(2022.04.28号)
薬のチェック編集委員会によるモルヌピラビル批判の記事(日本語版、英文版)を要約して、BMJに投稿したところ、Letterとして4月26日にonline出版されましたので、翻訳して紹介します。
この日本語版は、薬のチェック100号の記事 英文版は、MedCheck in English No22
MOLNUPIRAVIR’S PREMATURE AUTHORISATION
Imbalance in baseline characteristics in molnupiravir trials
モルヌピラビルの早すぎる承認
モルヌピラビルの臨床試験における背景因子の偏り
医師 浜 六郎 (NPO医薬ビジランスセンター)
BMJ 2022;377:o977 出版日:2022.4.26
BrophyはEditorial[1]で、早期終了した試験1件だけに基づいて承認の決定を下す危険性を強調しています。モルヌピラビル試験には、さらにいくつかの問題があります[2,3]。
- モルヌピラビルに関連した入院または死亡のリスク減少は、性別で調整した場合、全ランダム割付集団では有意ではありませんでした(ハザード比0.69、95%信頼区間0.48から1.01)。
- モルヌピラビルは、中間解析後はCOVID-19を悪化させる可能性があります。中間解析の対象にならず最終解析の対象になった集団について、入院または死亡のリスクを単純計算すると、モルヌピラビル群(6.2%)は、プラセボ群(4.7%)に比べて有意ではないものの多い傾向がありました。
- Move-Out試験[2]には、背景(試験開始時)の危険因子に、モルヌピラビルに有利な深刻な偏りがあります。慢性閉塞性肺疾患患者が、モルヌピラビル群に有意に少なく割付されていました(オッズ比0.31、P = 0.0043)[4]。肥満以外の危険因子を有する対象者の割合の合計は、プラセボ群(51.8%)よりもモルヌピラビル群(43.4%)で有意に少なかった(オッズ比 0.71、P = 0.019)。 4つの危険因子(糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、活動性癌)に限定すると、背景のリスクはモルヌピラビル群でほぼ40%低かった(オッズ比 0.61、P = 0.0043)[4]。これらの結果は、中間解析の前に、(二重遮蔽の)遮蔽が外れていたことを示唆しています。
- 全ランダム割付集団でも、重大な偏り(肥満を除く)があります(オッズ比 0.79、P = 0.0314)。このことは、公正なランダム化がなされたかどうかに、疑問を投げかけます。
- 中等症から重症のCOVID-19を対象とした試験においては矛盾した結果が見られます。サブグループ解析では、モルヌピラビルは中等症のCOVID-19患者に有意に有効であるように見え、効果の程度は、軽症COVID-19患者よりも大きかった[5]。しかし、中等症のCOVID-19を対象とした2件のランダム化比較試験は、無効が予測されたために中断されていました[6]。
- Move-In試験[3]では、試験開始前のCOVID-19の重症度に深刻な不均衡があります。スコア6のCOVID-19(入院し、非侵襲的人工換気または高流量酸素療法)の患者は、プラセボ群(8.0%)よりもモルヌピラビル群(2.3%)で有意に少なかった(オッズ比 0.27、P = 0.025)。しかし、死亡リスクは、プラセボ(2.7%)と比較して、有意ではないがモルヌピラビル群(6.0%)に高かった(オッズ比4.69、P = 0.105)。開始時重症度スコア6のオッズ比に対する死亡オッズ比の比(ratio)は、Kolassaの方法[7]で計算すると17.38(95%信頼区間1.6から188.8)でした。
- モルヌピラビルは、イヌで不可逆的な骨髄抑制が生じ[5]、DNA損傷、骨髄毒性、およびヒトの突然変異と関連があります[8]。Move-In試験[3]で観察された死亡は、骨髄毒性と関連していないでしょうか?
モルヌピラビルやレムデシビル[9]など、抗ウイルス剤の臨床試験報告書を全面開示する必要があります。そして、ノイラミニダーゼ阻害剤の系統的レビュー[10]で実施されたように、再解析が必要であると考えます。
利益相反: 開示すべきものなし
元のrapid response記事
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参考文献
- Brophy JM. Molnupiravir’s authorisation was premature. BMJ 2022;376:o443. doi: 10.1136/bmj.o443 pmid: 35241455
- Jayk Bernal A, Gomes da Silva MM, Musungaie DB, etalMOVe-OUT Study Group. Molnupiravir for oral treatment of covid-19 in nonhospitalized patients. N Engl J Med 2022;386:509-20. doi: 10.1056/NEJMoa2116044 pmid: 34914868
- Arribas JR, Bhagani S, Lobo SM, etalRandomized trial of molnupiravir or placebo in patients hospitalized with covid-19. NEJM Evid 2022;1:EVIDoa2100044. doi: 10.1056/EVIDoa2100044.
- MedCheck Editorial Team. Antivirals for COVID-19: molnupiravir (Lagevrio). Doubt about efficacy due to serious baseline inbalance. Med Check in English 2022;8:11-16.
- Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency. Public assessment report national procedure Lagevrio 200mg hard capsules (molnupiravir).
- Singh AK, Singh A, Singh R, Misra A. Molnupiravir in COVID-19: A systematic review of literature. Diabetes Metab Syndr 2021;15:102329. doi: 10.1016/j.dsx.2021.102329 pmid: 34742052
- Kolassa S. Calculate 95% CI for ratio of odds ratio.
- Kabinger F, Stiller C, Schmitzova J, etal. Mechanism of molnupiravir-induced SARS-CoV-2 mutagenesis. Nat Struct Mol Biol 2021;28:740-6. doi: 10.1038/s41594-021-00651-0 pmid: 34381216
- MedCheck Editorial Team. Remdesivir (trade name: Veklury). Most likely ineffective for COVID-19. MedCheck in English 2020;6:39-45.
- Jefferson T, Jones MA, Doshi P, etal. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database Syst Rev 2012;1:CD008965. doi: 10.1002/14651858.CD008965.pub4. pmid: 22258996
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