2000年10月10日
医薬品・治療研究会 代 表 別府 宏圀
特定非営利活動法人 医薬ビジランスセンター(NPOJIP) 理事長 浜 六郎 糖尿病の治療薬剤として1999年11月から販売されている塩酸ピオグリタゾン(以下ピオグリタゾン、商品名アクトス:武田薬品)に対して10月5日、緊急安全性情報が出されました 1,2)が、この物質(薬剤とはいえないものであるから、薬ではなく、物質と呼ぶ 3))は、浜(NPOJIP,EBMビジランス研究所)が本年4月に検討した結果、極めて心臓への影響が強く、3月に使用中止されたトログリタゾン(ノスカール)よりも「さらに危険と考えるべき」ものであり、中止のうえ、製造承認も取り消すべき、と主張していた 4)ものであり、10月6日にEBMビジランス研究所浜が要望書で厚生大臣による緊急中止および回収命令の発動を求めたものです。
緊急安全性情報によって、心臓の悪い人への使用制限だけでは到底、危険を回避することは不可能です。完全に危険を回避するためには、製造承認を取りやめ、完全に市場から回収する以外にないと考えます。
そこで、医薬品・治療研究会(代表別府宏圀)および特定非営利活動法人医薬ビジランスセンター(NPOJIP)(理事長浜六郎)は10月10日、厚生大臣に薬事法第69条の2に基づき、速やかに使用を一時停止すること、被害の拡大を防止するための応急処置として、医療機関で使用しないよう命ずるとともに、速やかに回収措置をとることなど緊急命令の発動、および、(ノスカールも含め)1か月以内の製造承認取り消しなど合計5項目の実施を求める「アクトスの緊急中止、回収等を求める要望書」を提出しました。
また、製造企業(武田薬品工業)には、アクトスの使用を中止し、自主回収し、製造承認を取り下げることを、さらにはノスカール(トログリタゾン)製造企業(三共株式会社)対しては、ノスカールの製造承認を取り下げることをそれぞれ要望する要望書を提出します。
厚生大臣、武田薬品工業株式会社に対する要望の内容およびその理由は以下のとおり。
【1】厚生大臣に対する要望事項
1. |
厚生大臣は、薬事法第69条の2に基づき、武田薬品工業が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の製造、販売を速やかに一時停止させること。 |
2. |
厚生大臣は、薬事法第69条の2に基づき、武田薬品工業が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の医療機関における使用を速やかに停止させるための応急措置をとるよう関係各部局に命ずること。 |
3. |
厚生大臣は、薬事法第69条の2に基づき、武田薬品工業が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の医療機関からの回収措置を速やかに開始し、速やかに完了させるための応急措置をとるよう関係各部局に命ずること。 |
4. |
厚生大臣は、薬事法第69条の2に基づき、武田薬品工業が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の製造承認を速やかに取り消すこと。 |
5. |
厚生大臣は、薬事法第69条の2に基づき、三共薬品株式会社が製造販売するノスカール(一般名トログリタゾン)の製造承認を速やかに取り消すこと。 |
【2】武田薬品工業に対する要望事項
1. |
貴社が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の製造、販売を速やかに停止すること。 |
2. |
貴社が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の医療機関における使用を速やかに中止するよう関係者に周知徹底されること。 |
3. |
貴社が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の医療機関からの回収措置を速やかに開始し、速やかに完了させること。 |
4. |
貴社が製造販売するアクトス(塩酸一般名ピオグリタゾン)の製造承認を速やかに取り下げること。 |
【アクトスに関する厚生大臣および武田薬品工業への要望書の理由】
1. |
本年4月にすでに中止すべき、と主張していたものである。 |
|
糖尿病の治療薬剤として1999年11月から販売されている塩酸ピオグリタゾン(以下ピオグリタゾン、商品名アクトス:武田薬品)に対して10月5日、緊急安全性情報が出されたが 1,2)、この物質(薬とはいえないものなので「物質」と呼ぶ 3))は、浜(NPOJIP、EBMビジランス研究所)が本年4月に検討した結果、極めて心臓への影響が強く、3月に使用中止されたトログリタゾン(ノスカール)よりも「さらに危険と考えるべき」ものであり、中止のうえ製造承認も取り消すべき、と主張していた4)ものである。 |
2.
|
類似物質ノスカールも中止すべきとの浜の主張から2年後に中止になった。 |
|
1997年3月に発売が開始された同じ系統の薬剤トログリタゾン(商品名ノスカール)についても、その年の12月に日本でも肝障害が報道されてから、浜により詳しく分析された結果、これは本来中止すべきものと考えられ、TIP「正しい治療と薬の情報」誌上において、たびたび主張されてきた 5-9)が,これは2000年3月ついに中止になった 4)。
中止すべきとの主張が繰り返しなされながらも、2年間にわたって販売が続けられ、アメリカでの中止措置を受けて日本でもやっと中止となったものである。中止は当然の措置であったが、遅きに失したと言えよう 4)。 |
3. |
心不全がすでにある人だけでなく、異常のない人の心臓も悪化させる |
|
心疾患のある患者がこの物質(アクトス)を使用すると心筋梗塞や心不全など心疾患がより悪化する。また心疾患がまだない人でも、もともと糖尿病では心疾患を合併しやすいので、長期間使用していると、当然悪影響が出てくることになる。 |
4.
|
市販後に初めて判明したことではなく、動物実験でも臨床試験でも判明していた。 |
|
このことは、市販されてから何万人(9万人)もの人に使用して初めて判明したものではない。人での臨床試験の段階よりさらに前、動物実験の段階からすでに判明していることである 4) 。動物で血糖を下げる用量と同じ量(しかも人の用量と同等量)で、心肥大が既に認められ、その4倍量以上で心筋症(心筋の巣状壊死等)を認め、肺出血を認め、これは使用中止して4カ月たっても回復せず、不可逆的な変化が起こっていた 4,10)。 |
5. |
アクトス使用中に心不全、心筋梗塞などが生じたらアクトスが原因と疑うべき |
|
したがって、アクトスを人で使用していて、浮腫やうっ血、心筋梗塞などの変化を認めたら、これらは動物実験の結果などから考慮して当然アクトス使用と関連のある害と解釈すべきである。 |
6. |
アメリカでは4例の心不全をはじめ、1.7%の心血管疾患が臨床試験で報告済み |
|
浜の分析によれば、アメリカでは、臨床試験の対象者約1500人(うち1年以上が350例, 6か月以上は合計で約520例)中、4人がうっ血性心不全を起こし、2人が心筋梗塞を発症し、1人が眼底出血を起こし、1人は腎障害が悪化、一人は人工ペースメーカーを入れる程の不整脈を生じた。長期使用者520人中9人(1.7%)と高率に心血管系および腎疾患など悪影響が出ている。 |
7. |
日本では心筋梗塞2人(1人死亡)心不全5人(疑い含む)等2.4%に重篤な反応 |
|
浜の分析によれば、日本でも臨床試験で約半年以上使用した370人(うち48週以上が240〜250人)のうち、2人が心筋梗塞を起こし、うち1人は死亡した。また、呼吸困難発作が2人(1人は多分心不全症状、1人は浮腫、うっ血のため発作性心房細動を招き呼吸困難が生じたものと考えられる)あり、心胸比の増大(うっ血性心不全の発症あるいは増強につながる変化)が3例認められている。うち2例は、55%から62%および63%と、身体傷害1級に該当する状態(60%以上が該当)にまで悪化している。さらに、脳梗塞も例発症しており、これらを合わせると、9例(2.4%)に心血管系の重篤な害反応が出現した(うち5例は新薬承認情報集では中等症に分類しているが、浜は症状の重さから重篤にすべき、と考えたもの)。 |
8. |
心不全を治験段階で認めなかったのは「有害事象」の「関連を否定」したから |
|
今回の厚生省および武田薬品工業の緊急情報では、「心不全の発現は治験段階では認められませんでした」としている。しかし、日本の臨床試験では(厚生省や武田薬品工業の解釈も)上記のような重篤な例を、1例をのぞいて、大部分は「関連がない」ものと判断していたために、「心不全の発現は治験段階では認めなかった」だけである。動物実験の結果などから考慮してこれらの心血管系の有害事象は当然アクトス使用と関連のある害と解釈すべきものであり、このように判断すれば、治験段階から多数認められていたものなのである。 |
9.
|
長期には浮腫や心不全よりも心筋梗塞や心筋症など不可逆性合併症がより問題 |
|
今回の厚生省および武田薬品工業の緊急情報では、「心不全の発現は治験段階では認められませんでしたが、動物試験において循環血漿量の増加に伴う代償性の変化と考えられる心重量の増加がみとめられた」とし、新薬承認情報集10)でも、「この心肥大は代償性肥大であり、心機能に影響を及ぼす可能性は低いと考えられた。」としている。 |
|
そして、心筋梗塞、狭心症、心筋症、高血圧性心疾患等の心疾患ある患者は「循環血漿量の増加により心不全を発症させるおそれがある」との理由で、「慎重投与」の対象になっているだけである。 |
|
しかし、動物実験の結果では、心肥大は治療用量レベルを1年間で心肥大、心内腔拡大を認め、その4倍量では心筋の巣状壊死も伴う心筋症、肺出血、胸水貯留まで起こし、回復試験でも回復しない不可逆性の変化を起こしている。また、類似薬剤のノスカールはインスリン存在下でラットの筋肉細胞の酸素消費を50%増加させる 4)。 |
|
このようなことから、初期心不全のような、可逆的な変化よりも、むしろ、長期間の動物実験や臨床試験でも認められている心筋梗塞、狭心症、心筋症(心筋巣状壊死等)の発症こそ重視すべきである。臨床試験では、心筋梗塞による死亡例が1例のほか、自覚症状がなく心電図上心筋梗塞所見を認めた例が報告されているが、この例などは、動物実験での巣状壊死の所見に相当すると見るべきであろう。 |
|
したがって、長期には浮腫や心不全よりも心筋梗塞や心筋症など不可逆性の合併症がより問題であると考える. |
10. |
糖尿病で最も問題となる心疾患を悪化させるものは糖尿病の薬と呼べない |
|
糖尿病で最も問題となる点は、長期間の後に心不全や心筋梗塞等心疾患の合併症や腎不全、眼底出血が生じることであり、糖尿病の薬はそのような病気を防ぐものでなければならない。 |
|
ところが、このアクトスはこのような合併症を防ぐどころか、1年以内に40人に1人の割合で、そのような病気を起こしたり、悪化させてしまう可能性がある。このような物質は到底、糖尿病の薬と呼べるものではない。 |
|
なお、動物実験では臨床用量相当量で膀胱癌の発生が増加しており、アメリカでの臨床試験では、1例(前立腺癌)、日本では4例(胃癌、食道癌、子宮体癌、大腸癌各1例)の癌が認められている。因果関係は必ずしも明瞭ではないが、動物実験での膀胱癌の増加を考慮すれば、これを無関係として切り捨てるわけにはいかないのではないか。 |
11. |
速やかに中止および回収の緊急命令を |
|
厚生大臣におかれては、これまでのアクトスの動物実験の結果、臨床試験の結果をもう一度よく見直し、単に緊急情報を出してよしとするのではなく、要望事項1〜5を速やかに実行されるよう要望する。 |
|
(武田薬品工業株式会社に対して) |
11. |
速やかに中止および回収を |
|
貴社におかれては、これまでのアクトスの動物実験の結果、臨床試験の結果をもう一度よく見直し、単に緊急情報を出してよしとするのではなく、要望事項1〜4を速やかに実行されるよう要望する。 |
【参考資料】
1. |
武田薬品工業株式会社「緊急安全性情報」アクトス錠(塩酸ピオグリタゾン)投与中 の急激な水分貯留による心不全について 平成12年10月5日 |
2.
|
厚生省医薬安全局安全対策課.報道発表資料「塩酸ピオグリタゾン投与中の急激な水 分貯留による心不全について(緊急安全性情報)
http://www.mhw.go.jp/houdou/1210/h1005-1_15.html |
3. |
浜 六郎、薬害はなぜなくならないか、日本評論社、1996年 |
4. |
浜 六郎、遅すぎたトログリタゾン(ノスカール潤jの回収----ピオグリタゾン(アクトス潤jはさらに危険と考えるべき.
TIP「正しい治療と薬の情報」15:35-40,2000 |
5. |
浜六郎、トログリタゾン(ノスカール潤jによる肝臓死----危険と不確実な利益のバランスをどう判断する?TIP「正しい治療と薬の情報」
13: 13-17, 1998 |
6. |
浜六郎、トログリタゾンによる高頻度の肝障害.TIP「正しい治療と薬の情報」13: 35-38, 1998 |
7. |
浜六郎、トログリタゾン(ノスカール潤jの危険性(続報)TIP「正しい治療との情報」 13: 51, 1998 |
8. |
浜六郎、米でトログリタゾン(ノスカール潤jの長期臨床試験中止. TIP「正しい治療と薬の情報」
13: 77, 1998 |
9. |
浜六郎、トログリタゾン(ノスカール潤jは中止しなければならない. TIP「正しい治療と薬の情報」
14: 40-42, 1999 |
10. |
新薬承認情報集No11塩酸ピオグリタゾン〔アクトス錠
15,錠30〕 1999年11月 財団法人日本薬剤師研修センター |
アクトスの緊急中止、回収等を求める要望書
厚生大臣 2000年10月10日
医薬品・治療研究会 代 表 別府 宏圀
特定非営利活動法人
医薬ビジランスセンター(NPOJIP)理事長 浜 六郎
医薬品・治療研究会(代表、別府宏圀)および特定非営利活動法人医薬ビジランスセンター(NPOJIP)(理事長、浜六郎)は、厚生大臣に対して、以下の5項目を要望いたします。
【1】要望事項
1. |
厚生大臣は、薬事法第69条の2に基づき、武田薬品工業が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の製造、販売を速やかに一時停止させること。 |
2. |
厚生大臣は、薬事法第69条の2に基づき、武田薬品工業が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の医療機関における使用を速やかに停止させるための応急措置をとるよう関係各部局に命ずること。 |
3. |
厚生大臣は、薬事法第69条の2に基づき、武田薬品工業が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の医療機関からの回収措置を速やかに開始し、速やかに完了させるための応急措置をとるよう関係各部局に命ずること。 |
4. |
厚生大臣は、薬事法第69条の2に基づき、武田薬品工業が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の製造承認を速やかに取り消すこと。 |
5. |
厚生大臣は、薬事法第69条の2に基づき、三共薬品株式会社が製造販売するノスカール(一般名トログリタゾン)の製造承認を速やかに取り消すこと。 |
【2】理由
1. |
本年4月にすでに中止すべき、と主張していたものである。 |
|
糖尿病の治療薬剤として1999年11月から販売されている塩酸ピオグリタゾン(以下ピオグリタゾン、商品名アクトス:武田薬品)に対して10月5日、緊急安全性情報が出されたが 1,2)、この物質(薬とはいえないものなので「物質」と呼ぶ 3))は、浜(NPOJIP、EBMビジランス研究所)が本年4月に検討した結果、極めて心臓への影響が強く、3月に使用中止されたトログリタゾン(ノスカール)よりも「さらに危険と考えるべき」ものであり、中止のうえ製造承認も取り消すべき、と主張していた 4)ものである。 |
2. |
類似物質ノスカールも中止すべきとの浜の主張から2年後に中止になった。 |
|
1997年3月に発売が開始された同じ系統の薬剤トログリタゾン(商品名ノスカール)についても、その年の12月に日本でも肝障害が報道されてから、浜により詳しく分析された結果、これは本来中止すべきものと考えられ、TIP「正しい治療と薬の情報」誌上において、たびたび主張されてきた 5-9)が,これは2000年3月ついに中止になった
4) 。 |
|
中止すべきとの主張が繰り返しなされながらも、2年間にわたって販売が続けられ、アメリカでの中止措置を受けて日本でもやっと中止となったものである。中止は当然の措置であったが、遅きに失したと言えよう 4)。 |
3. |
心不全がすでにある人だけでなく、異常のない人の心臓も悪化させる |
|
心疾患のある患者がこの物質(アクトス)を使用すると心筋梗塞や心不全など心疾患がより悪化する。また心疾患がまだない人でも、もともと糖尿病では心疾患を合併しやすいので、長期間使用していると、当然悪影響が出てくることになる。 |
4. |
市販後に初めて判明したことではなく、動物実験でも臨床試験でも判明していた |
|
このことは、市販されてから何万人(9万人)もの人に使用して初めて判明したものではない。人での臨床試験の段階よりさらに前、動物実験の段階からすでに判明していることである 4) 。動物で血糖を下げる用量と同じ量(しかも人の用量と同等量)で、心肥大が既に認められ、その4倍量以上で心筋症(心筋の巣状壊死等)を認め、肺出血を認め、これは使用中止して4カ月たっても回復せず、不可逆的な変化が起こっていた
4,10)。 |
5. |
アクトス使用中に心不全、心筋梗塞などが生じたらアクトスが原因と疑うべき |
|
したがって、アクトスを人で使用していて、浮腫やうっ血、心筋梗塞などの変化を認めたら、これらは動物実験の結果などから考慮して当然アクトス使用と関連のある害と解釈すべきである。 |
6. |
アメリカでは4例の心不全をはじめ、1.7%の心血管疾患が臨床試験で報告済み |
|
浜の分析によれば、アメリカでは、臨床試験の対象者約1500人(うち1年以上が350
例, 6か月以上は合計で約
520例) 中、4人がうっ血性心不全を起こし、2人が心筋梗塞を発症し、1人が眼底出血を起こし、1人は腎障害が悪化、一人は人工ペースメーカーを入れる程の不整脈を生じた。長期使用者520
人中9人(1.7 %)と高率に心血管系および腎疾患など悪影響が出ている。 |
7. |
日本では心筋梗塞2人(1人死亡)心不全5人(疑い含む)等2.4%に重篤な反応 |
|
浜の分析によれば、日本でも臨床試験で約半年以上使用した370 人(うち48週以上が240
〜250 人) のうち、2人が心筋梗塞を起こし、うち1人は死亡した。また、呼吸困難発作が2人(1人は多分心不全症状、1人は浮腫、うっ血のため発作性心房細動を招き呼吸困難が生じたものと考えられる)あり、心胸比の増大(うっ血性心不全の発症あるいは増強につながる変化)が3例認められている。うち2例は、55%から62%および63%と、身体傷害1級に該当する状態(60%以上が該当)にまで悪化している。さらに、脳梗塞も例発症しており、これらを合わせると、9例(2.4%)に心血管系の重篤な害反応が出現した(うち5例は新薬承認情報集では中等症に分類しているが、浜は症状の重さから重篤にすべき、と考えたもの)。 |
8. |
心不全を治験段階で認めなかったのは「有害事象」の「関連を否定」したから |
|
今回の厚生省および武田薬品工業の緊急情報では、「心不全の発現は治験段階では認められませんでした」としている。しかし、日本の臨床試験では(厚生省や武田薬品工業の解釈も)上記のような重篤な例を、1例をのぞいて、大部分は「関連がない」ものと判断していたために、「心不全の発現は治験段階では認めなかった」だけである。動物実験の結果などから考慮してこれらの心血管系の有害事象は当然アクトス使用と関連のある害と解釈すべきものであり、このように判断すれば、治験段階から多数認められていたものなのである。 |
9. |
長期には浮腫や心不全よりも心筋梗塞や心筋症など不可逆性合併症がより問題 |
|
今回の厚生省および武田薬品工業の緊急情報では、「心不全の発現は治験段階では認められませんでしたが、動物試験において循環血漿量の増加に伴う代償性の変化と考えられる心重量の増加がみとめられた」とし、新薬承認情報集10)でも、「この心肥大は代償性肥大であり、心機能に影響を及ぼす可能性は低いと考えられた。」としている。
そして、心筋梗塞、狭心症、心筋症、高血圧性心疾患等の心疾患ある患者は「循環血漿量の増加により心不全を発症させるおそれがある」との理由で、「慎重投与」の対象になっているだけである。 |
|
しかし、動物実験の結果では、心肥大は治療用量レベルを1年間で心肥大、心内腔拡大を認め、その4倍量では心筋の巣状壊死も伴う心筋症、肺出血、胸水貯留まで起こし、回復試験でも回復しない不可逆性の変化を起こしている。また、類似薬剤のノスカールはインスリン存在下でラットの筋肉細胞の酸素消費を50%増加させる 4)。 |
|
このようなことから、初期心不全のような、可逆的な変化よりも、むしろ、長期間の動物実験や臨床試験でも認められている心筋梗塞、狭心症、心筋症(心筋巣状壊死等)の発症こそ重視すべきである。臨床試験では、心筋梗塞による死亡例が1例のほか、自覚症状がなく心電図上心筋梗塞所見を認めた例が報告されているが、この例などは、動物実験での巣状壊死の所見に相当すると見るべきであろう。 |
|
したがって、長期には浮腫や心不全よりも心筋梗塞や心筋症など不可逆性の合併症がより問題であると考える. |
10. |
糖尿病で最も問題となる心疾患を悪化させるものは糖尿病の薬と呼べない |
|
糖尿病で最も問題となる点は、長期間の後に心不全や心筋梗塞等心疾患の合併症や腎不全、眼底出血が生じることであり、糖尿病の薬はそのような病気を防ぐものでなければならない。 |
|
ところが、このアクトスはこのような合併症を防ぐどころか、1年以内に40人に1人の割合で、そのような病気を起こしたり、悪化させてしまう可能性がある。このような物質は到底、糖尿病の薬と呼べるものではない。 |
|
なお、動物実験では臨床用量相当量で膀胱癌の発生が増加しており、アメリカでの臨床試験では、1例(前立腺癌)、日本では4例(胃癌、食道癌、子宮体癌、大腸癌各1例)の癌が認められている。因果関係は必ずしも明瞭ではないが、動物実験での膀胱癌の増加を考慮すれば、これを無関係として切り捨てるわけにはいかないのではないか。 |
11. |
速やかに中止および回収の緊急命令を |
|
厚生大臣におかれては、これまでのアクトスの動物実験の結果、臨床試験の結果をもう一度よく見直し、単に緊急情報を出してよしとするのではなく、要望事項1〜5を速やかに実行されるよう要望する。 |
【参考資料】
1. |
武田薬品工業株式会社「緊急安全性情報」アクトス錠(塩酸ピオグリタゾン)投与中の急激な水分貯留による心不全について 平成12年10月5日 |
2. |
厚生省医薬安全局安全対策課.報道発表資料「塩酸ピオグリタゾン投与中の急激な水分貯留による心不全について(緊急安全性情報)
http://www.mhw.go.jp/houdou/1210/h1005-1_15.html |
3. |
浜 六郎、薬害はなぜなくならないか、日本評論社、1996年 |
4. |
浜 六郎、遅すぎたトログリタゾン(ノスカール潤jの回収----ピオグリタゾン(アクトス潤jはさらに危険と考えるべき.
TIP「正しい治療と薬の情報」15: 35-40,2000 |
5. |
浜六郎, トログリタゾン(ノスカール潤jによる肝臓死----危険と不確実な利益のバランスをどう判断する?TIP「正しい治療と薬の情報」
13: 13-17, 1998 |
6. |
浜六郎,トログリタゾンによる高頻度の肝障害.TIP「正しい治療と薬の情報」 13: 35-38, 1998 |
7. |
浜六郎,トログリタゾン(ノスカール潤jの危険性(続報)TIP「正しい治療と薬の情報」 13: 51, 1998 |
8. |
浜六郎,米でトログリタゾン(ノスカール潤jの長期臨床試験中止. TIP「正しい治療と薬の情報」
13: 77, 1998 |
9. |
浜六郎,トログリタゾン(ノスカール潤jは中止しなければならない. TIP「正しい治療と薬の情報」
14: 40-42, 1999 |
10. |
新薬承認情報集No11塩酸ピオグリタゾン〔アクトス錠
15,錠30〕 1999年11月 財団法人日本薬剤師研修センター |
アクトスの緊急中止、回収等を求める要望書
武田薬品工業株式会社 社長
2000年10月10日
医薬品・治療研究会 代 表 別府 宏圀
特定非営利活動法人
医薬ビジランスセンター(NPOJIP) 理事長 浜 六郎
医薬品・治療研究会(代表、別府宏圀)および特定非営利活動法人医薬ビジランスセンター(NPOJIP)(理事長、浜六郎)は、厚生大臣に対して、以下の4項目を要望いたします。
【1】要望事項
1. |
貴社が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の製造、販売を速やかに停止すること。 |
2. |
貴社が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の医療機関における使用を速やかに中止する よう関係者に周知徹底されること。 |
3. |
貴社が製造販売するアクトス(一般名塩酸ピオグリタゾン)の医療機関からの回収措置を速やかに開始し、速やかに完了させること。 |
4. |
貴社が製造販売するアクトス(塩酸一般名ピオグリタゾン)の製造承認を速やかに取り下げること。 |
【2】理由
1. |
本年4月にすでに中止すべき、と主張していたものである |
|
糖尿病の治療薬剤として1999年11月から販売されている塩酸ピオグリタゾン(以下ピオグリタゾン、商品名アクトス:武田薬品)に対して10月5日、緊急安全性情報が出されたが
1,2) 、この物質(薬とはいえないものなので「物質」と呼ぶ
3))は、浜(NPOJIP、EBMビジランス研究所)が本年4月に検討した結果、極めて心臓への影響が強く、3月に使用中止されたトログリタゾン(ノスカール)よりも「さらに危険と考えるべき」ものであり、中止のうえ製造承認も取り消すべき、と主張していた4)ものである。 |
2. |
類似物質ノスカールも中止すべきとの浜の主張から2年後に中止になった |
|
1997年3月に発売が開始された同じ系統の薬剤トログリタゾン(商品名ノスカール)についても、その年の12月に日本でも肝障害が報道されてから、浜により詳しく分析された結果、これは本来中止すべきものと考えられ、TIP「正しい治療と薬の情報」誌上において、たびたび主張されてきた
5-9) が,これは2000年3月ついに中止になった 4) 。 |
|
中止すべきとの主張が繰り返しなされながらも、2年間にわたって販売が続けられ、アメリカでの中止措置を受けて日本でもやっと中止となったものである。中止は当然の措置であったが、遅きに失したと言えよう 4) 。 |
3. |
心不全がすでにある人だけでなく、異常のない人の心臓も悪化させる |
|
心疾患のある患者がこの物質(アクトス)を使用すると心筋梗塞や心不全など心疾患がより悪化する。また心疾患がまだない人でも、もともと糖尿病では心疾患を合併しやすいので、長期間使用していると、当然悪影響が出てくることになる。 |
4. |
市販後に初めて判明したことではなく、動物実験でも臨床試験でも判明していた |
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このことは、市販されてから何万人(9万人)もの人に使用して初めて判明したものではない。人での臨床試験の段階よりさらに前、動物実験の段階からすでに判明していることである 4) 。動物で血糖を下げる用量と同じ量(しかも人の用量と同等量)で、心肥大が既に認められ、その4倍量以上で心筋症(心筋の巣状壊死等)を認め、肺出血を認め、これは使用中止して4カ月たっても回復せず、不可逆的な変化が起こっていた
4,10)。 |
5. |
アクトス使用中に心不全、心筋梗塞などが生じたらアクトスが原因と疑うべき |
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したがって、アクトスを人で使用していて、浮腫やうっ血、心筋梗塞などの変化を認めたら、これらは動物実験の結果などから考慮して当然アクトス使用と関連のある害と解釈すべきである。 |
6. |
アメリカでは4例の心不全をはじめ、1.7%の心血管疾患が臨床試験で報告済み |
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浜の分析によれば、アメリカでは、臨床試験の対象者約1500人(うち1年以上が350
例, 6か月以上は合計で約
520例) 中、4人がうっ血性心不全を起こし、2人が心筋梗塞を発症し、1人が眼底出血を起こし、1人は腎障害が悪化、一人は人工ペースメーカーを入れる程の不整脈を生じた。長期使用者520
人中9人(1.7 %)と高率に心血管系および腎疾患など悪影響が出ている。 |
7. |
日本では心筋梗塞2人(1人死亡)心不全5人(疑い含む)等2.4%に重篤な反応 |
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浜の分析によれば、日本でも臨床試験で約半年以上使用した370 人(うち48週以上が240
〜250 人) のうち、2人が心筋梗塞を起こし、うち1人は死亡した。また、呼吸困難発作が2人(1人は多分心不全症状、1人は浮腫、うっ血のため発作性心房細動を招き呼吸困難が生じたものと考えられる)あり、心胸比の増大(うっ血性心不全の発症あるいは増強につながる変化)が3例認められている。うち2例は、55%から62%および63%と、身体傷害1級に該当する状態(60%以上が該当)にまで悪化している。さらに、脳梗塞も例発症しており、これらを合わせると、9例(2.4%)に心血管系の重篤な害反応が出現した(うち5例は新薬承認情報集では中等症に分類しているが、浜は症状の重さから重篤にすべき、と考えたもの)。 |
8. |
心不全を治験段階で認めなかったのは「有害事象」の「関連を否定」したから |
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今回の厚生省および武田薬品工業の緊急情報では、「心不全の発現は治験段階では認められませんでした」としている。しかし、日本の臨床試験では(厚生省や武田薬品工業の解釈も)上記のような重篤な例を、1例をのぞいて、大部分は「関連がない」ものと判断していたために、「心不全の発現は治験段階では認めなかった」だけである。動物実験の結果などから考慮してこれらの心血管系の有害事象は当然アクトス使用と関連のある害と解釈すべきものであり、このように判断すれば、治験段階から多数認められていたものなのである。 |
9. |
長期には浮腫や心不全よりも心筋梗塞や心筋症など不可逆性合併症がより問題 |
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今回の厚生省および武田薬品工業の緊急情報では、「心不全の発現は治験段階では認められませんでしたが、動物試験において循環血漿量の増加に伴う代償性の変化と考えられる心重量の増加がみとめられた」とし、新薬承認情報集10)でも、「この心肥大は代償性肥大であり、心機能に影響を及ぼす可能性は低いと考えられた。」としている。 |
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そして、心筋梗塞、狭心症、心筋症、高血圧性心疾患等の心疾患ある患者は「循環血漿量の増加により心不全を発症させるおそれがある」との理由で、「慎重投与」の対象になっているだけである。 |
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しかし、動物実験の結果では、心肥大は治療用量レベルを1年間で心肥大、心内腔拡大を認め、その4倍量では心筋の巣状壊死も伴う心筋症、肺出血、胸水貯留まで起こし、回復試験でも回復しない不可逆性の変化を起こしている。また、類似薬剤のノスカールはインスリン存在下でラットの筋肉細胞の酸素消費を50%増加させる 4)。 |
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このようなことから、初期心不全のような、可逆的な変化よりも、むしろ、長期間の動物実験や臨床試験でも認められている心筋梗塞、狭心症、心筋症(心筋巣状壊死等)の発症こそ重視すべきである。臨床試験では、心筋梗塞による死亡例が1例のほか、自覚症状がなく心電図上心筋梗塞所見を認めた例が報告されているが、この例などは、動物実験での巣状壊死の所見に相当すると見るべきであろう。 |
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したがって、長期には浮腫や心不全よりも心筋梗塞や心筋症など不可逆性の合併症がより問題であると考える. |
10. |
糖尿病で最も問題となる心疾患を悪化させるものは糖尿病の薬と呼べない |
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糖尿病で最も問題となる点は、長期間の後に心不全や心筋梗塞等心疾患の合併症や腎不全、眼底出血が生じることであり、糖尿病の薬はそのような病気を防ぐものでなければならない。 |
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ところが、このアクトスはこのような合併症を防ぐどころか、1年以内に40人に1人の割合で、そのような病気を起こしたり、悪化させてしまう可能性がある。このような物質は到底、糖尿病の薬と呼べるものではない。 |
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なお、動物実験では臨床用量相当量で膀胱癌の発生が増加しており、アメリカでの臨床試験では、1例(前立腺癌)、日本では4例(胃癌、食道癌、子宮体癌、大腸癌各1例)の癌が認められている。因果関係は必ずしも明瞭ではないが、動物実験での膀胱癌の増加を考慮すれば、これを無関係として切り捨てるわけにはいかないのではないか。 |
11. |
速やかに中止および回収を |
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貴社におかれては、これまでのアクトスの動物実験の結果、臨床試験の結果をもう一度よく見直し、単に緊急情報を出してよしとするのではなく、要望事項1〜4を速やかに実行されるよう要望する。 |
【参考資料】
1. |
武田薬品工業株式会社「緊急安全性情報」アクトス錠(塩酸ピオグリタゾン)投与中の急激な水分貯留による心不全について 平成12年10月5日 |
2. |
厚生省医薬安全局安全対策課.報道発表資料「塩酸ピオグリタゾン投与中の急激な水分貯留による心不全について(緊急安全性情報)
http://www.mhw.go.jp/houdou/1210/h1005-1_15.html
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3. |
浜 六郎、薬害はなぜなくならないか、日本評論社、1996年 |
4. |
浜 六郎、遅すぎたトログリタゾン(ノスカール潤jの回収----ピオグリタゾン(アクトス潤jはさらに危険と考えるべき.
TIP「正しい治療と薬の情報」15: 35-40,2000 |
5. |
浜六郎, トログリタゾン(ノスカール潤jによる肝臓死----危険と不確実な利益のバランスをどう判断する?TIP「正しい治療と薬の情報」
13: 13-17, 1998 |
6. |
浜六郎,トログリタゾンによる高頻度の肝障害.TIP「正しい治療と薬の情報」 13: 35-38, 1998 |
7. |
浜六郎,トログリタゾン(ノスカール潤jの危険性(続報)TIP「正しい治療と薬の情報」 13: 51, 1998 |
8. |
浜六郎,米でトログリタゾン(ノスカール潤jの長期臨床試験中止. TIP「正しい治療と薬の情報」
13: 77, 1998 |
9. |
浜六郎,トログリタゾン(ノスカール潤jは中止しなければならないTIP「正しい治療と薬の情報」
14: 40-42, 1999 |
10. |
新薬承認情報集No11塩酸ピオグリタゾン〔アクトス錠
15,錠30〕 1999年11月 財団法人日本薬剤師研修センター |
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