NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)ではこれまでにタミフル(オセルタミビル)によって死亡した7人を含め10人の重篤な害反応例について相談を受け、副作用被害救済制度への申請に際して意見書を書いてきました。
そのうち、昨年秋までに解析できていた8人の症例報告とともにタミフルによる害反応の発症機序について総合的に考察した論文を英文で投稿していましたが、このほど、国際医学雑誌(International Journal of Risk and safety in Medicine)の最新号(2008年4月)に掲載されました1)。その原文全文(PDF版)と、要約(翻訳)を掲載いたします。
医師・薬剤師、医学・薬学の専門家、国、製薬企業、副作用被害救済制度の認定に当る委員、厚生労働省薬事・食品衛生審議会をはじめ安全対策部会、同調査会、作業部会委員などタミフルと突然死や異常行動との関連について検討する責任ある立場の人々、マスメディアの方々には、全員ぜひとも読んでいただきたいと思います。
なお一般向けには、「やっぱり危ないタミフル−突然死の恐怖」(金曜日発行)に分かり易く解説してあります。改めて、あわせてお読み頂きたいと思います。
ライ症候群など感染関連脳症は、近年多くの国において公衆衛生上重要な課題の一つであった。タミフル(リン酸オセルタミビル:OP)を服用後に生じた死亡例を含む精神神経系の害反応が、日本では最近、従来の脳症とは別に問題となってきている。
筆者が相談を受けたタミフル使用後の精神神経系害反応例のうち、カルテ等診療記録や剖検記録、さらには投薬証明などが得られた例を分析し、記載した。タミフルによる精神神経系害反応や因果関係の全体像、害反応症例や個人的経験を収集するために、PubMed、医中誌Web、厚生労働省(厚労省)や医薬品医療機器総合機構(PMDA)、米国FDAなど関係ホームページを検索した。動物実験や臨床試験データについては、タミフルの承認申請概要等、公表されている情報を参照した。
報告した8人のうち死亡例が5人、生存例が3人である。死亡5人のうち2人は異常行動後の事故死であった。他の3人(幼児2人、成人1人)は睡眠中の突然死例である。幼児の1人と成人例は解剖され肺水腫が認められた。生存している14歳の少年は興奮し、チアノーゼを認め意識消失し、痙攣を生じたが、完全に回復した。しかしながら、生後10か月の女児は意識消失と痙攣を生じた後、当初は回復したかにみえたものの、その後、身体的ならびに知的発達障害をきたした。15歳の少年は、タミフルを5日分服用前後から遅発性の精神神経系害反応を生じ、その反応が遷延した(2週間症状が持続)。
これらの反応、すなわち死亡例合計80人(うち突然死50人、異常行動からの事故死は8人を含む)をすべて収集して分析し、さらに動物実験や最新の知見を総合的に検討した結果、タミフルの害反応として以下の分類を提案する。
上記1と2の反応の発症機序は、以下のようにまとめることができる。
タミフル服用後短時間で睡眠中に死亡した3人と、かろうじて死亡を免れた2人(1人は後遺症があり1人は後遺症なし)、ならびに、異常行動後に事故死した少年2人に生じた害反応は、オセルタミビルの中枢抑制作用により生じたものと考えられる。また、タミフルを5日分すべて服用後に遅発型の精神神経系反応を生じた例は1人だけであったが、これは抗ウイルス活性を有するタミフル(OCB)によってヒトノイラミニダーゼの阻害が関係して生じたと考えられる。
なお、上記のうち3人(睡眠中突然死した2歳男児と、異常行動から事故死した14歳と17歳の少年2人)については、2005年11月12日三重県津市で開催された第37回日本小児感染症学会において発表した。
本論文脱稿後、2007年末までにさらに別の2人の家族から診療記録や解剖記録が提供された。1人は睡眠中突然死し、剖検で肺水腫を認めた44歳の男性である。また、29歳の女性は、タミフル服用後低体温(34℃)となり重篤なチアノーゼと痙攣をきたして死亡し剖検で肺水腫が認められた。その後厚生労働省は2人の感染症増悪による死亡例を報告した。また、論文脱稿後に、血液-脳関門におけるオセルタミビルの排出トランスポーターがP-糖タンパクである、ということを、3か所の研究者たちが異口同音に報告している。
この結果、死亡例はこれまでに合計84人、うち突然死が52人となった。突然死し、解剖された4人とも、肺水腫が認められている。