タミフルの副作用を臨床面から調査する厚生労働省の臨床作業部会(臨床ワーキンググループ)が4日、異常行動や突然死とタミフル服用の関係を解明するための調査・試験項目について議論し、異常行動については、タミフル服用後の睡眠中の脳波などを調べ、突然死例については過去の心臓病歴などを追跡調査することなどをまとめたことが報道された。
朝日新聞(6月5日)によれば、
1)異常行動については、作業部会が異常行動の症例を調べたところ、寝ぼけた状態で異常行動を起こす睡眠障害の一種と似た傾向がみられた。そこで、睡眠時の脳への薬の作用を調べる必要があると判断。20代前半の健康な男性十数人にタミフルと偽薬(プラセボ)を飲んでもらい、睡眠時の脳波などを調べるよう輸入販売元の中外製薬に指示した。 また、
2)突然死については、本人や家族の心臓病歴、心電図の記録などを可能な限り調べて詳しい因果関係を探る。
とのことである。
厚生労働省医薬食品局に確認したところ、1)異常行動に関して、健康な男性を対象としたプラセボ対照の試験は5月14日の作業部会で提案され、6月4日にはより具体的な内容の計画が提案されたとのことである。また、2)突然死についても、おおむね上記の内容が確認された。
20歳前半の健康な男性がインフルエンザに罹っていないときに、タミフルを服用して何らかの異常が出る可能性は、ほとんど皆無である。
タミフルが異常行動や突然死を引き起こす場合には、血液-脳関門(BBB)を通過し、脳内に高濃度に蓄積する必要がある。日頃健康であっても、インフルエンザあるいはインフルエンザ様のウイルス感染症にかかった場合には、血液-脳関門は障害されてタミフルが脳中に蓄積しうる。だからこそ、脳の働きを抑制して異常行動を起こすのである。ところが、健康な成人の血液-脳関門は、健康であるがゆえに、タミフルは脳中に少しは移行しても、異常を起こすほどには決して蓄積しない。血液-脳関門が健常な場合の脳中のタミフル濃度は、血液-脳関門が障害され、突然死が生じうる場合の3000分の1に過ぎない。
したがって、実施するまでもなく、タミフルは健康な成人男子の脳波に何の影響も与えないことが分かる。つまり、実施前から、結果が「陰性」に出ることは分かりきっているのである。実施する前から結果が陰性にしか出ないような人体実験をすることは、倫理的に許されない。
その理由は、単にタミフルが脳中に蓄積せず、結果が陰性にでることだけではない。それ以上に、タミフルの基本的性質につき考慮が必要だからである。
一つは、タミフル耐性ウイルスの出現の機会を増やすという点だ。日頃健康な男性も、インフルエンザ流行期には罹患することもあるだろう。タミフル耐性のインフルエンザウイルスがタミフル服用中に出現するのみならず、タミフル服用前からすでにタミフル耐性であった例も報告されている。したがって、感性ウイルスを耐性ウイルスにする可能性がある点である。
第二に、タミフルはインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼだけでなく、ヒト正常細胞に存在するノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)に結合しその活性を阻害しうることが最近判明した(Li C, Wei Lら、Cell Research(2007):17:1-6)。シアリダーゼは、その欠乏や過剰が、神経機能やがん、糖尿病など種々の病態に関わっているとされている。この機序は、遅発性のタミフルの毒性に関係していると考えられる。
以上のように、タミフルは、健康な成人にとっても不利なことを起こしうる物質である。こうした物質を、意味のない人体実験に用いるのは、人道的に許されることではない。
臨床作業部会は、すでに50例を超えている突然死の呼吸抑制について注目すべきである。
タミフルが脳中に高濃度に達した際の死亡が呼吸抑制により生じていることは、離乳前のラットの実験から明らかである。この死亡の一義的原因は心臓ではなく、中枢抑制の結果としての呼吸抑制である。このため、低酸素血症(チアノーゼ)となるが、低酸素性の呼吸駆動(hypoxic respiratory drive)がかからないためにそのまま心停止すると考えられる。
したがって、心臓病歴、心電図の記録などを可能な限り調べることは、単にそうした心臓病の徴候は認めなかった、という結果が得られるだけである。この調査そのものは必要なことではあるが、あくまでも、「タミフルによる突然死は心臓死ではない」ということが分かるだけである。これをいくら詳細に検討したとしても、真の死因に迫ることは不可能である。
臨床作業部会は、肝心な中枢抑制、呼吸抑制といった死因に直結したことを避け、なぜ、それらの周辺の無関係はところばかりを狙って調査するのであろうか。