(2008.06.04号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No106

国は、因果関係の認定方法を根本的に見直すべき
コレステロール低下剤による神経障害の判決に学べ

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック) 代表 浜 六郎

もう一つの重要な薬害裁判

2008年1月、薬害C型肝炎の政治解決に際して福田康夫総理は「薬害再発防止に最善かつ最大の努力を行う」、舛添要一厚生労働大臣は「二度と薬害を起こさない行政の舵取りをしっかり行いたい」と述べ、5月23日「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」の第1回会合が行われた。実は、その前日(5月22日)、東京地方裁判所民事第3部法廷において、重要な判決が言い渡されていた。

医薬品機構・国に認定を拒否され提訴

この裁判の原告は『私は薬に殺される』の著者福田実さん。身長178cm体重85kg前後と大柄で病気知らずの営業マンであった。33歳のとき、健診で総コレステロール値254mg/dLを指摘され、コレステロール低下剤のベザフィブラート(商品名ベザトール:服用期間96.12〜98.8)およびプラバスタチン(メバロチン:同97.2〜98.12)を服用した。

服用開始1か月以内から感染症が次々と出現し、2年近く経つと、とうとう、歩行し難く(筋萎縮および筋力低下)、四肢のしびれ(感覚障害)、排尿できない(尿閉)、嚥下できないなどの神経症状が次々と出現した。副作用被害救済制度(注1)で医療費などの給付請求をしたが、2001年8月30目付で不支給決定。審査申立ても却下されたため、不支給取消を求め提訴した(症状経過は原告の著書、医学的判断は、『下げたら、あかん!コレステロールと血圧』(浜)参照)。

神経症状の存在と因果関係を判決で認定

被告国・機構は、神経症状の存在自体を否定し、根拠なく、身体化障害(以前いわゆる「ヒステリー」と呼ばれていた神経症の一種)や椎間板ヘルニアとし、コレステロール低下剤との因果関係も否定した。

しかし、相談を受けた筆者ら(注2)の鑑定意見書や証言を重視し、東京地方裁判所は、国の主張をことごとく否定し、原告の請求を認め、5月22日不支給処分取消の判決を下した。判決に際して、筋萎縮および筋力低下(脱力)、感覚障害(四肢のしびれ)、排尿障害(尿閉)ならびに嚥下障害の存在を認めるとともに、因果関係を「高度に蓋然性ある」と認定した。

因果関係認定の理由も明快

判決では、筆者らの鑑定意見を取り入れ、スタチン剤が (1)細胞膜や神経の膜構造の重要な構成成分コレステロールの合成を阻害、(2)ミトコンドリアでの電子伝達系の主要補酵素ユビキノンの合成を阻害、(3)糖タンパクの原料となるドリコールの合成を阻害、(4) 添付文書にも末梢神経障害が明記、(5)複数の症例報告があり、(6)関連を認めた疫学調査が複数存在することなどを因果関係認定の理由とした。

国の因果関係の判定の欠陥を如実に示した判決

これほど明瞭な因果関係の害反応を国は否定し、審査請求を却下し、提訴後も5年にわたり争ってきた。同様の神経障害例は多数報告されているはずだが、国・機構はそれらを十分に知りうる立場にありながら否定し続けてきた。国・機構の害反応の因果関係判定方法の欠陥は明らかである。根本的な見直しが必要だ。

他の薬害被害の認定につながる判決

この判決に問題があるとすれば、副作用被害救済制度における認定に、一般医療訴訟の立証と同レベルの因果関係の強さを求めた点である。この制度の設立趣旨−裁判の長期化による被害救済の遅れを回避するため−を考慮すれば、本来もっと緩やかな基準で認定されなければならない。しかし、現在の被害救済制度の認定が極めて厳しい条件を要求されていることを考慮すれば、今回の判決は、タミフルによる突然死や異常行動後の事故死などで却下された多数例の見直しにつながる判決であるといえる。

薬害C型肝炎訴訟が和解し、薬害再発防止が国の重要課題となっている今日、機構・国は、本判決を真摯に受け止め、判決を受け入れなければならない。それこそ、薬害再発防止の第一歩である。

(以上、『薬のチェックは命のチェック』No31、NPOJIPの提言より)


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