日本老年医学会は、高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015案(GL2015案)を公開し パブリックコメントを求めた(こちら)。
抗精神病剤や睡眠剤、糖尿病用薬剤など多くの薬剤を、高齢者にはストップとするなど、適切な提言がみられる。しかし、スタチン剤を推奨し、インスリンを「ストップ」リストに入れ、プロトンポンプ阻害剤(PPI)の長期使用を推奨するなど、同ガイドラインの提言通りでは、高齢者に対して大きな害を生じうる場合がある。
スタチン剤については、2015年4月15日、奥山らが意見書を提出し、他の薬剤の問題点は、浜が意見書を提出した(4月24日)。それぞれの意見書についての紹介記事を、薬のチェックTIP誌59号(5月20日発行)に収載した。その要旨は次の通りである。
要旨:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015、脂質異常症では、「スタチンは心血管イベント発症リスクを低下させ、 糖尿病の新規発症リスクより心血管イベントを抑制するベネフィットが上回る」とし、スタチン剤の使用を強く推奨している。 その根拠としてRobertsら[1]、およびBaigentら[2]によるメタ解析の論文をあげている。 しかしこれらのメタ解析については2004年以前(主として1990年代)の論文を含んでおり、 科学的エビデンスとしては避けられない重要な問題を含んでいる(解説参照)。 これらに沿ってスタチン剤を推奨することは、高齢者の健康をそこなう危険性が極めて高いと考えられる。 我々は、これまでに公表してきたガイドライン等[3-6]およびその後に集積したエビデンスに基づき、 「スタチン類はSTOP薬物として、高齢者への使用中止を強く推奨すべきである」と提言する。
要旨:スタチン剤以外について意見を述べる。GL2015案では最強のエンドポイント総死亡が考慮されていない。薬剤による害反応(害作用)を「有害事象」と呼ぶのは不適切である。認知症の周辺症状に対する抗精神病剤をストップ、睡眠剤ベンゾジアゼピン剤をストップとしたのは適切である。H2ブロッカーのストップは適切だが、PPIを代替薬剤とするのは不適切。メトホルミンまで含めて多くの糖尿病用薬剤のストップは適切だが不徹底。インクレチン関連薬剤もストップとすべき。インスリンのストップは不適切である。日本高血圧学会ガイドラインに基づく降圧剤使用は不適切である。Healthy vaccinee effectバイアスで判定されたインフルエンザワクチンは無効でありストップとすべき。オセルタミビルなどノイラミニダーゼ阻害剤が無評価であるが、無効かつ有害でありストップとすべきである。