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 高コレステロールの基準が、「220以上」から「240以上」に見直されようとしている。だが、高血圧や喫煙、肥満や糖尿病といった心筋梗塞の危険要因がない場合は、私の分析では、これでもまだ低すぎる。

コレステロールは動脈硬化の原因として、悪玉の代名詞のようにいわれている。しかし、これは間違い。3大栄養素の一つ「脂質」の主要物質で、しっかりした体作りには欠かせない。

人の活動の最小単位は細胞だ。細胞は薄い膜でおおわれていて、内部にも膜のような成分が縦横に走っている。コレステロールは、燐物質、タンパク質と一緒にその膜を作る。特に神経は、このような膜が長い繊維を形作ってできている。

コレステロールが母乳(特に初乳)や鶏卵にたっぷり含まれているのも、赤ちゃんの神経や免疫系の発達に欠かせないし、卵からヒヨコに丸ごと生まれ変わるためにも必要だからだ。さらに副腎皮質ホルモンや性ホルモンなど重要な5種類のホルモンの原料でもある。

血中コレステロールが減ると、細胞の働きが鈍り、血管や組織がもろく、かえって脳出血を起こしやすくなる。免疫力が衰え、感染症やガンにもなりやすくなる。特にガンはコレステロールが高いほどなりにくいとわかってきた。

コレステロールの危険がいわれるのは、欧米人の試飲で心筋梗塞が多いからだ。要注意年齢の50〜70代前半の日本人では8%ほどで、44%を占めるガンに比べてずっと少ない。さすがに300以上になると、血管壁などにコレステロールの結晶が出やすくなり、心筋梗塞や胆石の原因となるが、もろもろ勘案して、死亡率に影響を及ぼすのは、280以上の人。220〜280、特に240〜260くらいが最も長生きだと、いくつもの疫学調査でわかった。

私は、他の危険因子がない場合、280までは薬などで下げる必要はないと考えている。

食事療法についても注意が必要だ。コレステロールの少ない食事をと思い、炭水化物を多くとると、余分な糖分(炭水化物)が中性脂肪やコレステロールに合成されるから、無意味な上、タンパク質が不足する。過食を避け、バランスのよい食事と適度な運動を心がけるのが肝要だ。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎