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 米国で昨年起きた炭疽(たんそ)菌の郵送事件は衝撃的だった。細菌兵器が市民生活に入り込んできたからだ。

 人の体には、この炭疽菌などの細菌をはじめ、様々な病原微生物が攻撃を加えてくる。細菌のたぐいは、一般には「バイ菌」と呼ばれる。ところでこの「バイ菌」の意味をご存じだろうか?

 実は、私も「細菌」と同じくらいに思っていたのだが、最近あらためて辞書をひもとき、「バイ」は「黴」であると知った。訓読みでは「カビ」。食物を放っておくと腐ってくる、その原因になるカビの菌や細菌などの微生物を指しているのである。ちなみにカビの菌は正確には「真菌」という。たとえば水虫の菌がこの「真菌」だ。

 もうひとつ、細菌学の教科書を読み直して、「エェッ」と驚いたことがあった。それは、私たちの大便は、その重量の3分の1が細菌であるということだ。なんと、成人の体内には、100種類以上もの菌が100兆個もいて、その大部分が大便内だ。その中には、病気の原因になる菌も多い。腸壁はその侵入を防いでくれるが、防御が完ぺきかというとそうではない。時々は腸の粘膜から、細菌は血管の中へと侵入、全身に回る。口の中も多くの菌がいて、歯茎から血が出たり口内炎ができたりすると、そこからも菌は血管内に侵入することもある。

 しかし、普段は、菌が攻撃しても、体の様々な防御機構が働いて、重大な病気には至らないようにしてくれている。

 たとえば、鼻粘膜の粘液や、胃の粘液は細菌やウイルスが体内に侵入するのを防いでくれるし、胃酸は強い塩酸の力で外から侵入した細菌やウイルスをやっつけてくれる。腸の中に常駐して、病原菌が異常に繁殖しないように抑えている、役立つ菌もたくさんいる。もし、細菌類がそれらのバリアを破って血管内に侵入してきても、血管内で白血球にやっつけられ、たやすくは体内で繁殖できない。

 このように、体内では様々な菌がバランスをもって共存しているし、また、いったん侵入してきた菌もそれを防御する体の機能とのバランスが保たれて、私たちは守られている。

 これら二つのバランスが崩れた時、人は病気になる。その話はまた次回に。

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎