|
|
|
|
|
|
人のお腹には実に多彩な臓器が入っている。食物を取り入れて消化し(胃、胆汁、膵臓)、吸収し(小腸、大腸)、体に必要なもの(蛋白質、酵素、脂肪、ブドウ糖)を製造したり調節し(肝臓、膵臓)、不要なものを解毒し(肝臓)、排泄する(腎臓、尿管、膀胱、直腸)。免疫に関係のある臓器(脾臓)や、女性の場合には、赤ちゃんを生むために必須の臓器(卵巣、子宮、膣)もお腹にある。 それぞれの臓器を区分し、互いにからまないようにしているのが腹膜である。 腹膜は厚さ1mmにも満たない非常に薄い2枚の膜からなる。小腸や肝臓などを包んでいる臓器側の腹膜と、壁側(皮膚の側あるいは外側)の腹膜である。2枚といっても、全体としてはつながっていて袋のようになっている。この腹膜に包まれた空間が腹腔(ふくくう)である。 この膜に炎症が起きるのが腹膜炎。いわゆる盲腸(虫垂)などに起きるとその部分が腹膜炎になる。腹膜に炎症があると、痛い部分を抑えている時よりも、抑えた手を放した瞬間に、「ビーン」と響くように痛む。これが虫垂炎の時の最も大きな特徴だ。だから、医師は「抑えた時と、放した時とどちらが痛いですか」と質問するはずである。お腹が痛いときに体をエビのように曲げると楽になるが、これは、腹膜の緊張を緩めて、刺激を少なくするからだ。胃腸に穴が開いていてその内容物が腹腔内に漏れて出たときには、腹腔全体が炎症を起こすので症状が最も激しくなる。 がんが腹膜に広がると、最初は症状を感じないが、体ががんを異物と認識し、これを排除しようとして炎症反応を起こし始めると、腹水がたまってくる。この場合、手術や抗がん剤でも残念ながら寿命を延ばすことはむずかしい。 女性の腹腔は、男性と違って卵管を通じて外界とつながっているので、もう一つ腹膜炎が起きるルートがある。病原体が、膣・子宮・卵管を通じて外から入って来るのである。 特にクラミジアの感染では、知らないうちに骨盤内に腹膜炎が生じ、ひどい場合には、肝臓などお腹の上の方にまで及ぶことがある。内科医にとって、診断が難しい例であるが診断できればよく効く抗生物質がある。 1997年10月27日付け日経新聞夕刊 |
|
|
|