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薬は毒にもなる。奈良の長女毒殺未遂事件の「硫酸サルブタモール」や、埼玉の保険金殺人事件の「アセトアミノフェン」を思い出してください。

この2つはWHO(世界保健機関)が必須薬のモデルリストにも載せている優れた薬。薬害事件を起こした、もともと毒としかいえない代物や、昨今中止になった有効性の根拠もあやしいものとはわけが違う。

前者の薬は、気管支を広げる作用があり、喘息治療には欠かせない。このグループとしては最も安全で優秀な薬です。もし毒として使うなら、同じ系統で毒性の強いものがある。

後者も鎮痛解熱剤の中では最も安全で効果的。「劇薬アセトアミノフェン」との報道が繰り返される度、「もっと毒性の強いものがあるのに」と何度も思いました。もっとも、あまり報道されていないが、この事件では別にもっと毒性の強い鎮痛解熱剤も使われていると後で知り、納得がいった。

どんな薬でも、使い方によって毒になりうるのです。

ヨーロッパでは古くから、医師は薬を処方するだけで直接は扱いません。この「医薬分業」システムが始まったのは、「毒」にもなる「薬」を医師だけに任せておくと、「薬」と称して毒を盛られる危険があったこと、経済的なうまみのある「薬」を国家(王)が管理する意図が大きかったとされている。

薬の危険性と、その経済的うまみが政治(まつりごと)とも密接に結びつく点は、「薬」のもつ一面をよく表しています。

日本でも現在は、チェック機能が医師から分離され、国が担っているはずです。でも、日本から薬害はなくならない。なぜか。国のチェック機能が甘いのです。だから市民は、製薬企業や国、医師から「毒」を盛られないように、市民自らが良い薬と悪い薬(薬とはいえないようなもの)とを区別し、監視する必要があるのです。

私が4年前からしている「医薬ビジランス(監視)センター」は、市民自らが薬の良悪を見わけられるように手伝うNPO(非営利組織)です。

このコラムでは、病気と薬を易しく解説し、薬や医療について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。次回は最も多い病気「かぜ」とその薬。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎