(2012.06.05号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No158

イレッサ:歴史的な悪判決が大阪でも
科学的不正を裁けない司法に抗議する
イレッサの毒性・本質的欠陥を的確にとらえよ!

肺がん治療用剤「イレッサ」(一般名・ゲフィチニブ)服用後に、その害により死亡した患者の遺族らが、承認した国と、製薬会社「アストラゼネカ」(ア社)に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が5月25日、大阪高裁であった。渡辺安一裁判長は、ア社のみに賠償を命じた大阪地裁判決を取り消し、原告全員の請求を退けた。東京高裁の判決と同様の結果となった。

2011年2月の大阪地裁判決では、イレッサそのものの欠陥は認めず、また国の責任は認めなかったが、間質性肺炎は「死に至る可能性があり、特に注意喚起が必要な場合に設ける」べき「警告欄」に記載すべきであり欠陥があったと判断し、ア社に対し、服用時期に応じ9人の原告に計約6000万円を賠償するよう命じていた。

しかし、今回の判決では、イレッサそのものの欠陥を認めないだけでなく、指示・警告上の欠陥も認めず製薬会社や国の責任はない、と結論した。

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)では、6月5日、イレッサの不当判決に抗議する声明を公表しました。以下はその内容です。

なお、イレッサの害については、判決前日(5月24日)の集会で講演したイレッサの医学的問題に関するスライドを参照ください(判決後に、一部加筆)。


イレッサ不当判決に抗議する声明

2012年6月5日

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)は、薬剤を科学的根拠に基づいて適切に使用するための情報を発信する特定非営利活動法人です。

私たちの分析では、肺癌治療用剤イレッサ(一般名ゲフィチニブ)は、その効果によって延命させた人よりも、 より多くの人を間質性肺炎のみならず、肺虚脱や急性呼吸窮迫症候群など肺傷害によって早期死亡に至らしめた毒性の強い物質です。 しかるに、大阪地裁と大阪高裁判決は、イレッサ承認に至る科学的不正を指摘せず、被告側資料の非科学的な根拠のみに依拠し、有効で安全と認定しました。 また、大阪高裁判決では危険性の警告についても、国及び企業の責任なしとしました。 これらの不当判決に対して強く抗議します。

第1に、大阪地裁と大阪高裁判決はともに、動物のEGFR欠損マウスの肺虚脱所見、イヌの肺虚脱を無視し、肺障害が予測不能であるとし、 さらに大阪高裁判決は、合理的因果関係は1例のみとし、添付文書の記載は不適切でなかったという非科学的な判定をしました。

しかし、EGFR阻害による腫瘍縮小可能性を予測するのが合理的であるなら、EGFR阻害で肺虚脱、急性呼吸窮迫症候群、 間質性肺炎など致死病変を生じうることも合理的に予測すべきでしたし可能でした。 EGFR欠損マウスやイヌの肺虚脱死と同様、人の肺虚脱死、急性呼吸窮迫症候群なども含めて多数の死亡例 (承認前の段階で30人超)が因果関係ありと合理的に認定できました。これを考慮するなら、 販売許可そのものが問題であったと考えます。

第2に、仮に販売がなされた場合でも、イレッサの初版添付文書等に問題はなかったとする大阪高裁判決は、極めて不当です。 上記のごとく、人の肺虚脱、急性呼吸窮迫症候群、間質性肺炎は十分に予測可能であり、 承認前の試験で観察された有害事象死の大部分が因果関係を合理的に説明できるものでした。 したがって全く警告がなされていないにも等しいほどの、欠陥添付文書でした。

第3に、地裁・高裁の判決とも、第Ⅱ相試験の高い反応率から延命効果を予測した当時の判断は妥当であり、 承認後も第Ⅲ相試験で延命効果は否定されていないので有効である、と極めて不可解な判断をしています。 しかし、承認後に実施された10件の試験の検討では、対照群に比較してイレッサ群の死亡率が高いことが判明しています (イレッサと対照の当初の割り付けが保たれている開始数か月間はイレッサ群の死亡率が有意に高い)が、 すべての判決において、この重大な事実を無視しています。 これは(イレッサの効果が主張されている)遺伝子変異陽性例においても例外ではありません。 したがって、寿命延長が証明されていないどころか、むしろ寿命短縮が証明されているのです。

イレッサの害の予測に関する大阪および東京地裁判決、警告義務に関する大阪高裁判決・東京高裁判決の誤りを、最高裁判所が見抜き、 正義にかなった判断をするよう、私たちは強く願います。

この害裁判は、タミフル薬害の裁判にも影響しうることであり、無関心ではいられません。 科学的不正が裁かれ、正義が実現されるよう願います。

以上


市民患者が「ほんまもん」の情報を持つことが真の改革につながる
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