7月27日、昭和大学にて開催された日本中毒学会において、福家千昭・琉球大医学部准教授(法医学)らは、司法解剖をしたタミフル服用後転落死した中学1年男子の血液や臓器中のタミフルと、その活性代謝物の測定方法、および測定結果を報告した。マスメディアも10数人傍聴するという関心の高さであった。
報告の基本は、未変化体のタミフルは体のあらゆる組織試料の検査で検出限界以下であったこと、抗ウイルス活性のあるオセルタミビル(オセルタミビル・カルボキシレート:OC)については「活性代謝物の臓器濃度は、肝臓を始め、腎臓、血液に、検出された。脳は、一部で検出下限、あるいは検出下限未満であった、と報告した。
発表後、浜が質問し討論になった。その質疑で明らかになったことは以下の点である。
福家氏の方法では、未変化体タミフルの検出限界は0.1μg/mLであった。これをng/mLで表すと、100ng/mLである。
一方、ヒトに75mgカプセルを使用した場合、未変化体オセルタミビルの平均最高血中濃度(Cmax)は60.63±SD25.12であるので、検出限界が100ng/mLの方法では測定することができないことは明らかである。平均値濃度に1SD(25ng/mL)を加えても、まだ測定限界未満である。
死亡から臓器サンプル採取までの時間は20時間程度であったという。生体内でも、半減期は1〜2時間であり、オセルタミビルを300mg服用後でも12時間後には血中にはほとんど検出されなくなる。
死後にもエステラーゼによって未変化体タミフルはほとんど分解されていたと考えられ、そもそも相当鋭敏な方法で検査しても検出はされなかったであろう。
討論終了後、福家氏自身から話されたことであるが、脳組織が相当傷んでいたので、脳中のタミフル未変化体が脳外に流出する可能性に関しても否定はできないという。
タミフル未変化体がたとえ脳中に高濃度にあったとしても、脳組織が傷んでいればタミフルが脳外に流出するわけで、橋部(脳の一部)で検出限界値であった以外、他の脳の部位ではいずれも検出限界未満であったのは、変化するもとになるタミフル未変化体がすでに流出していた可能性が否定できない。
したがって、この指摘は重要である。
臓器のサンプルには、エステラーゼ阻害剤を加えず(通常、法医学では加えない)、マイナス30℃で凍結保存したとしても、凍結保存から公表データの測定までの期間は1〜2か月であったとすれば、ある程度の分解もありえよう。しかし、試料採取までにほとんどタミフル未変化体は分解していたであろうことの方が、はるかに重要である。
したがって、今回の琉大の研究結果は、タミフルと異常行動による事故死との因果関係を否定するものではまったくないことを再度強調しておきたい。
傍聴していたマスメディアの方々にも、上記問題点をかなりよく理解していただいたという印象を浜は持つことができた。