(2020.04.25号)

『薬のチェック』速報No187

レムデシビルはプラセボ対照試験で無効

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)編集委員会

速報No186では、レムデシビルの臨床試験のうち、製薬企業(ギリアド社:Gilead Sciences)が出資する合計6000人を対象とした国際的な大規模の臨床試験が標準治療と比較した非遮蔽試験であることをお知らせしました。このほかにも合10件の試験が国際的臨床試験登録サイトに登録されています(4月25日現在)。

このうち、3件はプラセボを対照として比較したランダム化比較試験です(後述)。うち1件の試験で、レムデシビルが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して無効であったことがわかりました。これは、WHOの公開を英国の新聞フィナンシャル・タイムズや米国の医療関連ニュースサイトSTATが報告して、一般の知るところとなったものです。

WHOでは公開した情報をすぐに削除しましたが、STATではWHOが公開した情報をスクリーンショットとして報道しています(後述)。また、このことは日本でも「新型コロナ治療薬候補「レムデシビル」、治験失敗 WHOが誤って公開」などのように報道されています。この試験結果について、STATの情報、スクリーンショット、国際的臨床試験登録サイトの情報(登録番号:NCT04257656)を総合して解説しましょう。

レムデシビル群に死亡も中止も増加傾向

今回、要約が公表されたプラセボ対照試験は、中国北京の首都医科大学が主導した2件のプラセボ対照試験のうちの一つ(登録番号:NCT04257656)です。レムデシビルを開発した米国の製造企業(ギリアド社)はスポンサーにはなっていません。

COVID-19の重篤例237人を対象としたもので、2月1日に開始し4月10日に終了しています。レムデシビル群158人、プラセボ群78人(1人は使用しなかったので除外)に分けられて追跡されました。

主な評価項目は、28日後にどうなったかです。1.回復して退院、2. 入院中で酸素吸入なし、3.一般病棟入院中で酸素吸入あり、4.ICU入院中、5.ICU入院中でECMOや人工呼吸器装着、6.死亡、の6段階に分けて評価されました。

その結果、死亡者が、レムデシビル群13.9%、プラセボ群12.8%でした。統計学的に有意の差はなかったとされていますが、どちらかというと、死亡率はレムデシビル群の方が高い傾向なので、試験の対象者数を増やしても、レムデシビル群に死亡を減らす効果を期待することは、できそうもありません。

さらに問題は、有害事象、つまり不都合なことがあったために中断せざるを得なかった例が、レムデシビル群11.6%(18人)、プラセボ群5.1%(4人)と、レムデシビル群に多い傾向があったことです(p=0.12)。

少し害はあっても、死亡率が減るなら、使う価値はあるかもしれません。しかし、害が多い可能性が大きく、死亡を減らす効果が認められないなら、今後、プラセボ対照試験を、試験の対象者数を増やして実施したとしても、よい結果はとても期待できないでしょう。

スクリーンショットの記述

STATが公表したWHOにより公開されたプラセボ対照試験の要約のスクリーンショットの内容を、転載しておきます。

DRUG NAME: REMDESIVIR 薬剤名:レムデシビル
BEST EVIDENCE: CLINICAL TRIAL 最良の証拠:臨床試験
OUTCOME: NEGATIVE 結果:否定的
DESCRIPTION:
237 patients with laboratory-confirmed COVID-19 underwent randomization (158 remdesivir, 79 control): one patients in the control group withdrew before receiving any study treatment. Remdesivir use was not associated with a difference in time to clinical improvement (hazard ratio 1.23, 95% CI: 0.87-1.75), mortality at 28 days (13.9% vs 12.8 %, difference 1.1 %, 95%CI: -8.1, 10.3), or in time to SARS-CoV-2 PCR.: In this study of hospitalized adult patients with clinical or virological benefits, negatively.
 Adverse events were reported in 65.2 % of remdesivir patients versus 64.1 % in placebo recipients.
 Remdesivir was stopped early in 18 (11.6%) patients because of adverse effects, compared to 4 (5.1 %) in the control group.
解説:
 検査で確認されたCOVID-19患者237人が無作為化された(レムデシビル群158人、対照群79人):対照群の1人が試験処置(プラセボ)の使用前に離脱した。レムデシビルの使用は、臨床的改善までの時間の差とは無関係であった(ハザード比1.23、95%信頼区間:0.87-1.75)。28日時点における死亡率は(13.9%対12.8%、差は1.1%、95%信頼区間:-8.1、10.3)で無関係であり、SARS-CoV-2 PCRテスト結果までの時間も差がなかった。すなわち、入院中の成人患者を対象としたこの研究では、臨床的、あるいはウイルス学的な利点でも否定的であった。
 有害事象は、レムデシビル群で65.2%、プラセボ群で64.1%に報告された。有害事象によって早期に中止した患者は、対照群の4人(5.1%)に対しレムデシビル群では18人(11.6%)であった。

3件のプラセボ対照試験

今回結果の要約が公表されたプラセボ対照試験は、前述したように、北京の首都医科大学が主導した2件のプラセボ対照試験のうちの一つ(登録番号:NCT04257656)でした。もう1件は、軽症例から中等症のCOVID-19を対象としたランダム化比較試験です(登録番号:NCT04252664)。

2月12日に開始され、4月13日に、もともとの組み入れ期待数308人を組み入れたところで4月27日終了予定としつつ、中断(suspended)となっています。中断理由の詳細は不明ですが、中国では、新たなCOVID-19の患者が少なくなったこと、期待数がほぼ実施できたこと、先の重症患者を対象とした試験でよい結果が得られなかったことが影響しているかもしれません。

3つ目のプラセボ対照試験(登録番号:NCT04280705)は、最も大規模なもので、2月21日に開始されました。米国NIH(国立衛生研究所)が出資して、米国を中心に、日本(国立国際医療研究センター)も含めて世界の68か所の病院による共同研究が進行中です。

目標対象者数は、572人で、4月1日に終了予定でしたが、現在も進行中です。ただ、この試験は、まずレムデシビルが試験されますが、もしもこれが有効だということがわかったら、その後は、これを対照薬剤として、別の候補を試験するというもので、やや複雑な試験計画です。

しかし今回、中国の重症例を対象としたプラセボ対照試験で、レムデシビルにCOVID-19患者の死亡を減らす効果はないことが明らかになりましたので、試験の続行をどうするのか、注意してみていきたいと思います。

プラセボ対照でない試験は信頼できない

製薬企業(ギリアド社)が出資した合計6000人を対象とした国際的な大規模の臨床試験には、日本も参加して行うことが計画されていますが、これは、プラセボを対照とした試験ではなく、標準療法と、標準療法にレムデシビルを上乗せした場合との比較です。

プラセボ対照試験では、レムデシビルが使用されたか、プラセボが使用されたかを、患者も医師も分からないようになっているので、公平な判定が期待できます。

しかし、標準療法と、標準療法にレムデシビルを上乗せした場合との比較では、レムデシビルが使われた患者とそうでない患者であることが、患者にも医師にも分かりますから、判定に、医師や患者の先入観が入りやすく、結果の解釈が困難になります。大規模であっても、この欠陥はぬぐうことができません。小規模のプラセボ対照試験にも劣ります。

また、製薬企業がスポンサーとなった試験では、たいていは、解析も企業が実施するため、生データが公開されない限り、結果を信頼できないことがしばしばあります。

その意味でも、今回、北京において大学主導で行われたレムデシビルのプラセボ対照試験で、無効であったことは、重要な意味を持っているでしょう。しかも、重症者を対象として、死亡率についても検討しており、重要な結果と言えます。

ナファモスタット(商品名フサン)は?

膵炎などの治療に用いられるナファモスタットをSARS-CoV-2の感染初期に使うと細胞内にウイルスが侵入するのを阻止する可能性が指摘されています(井上ら)。

この元になっている文献(Hoffmann et al. Cell 2020:181; 1-10)をみてみました。

SARS-CoV-2が、人の細胞に結合するためには、ウイルスの突起の一つであるSタンパクが、受容体ACE2に結合する必要がありますが、それを助けるためのタンパク分解酵素が必要になります。

ナファモスタット(フサン)は、このタンパク分解酵素の作用を阻害することから、理論的に、SARS-CoV-2が細胞内に侵入するのを阻止できる可能性があると分かった、というのが、この論文の主旨です。

アビガンやレムデシビルなど抗ウイルス剤は、試験管内でウイルスの増殖を明瞭に阻害しますが、実際に臨床試験で使っても効くことが証明できていません。試験管内で理論的に細胞内への侵入を阻害することが、いくら明瞭でも、人に使って効くかどうかはまた別なのです。今回フサンで分かったことも、試験管内だけで分かった「可能性」ですので、抗ウイルス剤の試験管内でのウイルス増殖阻害作用と同じレベル、というにすぎません。

一般的に、感染症に有効な可能性のある薬剤候補があれば、人に使う前に、感染動物に使って症状を改善するか、死亡を減らすかなどを確認して、ある程度の可能性があって初めて人にも使うことになります。

しかしSARS-CoV-2を感染させた動物に用いて症状を改善したり、死亡率を減らすなどを実施した抗ウイルス剤はなさそうですし、ほとんど、いきなり人に使われています。

フサンが使われたという症例報告は、4月25日現在、日本感染症学会のホームページの症例報告1例あるだけで、しかも、アビガンとフサン併用中に悪化した、というものです。

解熱剤を使わないのが重症化防止に重要

当センターの速報版で何度も繰り返していますが、今のところ、重症化の防止のためには、解熱剤を使わないことが、最も優れた療法であることを、改めて強調したいと考えます。


市民患者が「ほんまもん」の情報を持つことが真の改革につながる
薬の「ほんまもん」情報は『薬のチェックは命のチェック』 で!!