水道水へのフッ素添加は危険性の方が大きい

TIP「正しい治療と薬の情報」 2002年8/9月合併号 より全文

     浜 六郎(医薬ビジランス研究所)
                別府宏圀(医薬品・治療研究会) 

 1980年以降,とくに1990年代以降,世界的に水道水へのフッ素を添加した国も添加していない国も,齲歯(以下,う歯と表記する)は減少してきている.日本ではこれまでほとんど,フッ素添加は行われてこなかったが,最近一部の自治体で,フッ素を水道水に添加するかどうか議論が始められている.その是非について市民から問いかけられた薬害オンブズパースン会議が,「う歯予防を目的とした水道水へのフッ素添加の有効性と危険性に関する文献的調査研究」を,医薬ビジランス研究所と医薬品・治療研究会に委託したのが本研究の始まりである.

 すでに,この問題については,多くの研究および,それらをレビューした論文や単行本が発表されている.水道水のフッ素添加は安全でう歯の予防に有効であるとする見解(アメリカやWHO,日本の歯科学会など)がある一方,それに反対する見解(世界各国の市民グループやアメリカや日本の科学者による)がある.そこで,最も系統的な研究がなされている「う歯予防を目的とした水道水へのフッ素添加の有効性と安全性(危険性ないしは害)」を中心に,世界中でこれまでに実施されたフッ素の有効性と害に関する調査研究文献をできる限り広く収集し,その調査研究方法のエビデンスのレベルを評価したうえで,それらのデータを分析し,日本の自然の状態で摂取するフッ素の量と,水道水や他の手段によりフッ素を添加した場合に摂取する合計のフッ素量から予測される効果と危険性のバランスを検討することとした.

 調査研究報告書はすでに提出され,インターネット上で読めるようになっているが(http://www.yakugai.gr.jp : 2002.10.1以降は http://npojip.orgでも),より広くかつ容易にこの報告書が理解されるように,重要な点を要約して紹介する(調査研究法は末尾に記載した).

I.フッ素の基本的な性質

〔1〕生体に対する基本的性質1)  

 フッ素化合物は,急速に吸収されゆっくりと排泄される.粉乳と誤ってフッ化ナトリウム入り殺虫剤(ごきぶり粉)を使用したスクランブルエッグを,異臭を気にせず食べた 263人中47人が死亡した事故が報告されている.フッ素大量摂取後の初期症状は,激しい胃痛,嚥下困難,流涎,嘔気,吐血,血尿,下痢である.胃酸(塩酸)で生成される腐食性フッ化水素のためと考えられている.胃内容物で,ガラスにエッチング(食刻)でき,食道や皮膚潰瘍を形成する.嘔吐や下痢で相当排出されても,消化管からの水溶性フッ素(フッ化水素)は容易に吸収され,生体の重要な酵素を不活化し,カルシウムと結合し,種々の毒性を発揮する.

 フッ素は全般的原形質毒であり(たんぱく分解酵素や解糖系酵素の不活化による)摂取後数分以内に死亡することがある.フッ素は血中カルシウムと結合して,不溶性フッ化カルシウムとなり,血中カルシウムイオン濃度が低下.骨格筋の興奮性が高まり,クボステック徴候や反射亢進,疼痛を伴う筋攣縮(特に四肢),全身脱力が起こり,テタニー発作による痙攣,さらに進行して麻痺となる.低カリウム血症や低マグネシウム血症も生じ,重篤な場合には,心筋の被刺激性を高め,心室細動を生じうる.呼吸中枢は,初めは刺激され,後に抑制され,呼吸抑制により死亡する場合がある.ショック死は,脱水と心筋に対するフッ素イオンの毒性により不整脈,心不全が複合した結果であろう.

〔2〕血中濃度,組織中濃度と酵素系への影響

 血清中のフッ素濃度は0.1 〜0.2 ppm,体液(軟部組織)中のフッ素濃度は 1 ppmと言われている2).この濃度は,μM/Lに換算すると,5〜10μM/L,および50μM/Lである.20歳代の健康な男性が2.5 mgのフッ素服用後,血中濃度のピークは 0.12 ppm ,5 mgで 0.26 ppm ,10 mg で0.51ppm と極めて直線的な関係があったとしている2).5mgのフッ素服用で0.26ppm をピークに,0.05〜0.1 ppm(2.5〜5μM/L) の血中濃度が数時間〜10時間にわたって持続し,組織中の濃度は血中濃度よりも多い(1 ppm;50μM/L)2).骨組織中のフッ素量は1日のフッ素摂取量が5mg以下でも,日常的に骨に蓄積され年齢とともに指数関数的に上昇する.

 吸収されなかったフッ素は便中に排泄され,吸収されたフッ素のほぼ半分が尿中に排泄される.この点に関しては,WHO の報告2-4)などフッ素化推進論者と,反対論者の間に異論はない.

 小児は成人よりも,排泄が少ないとされる2).この結果,小児では吸収されたフッ素の半分以上が蓄積し,排泄されるのは半分以下である.高齢者では逆に,吸収された量の半分以上が排泄され,蓄積にまわる量は半分以下である.これは年齢が高くなるほど,骨には高濃度のフッ素がすでに蓄積しており,新たな蓄積が減少していくためであろう.

 フッ素は人の通常血中濃度より低濃度から高濃度まで,きわめて多くの酵素活性に対して影響を与えることが知られている3,5,6).赤血球のエノラーゼを阻害し,初期にはたんぱくの合成を,最終的には DNAの合成を,種々の細胞や臓器培養系で阻害する(ただし,致死作用は,血中カルシウム,マグネシウムへの結合の結果であろうと考えられている).

〔3〕排泄量,摂取量,吸収量

 水道水のフッ素濃度が最も低濃度(0.1ppm未満)の地域で1日尿中排泄フッ素量は,成人男性0.77mg,女性0.55mgと報告されている2).この値から,日本でのフッ素吸収量はも平均1.1(女性)〜1.5mg(男性),20人に1人は2.3mg〜3.3mg(幾何平均のデータで推計すれば8〜9mg)と推計される(表1).100人に1人は3〜4mg(幾何平均のデータで推計すれば10〜11mg)吸収していると推計される.さらに,水道水中のフッ素濃度が高い地域では,3.2ppmという地域もあり,食事からのフッ素もあわせると,1日フッ素吸収量は5〜6mgとなると推定される(表1).さらに,小学校6年生でも水だけで1日5.1mg摂取する子,食事中のフッ素摂取量が5.4mgになる人などである7).したがって,5〜6mg程度の吸収量も,それほどまれな量とは言えない.

 フッ素摂取量は,吸収量に吸収率不良なフッ化カルシウムをも上乗せした値となる.1950年からの19編の報告をまとめた報告でも平均1.8 mg/日程度(0.89〜5.4mg/日)であった7).Ad Hoc Report によれば8),水道水中のフッ素濃度0.3 mg/L未満の地域(アメリカ)では,食物と飲料水・嗜好品から摂取するフッ素の量は,0.3 〜1.5 mg/日(平均0.9 mg/日)であった.日本ではこれに茶が加わり,イギリスでは紅茶が加わり少し多目になる.また日本の水はカルシウム濃度が低い軟水(欧米では逆にカルシウム濃度が高い硬水)が多いので,吸収されるカルシウム量は多くなると思われ,日本で多く摂取される魚(特に小魚)を通じてのフッ素は,フッ化カルシウムの形が多いため,逆に吸収は不良となる点を考慮する必要がある.

II.低用量で発癌,生存に影響

〔1〕毒性試験のフッ素用量
  ―ヒトでの上限のたかだか2倍―

1)体表面積あたりで比較すべき

 動物に現れた中毒用量をヒト用量と比較するには,体重あたり用量比より体表面積あたり用量比の方が優れている9).

2)フッ素吸収量の推定

 NTP報告5)ではラットおよびマウスでの6カ月毒性試験(2年間の発癌性試験のための予備試験の一つ)で尿中排泄量が記載されている.動物での尿中排泄量と吸収量との関連に関するデータは不明であるが,ヒトと同様に排泄量の2倍が吸収されたと仮定して,動物での吸収量を体表面積あたりヒト吸収量に換算して,表2-3に,また,同じ濃度どうしでラットに対するマウスの吸収量(体表面積あたりヒト吸収量換算)の比を表4に示した.

 6カ月試験のラット100ppm群では,4.2mg/日(雄),3.7mg/日(雌)であり,2年間発癌試験のラット100ppm群では6.1mg/日(雄),6.8mg/日(雌)で,ヒトでも通常ありうる用量といえる(表1).  ラット6カ月試験の最高用量(300ppm)の12.9mg/日(雄),13.5mg/日(雌),ラット2年間発癌性試験の最高用量(175ppm)の11.2mg/日(雄),10.2mg/日(雌)は,いずれも,ヒト吸収量上限値(約3mg/日)の高々2倍〜4倍でしかない.毒性試験用量として,極めて低用量である.

 NTP報告5)では、血中濃度や骨中濃度,尿中排泄量を測定しているが,動物での中毒量から,ヒトでの安全性を推測するために必須の血中濃度や体表面積換算フッ素吸収量摂取量について何ら触れていない.毒性の解釈として極めて不自然である(Ad Hoc 報告8)も同様).

 さらに,マウス2年試験では血液検査や尿検査を実施している(したがって,採血,採尿はしている)のに,血中フッ素濃度や尿中フッ素濃度,尿中1日フッ素排泄量を表示していない.このため,2年間発癌性試験では体表面積換算フッ素吸収量推定値が計算できなかった.

〔2〕フッ素反復毒性の特徴

 NTP報告以前にも、フッ素の反復毒性の特徴はほぼ判明していた5).すなわち,フッ素の慢性曝露は斑状歯を生じ,高濃度では,骨や肝臓,腎臓にも影響を及ぼしうる.25ppmのフッ素 (フッ化ナトリウムとして) 含有水で飼育すると,ラットの歯は正常の色調を失い,50〜100 ppm では門歯がチョークのように粉っぽい白に変色し,6カ月後には粗く伸びる(1961).フッ化ナトリウムとして380 ppm で6週間飼育すると,近位および遠位の腎尿細管の膨化や壊死,肝細胞の壊死,歯のエナメル組織の変性や空胞化などを起こす(1975).100 ppm (ラット6カ月間),200 ppmと500 ppm(ラット5日間)で,間質性腎炎,尿細管拡張など,同様の病変を認め,150 ppmで腎毒性が死因となった例も観察されている(1961).

 NTP報告5)でも,吸収のよいマウス(表4)は同様の変化(300ppm以上で死亡例あり,急性ネフローゼ,肝臓,心筋梗塞等)を認め,吸収不良なラットは歯と胃の変化(出血や穿孔を含む)を認めた.

〔3〕2年間毒性試験で死亡が増加

1)一般的変化

 NTP報告の著者らは,ラットの2年間発癌性試験で,歯の変化が高用量の2群に認められた以外,癌以外の病変でフッ素と関連した変化は,症状も病理的な変化もとくに認めず,生存曲線もフッ素との関連は認められなかったとしている.

 しかしこれは,血中濃度が最高用量の175 ppm 群でも,コントロール群のたかだか3倍に過ぎなかったこと,フッ素用量(ヒトでの1日吸収量に換算)が人の日常的吸収量のたかだか2〜4倍程度に過ぎなかったこと(表3)が関係していよう.

2)生存率に影響

 「マウスではフッ素に関連した生存への影響は認めなかった.」としているが,オス,メス100ppm群で生存率が早期低下の傾向があり,メスの175ppm群は早期から生存率の低下が明らかであり,用量依存関係が示唆された(図1).この重要な変化を示した試験で尿中排泄量値が欠落していたのである.マウス(メス))では,死亡に影響しない確実な用量は,25ppmでしかない.この用量を,体表面でヒト用量(吸収量)に換算すると3.3mg/日であり,日常的にもあり得る(表1).

〔4〕フッ素の遺伝子への影響

 NTP報告5)では遺伝子等への影響について以下のようにまとめている.「フッ化ナトリウムは,哺乳動物の培養細胞に対して変異原性がある.in vitro(試験管内)で,シリアンハムスターの胎細胞に対して,転移(transformation) を起こす.哺乳動物の培養細胞で,染色体異常や,姉妹染色分体交換(sister chromatid exchange) を生じるとのエビデンスが優勢である.遺伝毒性物質,あるいはクラストーゲン(染色体異常誘発物質)としての作用は,Drosophilaの母細胞(germ cell) テストで陽性であった.」

III.う歯予防効果

  水道水へのフッ素の添加に意味があるとすれば,う歯の発生を減少させることがほとんど唯一のものと言える.フッ素は動物実験で神経障害を生じうるため,アルツハイマー病予防効果に関して,最近では否定的である.フッ素は,欠乏すると特有の欠乏症を起こす栄養学的に必須な微量元素とは考えられていない.う歯はフッ素欠乏症ではない.フッ素の唯一の有益面とみられるう歯減少効果は,社会階層や年齢,他の歯科衛生状態とも関連付けて論じる必要があり,全身への影響と関連付けて評価すべきである.なお、現存するう歯(d/D),無くなった歯(m/M),処置済み(f/F)の歯(t/T)もしくは面(s/S)の合計dmft/DMFT/dmfs: /DMFS(小文字=乳歯、大文字=永久歯)でう歯数(面数)を表している.

〔1〕NHS-CRD 報告の研究方法

 NHS-CRD10) のシステマティック・レビューは,世界の検索データベース(日本の代表的医学情報検索データベースであるJICST を含む) を検索し,引用文献数 297論文,報告全体で 243ページに及ぶ.その方法をNHS-CRD報告10)から引用する.

 「水道水のフッ素化とう歯との関連に関する調査研究を,25種類の電子媒体のデータベース(言語は問わず)と世界中のウェブサイトを検索した.適切と思われるジャーナルやインデックスをハンドサーチし,さらに詳細な情報を得るために,著者へのコンタクトも試みた.

 検討文献として採用する基準は,前もって検討した証拠の3段階(A,B,C)に分類した.有効性に関する研究は,レベルAかBであれば採用した.有害作用の可能性に関しては,できるかぎり広く検索ができるように,どのエビデンスのレベルのものであっても採用した.客観性に関する特別な採用基準として,対象者の選択,介入方法,評価された「結果」の指標,目的に合った研究計画がなされているかどうかについて検討した.この研究方法の妥当性に関しては,公表済みのチェックリストをこのレビュー用に修正したものを用いて以前に実施されている(NHS-CRD 報告 4,1996) .

 採用基準は,少なくとも二人のレビュアが独立して評価.採用した調査からのデータ抽出や妥当性(validity)評価は,二人のレビュアが実施した.さらに第3のレビュアがチェックし,それぞれの評価が一致しなかった場合には,合意を得る方法で解決した.

 データが適切な形式である場合には,効果とその95%信頼区間(CI)を計算してプロットした.異質性(heterogeniety)は,視覚的方法と,Q−統計法を用いて統計学的に検討を加えた.異質性がない場合には,効果測定値の蓄積推定値(pooled estimate)をメタ分析の方法で求めた.統計学的に異質である場合には, meta-回帰分析の方法を用いて検討した.フッ素添加と歯フッ素症(斑状歯)との関係を検討するためには多重回帰分析を実施した.」

〔2〕NHS-CRD 報告のう歯予防効果に関する検討結果と問題点

 214 編の研究が採用基準に合致した.ランダム化比較試験は存在しなかった.45編が「前後」比較調査法,102 編が横断調査,47編がエコロジカルな調査方法(個々人の曝露量ではなく地域のフッ素化率の高低による,う歯保有率を比較するなどの方法),13編がコホート研究(前向きもしくは後向き),7編が症例対照研究であった.

1)水道水フッ素添加の,う歯頻度に与える影響

 水道水フッ素添加のう歯への影響を調査したものは総計26編であったが,質は中等度(レベルAなし).横断的研究でエビデンスレベルB以上との採用基準に合致せず除外されたものも多い.3編以外,すべて「前後」比較調査.2編は前向きコホート,1編は後向きコホートであった.検索して発見されたすべての「前後」比較調査を採用した.多くの調査で,重要な交絡因子について調整することなく極めて単純な解析しかなされず,う歯数推定値の分散を記載していない.無う歯児童の比率を示した調査では標準誤差が計算可能だが,dmft/DMFT スコアを表示した調査では標準誤差の計算は不可能であった.

 このような不完全な調査ばかりであり,1990年以前の調査も多かったが,「利用できる限りの最も確からしい証拠から判断して,水道水にフッ素を添加する方法(約1.0 ppm の範囲:0.8〜1.2で添加する方法)は,無う歯児童の比率で計算しても,また,dmft/DMFTスコアの平均値の変化で見ても,う歯の頻度を低下させる」としている.

 う歯の減少程度は,しかしながら,これまでのデータからは明瞭ではない.無う歯児童の比率(%)でみた差の平均値は,−5.0 〜64%まで巾広く,中間値は,14.6%(interquartile range=4分位数範囲〔註a〕は5.05 〜22.1%) であった.dmft/DMFT の平均変化数は0.5 から4.4 ,中間値 2.25 本(4分位数範囲 1.28-3.63本) であった.う歯のない子を一人増やすためには,約6人(4分位数範囲:4-9人) がフッ素化した水道水(約1ppm のフッ素添加) を使用する必要があると計算された.交絡因子で調整されていないため,バイアスの可能性がある.

 このNHS-CRD 報告の解析方法の最大の問題点は,う歯保有にかかわる交絡因子中,重要な調査時期(年代)による補正がなされていない点である.世界的に,ここ10〜20年間のう歯の減少は,フッ素化国だけでなく,非フッ素化国でも著しい(図2参照)11).  したがって,社会階層や,他のフッ素剤の利用だけでなく,調査時期や年齢の要素が必要である.

2)フッ素添加歯磨きなどの影響

 この目的のためには,1974年以降に実施された調査のみ9編(質評価では1974年以前のものと基本的に同じだった)が解析され,「歯磨粉やフッ素塗布,フッ素洗口などによる他の曝露が推測されたが,水道水へのフッ素添加のう歯に対する利点は証明された」としている.利点も増加したかも知れないが,フッ素摂取量の増加で危険性も増加するはずであるが,その点への言及はない.

3)親の社会階層,時代の変化による児童のう歯への影響

 水道水フッ素添加と,う歯,社会階層との関係について,合計で15編の研究がイギリスで実施されていた.レベルA,Bのものはなかったが,この問題は重要であるので,レベルC(質は低い)であるが,イギリスで実施された調査を採用した.研究の数も少なく,調査によって結果に違いがあるため,この結果の解釈には注意が必要であるとした上で,5つの調査を合成した結果が示されている(図3).これでは,親が高い社会階層の場合には,フッ素添加なしでも,もともとう歯数が少ないため,水道水へのフッ素添加の影響がほとんど見られない(図3).

 図2はWHO11)がまとめた12歳児のう歯(DMFT)平均本数の推移のデータを一つのグラフ上に示したものである.フッ素化国(米,オーストラリア,ニュージーランド)も10%以下の部分フッ素化国(10%以下の住民がフッ素添加水道水の供給を受けている国:英,スイス,スペイン),非フッ素化国(日本他)も同様に,平均う歯本数は減少してきている.特に1990年以降の減少が著しい.

 このような最近の世界的なう歯の減少傾向から見ても,水道水へのフッ素化とは別の要因が強く働いて,う歯が減少していることが伺える.NHS-CRD 報告書に示された,高い社会階層でフッ素化の影響が少なかったこと(図3)と共通する現象である.

IV.斑状歯

〔1〕NHS-CRD 報告のまとめ

 NHS-CRD10)では斑状歯について,次のようにまとめている.「フッ素の害(negative effects) の中では,斑状歯が最も数多く検討されている.斑状歯の調査は大部分が横断的調査の手法で,4編だけが「前後」比較方法を用いていた.88編の調査が採用されたが質は低かった(一つ以外はすべてレベルC).可能性のある交絡因子の調整など,観察者バイアスを減ずるための努力はあまり実施されていなかった.「斑状歯とされた人」の割合,「美容的に問題になる以上の斑状歯」を持つ子の割合を求めた.回帰分析で有意の用量−反応関係が認められた.水道水フッ素レベルを1 ppmとした場合,0.4ppmと比較すれば,最も軽症の斑状歯まで含めると,有病率は 48 % (95%信頼区間40〜57%) ,美容上問題になる程度以上の斑状歯は 12.5 %(95%信頼区間 7.0〜21.5) と推定された.大雑把な推定では,斑状歯(程度は問わず)を有する人が1人増加するのに必要な1.0 ppm のフッ素化水道水飲用人数は,低フッ素レベル(0.4ppm)と比較して,6人(95%信頼区間4〜21人)である(1/(0.48-0.33)=6.7).この推定は 0.4 ppmをフッ素化で1.0 ppmにした場合にのみ当てはまる.他の値で比較すれば,異なるはずである.」

〔2〕日本に当てはめると

 日本に当てはめる場合には、水道水への添加前と添加後のフッ素濃度の変化を検討しておく必要がある.そこで,食物から摂取したフッ素量を水道水中のフッ素濃度に換算して,このフッ素濃度に置き換えると,表5 のようになる.

 日本では食物およびフッ素無添加の水道水,嗜好品などから摂取する平均的フッ素摂取量は1.8 mg/日(0.9 〜5.4 mg/日まで分布する)であり,欧米の平均0.9 mgよりも0.9 mg/日分多い.これを水道水に換算すると,1日2L飲むとして,0.45ppm に相当する.

 日本で,水道水にフッ素添加が実施されたとしても,現在の法的な規制のままであれば,その上限は 0.8 ppmである.したがって,限度一杯に添加したとすれば,欧米よりも,食事からのフッ素摂取量が多い分として 0.45ppm上乗せし,1.25 ppmのフッ素添加水道水を飲用するのと同等の影響が現れると考えておくべきである.

  この濃度の水道水で斑状歯のできる程度を当てはめてみると,何らかの斑状歯は 52 %,見た目に明らかな美容上問題になる程度以上の斑状歯は 14.5 %(95%信頼区間8.2 〜24.4) となる.

  高温の気候は水多飲のためフッ素高摂取量の交絡因子である.欧米よりも高温多湿な日本ではこの点からもフッ素の摂取量が多くなる可能性を考慮しておく必要がある.

〔3〕う歯防止効果と斑状歯との関連

 NHS-CRDのレビューの結果,欧米では,フッ素濃度0.4ppmの水道水(0.7ppm未満) にフッ素を添加して 1.0ppm(0.7〜1.2ppm)とした場合,6人が飲めばう歯のない子が1人増えるとされた10).

 一方,こうすると何らかの程度の斑状歯が少なくとも1本ある子が1人増えると推定された10).何らかの斑状歯の子の約4分の1は,美容上も問題になる程度以上の斑状歯を持つことになる.

 したがって,日本でも欧米と同様に,う歯のない子を1人増やそうとすると,何らかの程度の斑状歯を1本でも有する子が1人以上増えると考えられる.また,う歯のない子を2〜3人増やそうとすると,美容上問題になる程度以上の斑状歯を持つ子が1人出現することになる.

 しかも,う歯とフッ素化について多くの統計が,う歯の保有率がまだ多い,1990年以前に実施されたものであるため,フッ素化したことによるう歯減少効果が,過大に評価されている可能性が強い.

  したがって,日本においては,う歯を1〜2本減らそうとすると,美容上問題になる程度以上の斑状歯を持つ子が1人出現する可能性まで考えておく必要があると思われる.

V.骨折,骨の発達異常

 NHS-CRD 報告10)では骨折との有意な関連は認められなかったとしている.しかし,コクランライブラリーでは「閉経後の骨粗鬆症の治療のためのフッ素の有効性と安全性に関するシステマティック・レビュー」12)で11編のRCT(対象者数合計 1429 人) を解析し,骨密度 (MBD)が,対照群よりも治療群で 2年後にWMD で8.1 % (95%信頼区間 7.15-9.09) ,4年後で16.1%(95%信頼区間 14.65-17.5)増加していた.

 新たな脊椎骨折の相対危険は,2年後[0.87(95%信頼区間:0.51-1.46)]でも,4年後 [0.9(95%信頼区間:0.71-1.14)]でも有意ではなかった.脊椎骨以外の新たな骨折の相対危険 (RR) は2年目では有意ではなかった [1.2(95%信頼区間:0.68-2.1)] が,4年目では治療群で有意に増加していた [1.85 (95%信頼区間:1.36-2.5)] .とくに,高用量使用群や非徐放錠(即効錠)を使用していた場合に多かった.胃腸障害の副作用のRR(相対危険)は,4年目で治療群が有意に高かった[2.18 (95%信頼区間:1.69,2.5)].とくにこの差は,高用量使用群や非徐放錠(即効錠)を使用していた場合に多かった.また,下肢痛症候群が2年目(RR3.5 [95%信頼区間 1.74-7.04])に有意に多かった.考察で,「フッ素は骨質の分厚さは増すし,骨密度は増加するが,骨痛が増加し,骨折も増加させる.決して骨の質が高まったのではない」「フッ素は腰椎の骨密度を増すが,脊椎の骨折を減少させない.フッ素の用量を増やすと,脊椎の骨折の頻度は増加させないが,脊椎以外の骨折の頻度と消化器系の副作用の頻度が増加した」と結論づけられている.

 このレビューでは1日フッ素として,30mg未満は低用量,30mg以上を高用量としている.いずれにしても1日30mg前後という大量を使用するものであるために,そのまま,水道水へのフッ素添加の問題と同一に考察することはできない.しかしながら,骨密度が高くなり,骨質は分厚くなるが,骨折が増加するといった逆説的な関係があった点(フッ素の基本的な性質からは当然予想されることではあるが)は参考にすべきである.

VI.発癌性

〔1〕発癌性に関する動物実験

 フッ素化合物の発癌性に関する動物実験は,NTP (National Toxicology Program 1990)によるもの 5),Procter and Gamble社(P&G社)によるもの,これらを再検討したアメリカAd Hoc Subcommittee on Fluorideによる1991年の報告(以下Ad Hoc報告)がある8).

 NTP 報告5)では, 幼若な雌雄ラットおよび雌雄マウスに,フッ素を含む水 (フッ化ナトリウムとして,0ppm,25 ppm, 100 ppmおよび175 ppm)を与え2年間飼育した(尿中排泄量から推定した体表面積でヒトに換算した吸収量推定値は表3表4参照).

A〕骨肉腫は用量反応関係あり

 この結果,骨肉腫が,雄ラットの100ppm群で50匹中1 匹,175ppm群で80匹中3 匹(皮下に発生したもの含めると4匹)に発生した(対照群と25ppm群はなし).弱いながら用量反応関係を認めた(対照群0/80,25ppm 群0/51,100ppm 群1/50=2%,175ppm 群3/80=4%(4/80=5%) ).ロジスティック回帰分析では P=0.027であった(皮下の骨肉腫を含めると p=0.010).雌ラットと,マウス雄雌は骨肉腫を発生しなかったが,「これは,骨肉腫との関連を否定する根拠にはならない.フッ化ナトリウム投与と雄ラットの骨肉腫発生との関連を弱いが支持している」とNTP報告では結論している.

B〕口腔癌なども関連あり

 また,ラットでは,口腔内扁平上皮癌(舌,口蓋,歯肉)が増加(0/80, 1/51, 1/50, 2/80),扁平乳頭腫を合わせると,用量依存性に増加した(0/80, 1/51=2%, 2/50=4%, 3/80=4%) .同様の傾向は,雌でも認められた(1/80=1%, 1/51=2%, 1/50=2%, 3/80=4%) .

  甲状腺についても,濾胞細胞腫(follicular cell neoplasm)も高用量群で増加する傾向が認められた.対照群のとり方を工夫したロジスティック回帰分析によるトレンドはp=0.027 となる.

  マウスの発癌性試験では,メスに悪性リンパ腫の調整発生率が用量依存的に増加した(0,25,100,175ppmでそれぞれ,19.3%,12.4%,30.0%,32.6%).

  Ad Hoc報告 (1991年) は,このNTP報告をペア解析法で再解析し,p=0.099 (皮下の骨肉腫を入れてもp=0.057 で有意ではなかった)点,Procter and Gamble社のラット実験と合わせて,雌雄それぞれ8群中,7群で発癌のエビデンスはなく,1群だけが「保留」の判定であったとして,「フッ素と発癌の関連を確立できなかった」と結論した.

C〕P&G実験は欠陥実験

 Procter and Gamble社の発癌実験は,Ad Hoc報告8)も認めているように,ウイルス感染の流行で死亡率が高く欠陥実験であった.それでも,良性骨腫瘍は用量依存的に増加し,Ad Hoc報告の見直しで,雄で2匹と雌に2匹の骨肉腫を認めた.

 発癌実験で,感染症などで死亡率が高くなれば,発癌の機会が低下し,癌死亡率減少,フッ素と発癌の関連を過少評価する方向に働く.この実験でもコントロール群には全く骨肉腫認めず,フッ素群で4匹認めたことから,より精密な条件(感染症などで早期に死亡しないなど)で実験をすれば,発癌性との関連がより強固に出る可能性は十分に残されていると見るべきである.なお,牛でも高用量群で87頭中2頭に癌を認め,低・中用量群では113頭中癌を認めなかった13).

D〕発癌がヒト使用量の2-4倍で

 このように,発癌性に関する動物実験の結果,遺伝毒性が示されていることなどの結果ともあわせて考えれば,NTP 報告とProcter and Gamble社の調査結果をあわせて見て,フッ素添加と骨肉腫の発生との関連があると見るのが順当である.しかも,これが,ヒトの日常でも摂取しうる量の,たかだか2〜4倍程度(体表面積換算量)で生じている点は特に重要である.

E〕数倍〜10倍で死亡も

 また,それよりも多い量(数倍〜10倍程度)では明らかな死亡の増加を認めている点(マウス)も重要である.なお,骨肉腫ではないが,雄ラットでは門歯形成不全の頻度,門歯エナメル芽細胞の変性の増加が25 ppm(フッ素として11ppm)から認められ,顕著な用量反応関係があり,最大無影響量が決定されていない.雌ラットでも雄ほど顕著ではないが同様の傾向を認めている.

〔2〕ヒト発癌に関する疫学調査

A〕Hoover調査の方法

 フッ素と癌に関する疫学調査は少なくないが,Hoover報告(1990)14,15)のデータが最も大規模かつ信頼性が高い(解釈は問題があるが).Hooverら(アメリカ国立癌研究所 NCI)は,水道水へのフッ素添加との間には何ら変化を認めないとの結果を1976年に報告していたが, NTP により骨肉腫等の増加の可能性を示す新たな動物実験データが公表されたため,あらためて全国規模での疫学調査を実施した14,15).その方法は主に,アメリカ全人口の約10%をカバーした9つの地域癌登録システム(SEER Program)のうち地域内にフッ素曝露の地域差のあったアイオワ州とシアトル都市地域の2カ所の罹患データを分析したものである.

 非フッ素化地域(County)〔註b〕における罹患数をフッ素化後の年数で5年毎に区切って集積して期待数とし,これに対するフッ素化地域(County)の観察罹患数の比(O/E 比)を計算し,フッ素化地域のフッ素化後の期間により,0/E比の変化を解析している.

 ところが,このHoover報告は疫学的解析の基本を外している.この種の病因を検討するための生態学的な疫学調査では,まず非曝露地域の期待癌罹患数(死亡数)(E)と曝露地域で観察された癌罹患数(死亡数)(O) を求め,その比(O/E 比)を求め,O/E比の95%信頼区間の下限が1を超える場合に,統計学的に関連があると考える.まずこのことを確認することが重要である(性,年令による調整は必要).

 検討する項目は,全部位の癌,問題と思われる部位別の癌について,曝露の有無との関連を見る.全癌あるいは部位別の癌で特定の化学物質の曝露と関連が認められた場合に,はじめて用量−反応関係を見る.用量−反応関係はふつう,期間ではなく,化学物質の曝露量を用いる.フッ素では,水道水のフッ素濃度で,非フッ素添加地域(でしかも,実際の濃度が0.2 あるいは 0.3 ppm未満の地域),フッ素添加により 0.7〜1.0 ppm の地域と 1.0 ppm超の地域の2用量というような,曝露量のとり方をするべきである.化学物質への曝露による癌に関していえば,感受性の高い人でのみ発癌が見られることも多いため,比較的短期間に発癌する場合,その期間が過ぎれば,あとは感受性の低い人のみが残される.このために曝露期間が増えても,癌罹患率は上昇しないことがあるからである.特に癌のプロモーターの場合は,曝露期間が関係しないとされる.

 ところが,Hoover報告14,15)は最初の基本的解析(O/E比による関連の有無の検討)で,多数の項目でその関連を十分示すデータを得ながら,これを取り上げず,経年的な変化の検討に終始している.  記載されたデータから,関連を認めたデータを示す.

B〕口腔咽頭癌などは関連あり

 表6はHoover報告14)で示されていた口腔咽頭癌に関する,地域別,性別,フッ素化からの期間別,O/E比とその95%信頼区間のデータそのものである.アイオワでは15項目中12項目,シアトルでも12項目中5項目で有意に高く,合計27項目中17項目と半数以上で有意にリスク比が高かった.後述する腎癌腎盂癌や大腸直腸癌などが,せいぜいリスク比1.1 〜1.2 程度であるのに,口腔咽頭癌のリスク比は 1.5〜2.0 と高い.口腔が最も高濃度のフッ素に曝露されることから,重要な所見である.フッ素化期間とリスク比の間に,用量−反応関係が認められないとしても,これは両者の関連を否定する根拠にはならない.

 O/E比とその95%信頼区間が公表された部位について詳細に見ると,腎腎盂癌(27項目中4項目有意),大腸直腸癌(14項目中4項目有意,トレンド分析で3件中2件有意),非ホジキンリンパ腫(12項目中6項目有意)などフッ素化と種々の癌罹患との正の関連がみとめられ,負の関連は前立腺で一部に有意に認められた以外は認めなかった.膀胱癌では9項目中1項目で有意,軟部組織では有意な項目なく,骨関節癌や骨肉腫も有意な項目はなかった(骨関節癌と骨肉腫については後述するように,Ad Hoc委員会から,年齢別の分析が求められ8),有意な関連が認められた).

C〕全部位,肺癌気管支癌も関連

  全部位もふくめて上記以外の部位の癌はO/E比と観察数が記載されているだけで,O/E比の95 %信頼区間は示されていないし,調査対象地域の人口も不明である.しかし,観察数は記載されているので,アメリカでの全部位の癌罹患率から,地域の人口を推定し,観察者数(罹患数)をO/E比をもとに配分して有意性を検討した(表7).

 アイオワの10年以上の全項目,シアトルの5年以上の女性,5〜9年と15〜19年の男女で有意になると推定された(有意と推定される項目は全27項目中14項目に上る).

 また,肺癌気管支癌(表8)についても有意と推定される項目は全27項目中13項目にのぼった.

D〕骨肉腫と全骨関節癌も

 Hooverらは当初,年齢を考慮せず骨関節癌や骨肉腫に関するデータを提出したが,これらは20歳までの若年男性でとくに発生率が高いため,Ad Hoc委員会から年齢を考慮した解析がもとめられた8).再提出されたデータをもとに医薬ビジランス研究所で再解析した結果を表9に示す.

 20歳未満(1981年〜1987年)で骨関節癌,骨関節癌+骨肉腫でO/E比がそれぞれ1.96(95%信頼区間1.24-3.10),1.81(95%信頼区間1.26-2.61)とフッ素化と関連が認められた.骨肉腫も有意ではないが,1.57と高いO/E比を認めた.全年齢でも,ややO/E比は低値であるが,同様であった.

E〕Cohn(1992年)の骨肉腫調査  1979年から1987年までにおける骨肉腫の発生率が,ニュージャージー州中央部で実施された.フッ素化地域では20歳未満の男性中12症例が診断され,非フッ素化地域では8症例だった.非フッ素化地域〔註c〕に対するフッ素化地域の罹患率比3.4 (95%信頼区間=95%CI:1.8,6.0)であった.フッ素化率が最も高度な3つの地域に限り罹患率との罹患率比を求めると,5.1(95%CI:2.7- 9.0),さらに,10歳から19歳に限ると,罹患率比6.9(95%CI:3.3-13) であった.他の年齢/性ではフッ素添加との有意な関連は認められなかった.

 フッ素が,骨の成長期間中に発癌開始因子(initiator)というよりは,発癌促進因子 (promoter) として作用するのなら曝露期間/潜伏期間の問題を考えることは適切とは言えない点も指摘し,少なくとも骨肉腫との関連については相当確実性のあるものとして報告している.

F〕NHS-CRDのレビューは欠陥

 NHS-CRD報告9)では水道水のフッ素添加と癌との関連を調査したものを26編採用した,検討対象となった7編の研究,12件の分析結果中,分散データが示されていた6件の研究のうち,1件(Cohn 1992)15)がフッ素化と男性の骨肉腫の増加との統計学的に有意な関連を示したが,質が低いとして,ほとんど無視し,フッ素添加と骨肉腫,甲状腺癌,全癌との関連は何ら認められなかったと結論した.

 NHS-CRD報告9)の最大の問題はHoover (1991)報告を,「採用基準には合致したが採用しなかった」点である.骨関節癌罹患率が,フッ素添加歴20年以上の地域の危険が,5年未満の地域よりも低く,他の癌も一貫した関連の証拠は得られなかったことを採用しなかった理由としているが,先述したように,詳細に検討すると,きわめて多くの項目で有意の関連を認めており,この指摘は妥当ではない.

 Hoover 報告14,15)に欠陥はあるが(疫学調査で必須の非曝露地域に対する曝露地域の罹患の O/E比の表示に95%信頼区間を記載していないなど),その規模は最大規模である.NHS-CRD のまとめで記載された調査の最大規模は,全癌死亡数が曝露群,非曝露群各々たかだか9000人程度である.Hoover 報告罹患率調査では,癌罹患が12万人,観察対象者はほぼ650万人,15年間で約1億人年にのぼる.NHS-CRD の評価対象となった他のすべての疫学調査を合計したよりも規模の大きい,信頼性の高い調査である.

 また,NHS-CRD 報告は,NTP報告による口腔咽頭癌,骨肉腫など動物実験との整合性ある癌との関連,骨肉腫が成長期の特に男性で多い点,遺伝毒性もほぼ確かなものになってきている事実などなど,重要な点をなんら考察していない.疫学調査の解釈としては不十分である.

 なお,NHS-CRD10)では,水道水フッ素化と骨肉腫(発生率あるいは死亡率)との関連が逆方向を示したのが7件,正の方向を示したのが3件,差がなかったのが2件であったとしているが,逆方向といっても大部分は相対危険が0.9台であり,とても逆とはいえない.

 一方,少なくとも,Cohnの報告では有意の関連を認め,Hoover報告では元データでも再解析でも,骨関節癌(+骨肉腫)や,動物でも関連が指摘されている口腔癌のほか,肺癌気管支癌,全部位の癌など,多数の項目で有意の関連を認めた.

G〕沖縄調査は子宮癌と関連あり

 沖縄県は1945年から1972年まで,水道水にフッ素添加された地域があるため,疫学的調査がされた.遠山17)は,20市町村を対象に調査し(フッ素添加地域では1972年前後で,フッ素添加していた地域は0.8ppmから,0.1ppm未満と急減),水道水中のフッ素と子宮癌死亡率の関連を多変量解析の方法により検討した.その結果,(1)水道水中フッ素濃度と20市町村の子宮癌死亡率との間には有意な正の相関が認められた(r=0.626,p<0.005).(2)可能性のある交絡因子(たとえば,ボトル入りの水の普及率,第1次産業人口,収入,死産率,離婚率)を調整後にも認められた.(3)時間的な推移も,フッ素添加中止との関連があるようにみえた.減少率はフッ素添加地域でより大きい(人口10万人対子宮癌死亡率は5年毎にフッ素非添加地域10,7,6,6の減少に対して,フッ素添加地域では18,10,8,7と減少)ので一般的な子宮癌の死亡率低下傾向のためとはいえない.日本において,フッ素との関連を検討した疫学調査として,貴重なものである.

H〕フッ素と発癌との因果関係

 医学的(疫学的)因果関係の判定の条件を考慮すれば,フッ素と発癌に関する因果関係はどう判定すべきであろうか.

(1)関連の存在

  全部位の癌罹患,口腔咽頭癌の罹患,大腸直腸癌の罹患,肺気管支癌の罹患,腎癌腎盂癌の罹患,非ホジキン悪性リンパ腫の罹患などで,非フッ素化地域に対するフッ素化地域の罹患のリスク比が有意に高率となっていた.骨肉腫と骨関節癌についても少なくとも,20歳未満の若い男性と,全年齢でフッ素化との関連が認められた15,16) .日本においも,20年以上にわたり大規模なフッ素添加が実施された沖縄において,子宮癌との関連が認められた17).

 そこで,それらの因果関係を示す指標として,時間性,一致性,強固性,整合性17)について検討すると以下のようになる.

(2) 時間的関連

  Hoover(1991)の調査14,15)では,フッ素化後の経過とともにO/E比の増加傾向を認めた(骨関節癌,骨肉腫,肺癌気管支癌,大腸直腸癌,全部位など).これは時間的な関連も示している.沖縄県でフッ素添加中止後,非フッ素化地域よりも急速に子宮癌罹患率が減少したこと17)も,時間的関連性を示している.

(3) 関連の一致性

  骨悪性腫瘍(骨関節癌+骨肉腫)については, Hoover (1990)15)(骨関節癌+骨肉腫),と Cohn (1992)の報告16)(骨肉腫)という,2つの独立した研究において一致している.

(4) 強固な関連

 Hoover報告14,15)では,全部位の癌,骨関節癌,骨肉腫,肺癌気管支癌,大腸直腸癌で,フッ素化からの経過年数を用量とし,リスク比を反応と見た場合に用量−反応関係が認められている.動物実験では骨肉腫や口腔癌などについて用量依存性を認めている5).

(5) 関連の整合性

 疫学調査だけでなく,ほぼ同様の病変(骨肉腫,口腔内の癌,など)が動物実験でも再現できている.また,骨肉腫が発生しなかったマウスの実験では,良性骨腫瘍が用量依存的に増加,骨への親和性の点では矛盾しない.より首尾一貫した関連であるといえる.

 さらに,遺伝毒性が存在することは,発癌性と関連がある可能性をより強く示唆するが,フッ素はほぼ確実な遺伝誘発物質と認識されているので,この点についても,首尾一貫した関連であると解釈できる.

I〕癌罹患との関係(まとめ)

(1) 大腸直腸癌や肺気管支癌,全部位の癌罹患との関連を示唆する疫学調査が1件ある.

(2) 口腔咽頭癌の発生を示す信頼性の高い疫学調査が1件あり,口腔癌の発生を示唆する動物実験も少なくとも1件存在する.

(3) 20歳未満男性の骨肉腫(+骨関節癌)増加の可能性を示唆する独立した疫学調査が少なくとも2件あり,雄ラットで骨肉腫の発生を示唆する発癌性動物実験も少なくとも1 件ある.

(4) 上記動物実験で発ガンを認めた用量の多くは,ヒトが日常的に摂取し得るフッ素量の2〜4倍に過ぎない.

(5) 遺伝毒性やクラストーゲン(染色体異常誘発物質)と推測される性質も考慮すると,少なくとも20歳未満の男性の骨肉腫,男女とも口腔咽頭癌,大腸直腸癌,肺気管支癌,腎癌などについても,増加させる可能が高いと考えておいた方がよいと思われる.

VII. ダウン症について

 NHS-CRD報告10)では癌以外の害作用につき,ダウン症も含めて一括して扱い、33編の調査を検討したが,交絡因子を調整していないなどエビデンスが不十分で確実な結論は不可能であるとしている.ここでの検討は,誌面の都合で,ダウン症に限って述べる.この問題はフッ素がクラストーゲン(染色体異常誘発物質)である点を常に念頭において解釈すべきであろう.

〔1〕有効性評価より害作用評価のエビデンスレベルを高くとるべきでない

 このNHS-CRD報告10)の最大の問題点は,う歯予防の利点に関しては,社会階層や調査時期など交絡因子が不十分なままその利点を評価しているのに,害の点については効果の点よりも厳しいエビデンスの質を求め,「確実な結論は不可能」と述べ,実質的に危険性を否定している点である.

 本来,害に関しては,エビデンスレベルが低いものでも,害の可能性が示唆されるならば,よりエビデンスレベルの高い調査で否定されるまでは,危険と考えて対処する方が望ましい.

 これは,ある介入をする場合の効果と害とのバランスを考える上での基本であるが,このNHS-CRD報告10)では,その考え方が逆転しているように思われる (これは,癌についての分析の場合にも同様に認められたことである).

〔2〕 Rapaport 論文と Erickson 論文のエビデンスレベルの点数

 ダウン症と水道水のフッ素濃度との関連についてNHS-CRD報告10)で取り上げられている論文は,Rapaportの1957 年の報告と1963年の報告19,およびErick- sonの1976 年報告20),1980年報告21)のみであり, Rapaport報告は,いずれも2.0点、Erickson報告は,いずれも3.5点で,どちらも質は低い(レベルC)とされた.

〔3〕Rapaport 論文と Erickson 論文の質比較(交絡因子)

  NHS-CRD報告10)では,Ericksonの調査に対して,交絡因子が記載され調整がなされているとして,それぞれ1点ずつ合計2点が与えられている.年齢階級別だけで(これは重要だが),社会階層などは調整はなされていないので,2点は過大評価であろう.一方,Rapaport調査には23,24),交絡因子として4分の1が与えられているに過ぎないが,後述するように,高齢者の比率が交絡因子として影響した結果ではないと考えられる.さらに,中都市と1万人以下の人口の村を分けて検討するなど,他の交絡因子の検討もなされている.4分の1点は過小評価である.

〔4〕用量反応関係

 ある物質の曝露と害の関係を明らかにするには,用量−反応関係の解析は必須である.用量反応関係が強ければ,他の交絡因子の影響を上回る可能性がある.

 ところが,NHS-CRD報告の質評価ではこの点が全く考慮されていない.これを評価項目に入れると,3〜4用量を比較しているRapaportの調査19,22)に,高点数を与え,Erickson調査20,21)(2用量であり隣接する用量のみなので)は低い点数となるはずである.

 これらを考慮すれば,Erickson調査とRapaport調査に質的な差はないというより,後述する理由から,Rapaport調査の方が優れているとさえ言える.このような点に注意しながら,Rapaportの調査とEricksonの調査を検討する.

〔5〕Rapaport報告(1963 年)

 Rapaportは,1957年の報告に続き,1959年22)と1963年19)に,より詳細に分析した疫学調査結果を発表した.1963年の報告19)は,1959年報告22)と基本的には同じ対象者の分析結果である.

  イリノイ州の1万人から10万人の規模の人口を有する市町村すべてについて,飲用水中の化学分析を実施する一方,出生証明書や死亡証明書,あるいは州の特別教育施設の登録をもとに,ダウン症者の検出を行った.1950年1 月1 日から1956年12月31日に出生したダウン症者で,出産前にその母が主に居住していた地域が,当該の1 万人から10万人の都市であるものを,この調査の対象者とし,出生10万あたりのダウン症出生率を,フッ素濃度で3(1959年)〜4段階(1993年)に分けて比較した.水道水のフッ素濃度が 0.0(0.1 ppm未満) の場合に比較して0.1-0.2ppm,0.3-0.7ppm,1.0-2.6ppmの場合のダウン症児出生10万対比率の相対危険(オッズ比)はそれぞれ, 1.66 (95%信頼区間:0.93- 2.94),1.99 (95%信頼区間:1.08-3.67),3.03 (95%信頼区間:1.70-5.42)であった(表10).

 表11は,全ダウン症児中,母親の年齢が40歳以上であった比率を,フッ素濃度の低い地域と,高い地域とで見たものである.

  高フッ素地域でのダウン症の比率が多い理由が,高齢者が多いためであれば,高フッ素地域の方が40歳以上の母親の比率が多くなければならないが,逆に比率が低い.したがって,高齢者の比率は重要な交絡因子とはなっていないと考えられる.

 このデータは,むしろ水道水中のフッ素濃度の高い地域の方が,若い年齢の母親からダウン症が生まれやすいことを強く示唆していると解釈すべきである.

〔6〕Erickson報告(表1213

 Ericksonは,フッ素と先天異常の関連について調査する目的で,2つの大規模な調査を利用して,解析を行い,1976年20)と1980年21)に報告した.

  1976年の報告20)では,大アトランタ先天異常調査計画 (Metropolitan Atlanta Congenital malformation Program) と,アメリカ国立口唇口蓋裂情報サービス(National Cleft Lip and Palate Intelligence Service:NIS)で収集されているデータを用い,生存出産児に対する先天異常児の比率を計算した.とくにダウン症に関しては,母親の年齢別に出生率を集計している(それぞれ,大アトランタ調査もしくは第1調査,NIS調査もしくは第2調査と略す).

 1980年報告21)では,若い母親から出産した子にダウン症が多いと言われた点について検討するため,ダウン症と水道水のフッ素との関連についてのみ,あらためて調査した.この時には,National Center for Health Statistics (NCHS)のデータが用いられた(NCHS調査もしくは第3調査と略).

 表12に大アトランタ調査(第1調査)の結果20),表13にNIS調査(第2調査)とNCHS調査(第3調査)の結果のまとめ21)を示す(なお,オッズ比およびその95%信頼区間は,医薬ビジランス研究所で計算したものである).

  第1調査では,30歳以上をまとめると,有意の関連はなく,29歳以下をまとめると,少なくとも第1調査ではダウン症発症と関連が認められた.第2調査では,29歳以下はいずれの年齢階級でも,フッ素化地域でダウン症の出生率がやや高率の傾向を認めたが関連は有意ではなかった.第3調査では,どの年齢も逆の傾向があるが関連は有意ではない.

 Erickson調査20,21)には重大な欠陥がある.水道水中のフッ素濃度を,0.7 ppm 未満と0.7ppm以上に分けているだけであり,フッ素の濃度が2用量だけである.2用量(0.7 ppm 未満と0.7ppm以上)で29歳以下の若い母親でダウン症出生とフッ素化に有意な関連が認められたのであるから,その吟味のためには,若い母親をもっと多くの用量に分けて用量反応関係を検討するか,あらためて用量反応関係をより詳細に調査すべきである.しかし,そのような解析は実施されず,さらに大規模な調査の時も,2用量でしか検討していない.

 したがって,Rapaport報告や,Ericksonの第1調査(大アトランタ調査)の29歳以下の母親で示されたフッ素化との関連は,その後の調査で否定されたとは言えない.

VIII.総死亡への影響

 NHS-CRD 報告2)では,総死亡について,Erickson(1978年) 25),Hagen (1954 年) ,Rogot(1978年) ,Schatz(1976 年)の調査を採用して検討した結果を報告し,性・年齢,および都市の人口密度などをも考慮した調整死亡率比は1.01,他の報告でも,総死亡率の増加は認めなかったとしている.しかしEricksonの報告20)では粗死亡率や性年齢だけを調整した死亡率では,低フッ素地域の10万人対1102.4人に比して,フッ素添加地域は,同1156.0人であった. マウス2年間試験5)の雌では,フッ素濃度に用量依存的に死亡率増加を認め,フッ化ナトリウム175ppmでは確実とも言うべき死亡率の増加,同100ppmでも死亡率増加傾向を認めている.死亡に影響しない確実な用量は,フッ化ナトリウムとして25ppm(フッ素として11.25ppm)にすぎない.マウスの2年間試験ではフッ素の尿中排泄量データが報告されていないので,マウス6ヵ月試験の50ppm群の2分の1として吸収量を推定せざるをえない.これでフッ素摂取量を推定すると(人摂取量に体表面積換算した場合)3.3mgに過ぎない.雄では,明瞭な用量反応関係は認めでいないが,100ppm群で死亡率の増加傾向を認めている.

 ラットでは,フッ素添加した動物の死亡率が高くなったという証拠は得られなかったが5),このラットの実験の最高用量を体表面積でヒト用量に換算すると,たかだか10〜14mg/日にすぎない.これはヒトで日常的にもありうる吸収量の2〜4倍程度に過ぎない.  Hoover報告14)では全部位の癌増加との関連が有意であった.日本では3人に1人が癌で死亡する.40〜75歳では死因に占める癌は40%を超える.発癌率との関連は日本ではより大きく関与してくるはずである.

 フッ素の基本的な性質として,細胞毒性(原形質毒性)があること,生命活動に必須の様々な酵素を,比較的低濃度でも示すこと,明らかに有害な反応が,う歯を予防する用量のフッ素でも出現している.胃・十二指腸潰瘍を起こしやすい人は,胃内部で生じたフッ化水素の影響を一般の人よりもかならず強く受けるであろうし,腎障害のある人は,排泄が抑制される結果,血中のフッ素濃度が高くなりやすいことは容易に推測される.

 高用量のフッ素化合物を骨粗鬆症の治療目的で使用した場合に,骨密度は増強されるが骨折や骨痛がかえって増加したこと,軽度ではあるが胃腸障害の頻度が高かったことなどは,その影響を考慮する上で重要な問題点であろうと思われる.

 これらの事実から,フッ素の水道水への添加で,フッ素が総死亡に影響せず安全と結論するわけにはいかない.むしろ,人が日常的にも摂取する高い目の用量ならその数倍で,死亡率に影響が現れる可能性は十分ありうると考えるべきである.多数に使用された場合には,もっと低曝露量で死亡に影響があるとみるべきである.

IX.結論

 フッ素を水道水に添加することは,危険を上回る有益性はなく,危険性は相当な程度で予測すべきである.したがって,フッ素を水道水には添加すべきではない.

註a:interquartile range=4分位数範囲:最小値(ここでは,−5.0 %)と最大値(ここでは64%)の範囲全体を4等分して,低い方から4分の1の値(5.05%)と,高い方から4分の1の値(22.1%)の間に入る範囲のこと.

註b:水道水のフッ素化地域が10%未満から3年以内に60%を超えればフッ素化された地域,全期間を通じて10%未満の場合を非フッ素化地域とした.自然のフッ素レベルは問わなかった(開始時のフッ素レベルが高ければフッ素化の有無の差は当然出にくくなり問題).フッ素化地域・非フッ素化地域いずれにも該当しない地域は解析から除かれた.

註c:フッ素化地域とは,1970年代はじめ〜1987年の間に85%以上の住人にフッ素添加が行われている地域を指す.フッ素添加水道水を供給されている住人が10 %未満の場合を非フッ素化地域と見なした.フッ素化と非フッ素化の分類がHoover調査より明瞭で誤分類によるバイアスはChon調査の方が少ないはずである.

調査研究方法

 このレビュー研究を行うにあたっては,検索の対象とした情報源,検索方法,研究論文の批判的吟味,エビデンスの評価法を以下のような手順で行った.

〔1〕レビュー文献

 まず,主要なレビュー文献をコクランライブラリー,世界の主要政府機関やWHOのウェブサイト,PubMed等で"FLUORIDATION"あるいは"drinking water" and "fluoridation" and ("systematic review" or "overview")で検索し,検索できたレビュー論文を二次,三次検索し,以下のような適合レビュー論文を得た.

(1)コクランライブラリー:「閉経後骨粗鬆症治療のためのフッ素」(systematic review)12).

(2)イギリスNHS Centre for Review and Dissemination (NHS-CRD)10)(総合レビュー)

(3)アメリカDepartment of Health and Human Services (DHHS):

  1)Review of Fluoride "Benefits and Risk"8)(総合レビュー)
  2) Hoover RN.14) (癌に関する疫学調査)
  3) Hoover RN.15)(癌に関する疫学調査)
  4) National Toxicology Program 5)(慢性毒性兼,発癌試験)

(4)WHO

  1)World Health Organization: "Fluorides and Human Health" 19703)
  2) "Fluorides and Oral Health"6)(一般的レビュー)

(5)他のウェブサイト

  1) PubMed(systematic reviewなし)
  2) Ontario Ministry of Health Canada (1999)(一般的レビュー)
  3) Brisbane Report(オーストラリア)(一般的レビュー)
   4) Natick Fluoridation Study Committee(1997)23)(一般的レビュー) 
   5) American Dental Association(一般向けのQ&Aのみ)
   6)その他
    Fluoride Action Network(http://www. fluoridealert. org/)
    Stop Fluoridation USA (http://www. rvi.net/ fluoride/)
    Citizens for Safe Drinking Water(http://www. nofluoride.com/)
    Public Citizen (http:// www. citizens.org/)
    Pennsylvania Environmental Network (PEN) (http://www.penweb.org/)

(6)日本の科学者(グループ)による体系的レビュー

  1)歯科疾患の予防技術・治療評価に関するフッ化物応用の総合的研究,平成12年度究報告書(主任研究者:高江州義)(厚生科学研究)7)
  2)日本口腔衛生学会フッ化物応用研究委員会編「フッ化物応用と健康―う蝕予防効果と安全性―」1998年,財団法 人口腔保健協会発行24)
  3)高橋晄正,「むし歯の予防とフッ素の安全性」1982年,薬を監視する国民運動の会発行4)
  4)高橋晄正,日本フッ素研究会編著,「あぶないフッ素によるむし歯予防」労働 教育センター発行1997年25)
   5)Ad Hoc研究会(日本フッ素研究会内),高橋晄正ら『解説「フッ素の効用と危険」―米国公衆衛生局Ad Hocレポート邦訳――フッ素研究No17,p16-48,199726)

〔2〕個々のオリジナル文献

 フッ素を有用と結論したレビューと,フッ素は使用すべきでないと結論したレビューとで,引用している論文に基本的な違いはなく,違いは個々の論文の解釈であった.したがって,個々のオリジナル論文は検索せず,上記レビュー文献に引用された論文を検討した.

〔3〕システマティック・レビューで取り上げられた論文の証拠力評価方法に関する検討

  有効性と危険性に関して,NHS Centre for Review and Dissemination (CRD) によって実施された systematic reviewがあった.この研究では,検討のために収集した調査研究論文に対して,それぞれの論文の「証拠」としての強さを評価していた.評価方法は,調査方法に関して,8〜9項目にわたって点数化し,合計点数で,全体の証拠力を評価する方法であった.この方法は,おおむね妥当ではあると考えられたが,フッ素の生体に対する基本的な性質から考慮して,問題点もありうるため,この点について考察を加えることにした(個々の検討項目参照).

〔4〕フッ素の基本的な性質と有効性と危険性の評価について

 フッ素の性質,有効性および安全性に関して,これまでに言及されている,以下の分類に従って検討した.〔1〕基本的性質,一般毒性,〔2〕う歯防止効果,〔3〕斑状歯 (dental fluorosis),〔4〕骨への影響:骨粗鬆症防止,骨折増加,〔5〕発癌性,特に未成年期男性の骨肉腫,〔6〕ダウン症とその他奇形,出生等(遺伝毒性,染色体異常などを含む),〔7〕総死亡率,〔8〕その他である.

【参考文献】

1)Arena JM ed“Poisoning, Toxicology,Symptoms, Treatment” 3rd ed、Charles C Thomas Publisher, Illinoi (USA), 1974

2) 角田文男,新しい超微量フッ素定量法――AlF(フッ化アルミニウム)分子吸光法の意義および生体におけるフッ素の吸収と排泄に関する知見,フッ素研究No4,1983,p8-18

3) World Health Organization: "Fluorides and Human Health" 1970

4) 高橋晄正,「むし歯の予防とフッ素の安全性」1982年,薬を監視する国民運動の会

5) National Toxicology Program. NTP Technical Report on the Toxicology and Carcinogenesis Studies of sodium Fluoride (CAS No. 7681-49-4) in F344/N Rats and B6C3F1 Mice (Drinking Water Studies)(1990)

6) WHO Expert Committee on Oral Health Status and Fluoride Use "Fluorides and Oral Health": Report of a WHO Expert Committee on Oral Health Status and Fluoride Use, WHO Technical Report Series 846, 1994

7) 歯科疾患の予防技術・治療評価に関するフッ化物応用の総合的研究,平成12年度研究報告書(主任研究者:高江州義)(厚生科学研究)

8)Department of Health and Human Services (DHHS): Review of Fluoride "Benefits and Risk" (1991)Report of the Ad Hoc Subcommittee on fluoride of the Committee to Coordinate Environmental Health and Related Programs,Public Health Service February, 1991

9) 高橋日出彦,くすりの毒性,62p.南江堂,1973.

10)NHS Centre for Review and Dissemination. "A Systematic Review of Public Water Fluoridation": http://www.york.ac.uk/inst/crd/fluodid/htm

11) WHO Oral Health Country/Area Profile Programme,August 2001:http://www. whocollab.od.mah.se/expl/regions.html

12) Haguenauer D et al. Fluoride for treating postmenopausal osteoporosis. Cochrane Library 2001 issue 3, Update Software Ltd.

13) Shupe JL et al. The pathology of chronic bovine fluoroshis: A review. Toxicologic Pathilogy 20(2): 274-285, 1992

14) Hoover RN. Fluoridation of Drinking Water and Subsequent Cancer Incidence and Mortality(文献3)中のAppendix E)

15) Hoover RN. Time Trends for Bone and joint Cancers and Osteosarcomasin the Surveillance, Epidemiology and End Results (SEER) Program National Cancer Institute August, 1990 (文献3)中のAppendix F)

16) Cohn PD. An epidemiologic report on drinking water and fluoridation. The New Jergy Department of Environment Protection and Energy and the New Jergy Department of Health(1992)

17) Tohyama E, Relationship between Fluoride concentration in drinking water and Mortality rate from uterine cancer in Okinawa prefecture, Japan. J Epidemiol 6(4): 184-191, 1996

18) 重松逸造編,「疫学」――臨床家のための方法論――講談社,1978年,p191

19) Rapaport I, Oligophrenie Mongolienne et caries dentaires. Revue de Stomatologie, Paris. 46(4-5): 207-218, 1963

20) Erickson JD, Mortality in selected cities with fluoridated and non-fluoridated water supplies. New Engl J Med 298: 1112-1116, 1978

21) Erickson JD, Down syndrome, water fluoridation, and maternal age. Teratology 21: 177-180, 1980

22) Rapaport I, New Research on mongolism related to the disease producing role of fluorine. Bulletin Acad Nat Med (Paris) 143: 367-370, 1959

23) Should Natic Fluoridate? : A report to the Town and the Board of Selectmen Prepared by the Natick Fluoridation Study Committee, October 23, 1997 

24) 日本口腔衛生学会フッ化物応用研究委員会編,「フッ化物応用と健康――う蝕予防効果と安全性――」 1998 年,財団法人口腔保健協会発行

25)高橋晄正,日本フッ素研究会編著,「あぶないフッ素によるむし歯予防」,労働教育センター発行,1995

26) Ad Hoc研究会(日本フッ素研究会内),高橋晄正ら『解説「フッ素の効用と危険」――米国公衆衛生局Ad Hocレポート邦訳――フッ素研究No17, p16-48,1997


添付の表と図の一覧