HPVワクチン(いわゆる子宮頸がん予防ワクチン)は2013年4月に定期接種となりましたが、2か月後に痛みや神経症状が多発して積極勧奨が中止となり、実質的に接種中止のまま、5年が経とうとしています。
2015年9月、名古屋市が同市在住の女子7万人全員を対象にHPVワクチン接種後の症状に関するアンケート調査を実施しました[1]。同年12月にその解析結果(速報)[2]が発表され、HPVワクチン接種と、接種後の症状とは無関係というものでした。しかし、被害者の会(全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会)や当センター[3]などからの批判を受けて、この速報を撤回しました。
ところが、本年2018年3月1日、解析を担当した名古屋市大の鈴木らの論文が英文雑誌に掲載されました[4]。鈴木らは撤回された中間解析の結果と基本的には同様に、「結果からは、HPVワクチンと報告された症状との間に因果関係がないことが示唆される」と結論づけました。この論文は、HPVワクチンの接種を推進する人らに都合よく利用されるでしょう。論文の欠陥について、きちんと理解をしていただくために解説します。
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鈴木らの示したデータは、むしろHPVワクチンの害を示しています。調査した24種類の症状のうち、ワクチン接種後に受診するに至った症状はすべての項目で非接種群よりも多かったのですが、そのうち8種類で、統計学的に有意に多くなっていました。特に、問題となっている認知や知的機能の異常、あるいは運動機能の異常を示す症状で、著しく高くなっていました。
たとえば、認知や知的機能の異常を示す「簡単な計算ができなくなった」や「簡単な漢字が思い出せない」といった症状のオッズ比は、それぞれ、5
と6
でした。また、運動機能の異常を示す「ふつうに歩けなくなった」という症状のオッズ比は2.7倍になっていました[4]。
当センターが独自に解析した結果[5]では、非接種群には、接種前から症状があった人が接種群よりも多くいました。接種群に比べて非接種群で最大で4.8
にも達していました。上記症状では、それぞれ2.5
、1.4
、4.8倍でした。
たとえば、「ふつうに歩けなくなった」などの症状のある人の頻度の違いは、接種後にも持ち越されるため、これを考慮すれば、鈴木らの解析方法では、HPVワクチンの害が過小評価されてしまいます。適切な接種後の危険度は、見かけの接種後の危険度(オッズ比)に、接種前の病気の多さを掛ける必要があります[6]。詳しいことは省きますが、病院受診に至った「簡単な計算ができない」の危険度(OR)は12
、「簡単な漢字が思い出せない」は8.8
、「普通に歩けなくなった」は12.6
と推定されます。
普段から発熱をしやすいなど病気がちの人は、ワクチン接種を控える傾向があり、また、問診で体調不良の人には接種されません。そのため、接種した人には健康な人が多く含まれ、病気の人が非接種群に集中します。したがって、ワクチンに害も効果もない場合でも、ワクチン接種後に、接種前の非接種群の症状の出やすさが持ち越されます。
単純に非接種群と接種群の症状の出現頻度を比較すると、接種群に症状・病気が少なく、非接種群に症状・病気が多く現れ、効果の面でも安全面でも、ワクチン接種群に有利に働きます[7]。
これは、一般に、健康者効果“Healthy vaccinee effect”[8]とか、病者選択バイアス“frailty selection bias”[9] と呼ばれています。「病者選択バイアス」という呼び方は「選択バイアス」と誤解されやすいので、私は”frailty exclusion confounding bias”(病者除外交絡バイアス)または”confounding by prior frailty”(事前病者交絡)と、あえて「選択」を用いず、「交絡」を入れて呼んでいます[7]。
ワクチンの接種率が90%程度にも達すると、接種しなかった残りの10%の集団(非接種群)に「病気の人」が集中するため、非接種群中の病者が著しく増えて、非接種群の倍率が高くなります。その結果たとえば、病者の30%が接種を控えただけでも、本来のオッズ比の5分の1のオッズ比になるため、見かけのオッズ比を5倍しなければならなくなります[3,7]。名古屋調査で、事前の倍率が最大で4.8に達していたのは、このためです。見かけのオッズ比を4.8倍しなければならないのです。
鈴木ら[4]は、初回接種年が14~17歳からなる1つのコホートと、初回接種時の暦年は異なるが、各コホートの初回接種時の年齢は同じ(11~14歳)になるよう4つのサブコホートを作成して、解析をしています。
ワクチン接種率が高いコホートでは、年齢を補正したオッズ比が低く、接種率が低くなると急速にオッズ比が高くなっていました。まさしく、前項で述べた「病者除外交絡バイアス(事前病者交絡) が影響しているのです。
鈴木らも、「生物学的な因果関係は存在しそうにない」「ワクチン非接種群の少女の健康状態が比較的悪かったためかもしれない」と、この現象の理由として、病者除外交絡バイアス(事前病者交絡)の関与を認識して考察をしています[4]。しかし、病院受診に至った症状のうち8種類の症状で最大6.15にも上る有意に高いオッズ比が認められた理由については、この重大なバイアスの可能性を考察せず、むしろ無視しています。
この論文については、「5年近くも事実上接種がストップしているHPVワクチンの安全性を証明する重要な根拠の一つ」「ワクチンを打つのに迷いを感じている親子を安心させる材料となりそうだ」と論評されています。HPVワクチンの接種を推進したい人たちにとって、格好の材料になり、HPVワクチンの安全性を誤って一般に認識させる材料になるでしょう。
いろんな立場から、大いに批判を展開してほしいと思います。
鈴木論文は、「HPVワクチンと報告された症状との間に因果関係はない」という結論とは裏腹に、HPVワクチンが認知・知的機能の異常や運動機能の異常を示す症状を、接種しない場合の10倍超起こしうることを示しています。
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