日本では、インフルエンザの特効薬として、タミフルが異常なまでに使用されています。メーカーが1歳未満には使わないでください、と言っているのに、小児科医会では1歳未満への使用が可能であるとの見解で多くの医師が1歳未満の子にも使用しているのが現状のようです。
1歳未満児へのタミフル使用の問題点を『薬のチェックは命のチェック』12号の改訂と、TIP誌記事のために、検討していたところ、2002-2003年のインフルエンザのシーズンにインフルエンザにかかった6人が睡眠中死亡していることが分かりました。8歳を除く3歳以下の5人中4人がタミフルを服用していた、と報告されているのです(塩見論文)。この情報に接したとき、動物実験の赤ちゃんラットの死亡の様子とそっくりだと思いました。実は、メーカーが1歳未満の子に使用しないように、と警告するに至った背景には、離乳前のラットの実験で、人用量の20倍超を使用すると呼吸が抑制されて死亡していたからです。そこで、『薬のチェックは命のチェック』No12改訂版とTIP誌2005年2月号では、乳児への使用が危険であることを中心にまとめ、著者の塩見氏(大阪市立総合医療センター、小児救急部)にも連絡し、タミフルが原因の可能性がある点を指摘しておきました。
この問題を、読売新聞が2月25日の朝刊1面で取り上げましたので切り抜きをご紹介しておきます(図1:読売新聞2005.2.25朝刊、大阪本社発行)。
インフルエンザにかかった子の睡眠中の突然死はアメリカでも報告され、事態を重視した米国疾病監視センター(CDC)が調査を開始しました。睡眠時の突然死という似たケースも報告されているそうです。
そこで、英国医学雑誌(BMJ)に投稿したところ、さっそく速報版(電子版)に掲載されました。
編集長殿— シモンズが指摘した、ノイラミダーゼ阻害剤の効力に関する問題に加えて、私は薬剤による害反応の新たな可能性について指摘したい。
日本では、インフルエンザ関連脳症は、公衆衛生上の問題となっている。たとえば、1998-99年の冬のシーズンには、合計148人のインフルエンザ関連脳症/脳炎患者が報告された[1]。しかし、非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)を小児の解熱剤として使用しないようにという、警告と規制がなされるようになってからは、インフルエンザ関連脳症の報告は減少したように見える。
このような例は米国ではまれである[2](小児に解熱剤としてサリチル酸剤を使用しなくなってから)。
ところが、ふだん健康な小児の突然死が2002-03のインフルエンザシーズンに米国で報告された[2]。米国疾病監視センター(CDC)はインフルエンザ関連の重篤例および死亡例について2003年10月から開始し、2003年10月から2004年1月までに93人の小児およびティーンエイジャー例(死亡例)が報告された[3]。93人の年齢の中央値は4歳、(4週〜17歳)、5歳未満が55人(59%)、6ヵ月〜2歳未満が24人(26%)であった。合併症の有無が判明した76人中41人(54%)は基礎疾患のない子であった。また、死亡場所の判明していた55人中15人(27%)は自宅で死亡していた[3]。
一方、塩見[4]は、2002-03年のシーズンにインフルエンザに罹患し突然死した日本人の子6人を報告した。全員が睡眠中に死亡、3人は午睡中、3人は夜間の睡眠中であった。6人中解剖された4人は全員、脳が浮腫状であった。これらの点から塩見は新型のインフルエンザ関連脳症として「脳浮腫型:ABS型」を提唱している[4]。6人中、5人が3歳以下であり、その5人中4人がオセルタミビル(タミフル)の初回分を服用後に睡眠中に死亡した[4]。1人はアマンタジンを服用し、1人は薬剤を服用していなかった。たとえば、一人の子は、1回目のタミフルを服用し2時間の午睡の間に死亡しているのが発見された。日本では小児用タミフルが2002年の7月に販売開始されている。タミフルの世界の中で市場占有率は日本が最大であり極端に多い。また、塩見は、オセルタミビルの服用については不明だが、米国でも同様の睡眠中の突然死があったことを引用している[4]。
米国のオセルタミビルの新薬承認審査報告書(BPCA Executive Summary of oseltamivir)では、2000年7月15日に申請されたデータで、7日例の離乳前のラット脳内の、オセルタミビルの最高濃度(Cmax)と濃度曲線下面積(AUC) は42日齢(成熟)ラットの1500倍以上(Cmaxは3000倍) .これは、2003年12月にロッシュ社が医療専門職宛に1歳未満の乳児への使用に関する警告の根拠として新たな実験を実施して得たデータ[6]としたものと同じではないかと思うが、どうなのであろうか。
また、ロッシュ社では、脳中の濃度が上昇したのは、血液−脳関門(BBB)が未熟であるせいであり、1歳異常の小児や成人への使用には影響しないと言っている[6]。しかし、ふだん元気な子の十分成熟した血液−脳関門(BBB)も、インフルエンザ罹患中にはサイトカイン類による影響を受け、傷害される可能性が心配である。
日本の新薬承認情報集(承認申請概要:NAP)では、より詳細なデータをみることができる:7日例のラットに経口で1000mg/kgを投与した場合、初回投与で24匹中18匹(雄8匹雌10匹)が雄の2匹を除いて全例、7時間以内に死亡した。チアノーゼが6例に認められたが、剖検では何の異常も認められなかった。別の実験では、700mg/kg群の14匹中2匹、1000mg/kg群の3匹が死亡した。死亡例も含め、700mg/kg群では、14匹中6匹、1000mg/kg群では14匹中12匹で、体温が低下し、自発運動が減少し、呼吸が緩徐で、不規則になった。対照群と500mg/kg群ではこうした症状は認められなかった。1000mg/kg群では、振戦や虚脱も認められた。これらの症状や所見は、バルビタール剤など鎮静剤の毒性徴候とよく似ていることから、これらの動物の死因は中枢抑制の結果による呼吸抑制の結果ではないかと考えられる。500mg/kgという用量は、体重mg/kg換算では、小児の臨床用量(米国でも日本でも4mg/kg/日)の125倍だが、最高血中濃度(Cmax)で比較すれば20倍にすぎない(しかもこのタイプの毒性にはCmaxでの比較の方が望ましい)。
塩見が報告した4例の睡眠中の突然死例[4]と、ロッシュ社が報告した幼若ラット例の症状[7,8]との類似性を考慮すれば、オセルタミビルとの関連を疑うのは合理的ではないだろうか。
少なくとも、インフルエンザ治療にオセルタミビルを服用後(特に最初の服用後)、睡眠中に突然死をした場合には薬剤と関連があるかもしれないことを銘記しておくべきである。このような例を経験した場合には、害反応(すなわち、薬剤との関連が否定できない有害事象)として報告するべきであり、薬剤と無関係な有害事象に分類して、報告から除外するというようなことを決してすべきでない。
参考文献