(2007.6.20号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No89

6.16タミフル調査会で 意見陳述
作業部会の検討項目では因果関係を深められない

2007年6月16日開催された安全対策調査会に意見書を提出し、意見陳述してきた。

Yomiuri Online
Nikkei Net

医薬ビジランスセンター『薬のチェック』(浜)のほか、薬害タミフル脳症被害者の会の軒端晴彦代表、奥西秀樹教授(島根大学医学部・薬理学)および薬害オンブズパースン会議がタミフルの危険性について述べたが、タミフルを擁護する立場から、中外製薬、富樫武弘医師(小児科医)、二木芳人医師(内科学会、感染症学会)の意見陳述があった。

軒端さんは、被害者の親として、素人でもタミフルと突然死や異常行動とその後の事故死との関連を疑うのに、なぜ関連が完全否定されるのか。同じ被害を出さないために国は1日も早く因果関係を認め被害救済を、と訴えた。

軒端さんのまっとうな、真剣な訴えに対して、委員からの質問やコメントが全くなかったのは、なんとも歯がゆいものであった。

奥西教授(島根大医学部の薬理学教授)は、基礎薬理学者の立場から、タミフルが脳に移行しやすい構造であること、インフルエンザ罹患時には、脳からの排出が妨害されて脳中濃度が上昇しうること、動物実験での死亡は中枢抑制・呼吸抑制の結果であること、中枢抑制剤が異常行動を起こすことは薬理学の常識であるなど、これまでの浜が主張してきたことをほぼ全面的に支持する発言をされ、かつ薬理学者として説得力のある話であった。

薬害オンブズパースン会議は、タミフルにはたいした効果がないうえ重大な害が生じている。使い続ける根拠はない。副作用の掘り起こしも含めて広く調査をすべき、と訴えた。

浜は、10分あまりで、46枚のスライドをフルに使い説明し、さらに参考人らからの種々の質問にもすべて答えて「因果関係あり」の論理を展開できたと考える。

特に重要な質問は、
「インフルエンザ単独でも突然死することがあるではないか」であった。 これに対しては、小児科学会での議論を再現して説明をした。

「これまでインフルエンザだけで薬剤の関与なしに突然死したというのは聞かない。文献上もない。たとえば、大阪市立総合医療センター小児科の塩見医師が02/03のシーズンに収集した睡眠中突然死6人のうち1人は「無治療」で突然死したと主張されたが、実は後でテオフィリンを使用していたことが判明している。インフルエンザ罹患で40℃の発熱があり、高サイトカイン状態でテオフィリンの解毒力(クリアランス)が低下し、血中濃度が高くなり、けいれんあるいは心停止を起こしたと考えられる。それ以外にタミフル服用後のような突然死があればぜひ教えてほしい」。

しかし、それに対する反論はなかった。

次に、「タミフル服用後の副作用は多彩であり何が関係しているのか不明ではないか」との質問があったが、この問題では以下のような問答となった。

まずこの質問に対して、浜から、
「多彩というのはどのような病態を想定しておられますか?」と質問した。

答えは、
「心筋炎やDIC(播種性血管内凝固症候群)、多臓器不全、出血などがある」とのことであった。

そこで、
「まさしく、言われるとおり。心筋炎や、肺炎、DIC、多臓器不全、出血、遅発性の神経障害なども含めて、Wei論文(文献1)で指摘されたように、ヒト正常細胞のノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)をタミフル活性体が阻害することで説明が可能であると考える。」そして、
「突然死や異常行動なども含めて多彩なように見えるが、大きくは2つに分けることができる。

  1. 未変化体の中枢抑制作用による、呼吸停止・心肺停止と、異常行動、
  2. 活性体のヒト正常細胞のノイラミニダーゼ阻害で説明可能な、心筋炎や、肺炎、DIC、多臓器不全、出血、遅発性の神経障害などである。」

と説明した。

これに対する反論もなかった。

重要な感染実験の実施を取り止めた

この会議での最大の問題点は、感染実験を取り止めたことである。

感染実験をすれば、成熟動物でもタミフルが脳中濃度に高濃度となり突然死することは確実である。そして突然死の前には呼吸抑制の症状やチアノーゼが現れ、肺水腫を伴い、突然死の原因が呼吸抑制にあること、したがって、タミフル未変化体は中枢抑制剤であることが判明し、突然死とタミフルとの因果関係が濃厚となる。

最初の基礎ワーキンググループ(作業部会)で感染実験をするとの報道があったとき、これは、国が因果関係を認める方向で動いているな、と感じたほどであった。

ところが、16日の調査会では感染実験についてどこにも書かれていない。まさかと思いながら聞いていたが最後まで感染実験は出てこない。

陳述人には陳述の場以外の発言は許されていないため、途中で質問はできない。後で確認したところ、初回(5月2日)の作業部会では感染実験をやると決めたが、2回目(5月30日)の作業部会で優先順位が低いと判断され、当面はしないことを決めたという。

一旦決めたものを、撤回したということは、厚労省事務サイドあるいは中外からの働きかけもあって、撤回させたのではないか。これはいかにも意図的であるように思われる。

伏見安全対策課長に問い合わせ、感染実験を実施する、との基礎作業部会の意見を確認したのは6月6日であった。この間の経緯はいかにも不自然である。

最も優先順位の高い感染実験を外して、あとはどうでもよい実験ばかりを実施することになった。基礎作業部会も臨床作業部会と同様、因果関係を強めるための実験を何もしないのと同じことになった。

この問題については、特に問い詰めたかったが、意見陳述が終わってから作業部会の報告がされたため、この時には意見をいえる立場の参考人(実質的委員)はほとんど何も発言せず、シーンと鎮まりかえったままであった。一方、発言したいことをたくさん抱えた意見陳述人に発言の機会は与えられない。これまでと同じパターンであった。

何のための意見陳述であったのか。

厚労省は何の見直しをするのか

したがって、平成18年度の疫学研究のデータの取りまとめも、よほどのことがない限り因果関係にはつながることにはならないであろう。仮に異常言動に関してかろうじて関連を認めることになったとしても、この調査は、突然死、心肺停止との因果関係の究明には全くつながらない。

臨床作業部会でも、突然死・心肺停止は、別の機序(心毒性など)で起きる可能性だけが検討され、依然として因果関係がわからない、との状態を継続するつもりなのであろう。

最大限、異常言動との関連のみ
10代以外の規制は期待できないだろう

仮に、平成18年度の調査で異常言動に関して関連が認められたとしても、すでに10代への原則中止は措置済みである。そして、突然死・心肺停止は、因果関係否定的のままである。何ら新たな事態は生じない。残念ながら、どうもそうなりそうな形勢である。

感染実験が実施されるとのことで大いに期待したのであるが、感染実験を実施しないなら、評価は180度変わってしまう。

残念だが、相変わらず厚労省に薬害防止を期待することはできない。

なお、4月18日から5月31日までに新たに報告された死亡例は2例、いずれも突然死・急性心肺停止例であり、10歳未満と20歳以上であった。このため、突然死・心肺停止は、50人となった。最終報告で因果関係が否定されたとして取り下げられた1人が除かれ、3人の重複が確認されたので、死亡者数は合計80人となった。

異常行動の副作用は、4月26日公表から約50日で25人増加し、今期の合計は166人となった。2005年までの年間平均1.6人に対して約100倍、昨年同時期に比較しても4.5倍131人の増加である。いずれも軽いものではなく重篤な事例ばかりである。

  1. Li CY, Yu Q, Wei L. et al. A nonsynonymous SNP in human cytosolic sialidase in a small Asian population results in reduced enzyme activity: potential link with severe adverse reactions to oseltamivir. Cell Res. 2007 Apr;17(4):357-62.(資料添付、ただし考察については異論あり)

市民患者が「ほんまもん」の情報を持つことが真の改革につながる
薬の「ほんまもん」情報は『薬のチェックは命のチェック』で!!