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最近、町の薬局で処方せんなし買える胃ぐすりとして、H2 (エイチツー)ブロッカーが登場した。この薬剤は、医師が処方する胃潰瘍の治療薬として、1981年に使われ始めた。それまでは胃潰瘍や十二指腸潰瘍で吐血して手術を余儀なくされた人が大勢いたが、H2 ブロッカーが使用されるようになってから、このような人は非常に少なくなった。いわば潰瘍の治療には革命的とも言える変化がもたらされた薬である。 胃には食事だけでなく、いっしょに細菌など病原微生物も入ってくる。胃液は消化酵素のペプシンなどとともに、塩酸を薄めた液が主成分である。胃液は、病原体も攻撃し、病気から体を守る感染防御機構を兼ねている。ただし、胃液がたくさん分泌されすぎると(胃酸過多という)、細菌だけでなく胃の粘膜も攻撃するため、胃潰瘍ができやすく、治りにくくなる。過剰に分泌された胃液が食道まで逆流すると起きるのが、胸焼けの症状であり、これが典型的な胃酸過多の症状である。 H2 ブロッカーは、血中に入って作用し、胃酸の分泌を抑えて、胃や十二指腸潰瘍の治りをよくする。Hはヒスタミンの意味。通常の抗ヒスタミン剤はH1 を抑制し、花粉症のくしゃみや鼻水止めに使われる。 逆に、H2ブロッカーで胃酸の濃度が下がると、胃液中の細菌が増えて感染も増えるという問題がある。他の感染防御機構、たとえば、血液から白血球を作り出す骨髄や、免疫で重要な役割をしているリンパ球の働きも抑えてしまう。 だから腎臓や肝臓が悪くて抵抗力が弱っている人は、副作用が出やすい。胃の痛みが胃酸過多によって起きている場合にはこの薬はよいが、病原大腸菌O−157 による感染性の腸炎による胃部の痛みであれば、これにH2ブロッカーを使用すると腸炎が悪化して、重症化する危険がある。 高齢者では痴呆症状が、けいれんの素質をもっている人はけいれんが起きやすくなる。また、ある種のH2 ブロッカーは相互作用も問題である。その意味で、H2ブロッカーを今回処方せんなしで買える一般市販薬にしたことは不適切であったと筆者は考えている。 1997年11月17日付け日経新聞夕刊 |
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