(2009.9.9号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No131

インフルエンザ:
死亡はタミフルでは防げない

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)  浜 六郎

8月30日にタミフルが処方されていた健康40代女性が突然死していたとのニュースが31日にありその後道の調査で、タミフルを服用していなかったことが判明した、と報道されました。

「タミフルの服用は、新型インフルエンザの早期治療に有効で、医療従事者でもある保健師がなぜ使用しなかったのかわからない」との北海道健康安全室のコメントとともに、「タミフルを使用しなかったため症状が悪化し、急性心不全を引き起こした可能性もあり」と、いかにも「タミフルを飲んでいたら助かったかもしれない」ともとれる報道でした。

このためタミフルの使用に慎重になっていた多くの人を始め、医療現場でも動揺が見受けらます。「タミフルを使用しなかったため症状が悪化し、急性心不全を引き起こした可能性」が本当にありうるのでしょうか。

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)ではこの点を重視し、『薬のチェックは命のチェック』No36号に記載した内容を速報版としてお送りします(一部加筆)。

公式発表によると、死因は「急性心不全」。警察は事件性がないと判断し、病理解剖がされたとのことです(注)。

注:
病気や事件の原因を調べるために行なわれる解剖には病理解剖と法医解剖がある。法医解剖には司法解剖と行政解剖がある。犯罪など事件に関係する可能性がある場合には、通常、「司法解剖」が行われる。死因が明らかでない病死者や自殺者、感染症法で定められた感染症死亡者、食中毒患者などに関しては監察医のある都市では監察医による診断、すなわち「検案」がなされ、必要があると判断されれば解剖が行なわれる。監察医が行なう解剖が「行政解剖」である。北海道には監察いがいないために、病理解剖が実施されたのであろう。

重症化はサイトカインストームのため

まず、インフルエンザのふつうの経過をみてみましょう。外から進入し鼻やのどの粘膜の細胞で増殖するウイルスに対し、人の身体は、発熱とともにインターフェロンなどサイトカインを出してやっつけます。熱がピークに達した頃には、身体の中のウイルスはすでに減り始めているのです。タミフルを使う前からウイルスは減り始めています。

つぎに、インフルエンザの重症化がどのように起きるのかを見てみましょう。ウイルスが居やすい体の環境があると、ウイルスが増殖します。そこで、増殖したウイルスをやっつけるために、体はより高い熱を出し、体内からインターフェロンなどサイトカイン類がさらにたくさん(過剰に)出します。これをサイトカインストームといいます。過剰なサイトカインは、自分自身の身体まで攻撃するようになります。

ふだんは健康なひとが、ウイルスが増殖しやすい体内の環境に陥りやすいのは、過労状態や睡眠不足、体温の低下、非ステロイド解熱剤などを使用した場合です。とくに、解熱剤を使いながら仕事を続けて過労状態になり、高熱を非ステロイド解熱剤で下げると、インフルエンザウイルスの絶好の増殖環境になります。

その結果サイトカインストームが起こり、心筋や肺、肝臓、脳、腎臓など、身体のいろんな臓器が侵されて重症化します。心臓は劇症型心筋症に、肺は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や肺炎に、肝臓は脂肪肝を伴う劇症肝炎に、脳は脳症や脳炎に、腎臓は腎不全となります。血液系(播種性血管内凝固症候群:DICによる出血)や消化管(出血)、筋肉(横紋筋融解症)の障害なども生じることがあります。多臓器不全は、死亡につながる危険な兆候です。

非ステロイド解熱剤は、インフルエンザに伴う重症化の大きな原因となっています。

タミフルではサイトカインストームは防げない

もしも、この状態になってもタミフルが効いて多臓器不全が軽くなるのであればタミフルをつかっていたら防ぐことができる、といえますがどうでしょうか。

タミフルの使用を推奨し、メーカーとの金銭的つながりが問題となった横田俊平教授(横浜市立大学小児科)ですら、タミフルが「インフルエンザ脳症を予防する証拠はない」という趣旨を論文で述べています。

横田俊平氏の見解(オセルタミビル(タミフル)でインフルエンザ脳症の発症が予防できるか?
    :小児内科36巻(12):1962-3,2004年)

インフルエンザ脳症に対するタミフルによるエビデンスは確立されていない。否定的である。

タミフルは重症化や死亡を防がない

この横田医師の考え方は適切です。タミフルはウイルス感染を阻止する薬剤でなく、感染したインフルエンザウイルスが細胞から出てきたところで、細胞から離れ難くするだけにすぎません。重症化を招くサイトカイン類に対してタミフルはなんら影響を及ぼさないのです。

したがって、タミフルはインフルエンザの経過中で重症化したり、その結果死亡に至らしめたりすることを防止しません。

なお、細胞に多数くっついているウイルスは、いずれにしても熱やインターフェロンなどサイトカインの働きがなければやっつけられません。

インフルエンザ重症化の兆候とは

実際にインフルエンザが悪化して心不全を起こし死亡することがありうるのか、検討してみましょう。

インフルエンザが悪化し急性心不全を引き起こして1日以内に死亡するとすれば、ふつうは、上記で述べたように、サイトカインストームが心臓に影響して「劇症型心筋症」を起こした場合です。

これは、解剖をすればその兆候は肉眼でも認められます。そしてその際には、心臓のポンプ作用そのものが障害されている「左心不全」の状態となり、それにともない肺に水がたまる「心原性の肺水腫」が認められなければなりません。

そしてサイトカインストームの影響は心臓だけでなく他のいろんな臓器に及んでいることが多いのです。たとえば、先述したように、肺には急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や肺炎、肝臓には脂肪肝を伴う劇症型肝障害、腎障害などです。

重症化の兆候はなかった

北海道の保健師さんの病理解剖を担当した医師の診断は、「インフルエンザと死亡との因果関係は特定できない」というものでした。したがって、インフルエンザの重症化として特徴的な「肺炎」や「急性呼吸窮迫症候群」「脳症」など多臓器不全の兆候はなかったと考えられます。

また、出血や、血管内で血液が固まって詰まる血栓症や塞栓症があれば、解剖すれば容易に発見できますから、そうした病気でもなかったのでしょう。

それに、呼吸困難など、症状の悪化に気づけば保健師さんですから、自分で悪化の兆候を判断して医療機関を受診するでしょう。そうした形跡がないことから、現時点では原因不明の「突然死」と判断できます。

もしも、この方に睡眠時無呼吸症候群の傾向があったとすると、タミフルを服用したなら、余計に呼吸が止まりやすくなり、やはり死亡を防止できません。不整脈があったとしてもタミフルではふせごことはできません。

メキシコや米国妊婦の死亡をタミフルが増加

速報No128で詳しく述べたように、メキシコではタミフルを使った重症入院患者は半数が死亡しましたが、タミフルを使わなかった重症入院患者はだれも死亡しませんでした。また米国の妊婦でインフルエンザにかかった人のなかには、タミフルを服用しなかった人も相当いますが、だれも死亡しませんでした。しかし、死亡した6人の妊婦は全員タミフルを服用していました。タミフルを服用した妊婦の1割近くが死亡したと推定されます。両方をあわせて解析すると、統計学的には有意となります。

この事実は、タミフルが死亡を防ぐことができないだけでなく、むしろ死亡を増加させている可能性を強く示唆しています。

タミフルを服用したために突然死や、呼吸が抑制されて急変し、ICUに入院が必要になったり、人工呼吸管理が必要となった例は、ほかにも多数あります。

近日中に、典型的なタミフル服用後に呼吸抑制が生じたと思われる例について解説したいと思います。

タミフルはやはり危険です。使用しないように


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