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ペニシリンが発見されたのは1929年だが、実際に人に使用されたのは1941年。1943年に大量に合成され、本格的に治療に用いられるようになった。治療困難だった外傷後の感染症、肺炎、梅毒などの治療が極めてやりやすくなった。その後、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、エリスロマイシン、セファロスポリンなどの強力な抗生物質、結核に対する抗生物質が次々と開発された。ヘルペスウイルスに対する抗ウイルス剤、HIVに対する抗ウイルス剤が何種類も開発されている。 細菌や微生物との戦いに人類はそのうちに勝つのではないかという期待も一時は持たれたが、残念ながら耐性菌の出現速度の方が、薬の開発のスピードを上回っている。 ペニシリンに耐性の黄色ブドウ球菌が出現してからはそれに効くペニシリン(メチシリン)やセファロスポリンが開発されたが、まもなくそれにも耐性の黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:MRSA)が出現した。これはペニシリン以外の多くの抗菌剤・抗生物質に耐性、つまり多剤耐性菌である。現在多くの病院で相当広がっている。この多剤耐性菌に対する特効薬のバンコマイシンに対する耐性菌は日本ではほとんど出現していない。しかし、世界的にはすでにこのバンコマイシンにも耐性の菌(バンコマイシン耐性腸球菌:VRE,バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌:VRSA)も出現している。先頃、バンコマイシンに似た抗生物質入りの飼料で飼育された輸入鶏肉の中にこのVREが認められたと報道された。これに耐性になった菌に効果のある抗菌剤・抗生物質はまだ開発の目処が立っていないので、蔓延すれば病院での治療は極めて困難だ。 現在必要なのは、抗生物質を不要な人には使用しないことだ。かぜには抗生物質は効かない。本当に抗生物質が効くものと効かないものを区別することが大切だ。耐性が蔓延していた薬もしばらく使用しないでおくとまた効くようになる。貴重な薬は、肝心な時のために大事にとっておく方がよい。社会全体の問題としても、個人の問題としても大切なことだ。 日経新聞1999年2月1日付改編 |
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