(2009.9.10号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No132

タミフル服用後、呼吸悪化が多い

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)  浜 六郎

『薬のチェックは命のチェック』速報版No129(8月25日号)で、8月17日発表分までの症例について分析した結果を詳報しました。

その後、9月9日までに亡くなった11人以外に、重症化して集中治療室(ICU)管理あるいは人工呼吸器管理された人は、脳症/脳炎を除いて、少なくとも22人いました(急変に備えてICU管理となった1人は除く)。このうち10人にタミフルが処方されていました。

に、この10人について、まとめてみました。なお、タミフルが処方されたとの記載がある場合には、特別の断りが無い限り、服用されたことを前提として、考えを述べます。

表 タミフルが処方され人工呼吸・ICU管理された10人

表 タミフルが処方され人工呼吸・ICU管理された10人

タミフル服用後に重症化した6人

10人中タミフル服用後に重症化した人が6人いました。この6人について検討してみましょう(これまでの報告速報版No129と一部重複しますが、これまでに紹介した人については要点を記しました)。

6歳の男児は、軽度無気肺から、タミフルを開始後、無気肺により呼吸状態が悪化したため気管内挿管。人工呼吸管理を開始されましたが、3日後には人工呼吸を中止することができました(詳細は速報版No129参照ください)。タミフル服用で呼吸が抑制されると、より強い無気肺・低酸素状態になり、人工呼吸管理が必要になった可能性が考えられます。

このことから、タミフルによる呼吸抑制/停止の可能性がかなり疑われます。

10歳未満の男児は、迅速検査でインフルエンザA型陰性であったけれども、インフルエンザ疑いとしてタミフルが使用されました。夜間に症状が悪化し、未明に医療機関受診し入院治療しても改善しないために他の医療機関で人工呼吸管理がなされ、人工呼吸管理開始3日目には体温は低下しましたが、4日目にもまだ人工呼吸管理は続けられています。

タミフルによる呼吸抑制/停止の可能性がかなり強く疑われます。

29歳男性(詳細は速報版No129参照)は、8月10日、39.2℃発熱。受診後インフルエンザと診断され、タミフルが開始されました。 その後、時間は不明ですが、人工呼吸管理が開始されました。

原病は不明ですが、人工呼吸管理歴があり気管切開がされていて人です。しかし、 タミフル服用前は人工呼吸管理はされていなかったのに、タミフル服用後、おそらく半日以内に人工呼吸管理が必要となったのです。関連が強く疑われます。

タミフル服用後に、脳が麻痺して呼吸する力が弱くなり 人工呼吸管理が必要になった可能性が高いと考えられます。

40歳男性は、タミフル開始翌朝、意識障害、血圧低下、呼吸障害を起こして人工呼吸管理が開始されました(詳細は速報版No129参照)。

もともと、慢性硬膜下血腫による両下肢機能全廃があり施設入所中でした。その施設内で40.2℃の発熱があり、タミフルを服用が始まり、翌日朝に、意識障害、血圧低下、呼吸障害のため医療機関に入院し、肺炎の合併が認められ、人工呼吸管理し、ICUに入室されました。入院3日目にも人工呼吸管理が続行されています。

タミフル開始翌朝の急変は大いに関連があると考えます。通常でも夜間睡眠中は呼吸が抑制されやすいので、神経障害のあるには、さらに呼吸停止が起きやすいと考えます。

40代の男性は、発熱4日目に肺炎が確認され、6日目に入院しました。迅速検査でA型インフルエンザは(−)でしたがタミフルが使用されました。その後集中治療室(ICU)へ入室し、酸素吸入が実施されましたが、翌日退室しました。

タミフル使用後ICUに入室したけれども、翌日には退室できたということは、酸素吸入が必要であったのは、短時間であったということを示しています。したがって、一過性の呼吸抑制/低酸素症であったと思われますので、タミフルによって脳が麻痺し、一過性に呼吸抑制/低酸素症が生じたのではないかと考察します。

典型的な、タミフルによる一過性の呼吸抑制/低酸素症と考えられます。

50歳女性は8月29日、39,7℃の発熱と呼吸困難あり、30日A医療機関を受診。喘鳴がありました。酸素飽和度が80%程度と低く、胸部レントゲンで肺炎所見を認めたため、B病院に入院治療となり、タミフルや抗生剤などで治療が開始されました。その後、呼吸状態が改善しないため、9月1日夕方より、挿管のうえ、人工呼吸管理が開始となりました。9月2日の精密検査(PCR法)で2009A/H1N1インフルエンザが陽性でした。低酸素血症のために入院後、タミフル使用されましたが、呼吸状態は改善せず、人工呼吸管理が開始となりました。

統合失調症がある人で、タミフル服用前からかなり高度な呼吸困難と低酸素血症があったのですが、タミフルで改善せず、むしろ呼吸が抑制され、呼吸状態がより悪化した可能性が考えられます。

重症化へのタミフル服用が関係しうる2人

上記のほか、時間的な関係が明瞭でないのですが、場合によっては、重症化の原因としてタミフルの使用が関係ないともいえない人が2人いました。

4歳の男児は、発熱(体温不明)があった翌日、うわごとなどの症状のためA医療機関を受診し、インフルエンザAと診断され、「インフルエンザ脳症」疑いにてB病院に移送されICUに入院しました。しかし、翌日には意識レベルが回復し、「インフルエンザ脳症」ではないと診断され退院して自宅療養になりました。経過中の最高体温は40.2℃で、タミフルのドライシロップが使用されていました。

タミフルはA医療機関でインフルエンザAと診断されてから開始されたと考えられますが、タミフルの開始と「インフルエンザ脳症」診断との時間的関係が不明です。しかし、「うわごと]程度ではICU管理が必要とは普通考えませんが、それが受診後にはICU管理が必要とされるほどの「脳症」が疑われ、28日には脳症ではなかったと診断されるほど意識レベルが急速に回復しています。したがって、非ステロイド解熱剤などが関係して発症する「脳症」ではありえないでしょう。

このような、一時的な意識障害の原因として、タミフル服用後の意識レベルの低下が疑われます。

9歳の男児は、8/27夜38.1℃発熱と咳や痰があり、8/28昼にA医療機関を受診し、検査でインフル(−)。29日午前2時38.8℃が続き、意味不明の言動が認められました。午前5時、救急外来受診、そのまま入院となり迅速検査でA型インフルエンザが陽性で、タミフルが開始となりました。酸素が使用され、意識障害があったため、脳症に対する治療(ステロイド療法)が開始されましたが、翌30日、体温38.0℃。意識障害が改善。31日酸素を減量。午後7時体温37.0℃で脳症症状は改善し回復傾向にあるとされています。

タミフル使用時間と酸素使用、意識障害開始の時間的関係は不明瞭ですが、意味不明の言動が認められた子に、タミフルを使用すると、さらに意識障害が出現しやすくなることが、京都の藤原史博医師らの調査で判明しています(注1)。

スライドNo21参照:注2)。

さらには、意識障害だけでは通常、酸素吸入が必要になることはありません。したがって、意識障害が呼吸抑制とともに同時に起きた可能性が考えられます。

意識消失し、けいれんを生じて入院した14歳中学生(当時)男子の症状より重症ですが、似ているのではないかと思えます(速報No107紹介英語論文中の症例6:翻訳版7ページ)。

注1:もともと異常行動のない人では、タミフルを使用しなければ6.2%、タミフルを使用したら、10.0%に異常行動が現れました(タミフルによる危険度は1.7倍でした)。
 一方、以前異常行動を起こした人では、タミフルを使用しなくても10.7%、タミフルをしようしたら36.8%に異常行動が現れたのです(タミフルによる危険度は4.9倍でした)。いずれの場合にも統計学的に有意でした。
注2:このスライドは、2008年11月の日本小児感染症学会での藤原史博医師らの発表内容を引用した、2008年日本臨床薬理学会での演題1のスライド(速報No116参照)

人工呼吸開始後にタミフル開始の2人:影響評価不能

4歳男児は咳で発症後発熱し.発病3日目に呼吸状態が悪化して入院。肺炎がありました。改善しないため人工呼吸管理が開始され、その後タミフルが使用されました。人工呼吸管理が開始されてからタミフルが使用されたため、意識や呼吸に対するタミフルの影響の評価は不可能です。

40代女性は、17日39.0℃の発熱、息苦しさがあり近医を受診。21日にも症状が改善せず医療機関を受診し、肺炎疑いで入院。入院後肺炎が急速に悪化し、その夜転院。ICUで人工呼吸器装着。迅速検査でA型インフルエンザ陽性のためタミフル投与が開始されました。入院(転院)4日目には呼吸状態・全身状態は落ち着いていが、人工呼吸器は使用中とのことです。

この方も、人工呼吸管理開始後にタミフルが使用されたため、 呼吸に対するタミフルの影響の評価は不可能です。


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