(2020.03.05号)

『薬のチェック』速報No182

新型コロナウイルス(COVID-19)は熱に弱い
マスクは、保温・保湿し効果的

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)編集委員会

新型コロナウイルスの感染(COVID-19)の流行は、日常生活まで混乱に陥れています。その中で、適切な情報をいかに見つけるか? それもなかなか難しくなっています。ニセ情報とされている中にも重要な情報があります。

典型的なのが、「今回のウイルスは熱に弱いので、お湯をのむとよい」がニセ情報として扱われていること。これは憂慮すべきことです。

目まぐるしく変わる状況で、「薬のチェック」に正しい情報の発信を求められています。随時発信していくつもりです。

一般に言われていることは、あえて取り上げません。むしろ、一般的には、誤解されている重要な情報について、重点的に取り上げて、根拠とともに、示したいと思います。

まずは、薬のチェックNo88のFORUMで扱った以下の情報を、お読みください。

なお、この記事は、2月17日までの情報に基づいています。現在は、この時の情報による判断よりも、新型コロナウイルスの毒性は、やや強いようですが、基本的な対処の方法に変わりはありません。

薬のチェックNo88のFORUMの記事
 新型コロナウイルスは強毒性か?それへの対処は? PDF html

(参考文献は、html版に詳細情報を掲載しました。)










薬のチェックNo88 p47-48 (2020.2.17現在の情報に基づく意見)

新型コロナウイルスは強毒性か?それへの対処は?

Q:新型コロナウイルスは強毒性か?

昨年の秋頃は、マスコミや医療関係者から「インフルエンザの大流行」の予報が盛んに宣伝され、年が明けると今度は「新型コロナウイルス」で大騒ぎ。確かに中国での急速な感染拡大、肺炎等の重症患者・死者の増加は気になりますが、色々な情報を冷静に観察すると、「死亡率は決して高くはなく」「感染力も強くはなく」「死亡する患者の多くは(免疫が低下した)高齢者または持病を有する人が多い」と感じております。 通常のインフルエンザの流行でも、重症化する患者や死者は出るので、大騒ぎしすぎではないかと思っていますが…。「薬のチェック」の編集委員の皆様はどのように考えておられますか? 私はこれまで同様、マスクも着用せず、アルコール手洗いをすることもなく、通常の生活を送っています。(福井県:長年の読者)

今、大騒ぎの「コロナウイルス」について、正しい情報を教えてください。基本的な日常生活を送っていたら心配ないような気がしますが、インフルエンザのパンデミック騒ぎの時と同じような嫌な感じを受けています。(愛知県:老健施設勤務の介護職)

A むやみに怖がる必要はない

現在の、新型コロナウイルス感染は完全に解明されたわけではないので油断はできませんが、これまでの情報から判断すると、2009年から翌年の「新型」インフルエンザ(09/10インフルエンザ)の状況に非常に似ています。

2009年4月にメキシコに始まった流行は米国に波及し、当初は死亡率が成人で3~6%と高齢者ほど高く[1]、成人平均で3.7%、20歳未満では0.5%でした[2]。1918年のパンデミックインフルエンザ並みの強毒性インフルエンザかと恐れられ、「水際対策」が強調されました。しかし、「水際対策」はまったく効果なく、日本でも2000万人が発症しましたが、死亡者数は日本では198人(10万人に1人)、タミフルの害による死亡の可能性のある54人を除くと、約14万人に1人の死亡ということになります。通常の季節性のインフルエンザによる死亡率よりも少なかったのが、実情です。

では、なぜ、メキシコや米国で重症者や死亡者が多かったのか?メキシコや米国では、日本では今やほとんど使われていない非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs:主にイブプロフェン)を解熱剤として使っていたからです[2,3]。2019/20年の今シーズンの米国で2000万人がインフルエンザにかかり、1万2000人が死亡したと報道されていますが、この死亡率の高さもNSAIDs多用のためと考えられます。

中国におけるNSAIDsの使い方は不明ですが、09/10インフルエンザでは、初期にステロイド剤を使った人の死亡率が高かった、と中国の研究者が反省を込めて報告しています[4]。

今回の流行の報告では、SARSの時にはステロイドパルス療法を多用し、かえって死亡率が高まったことを反省しています[5]。しかし、最新の情報では、やはりパルス療法に使うステロイド剤を半数程度に使用し、特に重症者には70%を超えて使用しています[6]。

武漢での死亡率が群を抜いて高いのは、ここでは、感染症の初期にステロイド剤が多用されたこと、重症者に大量のステロイド剤を使用していることが、高い死亡率の原因ではないか、と私は疑っています。

質問者の2人のご賢察のように、通常は決して重症化する感染症ではない。しかし、感染力が強く、インフルエンザよりも症状が長びくようです。したがって、水際作戦にもかかわらず、インフルエンザのように蔓延する可能性が極めて大きい。ただ、重症化するのは、解熱剤やステロイドなど免疫を低下させる薬剤を治療に使っているか、もともと免疫の低下した人などで、むやみに怖がる必要はない、との印象を持っています。

40℃の熱が薬を使っても1週間続いたと日本人のコロナウイルス感染者の話しがあります。この人の場合も含め、解熱剤の多用がかえって発熱を長引かせ肺炎の合併につながった可能性があります。発熱はウイルスをやっつける非常に有効な体の反応なので解熱剤を使うとウイルスがかえって多くなるためです。また、咳や鼻水もウイルスを追い出す体の反応なのでむやみに症状を抑えないほうが早く収まります。

それに、多くの人が怖がって受診するとかえって感染を広げることになります。普段からバランスのよい食事をし、十分な休養と睡眠剤に頼らず十分な睡眠をとること、体調が悪ければ仕事や学校を休むこと、また、そうする人を決して非難したりしない「心のゆとり」を持つことが、とても重要です。

呼吸器感染症の予防にマスク着用はお勧めです。普通のマスクで十分で、発症を約3分の1に減らします[7]。マスクが入手できなければハンカチでもよい。繰り返し洗って使えばよいのです。SARSやインフルエンザと同様、コロナウイルスも冬に流行しだしたことから、冷たいところでウイルスの増殖が活発になるようですので、マスクで鼻や喉を温めることで、仮に感染してもウイルスの増殖が抑えられ、発病しにくくなると考えられるからです。

手洗いは、医療者はアルコール消毒が必要ですが、一般の人は通常の水での手洗いで十分です。(回答:浜六郎、内科医)

参考文献
  1. WHO. Human infection with new influenza A (H1N1) virus: clinical observations from Mexico and other affected countries. Weekly Epidemiological Record 2009; 84 (21): 185-9.
  2. Hama R. A/H1N1 flu. NSAIDs and flu. BMJ. 2009 Jun 15;338:b2345. PMID: 19528116
  3. 編集部、豚?新型?インフルエンザの正体、薬のチェックは命のチェック2009:9(35):4-34.
  4. Han K et al. Early use of glucocorticoids was a risk factor for critical disease and death from pH1N1 infection. Clin Infect Dis. 2011;53(4):326-33.PMID: 21810744
  5. Huang C et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet. 2020 Jan 24. pii: S0140-6736(20)30183-5. Erratum in: Lancet. 2020 Jan 30 PMID: 31986264
  6. Wang D et al. Clinical Characteristics of 138 Hospitalized Patients With 2019 Novel Coronavirus-Infected Pneumonia in Wuhan, China. JAMA. 2020 Feb 7. PMID: 32031570
  7. Jefferson T et al. Physical interventions to interrupt or reduce the spread of respiratory viruses. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Jul 6; Issue 7. No:CD006207. PMID: 21735402 (フリーアクセス)

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