(2007.10.27号)
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No94
次々に解明される
タミフルの害が起きるしくみ
NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック) 浜 六郎
タミフルによる死亡例の多くは突然死
タミフルによる害として、異常行動が大きく報道されています。すでに厚生労働省(厚労省)には567人が重い精神神経系異常が報告され、うち211人が異常行動、8人が異常行動の後に事故死しています。
これ自体たいへん重大なことですが、被害の大きさからいうと、50人以上が把握されている突然死は更に問題が大きいのです。
5日分服用後に異常行動が始まり長期間持続した人も
最近、服用後1〜2回目で生じる突然発症型の害だけなく、5日間すべて服用し終わってから発症し、2週間以上も症状が持続するような異常行動の例があることが分かってきました。さらには、やはり5日間すべて服用し終わってから肺炎や敗血症が急激に悪化して死亡する人も少なくないことが分かってきています。
次々に解明されるタミフルの害が起きるしくみ
このようなタミフルによる害が、なぜ起きるのか、最近その仕組みが次々に解明されてきているのです。しかも、これまで当センターが指摘してきたタミフルの害の起こり方を裏付ける実験のほか、さらに細かいしくみを解明した実験や、これまではどうして起きるのかが分からなかった仕組みを理解するのに役立つ実験などが次々にでてきました。たとえば、異常行動が長引く例や、遅れて発現する肺炎などについては、なぜ起きるのかがよく分からなかったのですが、これを理解するのに非常に役立つ実験データも出てきました。しかし、因果関係を積極的に否定する実験結果は、全く出てきていません。
厚労省の「現時点で因果関係見られず」は根拠なし
最近(10月24日)、厚生労働省(厚労省)は、メーカー(中外製薬-ロッシュ社)による一部の実験結果を議論し、「現時点では因果関係を示すような結果は出ていない」としています。しかし、今回の発表は、単に因果関係の認定を遅らせるためだけのパーフォーマンスでしかないでしょう。
これまで因果関係をずっと否定し続けてきた厚労省が因果関係を簡単に認めるはずがないからです。実際、突然死との因果関係を示す動物実験が、ずでに、少なくとも3つも出ているのに、50人にも上る突然死との因果関係を否定したままなのですから。因果関係の証明のために必要な方法がとられていないために証明できるデータが得られなかっただけなのです。
分かってきた「タミフルの害が起きるしくみ」
今までに分かっている、タミフルの効き方、毒性の出るしくみは以下のようなものです。まとめると、
- タミフル未変化体は、肝臓の酵素(エステラーゼ)で代謝され、抗ウイルス作用のある活性型タミフルになる。
- 未変化体は脳中に入るが、ポンプ作用で脳から排出され、低い濃度に留まる。
- ポンプ作用を担うタンパクが「P-糖タンパク」であることが分かった。
- 活性型タミフルが作用する酵素(ノイラミニダーゼ)は、人の細胞にもあり、免疫や細胞の若返り等に関係する重要な酵素。これが阻害されやすい人がいる。
- インフルエンザの初期にはインターロイキンなどがたくさん出て、酵素(エステラーゼ)やP-糖タンパクの作用も抑えるため、未変化体が血中に高濃度になり、脳に多く入りやすく、脳内に蓄積する。このため、
- 服用1〜2回で起きる突然死や異常行動は、未変化体の脳抑制作用による。
- この害が現れやすい人は、(1)活性型に代謝する酵素エステラーゼが少ない、(2)ポンプ力が弱いなどの場合であり、個人差、インフルエンザの重さ(時期)、他の薬物の影響(相互作用など)が関係する。
- 服用終了前後から現れる遅発型症状(精神神経症状が遅れて現れ長引く人、肺炎や敗血症、出血、糖尿病の発症など)もタミフルの害反応と考えられる。
- これらは活性型タミフルによるノイラミニダーゼへの影響が関係するようだ。
以下に少し詳しく説明します。青字の部分が昨年末から新たに分かってきたことです。
- 未変化のタミフルが腸から吸収され、肝臓の酵素(エステラーゼ)で代謝を受けて、抗ウイルス作用のある活性型のタミフルになります。
- 通常でも未変化タミフルは脳中に入りますが、
血液-脳関門に備わったポンプ作用で脳から汲み出されるので、
この仕組みがしっかりしていれば普段は脳中の濃度は低いままです。
- 最近、相次いで、この血液-脳関門に備わったポンプ作用を担っているタンパクが特定されました。P−グリコプロテイン(P-糖タンパク)というものです。離乳前の幼い動物ではその働きがまだ弱く、インフルエンザの症状の重い時期にもその働きが鈍ることが指摘されています。そのため、タミフルの脳内からの排出も悪くなり、脳内に蓄積してきます。幼若ラットの脳中濃度が成熟ラットの3200倍にもなるのはこのためと考えられます。
- 活性型タミフルはウイルスの酵素(ノイラミニダーゼ)の作用を妨害して抗ウイルス作用を発揮しますが、これは、人の細胞にあるノイラミニダーゼ(シアリダーゼともいう)と同じ酵素で、免疫機能や、細胞の若返りなどに関係している、非常に重要な酵素です。
そのノイラミニダーゼがタミフル活性体で特に阻害されやすい人があります。
- インフルエンザにかかったときに出るインターロイキンなど、サイトカインと呼ばれる物質は、肝臓の酵素(エステラーゼ)も妨害します。このため、インフルエンザの症状が一番重い時期に、タミフルが未変化のまま血中に溜まりやすく、したがって脳に多く入りやすくなると考えられます。しかも、P-糖タンパクも、インターロイキンなどで阻害されると考えられるので、脳から排出されにくくなり、脳中に高濃度となると考えられます。
- 呼吸が抑制されて突然死が起きたり、異常行動から事故死する人の多くは1〜2回タミフルを服用した後で起きています(突然発症型:突発型)。この害は、未変化のタミフルが脳中に高濃度に溜り、脳の働きを抑制するためと考えられます。
- そうした害が現れやすい人は、以下のような場合が考えられます。
- 活性型に代謝する酵素(エステラーゼ)が少ない場合
- ポンプ(P-糖タンパク)の力が弱まる場合
この状況は、以下のような場合に起きると考えられます。
- 個人差
- インフルエンザ症状や何らかの感染症が重い場合(重症度、重い時期)
- エステラーゼやP-糖タンパクの作用を弱める薬剤が使われる場合
です。
- タミフルの害反応(副作用)の中には、これまでにも、服用終了後に肺炎が起きやすくなることや、血糖値が高くなる(糖尿病の発病、もとの糖尿病が悪化することも含む)などが分かっていました。ところが、最初に述べたように、5日分全部服用し終わってから異常行動などの精神神経症状が起きてそれが2週間以上も長引いた人がいることも分かってきました。また、肺炎から敗血症が悪化して死亡した人や出血など、いわば遅発型・遷延型の反応もタミフルの害反応(副作用)の可能性があると考えられるようになってきました。
- こうした遅発型・遷延型の害反応には、活性体タミフルが、あらゆるヒトの細胞にある酵素ノイラミニダーゼに影響して細胞の働きを鈍らせることに関係していると考えられます。
ノイラミニダーゼは、脳にある正常なポンプ作用に重要な役割を果たしているため、5日分服用してポンプ作用が鈍ってくると、脳内にタミフルが蓄積し、直接の神経への影響なども加わり、異常行動が遅れて発症し、しかも長引きやすいと考えられるのです
- 上記の8.と9.の考え方は、これまでタミフルによる害反応の症例を詳細に検討してきた当センターの分析結果と、最近分かってきた基礎的は事実から、ほぼ確実に言えることです。これが正しいかどうかは、今後集積される知見によって、必ず証明されることでしょう。
文献
- 新薬承認情報集:タミフルカプセル(治療、予防)、ドライシロップ
http://211.132.8.246/shinyaku/g0012/07/53039900_21200AMY00238.html?
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b) http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~soutatsu/maku29/
- 8〜10.Hama R. Oseltamivir's adverse reactions: Fifty sudden deaths may be related to central suppression. BMJ. 2007 Jul 14;335(7610):59.
http://www.bmj.com/cgi/reprint/335/7610/59
『薬のチェック』速報No90
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