速報No50で報告したように、ヒト用量の1.8倍使用したイヌが慢性肺炎で死亡した。たった10日間(14日間)で「慢性肺炎」が起きるはずはなく、かといって、健康な動物がすでに慢性肺炎を持っていたとは考え難く不可解である。ではどうしてこのような病変が起きたのか。
この一見奇異な現象は、イレッサのEGFR阻害作用を考えれば、極めて容易に説明がつく。まさしくEGFRの阻害作用の結果そのものである。
イレッサは正常の肺胞細胞の再生を阻害する。強力に阻害すれば肺胞細胞が脱落する。肺胞からは、肺胞を膨らましておくために必要なサーファクタントが分泌されているが、正常な肺胞ができなくなると、サーファクタント(注1)も分泌されなくなり、肺胞が虚脱する[文献1]。
通常、組織がつぶれると、その部分を修復するために炎症反応が起きるはずである。炎症反応が起きるためには、炎症細胞が出るとともに、血管を新たに作り、酸素や栄養分を含む血液を病巣に送り込む必要がある。しかし、血管の新生には血管内皮の増殖・新生が必要で、そのためにもEGFRが必要である。したがって、イレッサが投与されていると、血管が新生し難いために、炎症反応につきものの発赤が認められず、蒼白となる。
そのために、炎症反応の活動性が少ないように見え、ほとんどが線維でできている慢性炎症のような病像になってしまったのであろう(炎症細胞の浸潤が少ないことも慢性炎症に似る)。慢性炎症であるなら、イレッサ投与前から存在する病変とされ、イレッサとは無関係と考えられるであろう。したがって、イレッサによると分かっていてもそのまま放置したのではないか。
頭葉全体が虚脱するという重症の肺傷害を起こせば、当然呼吸困難から急性呼吸不全で死亡したものと考えられる。
血中濃度の曲線下面積(AUC)で換算して、ヒト常用量換算で1.8倍にしか過ぎない25mg/kgで、8頭中1頭が、急性肺傷害により死亡したことを、情報として提供されないことは、臨床試験における肺傷害とイレッサとの因果関係の考察に重大な影響を与えたと考える。
5mg/kg群でも発熱があり切迫屠殺した例があったが、その病理所見には死因につながる所見が認められなかった。そのため、死亡につながる反応はなかったのか、再検討が必要である。
その他、速報No 50の要点を再掲しておきたい。