(2007.6.22号)
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No90
タミフル
より深刻な50人の突然死
英国医師会雑誌BMJ論説に当センターが速報コメント
2007年6月18日号のBMJ(英国医師会雑誌)に「タミフルと思春期における精神神経症状-未証明だが要注意」との標題で、論説が掲載された[1,2]。この論説で問題にされているタミフルの害は異常行動などの精神神経症状のみであり、突然死や肺炎、敗血症など遅発性の障害についてはまったく問題とされていなかった。
そこで、6月16日に厚労省から公表されたデータに基づき、最新の重篤な害反応(副作用)情報、特に突然死が50人に達するとの情報を提供するとともに、その発症機序について詳細に解説したrapid responseを投稿したところ早速掲載された[3]ので、その日本語訳を紹介する。
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より深刻なのは50人の突然死−おそらくタミフル(リン酸オセルタミビル)の中枢神経抑制作用による害反応
編集者殿
2007年6月16日, 厚生労働省(厚労省)は、リン酸オセルタミビル(タミフル:未変化体オセルタミビルまたはoseltamivir-P)を日本で販売開始して以来07年5月31日までに1377人の害反応(副作用)の報告を受けたと発表した[1].
このうち567人は重篤な精神神経系反応であり、211人が異常行動を伴うものであった。厚労省が報告した死亡数は71人であった。これらは単に有害事象死亡ではなく、害反応死亡(副作用死亡)ばかりである。報告した医師が「おそらく関連あり」、「関連があるかもしれない」、あるいは、少なくとも「関連が否定できない」としているからだ。ところが厚労省は、これらは4例を除いてすべて「否定的」としている。「否定できない」とされた4例は、中毒性表皮壊死症(TEN)や多臓器不全、アナフィラキシー(証拠なし:むしろ突然死)、劇症肝炎であった。
このほか、71人に含まれない死亡例として、厚労省が「副作用」に分類せず有害事象死亡とした突然死が4人、私が独自に収集した突然死が5人いる。
合計80人の死亡者中、50人が突然死あるいは突然の心肺停止による死亡である(10歳未満が18人、32人は20歳以上:10代はなし)。また、8人は異常行動から事故死した(5人が10代、3人は20歳以上)。これら58人の突然死や異常行動からの事故死は、多くの医師がおそらく、あるいは少なくとも「否定できない」害反応(副作用)として報告したにもかかわらず、厚労省はすべて「否定的」とした。
4人はおそらく呼吸抑制に引き続き肺炎が悪化し敗血症を生じて死亡したと考えられる。9人は主に肺炎が悪化したため死亡したと考えられる。他の8人は、肝不全、汎血球減少症、消化管出血などによる死亡であった。タミフルによる害反応(副作用)は大きく以下の3種類に分類されると考える。
- 未変化体タミフル(oseltamivir-P) によると思われる即時型反応で、突然死や、異常行動など急性の精神神経異常症状[2-14]。
- 活性体タミフル(オセルタミビルカルボキシレート:oseltamivir-C) によると思われる遅発型の反応で、肺炎、敗血症、高血糖、出血など。
- その他:アレルギー反応など......
私が当初から[2-4]、また最近も指摘してきたように[5]、厚労省が公表してきた動物実験データ[6,7]をすべて検討し、被害者遺族の提供した診療記録などの資料を検討し[8,9]、厚労省[1,10,11]やFDA(米国) [12,13]が公表した資料(ケースカードを含む)を検討すれば、タミフルの作用および毒性のパターンはバルビタール剤やベンゾジアゼピン剤、全身麻酔剤など中枢神経抑制剤とよく似ている。
この観点から、タミフルの即時型の害反応(副作用)の作用機序について、以下のようにまとめることができる[5] :
- リン酸オセルタミビル(oseltamivir-P, オセルタミビル-Cのプロドラッグ)は中枢神経抑制作用を有する。これは以下の事実に基づく。
リン酸オセルタミビルは、動物実験でもヒト症例においても、睡眠剤、鎮静剤、全身麻酔剤と同様の症状や臨床所見、病理所見を呈する。たとえば、睡眠、体温低下、自発運動減退、呼吸緩徐、呼吸不規則、死亡前にチアノーゼ、剖検で肺水腫などである。
動物実験(メーカー実施)では、初回投与の10分から7時間の間に離乳前のラット24匹中18匹の動きが緩徐となり、呼吸緩徐となり、おそらく呼吸抑制によって死亡した。チアノーゼが18匹中6匹に認められ、剖検では肺水腫以外に異常所見は認められなかった。肺水腫は死亡した18匹中9匹に認められた。2回目以降に死亡した動物はいなかった[6,7]。
- リン酸オセルタミビル(未変化体タミフル)は7日齢(離乳前)のラットの脳中では増加するが、42日齢の成熟ラットでは増加しない。これは明らかにエステラーゼ活性と血液-脳関門の成熟度の違いによると考えられる。7日齢の平均脳中最高濃度(Cmax)は、成熟ラットのそれの3000倍高濃度であった[7]。未変化体タミフルの脳中Cmaxは、ラットの死亡割合と有意に相関していた(p<0.05)が,活性体タミフル(oseltamivir-C)との有意な相関はなかった[7,14]。
- 感染を起こせば、炎症性サイトカインが出てBBBの機能(特に排出機能)を阻害するため、未変化体タミフルが脳中に高濃度となり得る。しかし、インフルエンザの回復とともにBBBの機能も急速に回復する(当然脳内に蓄積していた未変化体タミフルが急速に脳内から排出される)。
- せん妄や異常行動、幻覚、さらには自殺も、中枢抑制剤による抑制障害(disinhibition)や制御異常(dyscontrol)によって生じうる症状である。
2番目のタミフルによる重篤な障害の可能性は、遅発性の肺炎、感染の増悪、敗血症、高血糖、あるいは出血などである。
このうち、遅発性(服用終了後)の肺炎や高血糖は、多数の国において承認の根拠とされたランダム化比較試験(RCT)[6,7]によって確認された害反応(副作用)である。
最近、Li and Wei らは[15] 抗ウイルス作用を持つ活性体タミフル(oseltamivir-C)が、ヒト細胞質内のノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)を阻害することを指摘し、彼らはこの機序をタミフルによる精神神経症状の発症機序ではないかとする仮説を提唱した。
彼らの提唱したこの機序は、活性体タミフル(oseltamivir-C)のノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)阻害作用により、さまざまなヒト組織の細胞機能が障害されうるため、タミフルによる遅発型反応を説明するための機序として、非常に興味深いものである[5]。
しかしながら、異常行動や睡眠中の突然死のような即時型反応の機序は、彼らが提唱した仮説とは異なると考える[5]。
リン酸オセルタミビル(未変化体タミフル)と即時型反応(突然死や異常行動)との因果関係は、上記の証拠を考慮すればほぼ確実と考えるが[5,9]、私は、さらに因果関係を強固にするため、感染させた成熟動物を用いたトキシコキネティックスにより、未変化体タミフルが脳中濃度に高濃度となることを確認するための感染実験を実施すべきであることを提唱してきた [5]。
厚労省安全対策調査会の作業部会は、成熟動物を用いた感染実験を一度は実施すべきであると決めながら、最近その決定を取り消してしまった[1]。
因果関係をさらに確立するために、感染実験以外で重要なことは、未変化体のタミフルがベンゾジアゼピン受容体(中枢型、末梢型)への親和性を有していることを確認すること、ならびに、死亡例(突然死も、異常行動からの事故死も)の未変化体(oseltamivir-P)の脳中濃度が異常に高濃度で、活性体(oseltamivir-C)の脳中濃度は低く、末梢血中では未変化体も活性体も低濃度であることを確認することである[5]。
References
- Documents at The Advisory Committee on Drug and Food "The Second annual meeting of the Sub-Committee on Safety of Medicine for 2007" held at 16th June 2007(in Japanese)
- Hama R., New type of influenza-related encephalopathy or new adverse drug reaction? BMJ rapid response;
- Hama R. Sudden deaths during sleep after taking the first dose of oseltamivir----It should be contraindicated to infants. The informed Prescriber (2005): 20 (2): 21-25
(in Japanese)
- Kusuri-no-Check editorial team: Don't use Tamiflu to infants: sudden deaths during sleep after the first dose. Kusuri-no-Check No12 (revised)
- Hama R. Seven fatal or life threatening neuropsychiatric adverse reactions to oseltamivir: case series and overview of causal relationship. Under preparation to submit to a medical Journal.
- Chugai Pharm Co. New drug approval package (NAP) of oseltamivir (in Japanese); Tamiflu dry syrup (2002)
- Chugai Pharm Co. New drug approval package (NAP) of oseltamivir (in Japanese); Oseltamivir capsule for prevention (2004)
- Hama R. Three boys died from adverse reactions probably related to Tamiflu: Presentation at a scientific meeting Web-Kusuri-no-Check International No5 (English version of Web-Kusuri-no Check No59, Nov 25 2005)
- Hama R. Tamiflu-related Strange Behavior and Sudden Death: Three cases and 10 reasons why I think it relates to Tamiflu: Web-Kusuri-no-Check International No6 (English version of Web-Kusuri-no Check No61, Nov 26 2005)
- Documents for The Advisory Committee on Drug and Food "The first annual meeting of the Sub-Committee on Safety of Medicine for 2005" held at 27th January 2006 (in Japanese):
- Death cases in children (1)
- Death cases in children (2)
- Death cases in adults (1)
- Death cases in adults (2)
- Documents for The Advisory Committee on Drug and Food "The first annual meeting of the Sub-Committee on Safety of Medicine for 2007" held at 4th April 2007 (in Japanese)
- FDA-CDER executive summary: One-Year Post Marketing Exclusivity Postmarketing Adverse Events Review (Oseltamivir phosphate)
- Edwards ET. Et al (Post-Marketing Safety Evaluator: Division of Drug Risk Evaluation :DDRE) Tamiflu AE Review 2006 Memorandum(Department of Health and Human Services, Public Health Services, Food and Drug administration: Center for Drug Evaluation and Research=FDA CDER) Sept. 20 2006
- Hama R. Tamiflu induces abnormal behavior after the first dose. The Informed Prescriber (2006): 21 (11): 21-25 (in Japanese)
- Li CY, Yu Q, Ye ZQ, Sun Y, He Q, Li XM, Zhang W, Luo J, Gu X, Zheng X, Wei L. A nonsynonymous SNP in human cytosolic sialidase in a small Asian population results in reduced enzyme activity: potential link with severe adverse reactions to oseltamivir. Cell Res. 2007 Apr;17(4):357-62.
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