厚生労働省(厚労省)は3月11日、37人のアナフィラキシーを公表し、12日の専門部会でさらに詳しい情報を公表しました。それと同時に3月11日までに、約18万回接種が行われたことも公表しました。なお、現在、11日公表分は消去されていますが、12日公表の症例が利用できます。なお、1例は取り下げられたと報じられているため、36例となっています。
ワクチンの安全性について評価する専門部会では、このうち3月9日までに報告のあった17例を検討して、ブライトン基準に合致するアナフィラキシーは7例(41%)に過ぎず、「現時点で安全性に重大な懸念はない」としました。薬のチェック編集委員会で、これらの例を検討しましたので、その結果を示します。
アナフィラキシーの症状は主に、
あらゆる臓器がアナフィラキシーの場(部位)となりえます。
たとえば脳でアナフィラキシーが起こると、頭痛やめまい、頭がふわふわするような症状も起こりますし、心臓でアナフィラキシーが起こると、動悸や不整脈が起こることがあります。
しかし、命にかかわる最も重大なアナフィラキシーの兆候は、喉頭(声帯のある部分)が腫れて、気道が塞がれ、呼吸ができなくなることです。劇症例では、皮膚症状が起こる前に、唇や手足がジンジンするだけのことがありますし、そのような症状もないまま、いきなり呼吸が停止して、窒息することもあります。
ですから、最低でも15分間、アレルギー、特に喘息や、何らかの物質でアナフィラキシーを経験したことがある人の場合は最低30分間は、直ちに医師の処置を受けることができる場所(注射を受けた場所)で待機しておく必要があります。
3月11日までに報告されたCOVID-19用ワクチンによるアナフィラキシー36例は全員20代から50代でした。男性は1人だけで、女性が35例(97%)でした。医療従事者では女性の比率が高い看護師さんが圧倒的に多数ですので、アナフィラキシーを起こした人に女性が多いのは当然といえます。しかし、医師、薬剤師、看護師(准看護師も含め)合計約220万人中、170万人、77%が女性ですので、アナフィラキシーを起こした人の97%が女性というのは高い割合です。
ワクチンの成分の一部として用いられている脂質「ポリエチレングリコール(PEG)と同じ成分がクリームや乳液など化粧品、シャンプー、リンスなどにも含まれていて、化粧品をよく用いている女性は感作され、アレルギーを獲得しやすいことが一つの原因のようです。
何らかの過敏症である人が86%に見られ、喘息の既往がある人が3割近くいました。アナフィラキシーを起こしたことのある人が4人(11%)いました。
症状別では、皮膚・粘膜系の症状が86%にみられ、次いで呼吸器症状が65%に見られました。3主徴のうちの循環器症状として血圧低下が記載されたのは4人だけでした。
アナフィラキシーは、放置すると急激に進行して血圧が低下してショック状態に陥る可能性があります。呼吸器症状と皮膚粘膜症状でアナフィラキシーと診断して、アドレナリンを筋肉注射(筋注)するなど、早期に治療がなされていました。その結果、血圧が低下せずに済んだ可能性があります。血圧低下例が少なかったのは、現場での適切な治療の結果のようです。
ただし、皮膚・粘膜症状など1臓器の症状だけで報告された例が5例あり、3主徴がいずれもなかった例が2例(取り下げられた例も含めると3例)ありました。これら合計7例(取り下げを含めると8例)は、アナフィラキシーとは言い難いですが、それ以外は、アナフィラキシーと考えて早期治療が行われたことは適切であったと考えます。
なお、薬のチェック編集委員会で、ブライトン基準を用いて検討した結果、17例中10例(59%)が基準に合致するアナフィラキシーでした。ブライトン基準の3項目中1項目を満たさないためにアナフィラキシーとの診断がなされないけれども、臨床的には、アナフィラキシーと診断してアドレナリンを使用するのが適切と考えられた臨床的アナフィラキシー例4例を含めると、17例中14例(82%)に及びました。こうした例が、全36例中では、上記のように29例(81%)に上っていたのです。
18万回の接種で29人のアナフィラキシーということは、100万回の接種に換算すると、160人ということになります。約6000人に1人のアナフィラキシー発症頻度でした。
アナフィラキシーの頻度はワクチン接種100万回当たりの頻度として米国では5人、あるいは英国では19人などと報告されています。しかし、これら報告されたアナフィラキシーの症例数は、詳細な調査結果による人数ではなく、医師が自発的に報告した症例数がもとになっています。
一方、米国において、ある大規模な医療機関が、医療従事者を対象とした綿密な調査の結果を報告しています。接種を受けた一人一人に、症状の有無を記入してもらい、それをもとにさらに詳しく調査する方法です。その結果、ファイザー製ワクチンで100万回あたり270人のアナフィラキシーが検出されています。
日本の報告では、米国調査ほど厳密には実施されていませんが、医療従事者が対象となっている段階での報告ですから、一般人よりも、異常に気づきやすく、米国の詳細な調査並みの頻度となったものと考えられます。
専門部会の専門家の検討で、アナフィラキシー例から除外された1例(事例3)を示します。
接種後5分程で症状が出現しているので、上記必須条件の (a) 突然の発症を満たしています。しかも、接種後5分と、非常に早い段階での発症ですし、これだけでも緊急事態です。アドレナリン筋注を2回要したことから、重篤であったことがうかがえます。(b) 徴候及び症状の急速な進行もあります。
細かい時間は不明ですが、「呼気性喘鳴」のために救急室に移動して酸素投与を要したことから、呼吸器系の大症状(major)と考えられます。
血圧値98/70 mmHgは、日本アレルギー学会のガイドラインのアナフィラキシーの重症度評価の表で、グレード2の循環器症状に分類される「100未満」(血圧軽度低下)に相当しており、循環器症状の「小症状(minor)」に相当します。さらに、アドレナリン注射後に呼吸器症状だけでなく粘膜症状の改善も認めた、とのことですから、アドレナリン注射前には、「粘膜症状」が存在したことをうかがわせます。
そもそも、接種後5分で発症した劇症例であり、アドレナリン筋注が2回必要であったことと矛盾しません。ごく短時間の発症で、医師が速やかに劇症のアナフィラキシーと診断し、アドレナリン注射を実施したために、血圧のさらなる低下を起こさなかった、とみるべきです。
もしも、アナフィラキシーとして速やかに対処していなかったら、気道閉塞から重大な事態に至っていたこともあり得る例です。明らかに重篤だったこの患者さんを、専門家医師の判定のように「十分な情報が得られておらず、症例定義に合致すると判断できない」として診断を保留していたなら、処置が遅れて重大な事態に陥っていた可能性があるでしょう。
接種当日に発熱や頭痛など、何らかの不具合がある人はワクチンを受けません。つまりワクチンを受けることができるのは、少なくとも、その日の体調はよかった健康な人だということを考慮すると、6000人に1人のアナフィラキシー発症は著しく高い頻度です。日本において、得られる利益と比較して、高すぎる頻度と言わざるを得ません。