SARS-CoV-2ワクチンは、2021年末から2022年前半にかけて世界的に大流行したオミクロン変異株(以下オミクロン株)に対してはほとんど効果がなくなっています。シンガポールでは追加接種割合が70%に達していたのに流行のピーク時には、日本の人口に換算すると80万人が罹患しました。韓国でも、追加接種率が63%に達していたのに、ピーク時感染が日本の人口換算で150 万人に達し[1]、2022年8月末現在で、2.2人に1人が罹っています。これらは、ワクチンがオミクロン株に無効であることを如実に示しています。
ワクチンがオミクロン株に無効なことは、武漢株をもとに造られた抗体製剤がどれも無効であることからも確実です[2-4]。
しかし、疫学調査では、オミクロン株でも高い効果が報告されています[5-7]。日本においても、δ株感染には90%近く、オミクロン株感染に対しても、2回接種後約50%、3回目接種後は74%と軒並み高い効果が報告されています[7]。
特に、死亡を含めた重症例には有効率が99%(δ株)、95%(オミクロン株)と報告され、それらを根拠に、日本を含め、多くの国ではいまだにワクチンを強く推奨しています。
流行状況からは、SARS-CoV-2ワクチンに予防効果がないといえるのに、疫学調査では、ワクチンがCOVID-19を予防し、特に重症例でよく効いているように見えます。その理由として、最も考えられるのは、疫学調査が、健康者接種バイアスを考慮していないためと考えられます(速報203号)。
ワクチンの効果は見せかけであることを示すさらに強い証拠として、今回は、イスラエルからの疫学調査データを分析した結果を示します。
ワクチンが感染も発病も予防するはずがない接種当日に、不顕性感染が4割、発病6割、入院7割、重症化8割、死亡は9割近く少ないという結果が得られたのです。どのようにして、そのデータが得られたのか、説明します。そして、その意味を考えましょう。
たくさん数字が並びますが、少なくとも、「接種当日から感染・発病が少ない」という項目と、最後の図3を解説した「症状が重いほどオッズ比は小さい」という結果を、しっかり見てください。他の細かい説明は、ご自身で検証したい方のためのものです。専門的過ぎるので、飛ばしていただいて結構です。
イスラエルでは国を挙げて、SARS-CoV-2ワクチンの有効性を評価するためのコホート調査が実施されました。SARS-CoV-2ワクチンの接種が始まった2021年12月1日から、2021年2月1日までの間に、約60万人ずつの接種者と非接種者を選び、接種日から毎日SARS-CoV-2感染状況を調べ、2回接種7日以降のSARS-CoV-2への感染、発病、入院、重症化、死亡の予防効果が報告されました。
その結果、SARS-CoV-2ワクチンは、感染は92%、発病は94%、入院は87%、重症化は92%防止したと報告されていました。死亡については、評価できなかったとしています。
この調査報告の附表7(Table S7)には、接種当日から1日毎の接種者数および非接種者数とともに、脱落者数(追跡調査不能例数)を含む生命表(Life table) が報告されています。この表には、SARS-CoV-2全感染者、発病者(有症状感染者)、入院COVID-9患者、重症COVID-19患者、COVID-19による死亡者数が詳細に示されています。全感染者と発病者の差を「不顕性感染者(asymptomatic infection」として以降は計算しました。
接種当日から1週間、毎日の発症率を図1に示します(不顕性感染者:図1A、発病者:図1B)。不顕性感染の発生率 (/100,000人日) は、接種者と非接種者でそれぞれ 14 と 22 (差は 8/100,000人日) でしたが、発病者ではそれぞれ 15 と 38 (差は 23/100,000人日) でした。接種群の不顕性感染は、非接種群に比べて62%、発病者は40%にすぎませんでした。
不顕性感染も、発病者も、ワクチン群に少なかったのですが、発病者でより顕著であったことが分かります。
文献[8]の附表S7のデータを用いて薬のチェック編集部で計算
非接種群の発生率 (/100,000人日) は、初日から7日目まで、不顕性感染では25前後、発病者は 40前後で、ほぼ一定しています。一方、ワクチン接種群では不顕性感染、発病者とも初日に最も低く、したがって非接種群との差が最も大きく、5日目と6日目には非接種群とほぼ同じになり、7日目には不顕性感染では非接種群を超えました (37 と 28、差は – 9/100,000人日) (図1A)。発病者は、7日目には非接種群を少しだけですが超えました(47と46、差は-1/100,000人日)(図1B)。
図2に、ワクチン接種後の日数別、ワクチン接種群のSARS-CoV-2 感染の重症度別オッズ比(ORを示します: A.不顕性感染、B.発病者、C.入院COVID-19、D.重症COVID-19、E. COVID-19死亡。
文献[8]の附表S7のデータを用いて薬のチェック編集部で計算
1日目の OR (95%信頼区間)は、 不顕性感染で 0.62 (0.47, 0.82)、発病者 で 0.40 (0.31, 0.51) で統計学的に有意でした (図 2A および 図2B)。
オッズ比(OR)は接種から日が経つにつれて増え、不顕性感染では7日目に1.34 (1.05, 1.70) に達し、発病者は1.03 (0.84,1.25) でした。
不顕性感染の最初の1週間の平均オッズ比は 0.91 (0.83, 1.00) で、次の1週間の平均オッズ比は 1.11 (1.00, 1.23) でした (図 2A)。発病者の平均オッズ比は、それぞれ 0.78 (0.72, 0.84) と 1.02 (0.96, 1.08)でした (図 2B)。
入院COVID-19患者など重症COVID-19の発生率を見てみましょう。
非接種者では、1日目から入院者がいましたが、接種群では3日目まで入院はいませんでした。非接種群では3日目から重症者が現れましたが、接種群では6日目まで重症者はいませんでした。非接種群では7日目に1人が死亡、10日までに合計3人、14日目までに合計6人が死亡しました。しかし、接種群では10日目まで死亡は0人、14日目までに2人(11日目と14日目にそれぞれ1人)が死亡しました。
接種当日(1日目)、接種群の入院者は0でしたので、オッズ比も 0 です。重症COVID-19患者数と COVID-19死亡者数は、接種当日は両群 (接種群と非接種群) とも 0でしたので、オッズ比は計算できません。そこで、1日目の入院、重症、死亡のオッズ比を次のような計算式で求めました。
OR(入院 d1) = OR(入院d1-7) ×(OR(発病d1)/OR (発病d1-7)) (1)
OR(重症d1) = OR(重症d1-7) ×(OR(発病d1)/OR (発病d1-7)) (2)
OR(死亡d1) = OR(死亡d1-14) ×(OR(重症d1)/OR(重症d1-14)) (3)
以下に、計算式を説明します。
(1)1日目の入院オッズ比(OR(入院 d1))は、1~ 7日目の入院OR(OR(入院d1-7))に、発病者の1日目OR(OR(発病d1)と1~7日目OR(OR (発病d1-7))の比(OR(発病d1)/OR (発病d1-7))を乗じて推定しました。
(2)重症COVID-19の1日目のオッズ比も、(1)入院と基本的に同じ方法で推定しました。
(3)COVID-19死亡の1日目のオッズ比(OR(死亡d1))は、1~14日目の死亡のOR(OR(死亡d1-14))に、 重症の1日目OR(OR(重症d1))と1~14日目の重度の OR (OR(重症d1-14))の比((OR(重症d1)/OR(重症d1-14))を乗じて推定しました。
図3 に接種当日の重症度別オッズ比の結果を示します。 オッズ比(95%信頼区間)は、不顕性感染症、発病でそれぞれ0.62 (0.47,0.82 )、0.40 (0.31,0.51)と有意でした。これらの95%信頼区間 (95%CI) で正確に計算できています。しかし、入院、重症疾患、および死亡の1日目ORの95%CI は正確に計算されておらず、示していません。
文献[8]の附表S7のデータを用いて薬のチェック編集部で計算。
※:初日の入院、重症者、死亡はいずれも0人であるので、接種後1週間~2週間のデータから初日の危険度を推定した(詳しくは本文参照)。ワクチン接種当日からワクチンが効果を発揮することは不可能であるので、この小さく見える危険度はワクチンの効果を示すものではなく、非接種者に比較したワクチン接種者の病気の危険度が小さいこと、すなわち、ワクチン接種者が非接種者よりも健康であることを表している。健康者接種バイアス(病者除外バイアス)を如実に示している。
図3から、ワクチン接種者は、非接種群よりも、ワクチン接種日 (1日目) のCOVID-19罹患のオッズ比が小さいことがわかります。
また、オッズ比は、不顕性感染症、発病、COVID-19入院、重症COVID-19、およびCOVID-19死亡でそれぞれ、0.62、0.40、0.27、0.18、0.13であり、重症になるほどオッズ比が小さくなっています。
ワクチン接種日におけるこれらの数字は、本来はワクチンの有効性を示すものではありません。しかし、これを仮に「有効性」と表現するならば、不顕性感染を38%、発病を60%、入院を73%、重症化を82%、死亡は87%予防するということになります。
ワクチン接種の初日(1日目)にそのような効果を有することは不可能です。したがって、「有効」であるように見えるのは、単に、ワクチン接種者が、非接種者群よりもはるかに健康であったことを示しているだけです。つまり、健康者接種バイアスを考慮しなければ、ワクチンが特に重症例に非常によく効くとの錯覚を引き起こすことを意味しています。
ちなみに、重症度によって多少の違いはありますが、1日目よりも接種1週間~2週間後頃までオッズ比が増加しています。これは、もっぱらワクチン群で罹患率が増加しているためであり、ワクチンによる影響(害反応)と考えることができるでしょう。
SARS-CoV-2ワクチン接種群のSARS-CoV-2 感染罹患率は、接種当日(1日目)から非接種群よりも低かった:不顕性感染は38%、発病者60%、入院73%、重症83%、COVID-19による死亡は87%低かった。これらは、ワクチンの効果ではなく、ワクチン接種者が非接種者よりも、健康であったとことを単に示しているにすぎない。
疫学調査で、ワクチン接種群の重症者が80~90% 低下したように見えるのは、単に「健康者接種バイアス」の影響が現れた結果と推察できる。
したがって、健康者接種バイアスを考慮しない疫学調査に基づく専門家の説明に惑わされないように注意が必要である。