(2008.07.28号)
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No109
廣田法では、差がないと仮定したデータで差が生じる!
解析方法の誤りが明らか
TIP誌に詳細分析結果を掲載予定
NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック) 代表 浜 六郎
7月10日、1万人を対象にした大規模な調査(廣田班調査)の結果が発表されたので早速検討を加え、その調査結果の問題点について速報しました(『薬のチェック』速報No108参照)(重要な部分のPDFファイル、全体版厚生労働省のホームページのカラーのスライドを参照)。
その結果
- タミフル処方群 13.0%(7586人中988人が異常行動)
- 非処方群 8.8%(2129人中187人が異常行動)
オッズ比1.56(95%信頼区間1.32-1.84、p=0.0000001)
タミフルが異常行動を起しやすくなる倍率を「オッズ比」という指標で表すと、1.56倍でした(オッズ比=1.56)。その95%信頼区間は1.32から1.84でした。このことは速報版108号で指摘しました。
その後、さらに詳しく検討した結果(第一論文:廣田班中間報告批判)を、8月上旬に発行予定のTIP誌2008年7/8月合併号に掲載予定です。重要な問題であるため、発行前に速報いたします。
廣田法では、差がないと仮定したデータで差が生じる
TIP誌の記事でもっとも重要な点は、差がないと仮定した単純なモデルを用いた場合に、『薬のチェック』で実施したITT解析の方法と、廣田班の方法(「廣田法」と略)で計算した場合の決定的な違いです(表1)。
すなわち、ITT解析では、「差がない」との仮定どおり、「差がない」結果がえられますが、廣田法では、「差がない」と仮定したのに、計算の結果、タミフル群と非タミフル群で、大きな違いが生じるのです(詳細は、TIP誌最新号2008年7/8月合併号参照、第一論文:廣田班中間報告批判を参照ください)、このほか、第二論文:予防臨床試験(RCT)で精神障害増加、第三論文:基礎的知見も参照ください)。
廣田法の間違いを指摘する声が広がっている
NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)が、昨年末の廣田法の計算方法のまちがいを指摘した後、廣田法の解析方法が誤りであることを指摘する意見が相次いでいます。特に、前回誤りを指摘したのに、同じ誤りをしたことに関する指摘も見られます(この指摘は未公表です)。公表されている批判としては、下記が見られます。
- NATROMの日記
- 粂和彦のメモログ
厚労省発表と、朝日新聞報道に対する批判
- 日経メディカルブログ:北澤京子の「医学論文を斬る」リン酸オセルタミビルと異常行動の関係は?−厚労省廣田班発表資料を読む、
また、薬害タミフル脳症被害者の会は7月27日総会において、厚生労働省研究班の疫学調査結果は誤りだと批判する見解をまとめ、要望書を提出しました。
- タミフル調査結果を批判 異常行動で死亡の遺族ら
マスメディアでも、間違いに気付き始めています
これまで、マスメディアの中で廣田法の間違いに気付き、報道したのは毎日新聞だけでした。
しかし今回、再び同じまちがいをしたことで、疫学専門家、基礎医学研究者、一部メディアの中にも間違いを指摘する声があり、7月27日薬害タミフル脳症被害者の会も間違いを指摘したことが報道されました。
こうしたことから、いよいよ、マスメディアの多くが廣田法の間違いに本格的に気付き始めています。
廣田法が、科学的に完全な間違いの解析にこだわり続けることから、タミフルと異常行動との因果関係に関して、やはり否定できないのでは、との感触を得ているマスメディア、の方が増えてきています。
服用群に限ると1.7倍、1日に異常行動が集中すれば2.8倍、
半日に集中するなら、4.7倍に異常行動が増加すると推定される
適切な仮定の下に推計すると、服用群に限ればオッズ比は約1.7、超過異常行動がタミフル服用後1日に集中すると仮定すれば、オッズ比約2.8なると推定され、超過異常行動が服用後半日に集中すると仮定すれば、オッズ比は約4.7になると推定されました。廣田班の2種類の計算方法による両群の発症割合も含めて、これらの結果を表2にまとめて示しておきます。
タミフルが異常行動を増加させることを支持する新たな事実も判明
さらに、これに追い討ちをかける決定的事実(TIP誌2008年7月号第二論文:予防臨床試験(RCT)で精神障害増加)が、明るみに出ました。これはプラセボを対照としたランダム化比較試験の結果で、幻覚や統合失調症、精神病など重い精神障害が有意に増加したという事実です。詳しくはこちら(『薬のチェック』速報No110)。
関係者の責任は重大
これら重要なデータを全て関連なしとしてタミフルに安全宣言を出すことになれば、厚生労働大臣をはじめ、医薬食品局長、審議官、安全対策課担当者、中外製薬、安全対策調査会委員、参考人、基礎および臨床作業班の各委員、横田班および廣田班の代表ならびに各班員の責任は極めて重大です。
良識ある判断を望みたいと思います。
薬害タミフル脳症被害者の会は要望書で、間違った結論に基づきタミフルの使用に安全宣言が出るようなことになれば、「関係者に対する法的措置を取らざるを得なくなる」としています。
とくに重要な点(「差がない」とした仮定どおりの結果とならない)について、以下に示しておきます。
廣田法では仮定と矛盾
単純なモデルを用い、「タミフルが異常行動に影響しない」と仮定して廣田班の方法で計算すると、仮定と矛盾した結果が得られる(表1)。こうしてみると、廣田班の問題点が一目瞭然である。
- 仮定(1):タミフルはインフルエンザの経過中異常行動発症に影響しない。
- 仮定(2):モデルの概要:
- 対象者およびその数:タミフル処方群と非処方群の違いは、タミフルが処方されたか否かだけであり、
他の背景要因は等しいものとし、いずれも100人とする
(たとえば、初回タミフル服用時間と初回の他薬剤服用時間も同じとする)。
- 受診前の異常行動発症者:両群とも3人とする
- 受診後タミフル服用前の異常行動発症者:タミフル処方群では、
服用前に2人、非処方群では他薬剤服用前に2人が異常行動を発症するものとする。
- タミフル服用後の異常行動発症者:タミフル服用後5人が異常行動を発症し、
非処方群でも、他薬剤服用後に5人が異常行動を発症するものとする。
- 一次予備解析データを用いた異常行動発症割合
- ITT解析:
- 両群とも100人中10人(10%)に異常行動が発症。オッズ比は1であり仮定と一致
- 廣田法(A):
- タミフル処方群中タミフル服用前に異常行動を発症した5人(受診前3人、受診後2人)を、
タミフル群の分母(100人)と分子(10人)から除いた残りを、
タミフル服用群の分母(95人)と分子(5人)とする。
一方、除いた5人ずつを非処方群の分母と分子に加えて非服用群の分母(105人)と分子(15人)とする。
その結果、タミフル群は5.3%(5/95)、非タミフル群は14.3%(15/105)となり、
オッズ比0.33となる。
タミフルが異常行動に影響を及ぼさないと仮定したのに、
両群の異常行動発症割合に大きな違いが出るので仮定と矛盾することになる。
したがって、廣田法は、そのどこかに誤りがあると考えられる。
- 中間報告データを用いた異常行動発症割合
- ITT解析:
- 受診前に異常行動が発症した3人は両群の分母(100人)と分子(10人)からそれぞれ除いて比較。
両群とも97人中7人(7.2%)に異常行動が発症。オッズ比は1であり仮定と一致する。
- 廣田法(B):
- 受診前に異常行動が発症した3人を両群の分母と分子からそれぞれ除き、
分母97人、分子7人とする。ここまではITT解析と同じ。
次に、タミフル処方群中タミフル服用前に異常行動を発症した2人をタミフル群の分母と分子から除き、
残りをタミフル服用群の分母(95人)と分子(5人)とする。
そして、上記で除いた2人を非処方群の分母と
分子に加えて非服用群の分母(99人)と分子(9人)とする。
その結果、タミフル群は5.3%(5/95)、非タミフル群は9.1%(9/99)、オッズ比0.56となる。
両群に違いが出るため仮定と矛盾する。
したがって、
廣田法は、そのどこかに誤りがあると考えられる。
- 最終報告として実施すべき解析方法
- ITT解析:
- タミフル群からタミフル服用前の異常行動発症者を全て除き、分母95人、
分子5人とする。一方、非処方群からは、他薬剤服用前の異常行動発症者を全て除き、
分母95人、分子5人として比較する。両群とも95人中5人(5.3%)
に異常行動が発症。オッズ比は1であり仮定と一致する。
- 一部に提案されている方法7):
- タミフル処方群からタミフル服用前の異常行動発症者すべて(3人+2人=5人)を除き、分母95人、
分子5人とする。
一方、非処方群からは、受診前の異常行動発症者(3人)だけを除き、
分母97人、分子7人として比較する。
タミフル服用群95人中5人(5.3%)、非処方群97人中7人(7.2%)に異常行動が発症。
オッズ比は0.71であり、この場合も仮定と矛盾する。
したがって、この方法も、そのどこかに誤りがあると考えられる。
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