め発行予定)に掲載しますので、参照ください。 
                          
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