海外への渡航には、COVID-19のワクチン接種済み証明が必要とされるようになってきました。フランスでは、事実上、ワクチン接種が義務化されました。
一方、COVID-19に罹って回復した人(感染経験者)をワクチン接種者と同様に扱ってよいとの考え方を、国や専門家は言いませんし、メディアもまったく触れません。
既感染者はワクチン接種者よりも、鼻や喉など呼吸器粘膜に感染防御抗体としてのIgA抗体ができているために再感染しにくく、かつIgG抗体も血中にできています。それに、免疫記憶細胞への免疫記憶もしっかりとできていると考えられます。したがって、既感染者のほうが、ワクチン接種者よりもむしろSARS-CoV-2に再感染しにくく、変異株への感染や発病も少ないはずです。
そこで、COVID-19に罹ったことがありワクチンを接種したことがない人(既感染・非接種群)と、COVID-19に罹ったことのないワクチン接種者(未感染・接種群)で、COVID-19の発病率を比較した調査を徹底的に調べました。
システマティックレビューで最も多くの研究を扱っている報告[1]がありましたので、それをもとに検討しました。この報告では、3件のランダム化比較試験(RCT)の部分解析[2-4]と、4件の観察研究[5-8]を扱っていました。
3件のRCTといっても、既感染・非接種群と未感染・接種群にランダム割付して比較したものではないので、本来のRCTではありません。ではどのような比較なのか。
ファイザー製[9]、モデルナ製[10]、ジョンソン&ジョンソン製[11]のワクチンに関する数万人規模のランダム化比較試験(RCT)が実施されています。その対象者のうち、たまたまCOVID-19に罹ったことがありワクチンを接種したことがない人(既感染・非接種者)と、COVID-19に罹ったことのないワクチン接種者(未感染・接種者)がいたので、それらを部分的に比較した報告が、3件あったということです(すべて米国食品医薬品局FDAへの報告ですが、現在アクセス不可能)。
この比較は不適切です。不適切と判断する理由の一つは、部分解析のために両群の背景が異なってくる可能性があることです。最大の理由は、既感染・非接種群よりも、未感染・接種群のほうが、COVID-19罹患抑制に断然有利になることです。なぜなら、未感染・接種群では、ランダム割付の直後にワクチン接種がなされているので、ワクチンの効果が最大の時期に感染・発病状況が調べられています。
一方、既感染者がCOVID-19に罹った時期は、ランダム割付よりもかなり以前です。何か月も前に罹った人もいるはずで、罹患で獲得した免疫がかなり低下している可能性があります。
観察研究の中で最も重要なのはGazitらによるイスラエルの調査[8]です。これは規模が最大というだけでなく、ワクチン接種者(16,215人)の接種時期(2021年2月まで)と、感染経験者(同数)の感染時期(2021年2月まで)を揃えて(マッチさせて)比較した優れた調査だからです。この他、性、年齢、居住地などもマッチさせています。比較する両群の背景、特に罹患時期とワクチン接種時期に偏りがないよう配慮した観察研究はイスラエル調査以外にはありませんでした。そして、COVID-19の感染や発病率を調査した時期は、2021年6月から8月半までのデルタ変異株の流行期でした。RCTの部分解析よりもはるかに適切な比較が大規模になされています。
COVID-19を発病した人(症候性感染者)は既感染・ワクチン無群が8人、未感染・ワクチン有群で191人いました。感染経験者の発病危険度はワクチン群に対してオッズ比0.041(p<0.0001)でした。イスラエル調査の論文[8]では、未感染・ワクチン有群の既感染・ワクチン無群に対するCOVID-19発病危険度を各種要因で調整すると、27.02倍 (95% 信頼区間;12.7-57.5)と報告されていました。
一度COVID-19に罹って回復した人は、ワクチンを接種した人よりも再度発病する危険性がワクチン接種者の27分の1ということです。つまり、既感染者は、まだ感染していない変異株に対しても圧倒的にかかりにくい、発病防止効果が長期間持続するということを示しています。
罹患率の比較には、観察人数と観察期間が判明していて発病者数が報告されていることが必須です。こうした調査がイスラエル調査のほかに2件ありました[5,6]。これらの調査は、イスラエルの調査のように、COVID-19罹患時期とワクチン接種時期を揃えてはいないので、ワクチン群のワクチン接種時期から、COVID-19罹患までの期間が既感染・非接種群よりも短いために、COVID-19発病抑制にはワクチン群に多少有利に働きます。しかし、RCTの部分解析ほど、ワクチンから感染までが接近してはいません。
そこで、イスラエル調査に、この2件を加えて、3件で総合解析をしました。危険度(総合オッズ比)は0.043(95%信頼区間:0.022-0.083,p<0.0001)でした(図)。いずれにしても、感染経験者の免疫は圧倒的に強力であることが示されています。
※:最も信頼性の高いGazit報告(イスラエル調査)[8]では、感染経験者に対するワクチン接種者のCOVID-19発病の調整オッズ比は、27.02(95%信頼区間;12.7-57.5)と報告されている。その逆数は0.037である。
感染経験者には1回のワクチン接種が勧められています。そこで、その必要性について検討しましょう。
この場合でも、イスラエルの調査[8]が最も信頼できます。なぜなら、この調査では、2021年2月までにCOVID-19に罹った人を対象とし、そのうちワクチンを接種した人は、2021年5月25日までに接種が完了した人を選び、性、年齢、居住地などをマッチさせ、どちらの群も14,029人を選んで比較しているからです。
非接種者群に対するワクチン接種者群の感染の危険度は0.53倍:オッズ比=0.53 (95% 信頼区間:0.3 - 0.92)でした。しかし、発病(症候性感染)の危険度は0.74(p=0.35)と有意ではありませんでした。
ワクチン群におけるワクチン接種からCOVID-19罹患までの観察期間は、前述のRCTの際ほどには接近していませんが、やや短いので、COVID-19発病抑制はワクチン群に有利となります。
したがって、COVID-19に一度罹った人へのワクチン接種は、COVID-19の発病に対しては、まったく効果がないと言ってよいでしょう。感染に対してもおそらく効果は疑問です。
他方、ワクチン接種には様々な害があります。2度目の接種までは異常がなかった人でも、これまでに報告されているような、心筋症や脳出血や静脈血栓、突然死など、循環器系の害反応が起こる可能性がありえます[12,13]。
95%の発病防止効果があったファイザーやモデルナのワクチンでも、害反応のことを考えると、利益が害を上回るかどうか不明でした。20代以下では害のほうが利益を上回っていました。
したがって、一度COVID-19に罹ったことがある人は、ワクチンの追加接種は、害はあっても利益はまったくないといえます。接種は不要です。
感染経験者にワクチン接種は不要。ワクチン接種証明も不要。
感染済み証明書を発行すべき。
謝辞:この記事の作成を始めるに際して、林敬次医師(はやし小児科)から示唆をいただきました。感謝します。