(2006.07.05号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No69

沖縄県で
タミフル服用後、中学生が転落死

沖縄県豊見城市の10階建て住宅内で3日午後5時50分ころ、6階に住む中学1年男子(12歳)がうつぶせに倒れているのが発見された。9階から転落したとみられ、搬送された病院で死亡が確認された。

沖縄県警豊見城署からの情報を伝えた各種報道[1-5]を総合すると、この中学生は住宅の6階に住んでいたが、同日朝39度程度の高熱があり、インフルエンザ治療のため兄に処方されていたタミフルを正午頃に1カプセル飲み、午後3時頃に解熱剤(種類は今のところ不明)を飲んでいたという。非常階段の手すりに乗り越えた跡があった状況などから、9階から転落したとみられている。転落時は寝巻き姿で裸足だったという。

タミフル服用後に異常行動を起こして死亡するケースがあることから、警察では遺体を司法解剖して因果関係を調べている。学校では野球部に所属。トラブルや悩み事を抱えている様子はなかったという。

一方、厚生労働省安全対策課は「まだ詳しい報告は受けていない。本人に処方されていない薬剤の副作用では、因果関係がはっきりしても救済対象にならないだろう」とコメント[5]。また、販売元の中外製薬は「報道を聞いて驚いている。詳しい状況はわからない」と話している[5]という。

情報はまだ限られているものの、NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)における現段階の分析結果では、2005年11月12日日本小児感染症学会において報告した中高生2人が異常行動で亡くなったケース[6]と基本的に同じであり、少なくともタミフルの関与なしには起こりえない事故であると考えられる。

理由は以下のとおりである。

  1. タミフル服用後5時間から6時間の間の事故であること。
  2. 解熱剤を服用後2〜3時間と解熱剤もタミフルも最も効果が強くなる時期であり、解熱していると思われること。
  3. 解熱剤使用後再度発熱する時間ではないことなどから、発熱に伴うせん妄(いわゆる「熱せん妄」)は考えられないことである。

タミフル服用後5〜6時間に異常行動が生じたと思われる点については、動物実験でもタミフル服用後の死亡は10分から7時間後まで大きくばらつきがあり、5時間から6時間はその範囲に入っている(最多は2〜4時間)ので十分起こりうる時間である。ただし、解熱剤がタミフルの脳内への移行に対し何らか影響した可能性は否定できない。

しかし、いずれにしても、タミフルが脳内に入り高濃度となり、アルコールや睡眠剤などと同様、脱抑制を生じて異常行動を起こしうる。したがって、2005年11月に浜が報告した中高生2人が異常行動で亡くなったケースと同じである。

死亡にいたらないまでも、異常行動は多数報告されており、現に、沖縄県では早速同様の症例が新聞社に寄せられている[4]。幻覚や異常行動の発生は、厚生労働省みずから注意を喚起した害反応である。昨年までの同種の死亡事故2例に引き続き、3人目の犠牲者が出た。

今後さらに多数の犠牲者を出さないためにも、厚生労働省はもはや因果関係を「否定的」と言って否定してはならない。因果関係が確認できないと言って関連を否定していたら、新しい薬害は何も発見できないからである。

これらの被害を放置するならば、未必の故意と思われても仕方ないのではないか。それほどに、異常行動からの事故死、あるいは呼吸抑制からの突然死とタミフルとの因果関係は明瞭である(注a)。

注a:これ以上証明が必要とすれば、症例対照研究(注b)と死亡者の脳中に高濃度のタミフルが検出されることだけであろう。症例対照研究は後者があれば実施するまでもない。また、タミフルが大部分のインフルエンザに処方されている現状では原因究明の手段にはなり得ない。後者については、成人でも低体温などが生じることからタミフルが脳内にすることは学者も認めていることである。動物でも低体温や呼吸抑制から死亡する。脳中のタミフル証明を待たなければならないというのは、単に引き伸ばしでしかない。もちろん、脳中のタミフル(未変化体)が、離乳前のラット脳中濃度と同レベルあるいはそれ相当のレベルにあることが証明されば、厚生労働省も学者も納得するであろう。
 今回の事件の司法解剖で、タミフル未変化体と代謝物それぞれの脳中濃度と血中濃度を対比し、離乳前の動物のパターンか、成獣のパターンに近いかが比較できれば、タミフルの関与がかなり明瞭に証明されるであろう。司法解剖の結果に注目したい。

注b:病気と薬剤などの要因の間に関連があるかどうか調べるための疫学的手法の一つ。タミフルの場合は、インフルエンザウイルス罹患後に異常行動を起こした人(症例)と、同性、同年齢でインフルエンザに罹患して異常行動を起こさなかった人(対照)とで、タミフルの服用率を比較して、異常行動を起こした人にタミフルの服用が有意に多ければ、タミフルとの関連があると考える。

琉球新報[4]より

タミフル服用、南城市でも異常行動

3日、インフルエンザ治療薬「タミフル」を服用した豊見城市に住む中学1年生の男子生徒(12)が転落死したことを受け、南城市の中学生がタミフル服用で異常行動を起こしたとの情報が4日、家族から琉球新報社に寄せられた。医療関係者はタミフルが原因と特定されず「高熱の影響も考えられる」として処方を続けている。事故を受け使用を控える患者や、薬害注意を呼び掛ける専門家の声もある。

南城市の父親(40)=自営業=によると、中学1年の長男(12)が2日、高熱を出し、病院がインフルエンザB型と診断。午後9時にタミフルを服用し就寝したが、午前零時ごろ起き出し、興奮状態で意味不明の言葉を繰り返して歩き回り、おびえて震えるなど異常行動をとった。午前3時にも同様の行動があった。3日も朝晩服用し夜に前日同様の異常行動があった。いずれも事後に異常行動の記憶はなかった。4日朝から服用をやめ、その後は落ち着いているという。

県立南部医療センター・こども医療センターの安慶田英樹小児科部長によると、先週61人のインフルエンザ患者ほぼ全員にタミフルを処方。「6日続く熱が1日半で下がるなど、劇的な効果がある」と言う。那覇市立病院ではチラシ配布で、副作用を含めた周知を検討中。

タミフルを国内で販売する中外製薬は「司法解剖などを待ち、対応を検討したい」と述べた。

県薬務衛生課は「厚生労働省も薬と(異常行動)の因果関係を確定しておらず、県が対応できる段階ではない」と述べた。

薬害問題に取り組むNPO法人医薬ビジランスセンター・薬のチェック(大阪市)代表の浜六郎医師は「タミフルが脳内に入ると睡眠剤やアルコールが入ったような脱抑制の状態になり、異常行動が起き得る。豊見城の件は以前私が報告した中高生2人の異常行動による死亡のケースと同じだ」と指摘。「因果関係が確認できないからと否定するだけでは、薬害は発見できない」と語り、科学的原因解明の必要性を指摘した。

沖縄県の季節はずれのインフルエンザ流行について

沖縄県では季節外れのインフルエンザが流行中である。国立感染症研究所がまとめた感染症週報(第24週、6月12〜18日[6])によると、毎年24週にはほとんどインフルエンザの流行はなくなっているが、今年は24週になっても全国的にも流行が続いていて、特に沖縄県での流行が著しい。

定点あたり報告数は、6月に入る21週以降は、ほとんどの年で0に近くなり、最も多い年でも24週には0.25以下となっているが、今年は24週になっても0.82と、全国的にも流行が続いている(感染症週報、図1)[7]。また、特に沖縄県では20週ころから増え始め、24週では定点あたり報告数は25.0と全国平均(0.82)をはるかに超え、真冬の流行時を超す流行を見せている(感染症週報、図5)[7]。

図1
図5

インフルエンザの診断が可能になったからだとのコメントも一部にはあるが、それならば、2002年ころからあって不思議はないはずだがそれはなかった。そもそも、学級閉鎖になるほどの流行は教師も経験していないというから、これまでにはなかった異常な事態であることは間違いないだろう。

4月には、タミフル耐性インフルエンザウイルスの感染者がついに報告されるようになってきた[8]。

だれもがインフルエンザにタミフルを使用するために、インフルエンザの流行パターンまで変化しつつあるのではないかと懸念する。これが杞憂であれば幸いである。

突然死、事故死の害という重大な害反応の回避のため、またこれ以上の耐性ウイルスの蔓延を防止し、異常なインフルエンザ流行を防止するためにも、タミフル使用の抑制を真剣に考え直さなければならないだろう。

参考文献

  1. 共同通信
  2. 毎日新聞
  3. 読売新聞
  4. 琉球新報
  5. ミクスeX-press(エルゼビア・ジャパン・ミクス医療ニュース)No.06-07-05 (2006.7.5) m-mix@elsevierjapan.com
  6. 『薬のチェックは命のチェック』速報版(No59、No61-63,)
    No59 タミフル脳症(異常行動、突然死)を医学会(小児感染症学会)で発表
    No61 タミフルと死亡:関連を示す10の理由
    No62 よくある質問への緊急回答:タミフルの害と利益ーバランスをどう考える?
    No63 タミフルと突然死、異常行動死の因果関係で意見書提出
  7. IDWR 感染症週報(第24週、2006年6月12〜18日)
  8. タミフル耐性ウイルス、人への感染を初めて確認(2006年04月21日)

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