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「医師にかからないのは、中くらいの医師にかかったのと同じ」という昔の中国の諺がある。出典は忘れたが妙に鮮明だ。

さて、みなさんはかぜを引いたとき、医者にかかりますか?

「かぜは万病のもと」といわれる。正しくは「万病、つまりたくさんの病気がかぜに似た症状で始まる」という意味だ。

かぜ症状の原因は90%以上がウィルス。その種類は100を超す。熱が出て、くしゃみ、鼻水、喉の痛み、せき、痰、関節痛などの症状が出るが、ふつうは数日で自然に治まる。

やっかいな諸症状は、ウィルスとの闘いの証。体はウィルスをまず、くしゃみで排除しようとする。次に鼻粘膜の粘液中の成分が阻もうとする。この阻止線を突破したウィルスが粘膜の細胞にとりつき増殖していく。

体のほうでは、これをやっつけようと全身に援軍を頼む。その第一陣が発熱だ。ウィルスは熱に弱いから、これは強力。「体温を上昇させよ」という脳からの伝令で、体をふるわせて内部から熱を発生させ、全身の皮膚の血管を収縮させ、熱が逃げるのを防ぐ。こうして体温が上昇しウィルスがやっつけられる。

熱が出ればあなたもしんどいが、ウィルスにはもっときついのだ。ところが解熱剤を使うと、この闘う力を弱めてしまう。

かぜに不要な薬を何種類も使うと、害のほうが強く出ることになりかねない。微熱程度で解熱剤を注射され、さらに2種類の解熱剤を処方されて、急性循環不全(ショック)で死亡した青年がいた。

しかし、かぜと同じような症状で始まり、自然には治らない重大な病気も厳然としてある。心不全屋喘息も軽い咳から、敗血症や肺炎も発熱で始まる。2つの医療機関で敗血症をかぜと診断され、処置が遅れて死亡した人もいた。

かぜに不要な薬を惰性のように使うことと、強力な薬が必要な時に使わない行為は、実は根っこは同じ。両者を区別していないからだ。かぜ症状の時に医者がすべきなのは、本当に治療が必要な重大な病気ではないかどうかを見わけることだ。

かぜには、抗生物質や解熱剤は基本的には不要。重くしないためには、日頃から過労をさけ、不要な薬は使わず、睡眠と休養を十分とることです。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎