「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第42回 正露丸の安全性(危険性)について

  

1999年9月15日

 

 大衆薬として広く使用されている正露丸の有効性と安全性、特に安全性について重点的に検討し、TIP誌1999年8.9月合併号に記載したので紹介する。

四倍量で腸壊死と腎不全】
 通常用量の四倍量を服用して、麻痺性イレウスと腸壊死、貧血および腎不全のため手術および透析を実施した例(放置されれば死亡した可能性が強い)が報告されている。また、240錠右を自殺目的で服用後、血中非結合型クレオソート濃度約 500μg/ml(以上)で意識消失と溶血をみとめ、透析がなされた例が報告されている。

主成分はフェノール・クレゾールなど】
 正露丸は木タールより製造したクレオソートを主成分とするが、このクレオソートは、フェノール、クレゾール、グアヤコール、クレオソール(メチルグアヤコール)などを主成分とするフェノール系化合物の混合物である。

フェノール類は原形質毒】
 フェノール化合物は、高濃度では原形質毒であり、神経毒性、溶血、腎障害などを生じることは確立した事実である。

【薬理活性と毒性のレベルは同じ】
 ラットにおける実質的下痢抑制活性は150r/kg以上。亜急性毒性試験あるいは慢性毒性試験の結果では、140〜160r/kg程度で明瞭な毒性所見を認めている。腸管内への分泌亢進抑制活性は、マウスの致死量投与時の血中濃度と同程度の高濃度で初めて認められたものである。

【貧血、腫瘍、腎・前立腺萎縮、腸壊死】
 亜急性毒性試験(ラット、3カ月)では体重比でヒト常用量の16〜25倍程度で溶血の関与が疑われる赤血球数減少を認め、慢性毒性試験(ラット、92週)では体重比でヒト常用量の18〜21倍で催腫瘍作用(睾丸間質細胞腫瘍)、腎萎縮、前立腺萎縮を認め、ヒト常用量47倍では高度のネフローゼを認めた。ラットにヒト常用量比(体重比)50〜70倍を3〜7日投与して明瞭な回腸壊死を認めた。

人での中毒量は常用量の二〜三倍】
 実施された亜急性毒性試験および慢性毒性試験は、最大無影響量が決定されていないので毒性試験として不適切である。また溶血を強く疑わせる所見を得ながら、必要な検査が実施されていない。
 この点からも適切な反復毒性試験が実施されたとは言えない。血中濃度から換算した場合、体重比の最大でも0.116倍を乗じるべきであり、この点からすれば、人での中毒量は、常用量のたかだか2〜3倍程度と推定される。

【臨床試験は「三た論法」のみ】
 臨床試験は対照群を設けない、「使った」「治った」「効いた」のいわゆる「三た」論法の論文のみであり、有効性の根拠とすることはできない。

【中止すべき】
 以上、正露丸は一般に広く使用されているが、有効性の根拠はなく、腸管内への水分の分泌抑制活性や、腸の蠕動の抑制活性は、毒性の発現用量でのみ活性があり、長期の使用はもちろん、短期に使用することも問題があると考えられ、医薬品としての価値は認められない物質であり、中止すべきと結論付けられた。