イレッサ情報 No7(2003.02.09号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版

  

NPO医薬ビジランスセンター

ヒト常用量と同量〜3倍量で動物が死亡
薬理作用に関連した毒性死!!

直ちに使用中止・審査過程の見直しを

【1】やはり承認前につかんでいたイレッサの肺毒性
抗がん併用でイレッサが肺傷害増強作用

毎日新聞は2月7日、東京女子医大病院副院長の永井厚志・呼吸器内科教授らのグループによる動物実験から、アストラゼネカ社が01年8月には、イレッサの肺毒性の可能性をつかんでいたことを以下のように報じた(1,2)。
 『マウスを使った動物実験で、マウスに別の抗がん剤を投与し、肺を傷つけて「肺線維症」という病気の状態にし、イレッサを投与した。投与しないマウスに比べて肺線維症が大きく悪化し、肺の機能が低下した。教授は01年8月、実験用イレッサを提供したア社に実験結果を伝えた。ア社は教授に「本当にイレッサで起きるのか確かめてほしい」と依頼。教授は実験を重ね、02年5月までに「イレッサが傷ついた肺の回復を妨げる」と結論づけ、ア社に連絡した。ア社の許可を受け、02年6月に研究会で発表したという。』
 実は、2002年12月25日、厚生労働省医薬局安全対策課が主催した「ゲフィチニブ安全性問題検討会」において、おそらくこの研究結果(あるいは一連の実験の一部)が資料として配付され説明されていた(3)。東京女子医大永井厚志教授らのグループによる『ブレオマイシン肺線維症モデルマウスに対するEGF受容体チロジンキナーゼ阻害剤(ZD1839)の影響』と題する第43回日本肺癌学会総会2002年11月22日ワークショップ用抄録である(配布資料No12)。委員の一人青柴医師(永井厚志教授らグループの一人)からその実験について説明があった。その内容から推察して、毎日新聞の記事と同じ実験(もしくは一連の実験の一つ)と思われる。
 同じものとすると、「別の抗がん剤」というのは、ブレオマイシン、マウスに使用したイレッサの用量は200mg/kgである。
 アストラゼネカ社の加藤副社長は「実験では、実際に患者に使うよりも、かなり多いイレッサをマウスに投与するなどしていた。副作用を示唆するデータではあるが、断定はできないと考えていた」と説明している(毎日新聞)が、マウスに対するイレッサの用量200mg/kgは、マウスで60日間程度、抗腫瘍効果を示す用量である。したがって、マウスにとって、それほど大量ではない。マウスで抗腫瘍効果を示すそれほど大量でない用量で肺への傷害作用を認めたということである。

 なお、永井厚志・東京女子医大呼吸器内科教授は、アストラゼネカ社が組織し2002年12月5日開催した「イレッサとの関連が疑われる急性肺障害、間質性肺炎の検討の第一回専門家会議」のメンバー(アストラゼネカ社ホームページより(4)

【2】抗がん剤を併用しなくても動物で肺傷害を認めた可能性が強い
肺相対重量増加と白血球数増加があれば、肺に炎症があるはず

「薬害オンブズパースン会議委託研究報告書」(5)、およびTIP誌2003年1月号(6)ですでに報告したが、アストラゼネカ社は、抗がん剤併用動物での肺傷害だけでなく、ごくふつうの毒性試験でも肺傷害を認めていた可能性が濃厚である。これは、公表されたイレッサの審査資料概要(7)に記載されている次の諸事実から示唆される。動物実験結果をまとめると以下のとおり。

(1) ヒト常用量(5mg/kg)でも動物に死亡あり(イヌ)

動物による6カ月の毒性試験(ラット、イヌ)では、ヒトの常用量(5mg/kg)で、ラットに肝細胞壊死を認め、イヌでは8頭中1頭が死亡した。死にそうになった動物は死ぬ前に屠殺(とさつ)する(これを切迫屠殺という)。
 ラットとイヌに6カ月の予定で25mg/kg投与すると、早期に死亡した(切迫屠殺)。イヌでは10日目に8頭中の1頭を切迫屠殺。ラットでも、雄の30匹中、8週目に1匹屠殺。それぞれ、11日目、9週目からは15mg/kgに減量したので、実質は15mg/kgのようなものである。ラットでは15mg/kgに減量後も3匹が死にかけたので屠殺した。ヒト常用量高々の3〜5倍の雄雌合計60匹中4匹(7%)が死亡した。

(2)ア社自身、死亡例に薬理作用に関係した毒性が現れたことを認めている

「中高用量群(=5mg/kg、25/15mg/kg)の卵巣機能への影響及び高用量群(25/15mg/kg)の早期屠殺例の1頭における腎乳頭壊死」に言及し、「これらの病理組織学的所見は本薬の薬理作用であるEGF受容体チロジンキナーゼ阻害に起因したものと考えられる。」「以上のように、高用量群では本薬投与に起因した一般状態悪化が認められ、雌1頭を切迫屠殺し、本薬に起因すると推定される房室伝導障害が高用量群の1頭で認められた。」などと記載している。
 したがって、微妙な表現ではあるが、ヒト常用量のたかだか3倍程度で、イレッサの主要な作用機序であるEGFRチロジンキナーゼ阻害に起因した作用が過剰に発現して、正常組織(少なくとも腎、消化管、角膜、眼瞼=微少膿瘍、心、卵巣など)が傷害されて死亡する可能性を認めている。
 しかも、抗腫瘍用量(明瞭な抗腫瘍用量は200mg/kg、50mg/kgではその約2分の1程度の抗腫瘍効果を示した)より確実毒性量(肝壊死量、最少致死量=5mg/kg)がはるかに低い。

(3)肺相対重量と白血球数はイレッサと用量反応関係あり

ラットでは5mg/kg以上で肝細胞壊死。イヌ6カ月毒性試験で、肺の相対重量増加と白血球増加を認めた図1参照)。いずれも用量反応関係を認めている。これは肺炎を起こした可能性を十分疑わせる所見である
 特に、イヌの6カ月毒性試験で、5mg/kg投与群の雄1頭(4頭中の1頭)が18週目に「頸部痛、発熱及び行動抑制の一般状態悪化のため」切迫屠殺された。このイヌの発熱は重要だ。このイヌに肺炎はなかったのか?
 明確に記載されていないだけに疑問が残る。屠殺が早すぎる場合には、肺に何らかの所見があっても軽微なものにとどまり、目だった所見にはならない可能性もある。25mg/kgで、わずか10日目目に体重減少と摂餌量減少のため切迫屠殺されたイヌも、屠殺が早すぎて肺炎など死亡に至る臓器の所見が未完成ではなかったのか。

(4)肺に傷害所見を認めないはずがない
ア社自身、肺異常所見の存在を否定していない

これだけ多くの毒性試験をし、いくつかの肺毒性を示唆する所見があり、臨床試験での重篤な有害事象の約半数、市販後では90%以上が肺の異常であるにもかかわらず、毒性試験で肺の異常所見(イレッサと関連ある異常所見)が全くなかったということは考えられないことである。
 事実、アストラゼネカ社自身「病理組織検査では本薬に起因する呼吸器系異常所見は認められなかった。」とし、「異常所見」そのものの存在は否定しない。

【3】肺傷害の事実をア社はやはりつかんでいた

毎日新聞では、『教授は同年8月、ア社に実験結果を伝えた。ア社は教授に「本当にイレッサで起きるのか確かめてほしい」と依頼。教授は実験を重ね、02年5月までに「イレッサが傷ついた肺の回復を妨げる」と結論づけ、ア社に連絡した。』『ア社は報告を受けていながら、薬の承認後まで厚生労働省に報告していなかった。』『永井教授は「軽い肺線維症は肺がん患者ならだれにでもある。実験結果から、人間でも肺に副作用が出ると予想していた。報告の遅れはひどい。安全性に関する重要なデータで、当然報告したと思っていた」と話している。』としている。
 これだけ明瞭な肺傷害も、ア社は「副作用を示唆するデータではあるが、断定はできないと考えていた」という。ア社にかかれば、いつまでたっても「イレッサは肺傷害を起こし得ない」ことになるのではないか。

【4】審査当局は承認前にイレッサの肺傷害をつかんでいなかったか?

イレッサの反復毒性試験では、ヒト常用量(5mg/kg)で死亡例を認め(イヌ)、常用量のたかだか3〜5倍で死亡を複数例(ラットで4匹、イヌで1頭)認め、しかも、これら死亡例では薬理作用に関係した毒性が現れたことを認めている。したがって、イレッサの薬理作用に関連した毒性が種々の正常組織(少なくとも腎、消化管、角膜、眼瞼=微少膿瘍、心、卵巣など)に現れて死亡する可能性について、審査当局も認識していたはずである。
 さらに、イレッサと、肺相対重量および白血球数との間に用量反応関係を認めている。したがって、通常の毒性試験で、肺についても何らか毒性所見を、審査当局自身つかんでいた可能性は高い。

【5】毒性試験データを全て開示し
臨床試験の有害事象を再点検し、安全性の再評価を

医薬ビジランス研究所では、薬害オンブズパースン会議を通じて、毒性試験データを全て開示するよう求めているが、肝腎のデータについては開示されない。
 徹底的な開示を求め、審査過程の総点検をおこなう必要がある。
 また、臨床試験および市販後の有害事象死亡例、重篤な有害事象例について、すべて再点検し、再評価し直す必要がある。その上で、もう一度有効性と安全性の再評価を実施すべきである。

【参考資料】

  1. <抗がん剤>イレッサ輸入元 「動物実験で肺に傷」把握:毎日新聞2003.2.7
  2. <抗がん剤>厚労省、イレッサの輸入販売元に事実関係報告を指示:毎日新聞2003.2.7
  3. 鈴木祐子、青柴和徹、永井厚志、ブレオマイシン肺線維症モデルマウスに対するEFG受容体チロジンキナーゼ阻害(ZD1839)の影響、第43回日本肺癌学会総会抄録集(11月22日ワークショップ));厚生労働省医薬局安全対策課、ゲフィチニブ安全性問題検討会配布資料No12
  4. アストラゼネカ社ホームページ
  5. 医薬ビジランス研究所、医薬品・治療研究会、薬害オンブズパースン会議委託研究報告書「イレッサの有効性と安全性に関する文献的調査研究」2003.01.31
  6. 浜六郎、ゲフィチニブ(イレッサ)承認の問題点(1)__審査過程の徹底的見直しが必要__、TIP誌「正しい治療と薬の情報」第18巻(1)、5-10、2003
  7. イレッサ新薬承認情報集、申請資料概要「イレッサ錠250 に関する資料」アストラゼネカ株式会社(Iressa-SIRYOU-020904)

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