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病気の原因を完全に取り除くのが、原因療法である。代表例は、結核に対する抗結核剤。結核菌という最大原因をやっつけてくれるから、きちんと薬を飲む事が何より大事になる。

病気の重要な原因がただ一つで、それを取り除けば回復する場合は、この原因療法が理想的だ。しかし、残念ながら、そんな病気は多くない。

肺結核も、栄養不良や過労で免疫力が低下しているとかかりやすく、これも原因といえる。少し難しい言葉では、結核菌は肺結核の特異的原因で、栄養不良や過労は非特異的原因だ。

原因療法という時は、前者を取り除く治療をさす事がおおい。抗結核剤のほか、細菌に対する抗生物質、遺伝子の異常による病気を遺伝子操作で正常に置き換える試みなどだ。

でも、非特異的原因へのアプローチもとても大切である。

日本人の死因1位の「がん」は原因は様々だし、いったんなると容易には治療出来ない病気の代表だ。ウィルスなど1つの原因が特別重要な役割をしているがんなら、ウィルスを除く試みは原因にせまるものになる。

だが、がん全体で見ると、栄養状態やストレス、たばこが劣らず重大な原因だ。たばこは肺がんに限らず、がん全体になる危険をほぼ5割増にする「最大のがん原因」。がんになってからやめても遅い。その前に取り除く事が大切だ。しかも、病院に行かなくても、たばこは固い意思を持てばやめられる。

脳卒中も同様である。前もって高血圧を治療しておく事が大事だ。いったんまひが起きたら、血圧を下げても、完全に回復することはまず不可能だ。

ただ、コレステロールの「目標値の常識」にはご注意を。低すぎる事も病気の原因になる。日本人に少ない心筋梗塞をおそれてコレステロール値を下げすぎると、がんや脳出血にかかりやすくなるとの研究結果がすでにいくつかある。この事はまた詳しく述べるが、コレステロールは240あっても無理に下げない方がいい。

高すぎる血圧を下げる治療は、血圧の面では対症療法だが、脳卒中や心筋梗塞の防止面から言えば、原因を前もって取り除く予防的治療である。最良の原因療法は、この「原因にせまる予防」だといえよう。

 

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎