薬のチェック速報版No191でCOVID-19用ワクチン(ファイザー社製)によるアナフィラキシーが、6000人に1人(100万人あたり160人)の割合で起こっていることを報告しました。
この頻度は、米国で報告されている綿密な調査による頻度、100万回あたり270人(4000人に1人)の割合とほぼ同じであり、これが正確な頻度であることも示しました。
厚生労働省(厚労省)はワクチン副反応検討部会と医薬品副作用調査会の合同部会で、181人の追加アナフィラキシー例を公表しました。そのうちの資料1-4で3月21日までに約58万人がCOVID-19用ワクチンの接種を受けたことも公表しました。
ワクチンの安全性について評価する専門部会では、181人の例を検討して、ブライトン基準に合致するアナフィラキシーは47人(26%)であったと報告しています。
3月12日の厚労省発表で41%に過ぎないとした本物のアナフィラキシーの割合から、さらに低下しています。
そこで、薬のチェック編集委員会で、これらの例を検討しましたので、その結果を示します。
薬のチェック編集委員会で、ブライトン基準を用いて検討した結果、181人中81人(45%)が基準に合致するアナフィラキシーでした。
本誌では前回同様、ブライトン基準では基準を満たさないためにアナフィラキシーとの診断がなされないけれども、臨床的には、アナフィラキシーと診断してアドレナリンを使用するのが適切と考えられた臨床的アナフィラキシーを含めて、アナフィラキシーと判定しました。
このように判定したアナフィラキシーは、181人中132人(73%)いました。
58万回の接種で132人のアナフィラキシーを、100万回接種あたりの発症頻度に換算すると、230人の発症ということになります。つまり、約4400人に1人のアナフィラキシー発症頻度です。
欧米で100万回あたり5人とか20人というのは自発報告をもとにしたもので極めて不正確です。米国において、ある大規模な医療機関が、医療従事者を対象とした綿密な調査の結果を報告しています。接種を受けた一人一人に、症状の有無を記入してもらい、それをもとにさらに詳しく調査する方法です。その結果、ファイザー製ワクチンで100万回あたり270人のアナフィラキシーが検出されています。このように正確に調査すると4000人に1人と高頻度です。
日本においても今回の解析結果から、米国のこの結果と非常に近い頻度でアナフィラキシーを発症していることがわかりました。
専門部会の専門家の検討でアナフィラキシー例から除外された例のうち、速報版No191で紹介した症例番号3とは別の例を示します。
26歳女性、カニ、パイナップルでアナフィラキシーの既往あり。エピペン(携帯用アドレナリン注射液入り注射器)が処方されている。
コミナティ(ファイザー社製COVID-19用ワクチンの商品名)を筋注後5分後に鼻汁、咳そうが出現、みるみる呼吸困難となり気道狭窄等が著明となり、ボスミン筋注計4回、ステロイド、抗ヒスタミン薬などの薬物治療を行い回復。その後、経過観察目的で入院となる。(※ アナフィラキシーショックの診断です)
この例は重篤なアナフィラキシーですが、ブライトン基準ではアナフィラキシーの症例定義に合致しない例(カテゴリー5:アナフィラキシーではない:診断の必須条件を満たさないことが確認されている)です。厚労省の分類では、カテゴリー4(十分な情報が得られていないので、定義に合致すると判断できない)になっています。言い換えると、ブライトン基準そのものの欠陥を示す例であるともいえます。
接種後5分程で症状が出現しているので、上記必須条件の a)突然の発症を満たしています。
しかも、みるみる呼吸困難となり気道狭窄等が著明と、非常に早い段階での b)徴候及び症状の急速な進行もあります。アドレナリン筋注を4回要したことから、重篤であったことがうかがえます。
しかし、c)2つ以上の多臓器の症状を満たしていないので、専門委員は「アナフィラキシーではない」として「カテゴリー4」と判定しました(この場合、「4」ではなく「5」に分類すべきです)。
ところが、最新(2020年)の世界アレルギー機関(WAO)のガイドラインでは、従来のブライトン基準は、この例のような重篤かつ確実なアナフィラキシーが「アナフィラキシーでない」と除外されてしまうことを反省し、次の基準を満たす例をアナフィラキシーと診断できるように、基準を変更しました。
2. Acute onset of hypotensiona or bronchospasm or laryngeal involvementc after exposure to a known or highly probable allergen for that patient (minutes to several hours), even in the absence of typical skin involvement.
上記を訳すと
2.急激な低血圧または気管支けいれんもしくは喉頭病変症状が、原因物質使用後、典型的な皮膚病変なしに(分単位ないし数時間以内)生じた場合。
この新しい基準を適用すると、厚労省の症例番号42は確実なアナフィラキシーです。しかも、アドレナリンの注射を4回とステロイドを使用する必要のあった重篤例です。
このように重篤な例で、皮膚病変がないからとアドレナリン注射をためらっていたら、低酸素状態のためにショックに陥ったり、心肺停止して死亡しかねません。新しい基準は重要です。
次の例は、呼吸器の症状だけで、皮膚病変がなく(血圧も下がっていなかったためと思われるが)、アドレナリンが使用されず、ついに低酸素状態に陥った例です。
46歳男性。令和3年3月 15 日午後3時20分接種。
(5) ワクチン接種との因果関係(報告者の評価) 関連あり
報告者意見: 記載無し 他要因の可能性の有無:無
(6) 症状の転帰 回復(3月 16 日時点)
(7) 専門家の評価
接種後2~3分程で呼吸困難を発症している a)突然の発症例です。しかし、28分後まで発疹など皮膚病変が見られなかったためにアドレナリンが使用されず、34分後にはSpO287%と90%に届かない危険な低酸素状態(酸素分圧では60mmHg未満)になっています(註)。このように、b)徴候及び症状の急速な進行がありました。そして、呼吸器症状以外に胸部発疹や小さい膨隆疹も出現していますので、c)2つ以上の多臓器の症状も満たしています。
呼吸器の大症状は、
報告には喘鳴などの記載がありませんが、SpO287%はチアノーゼがあったことに相当しますし、接種2~3分後から呼吸困難では、頻呼吸は必発です。脈拍127/分と、呼吸困難があるのにSpO2が99%であったことが、頻呼吸に伴い呼吸性アルカロージスになっていたことを示しています。
また、SpO2が87%に低下しているのに呼吸症状として「大症状」に該当しないとすれば、この点でも、ブライトン基準そのものが役立たないというべきです。
接種当日に発熱や頭痛など、何らかの不具合がある人はワクチンを受けません。つまりワクチンを受けることができるのは、少なくとも、その日の体調はよかった健康な人です。
これを考慮すると、今回のデータが示す4400人に1人というアナフィラキシー発症は、著しく高い頻度です。日本において、得られる利益と比較して、高すぎる頻度と言わざるを得ません。