(2009.05.22号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No120

産婦人科医会に再考を求める:
タミフルを妊婦に使用すると
流産、胎児/新生児死亡、妊婦自身の危険が増大

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック) 浜 六郎

社団法人日本産婦人科医会が、開業医らに対して5月19日、妊婦や授乳中の女性がインフルエンザに感染した場合、抗インフルエンザウイルス剤(タミフル、リレンザ)の使用を勧める内容の通知を出したとの報道があり、早速、その問題点を指摘した意見書を19日付けで提出しました(速報No119)。

これに対して、5月20付けで「通知を変えることは致しません」との返事がメールでありました。

そこで、21日付けで再考を求める意見書を提出いたしましたが、提出後に、日本産婦人科医会のホームページ上に上記通知の内容が判明し、米国CDCの最新の情報[1]が「参考資料」としてあげられ、その重要な根拠となっていることが判明しました。そこで、この根拠についても考慮した内容を追加して、再考を求める意見書(改訂版)を作成し22日に改めて送付しました。日本産婦人科医会の返事と、再考を求める意見書(改訂版)を掲載します。

再考を求める意見書およびその改訂版作成の過程で、さらに詳細に検討した結果、新たに、流産や、胎児死亡の危険増大の害もありうることが判明しました。妊婦にタミフルを使用すると、流産や胎児死亡・新生児死亡、妊婦自身への害もありうるので、使用しないようにお願いいたします。

乳幼児や10代はもちろん、他の年齢についても不要・危険であることは、これまで同様です。

社団法人日本産婦人科医会から返事(5月20日付)


NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック) 代 表 浜 六郎 殿

前略失礼いたします。ご意見と、添付論文を拝読いたしました。結論からいえば、日本産婦人科医会のタミフル、リレンザの通知を変えることは致しません。理由は以下の通りです。

  1. どのような薬剤であっても、薬剤の影響に関して、ラットの動物実験をそのまま人へ当てはめることはできません。
  2. 添付された動物実験の実験計画をみても、妊娠6日から分娩まで投与する長期間にわたる薬理学的大量投与実験の結果を、臨床応用に当てはめることはできません。
  3. 妊婦に投与された諸外国の事例では、妊婦、胎児への悪影響の報告は見ていません。
  4. 妊産婦のインフルエンザ事例を多く経験している米国CDCの判断で、抗インフルエンザ薬の使用を勧めていることを、日本産婦人科医会は評価しています。
  5. 日本産婦人科医会と日本産婦人科学会は、共同で、抗インフルエンザ薬に関する妊産婦と授乳婦に対する影響に関して、手に入る全ての学術文献を調査し、その結果から、産婦人科ガイドラインにも、同様な指針を公表しています。

従って、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合には、抗インフルエンザウイルス薬の使用をためらうべきではありません」とした次第です。

社団法人日本産婦人科医会


NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)からの再考を求める意見書(改訂版)

2009年5月21日(5月22日改訂版)


社団法人日本産婦人科医会御中

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック) 代表   浜  六郎

早速のご返事をありがとうございました。世界中が、ワクチンやタミフルの使用を無効にもかかわらず容認している中、また米国CDCもタミフルの妊婦への使用を容認するような文書を出している中、日本産婦人科医会のみが、逆の立場をとられることは、困難であるかも知れません。

しかしながら、貴会の判断は、以下の理由により、適切とは申せません。再度、ご考慮いただきますようお願い申し上げます。

(1)ラット実験結果の人への当てはめについて

「ラットの動物実験をそのまま人へ当てはめることはできません」とのご指摘は、一般的にはその通りです。しかしながら、ヒトでの適切な対照試験がなく、ヒト常用量に近い用量で動物に毒性が出ている場合には、動物実験データを重視する必要があります。

タミフルの妊婦・胎児への影響に関しては、ヒトでの適切な対照試験がありません。しかも、安全量(最大無毒性量)が決定されておらず、ヒト常用量換算2倍量でオッズ比が4.7(95%信頼区間1.58-14.1)であり、明瞭な死亡増加が認められ、きわめて危険である可能性があり、重視すべきものと考えます(図にオッズ比を示しておきました)。

オッズ比

(2)動物実験における長期にわたる大量投与について

  1. そもそも、タミフルは何百万人、何千万人に使用するほどの薬剤として開発されています。それに引き換え、動物実験では、通常1群数匹〜20匹程度です。何千人、何万人に1人の割合で生じうる重大な害を、少数の動物で発見するためには、大量を長期間使用する必要があるのです。これは動物実験の常識です。そうでなければ動物実験の意味がありません。
  2. しかも重要なことに(繰り返しますが)、これほど少数の動物実験でも、臨床用量の2倍(最低用量)で新生児(新薬承認情報集や添付文書では、動物についても「出生児」「胎児」を使用しているので「児」を使用する)の死亡が対照群と比較して5倍近くに有意に増加し、極めて明瞭な用量-反応関係が認められており、新生児に対する安全量は求められていないのです。
  3. また、非妊娠動物より妊娠動物のほうにタミフルの毒性が強く現れています。ラットだけでなくウサギ(添付 新薬承認情報集p205,206,214)でも、臨床用量のたかだか4倍で妊娠動物に毒性が出現し、無毒性量(安全量)が決定できていません。8倍(150mg/kg)で食事摂取量低下、体重増加減退、50倍(500mg/kg)では19匹中7匹が死亡。2匹が瀕死のため屠殺されました。2匹とも妊娠していましたが、胎児は全て吸収されていました(すなわち流産扱いです)。また、5匹は流産徴候があったために屠殺されましたが、胎児はすべて吸収もしくは死亡していました(このデータは前回添付していなかったので添付します)。
  4. 妊娠時にタミフルの毒性が強く出る可能性は、妊娠時には異物を有している状態であり被刺激性が高まっていて高サイトカイン状態になりやすいためではないかと考察します。さらに、分娩直前から分娩中にはプロスタグランディンレベルが上昇するためタミフルの胎児への移行が大きくなり、しかも胎児の未熟な血液-脳関門を未変化体タミフルが容易に通過する可能性が高いと考えられます。こうした可能性を考えると、妊娠中に母動物がタミフルを使用した場合の流産や母体死亡、新生児死亡とタミフルとの因果関係は明瞭です。
  5. NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)でこれまで多数の薬剤を検討してきましたが、最低用量でも母体に毒性があり、最低用量(ヒト常用量近く)で新生児死亡が有意に増加し、しかもこれほどオッズ比が高い例は、極めてまれなことです。
  6. しかも、動物は妊娠していてもインフルエンザには感染していませんが、人の場合には妊娠に加えてインフルエンザに感染しています。さらにタミフルの毒性が現れやすいのです。
  7. これらのことを総合的に考慮するならば、妊婦にタミフルを使用すれば、母体への害とともに、流産や胎児死亡、新生児の早期死亡が十分に起こりうることと考える必要があります。

(3) 妊婦投与の諸外国の例について

  1. 実際にヒトに使用した後で流産や胎児死亡、新生児の早期死亡があった場合、流産や死亡がタミフル使用に関係する可能性を考えるためには、上記のような動物実験結果のデータとその意味に関する情報が、処方する医師や患者に提供されていなければなりません。
  2. 妊婦への使用で本当に害がないのかどうかを確認するためには、上記の動物実験結果を、処方する医師や患者に十分に情報提供したうえで、大規模かつ適切な対照試験を実施する必要があります(これほど明瞭な動物実験結果がありますので、そうした試験・調査そのものが非倫理的と考えますが、仮に確認が必要とした場合を想定するならば)。
  3. そうした情報がないまま妊婦に使用して、流産や胎児死亡、新生児の早期死亡があったとしても、普段の診療に際しても、また、臨床試験や調査を行うにしても、因果関係の確認に至ることは不可能でしょう。
  4. 現在の日本の添付文書では、「雌において胎児への移行が認められ、移行放射能は母体側血漿の約1/2であった。」と記載がある以外、母体への影響や、流産や新生児死亡については一切記載されていません。米国の添付文書は日本の添付文書よりは詳しいものの、母体への影響や、流産や新生児死亡についての記載がない点は日本と同様です。
  5. したがって、タミフルの妊婦や胎児・新生児への影響の調査がこれまでにあったとしても、こうした不完全な情報しかないままですし、適切な対照試験も実施されていないのですから、「妊婦、胎児への悪影響の報告は見ていません」は当然のことであり、そのように述べられても何の意味もないと考えます。

(4)CDCの判断について

  1. 貴会の判断は、CDCの判断を踏襲されたとのことですが、米国の添付文書では、妊娠のカテゴリーはCです。すなわち、「動物生殖試験では,胎仔に対する害があることが証明されているが、妊婦では適切かつ十分な対照試験が実施されていないもの」です。
     そのため、添付文書には、「動物の生殖試験は、ヒトでの反応を必ずしも予測するものではないが、妊婦では適切かつ十分な対照試験が実施されていないので、タミフルは、胎児に対する潜在的害があったとしても、それを正当化するだけの利益がある場合にのみ使用するようにすべきである。」とされています。
  2. したがって、この場合は、個々の医師が状況に応じて害と利益のバランスを判断することになります。
  3. しかしながら、前項で述べたように、米国の添付文書は日本の添付文書よりは詳しいものの、母体への影響や、流産や新生児死亡についての記載がない点は日本と同様です。
  4. したがって、不完全は情報提供により収集された不完全なデータに基づいていますので、CDCの判断も適切とは言えません。
  5. 日本では過去に多くの薬害事件を起していますが、日本だけでなく、米国でも同様に生じています。米国の薬害は、最近の例ではVioxxという非ステロイド抗炎症剤で生じたとおり、極めて重大なものがありますので十分な注意が必要と考えます。

(5)日本産婦人科医会と日本産婦人科学会の見解について

日本産婦人科医会と日本産婦人科学会の見解は、CDCの方針を踏襲しておられるとのことですから、繰り返しません。

なお、貴会が入手されたすべての学術論文について、お示しいただければ幸甚です。

(6)CDCの最新の報告について

貴会の5月19日付け通知の大きな根拠として、米国CDCの最新の情報[1]を「参考資料」としてあげ、以下(斜体)のように述べられています。

アメリカのCDC=疾病対策センターの報告によると、「アメリカ国内で新型インフルエンザウイルスに感染したか、感染の疑いがある妊娠中の女性は今月10 日の時点で20 人に上り、3 人が入院した。このうち、喘息などを患っていた33 歳の女性は、抗ウイルス薬による治療を受けないでいたところ、容態が悪化し、赤ちゃんを出産したが、およそ2 週間後に女性は死亡した」とあり、このことから、CDCは、妊娠中の女性は、通常のインフルエンザと同様に新型のイ ンフルエンザでも重症になるおそれがあり、喘息などの病気がある場合には、特にリスクが高いとしています。

しかしながら、この女性(症例A)は、これまでに乾癬と喘息があり、4月14日に発症し15日に産婦人科医に受診し、おそらく内科医をも受診して迅速検査でインフルエンザ陽性として治療を受けていますが、その治療の内容は不明です。咳や発熱を生じてから4日目の19日に救急病院を受診したときにはすでに呼吸窮迫があり、直ちに挿管、人工換気装置が装着され、緊急で帝王切開により出産しています。21日は呼吸窮迫症候群(ARDS)に進展しています。

CDCがあげた別の症例(症例B)[1]では解熱剤として、非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)が使用されていますので、この女性にも4月15日から19日の間にNSAIDsが使用されているかもしれません(少なくとも使用を否定できる証拠はいまのところありません)。

CDC以外の検査センターのrRT-PCR (real-time reverse transcription-polymerase chain reaction)では、25日にタイピング不能のインフルエンザAウイルスとの結果を得ましたが、CDCでは確認できず、タミフルが使用された28日以降に繰り返し検査をして、ようやくCDCでいわゆる「新型」のA/H1N1と診断されたということです。したがって、タミフル使用後にも検査でウイルスは消えていないということになります。

CDCは、別のCDCの総説論文[2]を引用して、タミフルは発熱症状発現48時間を超えて用いても有効である可能性に言及しています。しかしその根拠とした2つの調査[3,4]は、いずれも観察調査であり、ランダム化比較試験ではありません。文献の一つ[3]では、タミフル服用者は(71%が入院後48時間を超えて服用開始)、入院15日目の死亡率がタミフル非使用者より低かったが、入院日数や30日目の死亡率には差はなかったとされています。またこの論文では、NSAIDsによる影響(交絡)が何も検討されていません。もう一つの根拠としている文献[4]は、後ろ向きコホート調査ですが、48時間以内の服用者が48時間を超えて服用した人に比較して入院期間が2日短かったというものです。この調査でもPubMedのサマリーを見る限りでは、NSAIDsとの交絡は考察されていません。

上記患者さん(症例A)は、重症化してからタミフルが使用されました。タミフル使用にもかかわらず死亡していますから、無効であったといえます。

そもそも、この症例1例だけで、しかも重症化するまでにタミフルが使用されなかったということをもって、タミフルを最初から使用していたら死亡を免れていた、という証拠には何らなりません。

解熱剤として、非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)が使用されていなかったかどうかさえ、不明なのですから。

米国では、小児に対するアスピリンは禁止されていますが、大人に対する規制はなく、またイブプロフェンは、小児の解熱にも成人の解熱にも用いられます。

症例Bでは、具体的な薬剤名は不明ですが、注射剤のNSAIDsが用いられたとされています。成人に対しては、感染症の解熱にNSAIDsが用いられた可能性は否定できません。

症例Aで4月15日から19日までにNSAIDsが用いられたとすれば、重症化は、インフルエンザの影響そのものより、NSAIDsの影響の方がはるかに強いということになります。

原文に訳文を添えて引用しておきます。

Patient A. On April 15, a woman aged 33 years at 35 weeks' gestation with a 1-day history of myalgias, dry cough, and low-grade fever was examined by her obstetrician-gynecologist. She had been in relatively good health and had been taking no medications other than prenatal vitamins, although she had a history of psoriasis and mild asthma. The patient had not recently traveled to Mexico. Rapid influenza diagnostic testing performed in the physician's office was positive.

On April 19, she was examined in a local emergency department, with worsening shortness of breath, fever, and productive cough. She experienced severe respiratory distress, with an oxygen saturation of approximately 80% on room air and a respiratory rate of approximately 30 breaths per minute. A chest radiograph revealed bilateral nodular infiltrates. The patient required intubation and was placed on mechanical ventilation. On April 19, an emergency cesarean delivery was performed, resulting in a female infant with Apgar scores of 4 at 1 minute after birth and of 6 at 5 minutes after birth; the infant is healthy and has been discharged home. On April 21, the patient developed acute respiratory distress syndrome (ARDS). The patient began receiving oseltamivir on April 28. She also received broad-spectrum antibiotics and remained on mechanical ventilation. The patient died on May 4.

On April 25, a nasopharyngeal swab specimen collected from patient A indicated an unsubtypable influenza A strain by real-time reverse transcription--polymerase chain reaction (rRT-PCR) at the San Antonio Metro Health Laboratory. The specimen was forwarded to the Virus Surveillance and Diagnostic Branch Laboratory, Influenza Division, CDC, where testing was inconclusive for novel influenza A (H1N1) virus. On April 30, a repeat nasopharyngeal specimen was collected, which was positive by rRT-PCR for novel influenza A (H1N1) virus at CDC.

上記の翻訳:

患者A.4月15日、妊娠35週の33歳の女性が前日から筋肉痛と乾性の咳、軽度の発熱の症状があるとの訴えで産婦人科医を受診した。この女性は、それまでは乾癬の既往歴と軽度の喘息があったが、比較的元気で妊娠中用のビタミン剤以外は薬剤をなにも服用していなかった。この女性は最近メキシコに旅行したことはなかった。内科医のクリニックで実施された迅速検査ではインフルエンザ陽性であった。

4月19日、彼女は呼吸困難、発熱、痰を伴う咳が悪化したために救急病院を受診した。重篤な呼吸窮迫があり、酸素飽和度は室内空気で約80%、呼吸数30回/分であった。胸部レントゲンでは両側に結節状の浸潤影が認められた。挿管が必要となり人工換気装置が装着された。19日に緊急帝王切開が実施され、女児を出産。出生1分後のapgarスコアは4であり、5分後は6であった。児は元気でありその後退院し、帰宅した。21日には、患者は呼吸窮迫症候群(ARDS)となった。患者には28日からオセルタミビルが開始された。また、広域スペクトルの抗生物質が用いられ、人工換気が継続された。5月4日に死亡した。

4月25日採取した鼻咽頭スワブのreal-time reverse transcription-polymerase chain reaction(rRT-PCR)(San Antonio Metro Health Laboratoryで実施)による検査結果は、タイピング不能のインフルエンザAウイルスを示していた。この検体は、CDCインフルエンザ部門のVirus Surveillance and Diagnostic Branch Laboratoryに送付され、精密検査の結果、新型インフルエンザA(H1N1)かどうかの結論がでなかった。4月30日に、繰り返し鼻咽頭スワブが採取され検査された結果、CDCのrRT-PCRで「新型」インフルエンザA(H1N1)が陽性であった。

以上、再度ご賢察のほどお願い申し上げます。

連絡先:
〒543-0002 大阪市天王寺区上汐3−2−17 902
TEL 06-6771-6345 FAX 06-6771-6347
URL:http://www.npojip.org
e-mail:gec00724@niftiy.com

参考文献

  1. CDC. Novel influenza A (H1N1) virus infections in three pregnant women---United States, April--May 2009. MMWR 2009;58:497--500.
  2. CDC. Prevention and control of influenza: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP), 2008. MMWR 2008;57(No. RR-7).
  3. McGeer A, Green KA, Plevneshi A, et al. Antiviral therapy and outcomes of influenza requiring hospitalization in Ontario, Canada. Clin Infect Dis 2007;45:1568--75.
  4. Lee N, Chan PK, Choi KW, et al. Factors associated with early hospital discharge of adult influenza patients. Antivir Ther 2007; 12:501--8.

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